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82・異邦の少年とピクニック前編

黒い巨人、魔王種の討伐から一週間ほどの時間がたった。

その間、ティグレさんやウルスブランさんがお世話をしてくれたおかげでボクの体調もほぼ完全に良くなったと思う。


しかし、まだ様子を見た方が良いとお医者さんに言われたので、あまり体を動かせずにいる。

コタマやティグレさんたちがおしゃべりの相手になってくれるから退屈という事はないのだけれど、どうしても暇な時間というものが出来てしまう。

その事をトレイクハイトちゃんに話すと、体を動かせないなら魔力操作でもしていれば手慰みにはなるんじゃないか、と言われたので暇な時は魔力操作をするようになった。

ただ、神域と冥域の魔力を扱うのは控えていた方がいいとアロガンシアちゃんとトレイクハイトちゃんに言われたので、自分自身の魔力を少しずつでも思い通りに動かせるよう練習している。


最近、部屋の窓から外を眺めていると慌ただしく動き回る大勢の人が目に入る事が増えてきた。

ヴルカノコルポの港町の復興、支援の為の人材を募っていたり、復興の為の資材を売りに来た商人さんなんかが沢山やって来ていたりだとか、そう言った事が要因なのだろうとコタマが言っていた。


更に数日が過ぎ、お医者さんからもう外を出歩いても問題ないと言われ、それを聞いたティグレさんやウルスブランさんが快気祝いにと、近くの草原にピクニックに行こうと言ってくれた。

それを聞きつけたトレイクハイトちゃんやアロガンシアちゃんが加わり、余り多くの人で行くと気疲れするであろう、とアロガンシアちゃんが少人数でのピクニックを提案した。

ボクとしては賑やかな方がいいかなと思ったけれど、せっかくアロガンシアちゃんが気づかってくれたのがうれしかったので言う通り少人数でピクニックをする事に決めた。


後で聞いた話だけれど、ピクニックに行く人を決めるのに少し一悶着あったとかなんとか。

ピクニックの前日に地震みたいな揺れや凄い爆発音がしていたのはそれが原因なのかもしれない。

いつか、沢山の人たちとピクニックに行きたいなと思った。


ふと思い出した事があったので、ボクはある人を探す事にした。

その人はまだマッスールの港町に滞在していたので、すぐに見つける事が出来た。

港の桟橋の先でその人は中腰の姿勢で両手を前に突き出した格好でピクリともせずに立っていた。


「あの、おはようございます。ちょっといいですか?」


「……む? 博愛の坊主か。わしになにか用でもあるのか? 悪いが鍛錬中だ、あとにせい」


「えっと、じゃあ、待たせてもらっていいですか」


「好きにせい」


「ありがとうございますロンファンさん」


武神と呼ばれるチート能力者、リー・ロンファンさんはボクの方を向く事なく、前だけを見ている。

ロンファンさんの足元にはゼーハーと荒い息を吐く男の人が倒れていた。

それはロンファンさんと同じくチート能力者の一人で大賢者と呼ばれる人物、ライトニング・ダークネスさんだった。


「死ぬ……、もう死ぬ……、絶対死ぬ……なんでオレがこんなに目に合わなきゃならないんだって訳ですよ……」


「たかが一時間程度の馬歩で何を言うかだらしない。そんな事だから魔力切れ程度で身動き一つ取れなくなる。功夫が足らんわ、だが安心せい。最低でもわしと打ち合える程度には鍛えてやるから安心しろ」


「……武神と打ち合えるとか戦闘系のチート持ちじゃなきゃ命が幾つあっても足りない訳ですよ。助けて、坊や!! 大魔法連発しすぎた反動で魔力がまだほとんど戻ってないから逃げる事も出来ない訳ですよ!! このままだと喧嘩バカに殺されるッ!!」


「まだ、喚く元気があるのなら十分。ほれ、すぐさま立って馬歩の続きをせい」


「いやーもう体力の限界、立つ気力も微塵もない訳ですよ、これはもう今日は筋肉痛でムリですわー」


ロンファンさんが軽く手を素早く動かして、倒れ込んでいるライトニングさんの体のあちこちを軽くコツンと打つと、倒れ込んでいたライトニングさんが一人でに立ち上がり、ロンファンさんと同じ姿勢になった。


「え? なにこれコワイ!! オレ何もしてないのに何でまたこのポーズになってるの!? コワッ!!」


「おぬしの気脈にわしの気を流し込んだ。普段のおぬしなら相応の魔力で相殺もできようが、今のおぬしには防ぐ手立てもあるまい。しばらく、馬歩にはげめ」


ロンファンさんはライトニングさんにそう言って、ボクの方に歩いて来た。


「待たせたな博愛の」


「えっと、その、ライトニングさんはそのままでいいんですか?」


「たるんだ性根と体を叩き直す為の基礎作り、それをする前のちょっとした準備運動のようなものだ。気にする必要はないわい」


「あー……、そうなんですね。えっと、ライトニングさん頑張ってくださいね」


たぶん、ボクが何を言ってもロンファンさんはライトニングさんの鍛錬をやめる気がないというのが何となく分かったので、ボクはライトニングさんを応援する事しかできなかった。


「え? 嘘でしょ? ちょっ、え? 坊やぁあああああああ!!」


ライトニングさんの事が気になりつつもボクはロンファンさんにピクニックの事を伝えた。


「気乗りはせんな。わざわざ、わしを呼ぶ必要などなかろう」


「でも、その、ボクあの時言いましたよね、今度みんなでお茶をしようって。プラテリアテスタの紅茶はホントに凄く美味しいんですよ」


「あぁ、そう言えばそんな話を絶界聖域でしたな。ふむ……」


顎に手を当てて、ロンファンさんは何か少し考え始めた。


「柄ではないが、まぁよかろう。馳走になるとしよう」


「はい、ありがとうございますロンファンさん!! お昼からピクニックをするので、あとでお迎えにいきますね」


「あぁ。そうだな、せっかくの茶の誘いだ、少しの茶菓子くらいは持参しよう。では後でな」


ロンファンさんとピクニックの約束をして、ボクはその場を後にした。

ライトニングさんの叫び声がしばらく聞こえてたけど、昼前には聞こえなくなっていた。

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