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67・希望と離脱

希望の勇者である時女 喜々良の権能の行使により、消滅する運命にあったコタマの因果がねじ曲がり、コタマの存在が急速に回復していく。

ソラタが万全の状態なら癒しの魔術で回復する事も出来るが、神核を身に宿し神域と冥域の両方から魔力をほぼ無尽蔵に吸い上げるソラタと同等の癒しの力を行使するという事自体かなりの規格外と言えた。

回復していくコタマを見て、ティグレは安堵した。

わずかな間とは言え共に居たし、何よりコタマはソラタと契約した精霊獣。

大地の魔力が長い年月をかけて自我を持った存在、出会う事すら稀有である精霊獣ではあるが契約した例がない訳ではない。

チート能力者や特殊な人間の中には精霊や妖精と心通わせている者もいる。

契約するという事は自身の一部を相手に明け渡す事と同義であり、契約獣の消失とはすなわち自身の一部の消失とも同義なのだ。

あのままコタマが消失していたら、契約していたソラタにもなんらかの影響が表れていた可能性がある。

恐らく、その影響すらコタマは自身で引き受けただろうが。

コタマの存在が安定したのを見て、ティグレは可愛らしいポーズをビシッと決めている希望の勇者に礼を言った。


「ありがとうございます、希望の勇者トキメ様」


「キキラで結構だゾ、MSはみんなの希望そのもの、みんなに愛されてなきゃだからね!!」


「えむえす?」


「魔法少女の略だゾ、キキラちゃんってば劇的にスッゴイんだから!!」

 

ティグレは馴染みの無いMS、魔法少女という単語に首を傾げる。

意味はよく分からないが、希望の勇者としての力を十全に発揮する為に必要な何かなのだろうと無理やり納得した。

コタマは消失を免れた安堵感からか、今は目を閉じて眠っている様に見える。

そんなコタマをキキラはジッと見つめていた。


「マスコットって大事よね、キキラちゃんもお供を探すべきかしら……。この子はネコっぽいし、被るのは嫌だけど、イヌはちょっと違うわよね。この世界には妖精とか精霊が居るみたいだし、そんな感じの子だとMS力高まりそうよね」


ブツブツと独り言を言うキキラ。

そこへ、離れた場所に居るヌゥーリが遠話の魔術で声をかける。


「君たちぃ、悪いんだけどちょっとおいらの絶対障壁を解除させてもらうよぉ。維持し続けるのもかなり疲れちゃうからね~」


その言葉の後、絶対障壁に包まれ空中を浮遊していたティグレやソラタは地面へとゆっくりと移動し始めた。

地面に足が着いた瞬間、ティグレたちを覆っていた半透明の膜が空気に溶ける様に消えた。

あの激戦の中でヌゥーリが広範囲に絶対障壁を展開し維持出来ていたのはソラタの癒しの奇跡の恩恵があったからであり、それが消えた今となっては広範囲に展開していた絶対障壁を維持するだけの魔力はもはやヌゥーリには残っていなかった。

そんな状態であるにも関わらず、ギリギリまで絶対障壁による守護を続けてくれていた事にティグレは素直に感謝していた。

戦争直前まで行った国の者同士であるとは言え、絶対障壁が無ければ戦いの余波でソラタが危険な目にあっていたかもしれない。

ティグレは同じく遠話の魔術を使用し、ヌゥーリに礼を言った。


「絶対障壁ヌゥーリ・クァーベン様、お守りいただき感謝致します」


「あはは~、プラテリアテスタの侍従長から礼を言われる事があるなんてねぇ、今日はなんだか色々ある日だなぁ」


ティグレはヌゥーリに軽く頭を下げ、一緒に地面に降りたキキラに向き直った。


「キキラ様、ソラタ様の事も回復してはいただけないでしょうか、此度の魔王種との戦いにおいて、戦った者たちの為にもっとも力を尽くしたのはソラタ様です。どうかお願いいたします」


「うんうん、全然オッケーなんだけど、今はちょっと難しいゾ」


「な、何故ですか!? 先程の力であればすぐにでもソラタ様を回復できるはずです!!」


キキラの答えにティグレが食って掛かるが、キキラは困ったような表情でソラタを指さす。


「その子、博愛の勇者でしょ? 見れば分かるわ、ちょっと感じが違うけど博愛の権能の力を感じるもの。すぐに回復してあげたいけど、さっきのネコちゃんと違って緊急性は薄いし、何よりまだ終わってないんだゾ」


