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63・異邦の少年と黒い巨人

草原を走る。

黒い巨人が居る方向へ。

ティグレさんにかけてもらった身体能力向上の魔術のおかげで、そんなに時間もかからずに港町マッスールまで戻ってこれた。

大きな河の向こう側では黒い巨人がビルの様に巨大な腕を振り回して、王様たちと戦っている。

時折、戦いの余波の衝撃がやってきては周囲の建物を吹き飛ばしていく。

とっさにティグレさんが魔術で防御してくれていなかったら、建物と一緒にどこかへ吹き飛んでいただろう。


「怖いね、こんなに離れてるのに、衝撃だけで町がボロボロになっちゃうなんて……」


「ソラタ様、私の側をお離れにならないように。戦いの余波ですら、その衝撃が私の防御魔術を越えてくる以上、防御魔術の範囲外に出てしまいますと、四肢がバラバラになってしまってもおかしくはありません。離れてしまわぬように手を握っておきましょう」


ボクは頷いて、ティグレさんの手を握る。

衝撃が少し収まったのを見計らって、ボクたちは黒い巨人に更に近づいていく。

ボクにあの黒い巨人を倒せる力なんてないし、その方法だって分からない。

でも、みんなを助ける力にはなれる。

この空一面に広がる魔術陣がどこにどれだけ力を割いているか、ボクにはそれがなんとなくだけれど分かった。

黒い巨人と戦っているみんなにとても沢山の力が注がれているけれど、みんなを完全には癒せていない。

範囲が広いせいで、効果が少し薄いのかもしれない。

ボクが直接、癒しの魔術を使えばみんな完全に回復してあげられるはずだ。


「ご主人はあれですかにゃ? 破滅願望でもあるんですかにゃ?」


「お黙りなさい、クソ精霊獣。ソラタ様の優しさと覚悟をその様な言葉にすげ替えるな。三枚におろすわよ」


「にゃー、怖いにゃー。ご主人ー発情虎女がうちをイジメるにゃー」


ボクの肩に乗っているコタマがそう言いながら、ボクの服の中に潜り込む。

真っ黒で闇の塊の様なコタマだけれど、毛並みは良くモフモフだからとてもくすぐったい。


「アハハ、コタマくすぐったいからそんなところ舐めないでよ、アハハ」


「てめぇ、クソ精霊獣、さっさとソラタ様の服の中から出て来なさい!! 私が入る!!」


「それはちょっと無理だと思うよティグレさん? それにコタマもティグレさんの事そんな風に言っちゃダメだよ。ティグレさんもコタマの事をそんな風に言わないでね、みんな仲良くが一番なんだから」


「も、申し訳ありませんソラタ様。私はソラタ様を一番に思っておりますので、その言に従います。まぁ、生まれたばかりの精霊獣には無理かもしれませんが?」


ティグレさんの言葉を聞いて、コタマがボクの服から出てきて頭の上に移動した。


「ご主人の言葉ゆえ、うちもそれに従うにゃ。うちはご主人の初めての契約獣ですから? 反りの合わにゃい人種ともにゃかよくしてやるにゃ。発情虎女なんてホントの事言ってゴメンにゃ、ティグレ」


「よーし、謝る気なしだなこの精霊獣。大地の魔力に還元してやるから、かかって来いこの野郎」


また二人が喧嘩を始めてしまいそうな雰囲気になってしまった。

なんで仲良くできないんだろう。

二人ともなんだかよく似てる気がするのに。


「……ソラタ様、今何かとても嫌な事をお考えになりませんでしたか?」


「ご主人とパスがつにゃがってるうちにも断片的に嫌にゃ事考えたのが伝わったにゃ。そんな事考えるのはやめるにゃご主人」


似たような事を言う二人を見て、ボクは改めて似ているなと思った。

黒い巨人に近づいていくにつれ、だんだんと戦いの衝撃が激しくなってきていく。

ボクたちが近くに居る事に気付いたライトニングさんの分身の一人が飛んできた。


「ちょっと、ちょっと。坊やなんで戻って来たかなー。お姉さんもなんで戻って来たかなー。正直言って、邪魔な訳ですよ。この魔王種ってばちょっと半端なくてねー、チート能力者四人にそれに匹敵する王様二人が揃っておいて攻めあぐねてるとかいうシャレになってない状態な訳ですよ? ぶっちゃけ、坊やの癒しの奇跡がなかったら何度死んでるかってレベルですし? 万が一、億が一にも坊やがやられてもらう訳にはいかない訳ですよ。だからさっさと――」


