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9・異邦の少年と夕食会(前編)

女王様の部屋で夕食を食べるとの事でボクはティグレさんとウルスブランさん、途中で合流したトレイクハイトちゃんの四人で女王様の部屋へ移動していた。

その途中、廊下の至る所に綺麗な絵や高そうな壺、なんだかよく分からない石像が飾られていて、好奇心からついついキョロキョロとしてしまう。

飾られている物の説明をトレイクハイトちゃんやティグレさんから聞いたりしながらしばらく歩くと、一際大きな絵が飾られていた。


「うわぁ、おっきい絵……」


何メートルくらいあるんだろう、ボクよりはるかに大きな絵には七人の男女が黒い獣のような何かと対面している場面が描かれている。

絵の事は全然分からないけれど、なんだか凄い絵というのはなんとなく感じた。


「ソラタ様、この絵は古の七人の勇者が黒狼と呼ばれ恐れられた当時の魔王ルポマンナーロと対話し和睦を成し遂げた、つまり人と魔王が仲良しになった、というお伽話をモチーフにして二百年程昔に描かれた物です」


「対話……話し合いで、その、人と魔王が仲良しに……。それはとっても、素敵ですね」


ティグレさんの話を聞いて、ボクはなんだか不思議な気持ちになった。

漫画やゲームでは魔王は悪者な事が多い。

いつも悪者として倒されるばかりの魔王が、この世界では人と仲良しになれたのだと知れて心がポカポカと温かくなった気がした、たとえそれがお伽話なのだとしても。


「子供たちに無意味に底の国に暮らす者を恐れるなという訓話でもございますね。まぁ、今ではほぼ忘れ去られたお伽噺でございます」


「それは、どうしてなのトレイクハイトちゃん?」


「底の国は瘴気渦巻く暗黒の世界、底の国を治める魔王たちは悪であり人が討伐すべき存在だ、と言うのが今現在の大地の国での主流な考え方でございます。二百年もあれば人の考え方はコロコロと変わるものでございますよ」


トレイクハイトちゃんは少し悲しそうにそう言った。

被ってる壺のせいで表情はまるで分らないけれど。

勇者としてボクはこの世界に呼ばれた。

理由はたぶん魔王を倒す、だったりするのだろうか。

戦いなんて、ボクはいやだな……、誰かが傷つくのはもっといやだ……。

七人の勇者と魔王ルポマンナーロの絵を見て、ボクは一つため息をついた。


「みんな仲良くなれればいいのに……」


そう呟いたボクの頭をウルスブランさんが優しく撫でてくれた。

いきなり頭を撫でられて、ちょっとびっくりしたけれど嫌な感じはしなかった。


「ソラタ様はお優しい方なのですね。大丈夫です、きっと国王陛下もソラタ様の御心を慮り、ご無理をさせる事はありません。国王陛下も女王陛下もとてもお優しい方なのですから」


ニコリと笑うウルスブランさんの顔を見ていたら、少し心が軽くなった気がした。

ボクが勇者としてこの世界に召喚されたのはきっと何か意味があるのだろう。

ボクに何が出来るのか分からないけれど、ボクを必要としてくれる人の為に何かしてあげられたらいいなと、なんとなくそう思った。


「ウルスブラン、ちょっと、おい、代われ。 私にもソラタ様撫でたり揉んだり吸ったりさせやがれください」


「ティグレ殿、自重しろでございます、空気読めでございます。ホントやめろでございます、侍従長の立場をもっと考えろでございます」


「ソラタ様を撫でたりあれやこれやそれを出来ないというのであれば侍従長の立場などっ!!」


「その発作ホントやめろでございますよ!! 見境の無い獣でもあるまいし、部下の者たちに示しがつかないでございましょうがッ!!」


気付くと少し離れた所でティグレさんとトレイクハイトちゃんがまた何か話をしていた。

どんなお話しをしているのだろう?

