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73・異邦の少年と正義

ボクから垂れ流される魔力をココノツちゃんとガリガルさんが少し離れた位置に移動させてまとめていく。

後で知ったのだけれど勇者の持つ権能は根本は同じ物らしく、近くに権能が集まると互いに共鳴してより強くその力を発現させる事も出来るとか。

今回はその共鳴現象を利用して、ボクから溢れる神域と冥域の魔力を間接的に操作してもらっている。

今のボクは白と黒の重なった光輪を作れる程、魔力を操作できないから凄く助かった。

大量の魔力を一か所にまとめ始めたと同時にその魔力に黒い靄の様な物が群がり出す。


「さて、魔王種の塵が食いついて来た所で、分かりやすくさせてもらおうじゃないか」


ココノツちゃんが煙管を咥えて大きく息を吸い込み、そして、一気に大量の煙を吐き出す。

ココノツちゃんの魔力が込められた煙は広範囲に広がっていき、数十メートルほどの大きさのドームを形作る。

一か所にまとめた神域と冥域の魔力を中心に煙のドームがだんだんと黒く染まっていく。


「魔王種の塵は薄い魔力しか含んでいない煙より、より濃ゆい魔力のある中心に集まっていく。節制の勇者ココノツの魔力が込められた白い煙なら魔王種の黒をより視認しやすく、そして煙に込める魔力は博愛の勇者の魔力を権能の共鳴現象を利用して融通する事で、大量に広範囲に展開出来る様にしていると。なるほど、これは素晴らしい。やはり勇者は助け合う事でより強く、より広く世界を救う事が出来るのだと一層確信が持てました!!」


少しふっくらとしたおじさんが興奮気味に何かを独り言を喋っているのが聞こえた。

何だろう、あのおじさん……。

悪い人じゃないのは分かるのに何だか嫌な感じが少しする。

ちょっと、怖い。


「気にしない事さソラタちゃん。アレはある意味、どこにでもいるごく普通の人間さね。人間誰しも正しい事をしていると思ってる時が一番強いのさ。なにせ、自分が正しいって事は相手が間違ってるって事だからね。しかも神様のお墨付きって心底信じてるんだ、並大抵の事じゃ折れないし曲がらないし止まらない。まぁ、それだけ人間の思いの力ってのは厄介なのさ」


権能の共鳴のせいか、ボクの思いがココノツちゃんに伝わったようだ。

ただ、ココノツちゃんの話はボクにはよく分からなかった。

正しい人をボクは怖いだなんて思わないからだ。


「ソラタ、君はまだ子供だ。子供にしては聡い所はあるが、子供相応の精神性なのは確かだ。ゆえに混ざりものが少ない。自分の思いにノイズが入りにくいとも言える。ソラタよ、覚えておくといい。正しい人間が真に正しいとは限らない。他人の正義はしょせん他人の物だ、確固たる自分の正義を持たねばならない。正義の敵は別の正義なのだから」


ガリガルさんの言葉でボクはますます訳が分からなくなる。

正義の敵は悪者なんじゃないのだろうか。


「うんうん、素直で可愛らしいねぇソラタちゃんは。パクリと食べちまいたいくらいだよ、ククク。今すぐに理解する必要はないのさ、良い思いも痛い思いもして、いずれ世の中の酸いも甘いも嚙み分けられるようになるだろうさ。それまでじっくりゆっくり育つこったね。まぁ、今すぐ大人になりたいっていうんならあたしが手取り足取り腰取り丁寧にねっとりと教えてもいいけどねぇ、ククク」


「ココノツ、ここに来る前は名の有る大化生だったと聞いている。子供相手にその品のなさは度が過ぎるぞ」


「あらあら、そいつぁいけないねぇ。勇者なんて珍妙な役柄はあたしのガラじゃないからねぇ、ついつい地が見え隠れしちまう、笑って流しておくれソラタちゃん」


愉快そうに笑うココノツちゃんを見てガリガルさんがため息をつく。

不意にドクン、と何かの鼓動が聞こえてきた。


「おやおや、そろそろかい。それじゃあ、魔王種が復活しちまう前に始末しようかねぇ」


「魔王種の大半は先ほどのチート能力者たちとの戦い、それに神聖魔術によって消失している。本来なら、数十年かけて復活するような魔力量を一気に食わせて回復させたような物だからな、それなりに強力な攻撃でなければ完全に消滅は出来ない。生半可は攻撃は魔王種を散らすだけにしかならないぞ」


