天涯孤独になりました
数日後協議の結果が言い渡される。
私達の処遇が決まり個別に呼び出された、小会議室で私と面談してるのは見知らぬ文官さんだ。
「えー……カガミさん、大変残念なことだが戦力外になった。申しわけない」
「ですよねー」
それから分厚い書類を目を通して署名。
当然文字は読めない、指輪を使って翻訳しつつ文官さんが読み上げる声に相槌をしてただけ。
長々と綴ってはあったけど簡潔に述べれば。
召喚勇者としての諸々の権利や優遇と恩賞の放棄、それらに対しての不服や意義申し立てをしないという誓約書だ。
勝手に召喚しといてふざけるな!と叫びたいが部屋に控える騎士がいる中でそれもできない。
理不尽だけどバッサリ斬られる可能性だってあるでしょ?
腹立たしいけど、小娘の抵抗なんてアリンコの蹴りみたいなもんだよね。
サイン後、当面の生活費として金貨20枚を貰った。
日本円で換算すると25万くらいらしい、贅沢しなければ2カ月は持つそうだ。
それから庶民レベルの暮らし方を学んだ、貴族と庶民の居住区域のルールやら貧民街の危険個所など。
保護はして貰えないけれど野放しってわけでも……。
いいや、ほぼ放置じゃん!知らない土地に拉致られてポイ捨てじゃん!
ムーカーツークー!
激高して文官を睨んでやったけど、鼻で笑われる。
「こちらもね無能を庇護する余裕はないのだよ、自立補助しただけでも有難いと思い給え」
あまりに身勝手なその言い草にわたしは言葉を失う。
人間、怒りの頂点を超えると声が出ないようだ。
生まれて14年で虚無を知ったわ。
***
ろくに城内を見物する暇もなく騎士に連れられ追い出されちゃった。
振り返れば堅牢な城門に圧倒された、こんなに大きかったのか。
茶色に聳える城を眺めていたら、人相の悪い二人の門兵が睨んで来た。
はいはい、庶民は消えますよー。
支給された真っ黒マントを羽織りフードを被った。
のろのろと歩いて公園のような所で休憩した、怒涛に過ぎた数日を振り返る余裕が出たよ。
うん、出ない方が良かった。
「そうよ、日本に帰れない。親とか友人とか……もう会えない」
ブワリと涙が溢れてきた、夢みたいだと思っていたのに現実が襲ってきてすごく怖い。
天涯孤独の身になってしまった、ほんの数日前は普通に暮らしていたのに。
「ふ……ううぅ……なんなのこれ。私がなにをしたっていうの?」
気を張っていた数日分の不安と涙がとまらない。
1時間ほど泣いたら少し落ち着いた、夕方までに宿と食事をどうにかしなきゃ死んじゃう。
泣きすぎて頭がガンガン痛い、でもそれどころじゃないんだ。
大袈裟でなくて運が悪ければマジで死ぬよ。
庶民街の治安は良くないらしいし、信用できる仲間もいないんだから。
「はぁ……職業絵描きか、絵心ゼロなのに通用するの?」
公園の隅で小枝を拾いガリガリとラクガキしてみた、みんな一度は描いたことある「ドラOOん」……。
「うん?けっこう上手く描けた?」
まん丸顔のまん丸の体。
久しぶりに描いたそれはナカナカな出来。
「まてまて、遊んでる場合じゃないぞ!安宿みつけてバイト探さなきゃ」
餞別に貰った魔法ショルダーバッグを掛けなおし立ち上がった。
なんでも入る万能バッグらしいが……。
ラクガキを消そうと足を向けたらなんか盛り上がっていた。
「へ?こんな塊あったっ……けえええええ!?」
それはボコボコと膨れ上がりみるみる土人形になった。
「3DドラえOO!?」