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76・異邦の少年と今後のお話

「まずはソラタ様が気を失ってしまった後の事からお話いたしましょう」


簡単な食事を終えた後、ティグレさんがおもむろにそう切り出した。

ボクが気を失った後の事、ボクが覚えているのは空から赤い光が落ちてきた場面が最後だ。

あの赤い光はマッスグさんのものだとは分かっている。

だから、あの魔王種を倒したのはたぶんマッスグさんなのだろう。


「ソラタ様、ココノツ様、ガリガル様の三人の勇者の力により、散っていた魔王種の塵は全て一か所に集まって一つの個体になりました。自我を持った人型、今まで記録されていたどの魔王種とも異なるモノとなったあの魔王種はその動きをココノツ様、ガリガル様に封じられて、最後に空から落下してきたマッスグ様の手によって消滅しました。ソラタ様は恐らくその前後に気を失ったのだろうと伺っています」


「うん、空から赤い光、マッスグさんが落ちてきてるのを見たのがボクの最後の記憶だよ。その後はどうなったの?」


「はい、魔王種が消滅し、魔王種の塵すら残っていない事をココノツ様の煙で確認した後、魔王が空から現れました。どうやら、その魔王が道に迷っていたマッスグ様をあの地へと運んでくれたようでした。しかし、魔王との遭遇で星神教枢機卿であるカネーガ様が、何と言いますか、乱心されてしまいまして……。星神教の擁する戦闘司祭部隊であるペンタグラムを魔王に差し向けて、あろう事か魔王討伐を強行したのです」


「そんな、マッスグさんを連れてきてくれた人なのに?」


「はい、星神教の方々は魔王を悪なるモノと定めています、加えてカネーガ枢機卿は星神教の中でも有名な強硬派でしたので、その場に居た方々の静止も耳には入らなかったのでしょう。あぁ、ご安心ください、魔王討伐はその場に居た勇者の方々の働きにより、事なきを得ましたので」


「そっか、よかった。確か、魔王さんとも協力するって王様言ってたもんね」


「はい、マチョリヌス様を始めとし、各国の王にとっても魔王種、ひいてはそれを産み出す魔王母胎樹はなんとしても討伐せめばならない人類共通の脅威。その存在は我々、大地の国の民だけでなく底の国の民にとっても同じく脅威であると、そう聞いています。だからこそ勇者と魔王、二つの勢力が力を合わせなければならないのだとマチョリヌス様はお考えです」


それからしばらくの間、ボクはティグレさんと話をした。

星神教のカネーガ枢機卿が魔王さんに攻撃しようとして止められた事を始め、魔王さんと勇者、王様たちで今後の魔王種についての対策会議が行われる事、ヴルカノコルポの王様の国から沢山の宝物やお金が盗まれた事で財政が傾くかもしれない事、プラテリアテスタとヴルカノコルポのどちらも軍隊を引いた事、そのおかげでプラテリアテスタとヴルカノコルポの間でしばらくの間は戦争は起きないだろうと言う事、他にも港町の復興とか支援の話や今回の件でのボクの功績の事なんかがボクの眠っている間に話されたようだ。

正直、実感はまだわいていないけれど、戦争は回避する事が出来たのだと分かって、ボクはとてもホッとした。


「これからの事はまだ分からないけれど、ボクはボクの願いが一つ叶った事がとても嬉しいな。子供が見る夢の様な、叶うはずのない願いだったのかもしれないけれど、それでも手を伸ばして届いたんだから、ボクはとても運がよかったんだろうね」


ボクの言葉を聞いてティグレさんがゆっくりと首を横に振る。


「確かに、ソラタ様は幸運だったのかもしれません。ですが、その願いを子供の夢と諦めず、叶うはずがないと手放さず、必死にやり遂げたのはソラタ様の誰にも傷ついて欲しくはないという信念があったからこそ。どうか、ご謙遜をなさらないでください。今こうして我々が生きているのはソラタ様のおかげなのですから」


「……うん、ありがとうティグレさん。ボクの行動が誰かの為になったのなら、それはとても嬉しいな」


「ゴホン、それはそれとしてですね、ソラタ様。とても繊細かつ重要な事なのですが……」


いきなりティグレさんが真剣な顔つきになって、ボクの顔をジッと見つめ出した。

一体どうしたんだろう、空気が少し重くなった様な気さえする。


「うん、なぁにティグレさん」


数秒の間を開けて、ティグレさんが口を開いた。


「なんでも言う事を聞く、というあの約束はいまだ生きているでしょうか」


「……え?」


「アロガンシア様の手により、国境付近まで飛ばさる前、ソラタ様は仰いました。お願いティグレさん、ボクはどうしても戦争を止めたいんです。ありとあらゆる事をなんでもしますから、と」


「あれ、ちょっと内容変わってる気が……」


「あぁ……、何という事でしょう。私は国王陛下や女王陛下の臣下でありながら、ソラタ様の一途な思いに心打たれ、ある意味で私は国王陛下と女王陛下を裏切ったも同じだというのにグスン。えぇえぇ、ソラタ様は博愛の勇者、そのお手伝いが出来るならばとの思いではありましたので、何かしらのご褒美といいますか、恩に報いた何かを期待などまーーーーーーーーったくしてはおりませんでした。ソラタ様のお側でその大業の手伝いが出来た事は私の誇り、えぇ、ご褒美など望むべくもない事など、分かっておりました、はい」


その場に軽く倒れ込んで、ティグレさんが顔を伏せながら、早口で喋り出す。

時折、チラチラとボクの顔を見ている気がする。

なんでもすると言った事を忘れていた訳ではないのだけれど、何だろう凄く圧が強い。


「えっと、その、そう言った事を忘れてなんかないよティグレさん。ボクに出来る事ならなんでもしたいって今でも思ってるよ」


「フヒ……」


何だかティグレさんがニヤリと笑った気がした。

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