少しして、ティグレさんがコホンと咳を一つして、女王様もお待ちでしょうからそろそろ参りましょう、と言って歩きだした。

ボクはウルスブランさんと一緒にティグレさんの後について歩いた。

しばらく歩くと、大きな扉の前についた。

どうやらここが女王様のお部屋らしい。

ティグレさんが扉をゆっくりとノックして一礼した。


「侍従長ティグレ、並びにウルスブランでございます。ソラタ様、トレイクハイト様をお連れしました」


「ええ、お入りなさい」


女王様の返事を聞き、ティグレさんとウルスブランさんが扉を開けてくれた。

そして中に通されたボクを見て、女王様がスーッと滑る様に近寄ってきた。


「ソラタよ、許しておくれ。私が至らぬばかりに、余計な苦しみを与えてしまった。どうか許しておくれ」


「えっと、あの、王様にも言ったんですけど、ボクは女王様がお母さんと思ってくれていいと言ってくれて嬉しかったです。だから、謝らないでください」


「おお、なんと。ありがとうソラタ、そなたは心優しき子よな、私にもう一人の子ができたかのように思う」


とても嬉しそうにニッコリと笑う女王様がまたボクを抱きしめようと手を伸ばす。

次の瞬間、ティグレさんがボクと女王様の間に入り込み、女王様とガッシリと手と手を組合い、プロレスとかで見る感じの体勢になった。


「女王陛下、ご無礼を承知で申し上げますが、また同じ事をなさるおつもりですか? またソラタ様を締め上げてしまうなど、如何なものでしょう。どうかご自重の程、謹んでお願い申し上げます」


「おおう、ティグレよ、よくぞ申した。身を挺してソラタを守らんとするその献身、褒めてしんぜよう」


「なんと勿体なきお言葉。侍従長としてプラテリアテスタの客人であり、国王陛下の御友人たるソラタ様を身命に代えてお守りするのは至極当然の事。お褒め頂くまでもありません。なのでとっとと手を引いてはいただけませんか?」


「最後でちょっと地が出てきておるぞティグレ。私とて女王、同じ轍を踏む訳もない。加減はできますゆえ、安心なさいティグレ。ですので先に貴女が手を引きなさい」


「畏まりました女王陛下、では同時に手を引きましょう。せーので同時にです、よろしいでしょうか」


「まぁ、よいでしょう。許します」


「では、同時に」


「「せーの」」


ガッシリと手を組み合っていた女王様とティグレさんが二人で掛け声を出して、同時に手を引く。

はずなのだが、まったく動きが見られない。

どちらも微塵も動いてない。

どちらも相手を力で押し倒し、主導権を得ようとしているようだ。


「ティグレ、おい、こら。侍従長とあろうものが女王たる私をたばかるとは何事かッ!!」


「女王陛下こそ、僅かばかりも手を引いておりませんし、更に力を込めておいでではありませんか!! 一国の女王が口約束とはいえ、それを容易く反故になさるとは、このティグレ嘆かわしく思いますッ!!」


そんな二人を見て、ウルスブランさんが凄くアワアワしてどうしよう、どうしようとあたふたしている。

トレイクハイトちゃんはどっちもどっちでございます、と言ってさっさと夕食の置かれたテーブルの席についてしまった。

ボクもどうしようかと思い、ウルスブランさんと同じ様にアワアワしていた。


「ソラタ様、国王陛下もそろそろおいでになるでしょう。女王陛下と私の事はお構いなく、席にお付きください。ウルスブラン、ソラタ様を席に案内なさい」


「そうですとも、ティグレとこうして戯れるのも一興、また夕食の席で話をしましょう」


二人とも組み合ったままニコリと笑いながらそう言った。

ウルスブランさんはいいのかな……といった表情をしながらも、ボクを席に案内してくれた。

ボクが女王様とティグレさんの二人に喧嘩はやめてくださいねと言ったのだけれど、二人は喧嘩だなんてとんでもない、と言ってホホホと笑った。

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