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結婚とは


「コーヒーは?」


「じゃあ、いただきます......。」


私は渋々立ち上がり、リビングルームに戻る。中央に置かれていた白い皮のソファへ遠慮がちに座ると、改めて部屋の中を見渡した。



生活感のない家。


テレビとソファとテーブルと.....、モデルルームのような部屋だった。家具は全てオシャレなのに、もったいない。少し散らかっていてもいいようなものの、小物の一つも置いていなかった。



「何?気になる?」


キョロキョロしていると、急に目の前に置かれたコーヒー。人影にびくっと反応しながらも、私は慌てて首を横に振った。



「まあいいや。じゃあ、早速本題に入ろうか。」


「本題?」


「そっ、俺たちの結婚の話。」



コの字型のソファ。斜め前に座る彼。


思わずオウムのように聞き返すと、なんだか衝撃的なことを言われた気がする。



「今、結婚とかって.......」


「ああ、言ったよ。」


危うく、コーヒーのカップを落としそうになった。あまりにも突拍子のない話に、頭がついていかない。



「結婚って....、あの結婚?」


「他にある?」


「聞き間違いかもしれないですけどー.....」


「だから、俺たちの結婚だって。」



何回聞いても、聞き間違いではなかった。恐怖すら感じる彼の言動に、優雅にコーヒーなんてもらっている場合じゃない。部屋に留まったことを、後悔した。



「あ、このコーヒー。とっても美味しいですね。」


聞かなかったことにしよう。わざとらしく大げさな反応を見せ、話を逸らそうとした。


「覚えてないかー、相当飲んでたしな。」



しかし、その瞬間ぴくっと体が反応する。


どれだけ飲んだのだろう。何を言ったのだろう。


急に不安感に襲われ、何も思い出せない自分が恐ろしくなった。自分で自分にゾッとする。記憶がないことがこんなにも恥ずかしいなんて、私は今まで知らなかった。



「あの、何か誤解を生むようなことがあったなら謝ります。」



ひとまず、冷静になろうと必死で自分のペースに持っていこうとした。何を言ったかは分からないけれど、私はお見合いをして結婚することになっている。


不本意だけれど、その話を持ち出すしかなかった。



「でも、私.....」


「結婚するんです。って言いたい?」



しかし、思い通りにはいかなかった。言おうとしたことを先に言われ、返ってきた言葉に目を丸くする。



「体の弱いお姉さんの代わりにお見合いして、そのお姉さんには彼氏を取られて。散々だよな。」


「それ、どうして....」



彼が話すのは、私しか知らない事実。


その後も、何でも知っているかのようにペラペラと話を続ける。その様子から、なんとなく見えてきた状況。どうやら私は酔った勢いで、何もかも話してしまったらしい。



「あの、もう、もういいです。」


止まらない彼の話に耐えきれず、思わず途中で静止した。



自分がここまで口の軽い女だったとは、悲しくて仕方ない。初対面の相手にこうも赤裸々に話をして、そんな自分が信じられなかった。


色んな意味で、頭が痛い。


私はわざとらしく咳払いをし、目を泳がせた。



「全部知ってるってことは、よく分かりました。でも、それとこれとは話が別で....」


「あの人たちの思い通りにさせてたまるか。お見合いなんて、破談になればいいのに。」


「え?」


「昨日、自分で言ったんだろ?」



私は、本当にどこまでバカなんだろう――。



「酔った勢いで言ったことなんて、気にしないでください。」


私は、開き直るように精一杯強がってみた。きっと、それは私の本心だけど、ここで弱みを握られたくない。認めたくはなかった。



「ふーん。じゃあ、するんだ。親の言いなりで結婚。」


私を怒らせようとしているのか。それとも、これが素なのか。トゲのある言い方をして、私をイライラさせようとしてくる。


「別に、どうしようと勝手ですよね。」


それには、思わず強気に言い返していた。



たしかに、一生に一度の結婚を家のために捧げろと言われ、悔しくなかったわけじゃない。腹が立ったし、汚いやり方には失望した。


でも、私はまだ諦めてはいなかった。



「傾いた経営を救う方法が、今時政略結婚だなんてありえない。もう一度ちゃんと話し合って、いい方法を探します。」


そう言いながら、膝に置いていた拳には力が入った。


「そんな悠長なこと、言ってられないんじゃない?」


しかし、そんな私の希望はすぐに全否定。眉がピクッと反応する。



「だって、そうでしょ。お姉さんと君の彼氏が結婚させられてから1週間。君はお見合いをさせられた。どう考えても、急いで結婚させたいって考えが見え見えだけどね。......俺の予想だと、来週には籍入れてるよ。」


黙っていると、追い討ちをかけるように論破してくる彼。


そんなことあるはずない。そう言い返してやりたい気持ちでいっぱいだったけど、彼の分析があまりにも的確な気がして、何も言い返せなかった。




「見つかるの?すぐにその方法って。」


「それは......」


なぜ、私は昨日会ったばかりの人に、こんなにも責められているのだろう。納得がいかないながらも、言葉が見つからず、また黙り込む。



その時、彼は改まったように深く息を吐いて向き直った。


「じゃあ、話を戻すけど。俺たちは昨日、結婚について意見が合致した。お互いの目的のために、"利害が一致してる"ってところかな。」


「え......?」


「君は、政略結婚から逃れる打開策を見つけられなければ、そいつと結婚するしかない。でも、親の言いなりになりたくないなら、家のことなんて無視して新しい男と駆け落ちでもしちゃえばいい。まあ、短期間で現実的に考えたら、その相手が俺だって言ってるんだけどね。」


「ちょ、ちょっと待ってください!」



自信満々な表情。小難しい表現ばかり使って、正論めいた言い方をする。全てが腹立たしいのはもちろんだけれど。



でも、これは......


「何の話?」



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