絵描きの能力ゴイスー
「わーお、シンプル」
宿の夕飯は野菜スープに小さなソーセージが1本、小さな黒パン1個、そして葡萄が3粒。
異世界ご飯の定番はスープと硬いパン+なにか?であった。
美味しいけど物足りない!
数分で平らげ2階へ上がる、案内された部屋はベッドとテーブルのみ。
「こっちもシンプル!」
職が決まるまでは我慢だよね、うんわかってるけど。
「ぐぎゅうぅぅぅぅぐろおぉぉぉ」
腹の虫は正直だ、仕方ないので昼に買った林檎を齧って誤魔化す。
少し落ち着いたので画材を取り出し能力のチェックだ!
正直、空腹よりこっちが気になる。だって「無能」と言われたままでは悔しいじゃない!
まっさらな紙を前にドキドキ。
「ラクガキ?の検証いくぞ!まずは……うーん。さっき食べた林檎を描くか」
エンピツでさらさらと描いた、能力の補助なのか自分で描いたとは思えない出来栄え。
公園でも思ったけれど補正効果はすごいんじゃ?
元世界の美術評価は良くて「2」だったよ、ネコを描けば牛って言われ。
山の風景を描けば「ノコギリの刃」って言われたのに。
ちゃんと林檎に見えるよ、すごいねー!
自画自賛していたらボコリとスケッチ表面が膨れ上がった。
「うぎゃあ!?」
ゴロリとラクガキの林檎が膝上に落ちた。
「うそ、まじで林檎になってる!?」
少し歪に描いたまんまの林檎が赤く染まり甘い香りを発する。食べられるのだろうか。
「い、いただきます?」
しゃくりと食めば甘い香気が口に広がった。
「さっきの林檎そのものだ!すっごい!わたし凄くない!?」
ただの黒鉛筆でかいたはずなのに、赤く色づく林檎が出てきた。
もし色鉛筆で丁寧に描いたならどれほど……。
「うきゃー!色鉛筆買っといて大正解!」
10分後わたしは「物凄い林檎を」手に震えていた。
すんごいジューシー、めちゃくちゃ甘いし芳醇とはこのことか!って感動したよ。
それから私は寝落ちるまで夢中で色んな絵を描きまくった。
頭に浮かぶものはなんでも!
そして能力の一部を知ったよ、スケッチより大きいものは具現化してもサイズはそのまま。
えー、つまり大木を描いても出てくるのはオモチャサイズ。
綺麗に丁寧に描けば描くほど精巧なモノが出てくるの、スケッチには描いた形跡は残ったまま。
もちろん現時点の能力での話、どう化けるか楽しみだね。
とはいえ危険物は怖くて描いてない、だって処理に困るもの。
この世界においてオーバーテクノロジーなものは危険、オーパーツでしょ。
日中に見た限り自動車やバイクは走っていない、魔道具とかはあるのか調べなきゃね。
それからお金を描くのは嫌な予感しかしない、人として絶対ダメだよね。
でも金塊ならいいのかな?だめ?
能力の禁忌とか指導は召喚士さんがするんだろうけど「追い出されました」からねー?
そして、翌日。自分の能力でちょっとした騒ぎになる事を知らず寝てしまった。