「あぁ、あてならあるさ。あの子だって、いくら猪突猛進だとしても魔王種とのドンパチなんていう大騒ぎには気づいてるだろうからね。名前通りまっすぐここに来てるさ」


ココノツちゃんが吐き出した煙の性質が切り替わったのを感じる。

ドーム状に漂っていた魔力を含んだ煙が一点に収束していく。


「煙のモードを索敵から収束に変更、魔王種の塵を一まとめにして一網打尽といこうじゃないか」


ボクの魔力を食べて、塵の集まりでしかなかった魔王種の魔力が実体を持ち始めているのに気付く。

大きな黒い巨人の時と比べればとても弱まっているのは分かるけれど、それでも十分な強さだというのが見て取れた。


「安心するといいソラタ、希望の勇者が結界魔術で周囲に影響がでないよう我々ごと魔王種を閉じ込めている。力を使い果たした者たちに魔王種が危害を加える事は出来ない」


その言葉を聞いてボクはホッとした。


「あれ、でもボクたちごと?」


「塵一つ残す訳にはいかないからな。9割9分は中心に集まったとみていいが、それでも取りこぼしの可能性は否めない。ココノツの煙で魔王種の塵の大まかな範囲は把握できた。希望の勇者にはその範囲より広めに結界を張ってもらっている。範囲内に居る私たちの中にも魔王種の塵が居る事を考慮した結果だ」


「えっと、あの、それだとボクたちの中の魔王種の塵はどうするんですか?」


「その点もぬかりはない。ココノツが言っていたがもうじきもう一人の勇者が来る。あれは直感で自身の取るべき行動を即断し実行する人間だ。理解し難いがそれが正義の権能の力らしい」


そんな話をしている間にボクから溢れ出る魔力を大量に取り込んだ魔王種の塵が人の形を取り始めた。

人型の魔王種から放出される魔力の圧はチート能力者と言われている人たちとそれ程変わらない。


『母体との接続は切断され、もはや補給も望めない状態。魔力の大半をコアに奪われ、肉体も八割を失った。再生機能をフルに使用する為、塵芥にまで自身を細分化し、復活まで百年は休眠状態で過ごさなければならない状況だった。だが、感謝するぞ愚かなニンゲンどもよ。貴様らが愚かにも休眠状態となったこの私を塵一つ残さずに消滅させるなどという愚か極まりない選択をしたおかげで想定を大きく上回る力と自我を手に入れて復活する事が出来たわ!! せめてもの礼に痛みすら感じる間もなく殺し尽くしてやろうではないか!! その後は私の体を崩壊させた者共を血祭にあげ、更にはこの世界のニンゲン共を滅ぼしてくれよう、フハハハハハ!!』


魔王種が完全に人型になった瞬間、ココノツちゃんとガリガルさんはボクの魔力を使って魔王種を魔術の

縄で縛りあげた。


「いい感じに一まとめになったねぇ。いやはや、おぎゃあと産声を上げたばかりだってのに悪いんだけれども、早速おねんねしてもらおうかい」


「束縛術式一から五を開放、続いて封縛術式展開。闇封じの鎖よ、我が敵を地に縫い留めよ」


ガリガルさんの呪文で地面から光り輝く鎖が何本も現れて魔王種に巻き付いていく。


『フハハハハハ、笑止!! この程度の魔術で私を止められると、封じられるとでも思ったか!! 当代の勇者あまりにも脆弱に過ぎるなッ!!」


人型の魔王種が大声で笑いながら、自身を縛る魔術の縄や鎖を無理やり引きちぎろうと、魔力を爆発的に高めた。

パキン、と高い音をたてて魔王種に巻き付いている鎖がヒビ割れていき、縛り上げている縄も一本、また一本と引きちぎられていく。


「おや、想定してたより、出力が強くはないかいこの子?」


「流入している魔力がそれだけ潤沢で高品質だったとでも思うしかないだろう」


今にも鎖や縄が全て引きちぎられてしまいそうだと言うのに二人に焦った様子は見られない。

ココノツちゃんとガリガルさんに魔力を使ってもらってるボクに今出来る事はない。

それでも何かしなければと思い焦るボクにココノツちゃんが笑いかける。


「焦る事なんてないさソラタちゃん、もうあの子が来たからねぇ」


「まるで図ったかのようなタイミングではあるが、それすらも正義の権能の力の内か。底知れんものだ」


ココノツちゃんとガリガルさんの二人は空を見上げていた。

ボクもつられて空を見上げる。

まだ暗く、星の光が見える夜空だったけれど、ほんの少し白んできているのが分かった。

夜明けが近いのだろう、そんな事を思うボクの目に星とは明らかに違う力強い真っ赤な輝きが目に入る。


「プラテリアテスタを目指してたんだが、たどり着かなかった!! つまり正義の行き場はそこではなかったって事だ!! 俺が今、ここに居るって事はこここそが正義の行き場、正義を成すべき場ッ!! 正義の勇者、ユクミチ・マッスグ、正義の光をここに示すぜぇえええええ!!」


大声で何かを叫びながら、赤い髪の男の人がとてつもないスピードで魔王種めがけて落下してきていた。

そして、次の瞬間、ボクの視界すべてが真っ赤な光に染まった。

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