「終わってない……?」


「そうそう。まだ魔王種の魔力は消えてないんだゾ」


キキラがステッキを空に向けて、魔術陣を展開し何らかの魔術を使用する。

絶位という魔術師の中でも位の高い位置にいるティグレですら、何らかの、としか形容できない見た事の無い魔術。

その魔術陣の中には、意味があるとは思えない模様が適当に敷き詰められているだけにしか見えない。

属性だとか威力だとかそういった物を増幅させる為の魔術式ではない、仮にあの模様に何らかの意味があるのだとしても、あんなデタラメな配置では何の効果もないはずだ。

ティグレは魔術師としての経験からそう思った。


「MS力ぜんかーーーい!! 拘束魔法、スーパーバインド!!」


キキラのステッキの先端が光り輝き、周囲一帯の至る所に魔術陣が幾つも出現した。

その魔術陣の中には大小様々な黒い塊、砕かれた黒い巨人の破片があった。

それはよく見ると小さく脈動している様に見えた。

魔術陣から伸びた線状の光が黒い巨人の破片を縛り上げる。


「魔王種の破片の近くにいる人たちー、すぐ離れてねー!! もうすぐ、あの人たちの攻撃が飛んでくるからー!!」


キキラの声を聞いて、その場に居た全員が飛来しつつある強力な魔力の波動を感じ取った。

みんなが空を見え上げると、明らかに星の輝きとは違う光が見えた。


「皆の者、急ぎ離れよッ!! 風の加護よ、あれッ!! ムスクルスも急ぐがよい!!」


「分かっているわ、マチョリヌス!!」


プラテリアテスタ王、マチョリヌスはその場に居る全員に移動速度向上の為に風の加護を付与し、キキラの魔術に似たなにかで拘束されている黒い巨人の破片から妻であるプラテリアテスタ女王、ムスクルスと共に離れた。


「この魔力の波動、星神教の神聖魔術かッ!? ミスター・ブレット、ヌゥーリ急ぎ離れよ!! 今のワシらではあの威力は防ぎきれぬ!!」


「ハッ!!」


ミスター・ブレットはヴルカノコルポ王、トリンカーの命令にいち早く行動を開始する。

足裏で爆破を起こし、その衝撃を利用してヌゥーリの元へ移動し疲弊しきっていたヌゥーリを抱きかかえて再び足裏で爆破を起こして一気に黒い巨人の破片から距離を取る。


「ありがとうねぇ、ミスター・ブレット」


「同士を助けるのは当然の事だ。礼を言われるまでもない」


素早くその場を離れる者の中、大賢者ライトニングは完全に出遅れていた。

最後の一撃だからと、別の大魔術を放った為にヌゥーリ以上に疲弊していたライトニングはマチョリヌスの風の加護のおかげでなんとか走れる程度でしか移動できていなかった。

このままでは飛来してくる魔術に巻き込まれるのは時間の問題だろう。


「あー、ちょっとー!! オレも誰か助けちゃくれませんかって訳なんですよー!!」


涙目でわめくライトニングの体を誰かがひょいと持ち上げ、肩に担いだ。


「まったく、大賢者などと誉めそやされて鍛錬の一つもしてこなかったのだろう? 最後に頼りになるのは己の肉体一つよ。どうだ、ワシが一つ鍛えてやろうか?」


「あははー、武神の鍛錬なんか怖すぎて勘弁してほしい訳ですよー、でもありがとー死ぬかと思った―!!」


「泣きわめくな、大の大人がみっともない。喋っていると舌を噛むぞ、黙っておれ」


武神リー・ロンファンに担がれたライトニングは泣き喚きながら礼を述べた。

そして、大地をえぐり飛ばして一気に加速してその場を離れる。

全員が黒い巨人の破片から離れた数秒後、空から夜の闇を引き裂くような巨大な光の矢が幾百、幾千と降り注ぎ、黒い巨人の破片ごと港町ニックリーンを跡形もなく吹き飛ばした。

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