喋るライトニングさんの分身に癒しの魔術をかける。


「……これが坊やの癒しの奇跡の個人に使用した場合の効果ですかー。大魔術で消費した分の魔力は空に広がってる魔術陣で補充されましたが、魂レベルでの疲労までは取れてなかった訳ですよ。それすら回復させるとかチート以上にチートな気がしますねぇ」


「うん、誰かを助けたいって気持ちは誰にも負けないつもりだよ。その気持ちを沢山詰め込んだから、きっと効果抜群だと思う」


「はは、やっぱり坊やは面白い訳ですよ。ヌゥーリさん、ヌゥーリさん。坊やとお姉さんもご自慢の絶対障壁で守ってほしい訳ですよ、絶対役にたちますからねー」


ライトニングさんに声をかけられた長い緑の髪を三つ編みにしてまとめている男の子がその三つの目でボクたちをちらりと見た。

次の瞬間、ボクたちは半透明の球体の中にいた。

それを見てティグレさんはとても驚いた顔をしている。


「これほどの魔術防壁を瞬時に……、私の防除魔術を遥かに越えて、いや比べる事すら馬鹿らしい程に凄まじい……。これがグレイトリニティの一角、絶対障壁ヌゥーリ・クァーベンの力ですか……」


半透明の球体の中で絶対障壁と呼ばれる力を使ってヌゥーリ君はまだ避難しきれていない人たちを遠くに移動させているのが魔力感知で分かった。

その分、力を使い続けたせいか魔力はともかく、ライトニングさんが言っていた魂の疲労が溜まっているようだった。

たぶん、他のみんなも魂が疲れているのだと思いボクは神域と冥域の魔力を混ぜ合わせた白と黒の魔術陣を複数展開し、少し離れた位置ではあるけれど黒い巨人と戦っているみんなに向けて、ボクの思いを込めて癒しの魔術を発動させる。


「みんな、大丈夫。こんなにすごい人たちが集まっているんだから、なんだって出来るよ。魔王種だって絶対になんとかなるよ!!」


黒い巨人と戦っているみんなの体が淡く光りだす。

ボクの癒しの魔術がうまくいったようだ。

それが気に障ったのか、黒い巨人が黒一色の顔でボクを睨んだ。


(異質権能の該当行動を本機の妨害行動と強制確定、例外要綱を参照し排除対象に強制認定)


頭の中に音ではない声が響いた直後、敵意が、殺意がボクに向かって津波の様に襲ってきた。

こんなにも強い敵意や殺意なんて向けられた事は今までない。

けれど、だからどうしたと、ボクはキッと黒い巨人を睨み返す。

魔王種だからとかじゃない、この黒い巨人が誰かを傷付けるというのなら、ボクはそれを止めてみせる。

だって、ボクは博愛の勇者なんだから。

黒い巨人が恐ろしく巨大な腕を振り上げる。

振り下ろされた腕がボクの視界を黒で塗り潰す。

みんながそれを止めようと、黒い巨人の腕を攻撃しその軌道をずらしていく。

ヌゥーリ君が絶対障壁自体を動かして、ボクたちを空中に逃がしてくれた。

黒い巨人の腕が空を切って地面に激突する。

いつかTVで見た隕石の激突の様に、凄まじい轟音と一緒に地面が大きくえぐれて、大量の岩や土が空を舞う。

その衝撃で大きな河の底が一瞬見えた。

巻き上げられた水が雨の様に周囲一帯に降り注ぐ。

ヌゥーリ君の絶対障壁はその水すら弾いてくれたので、ボクたちが濡れる事はなかった。

なのに、ボクの顔をヌルッとした液体が垂れているのに気付いた。

何だろうと思ってボクは服の袖で顔を拭いてみた。

少し暖かく、鉄の臭いがした。

それは血だった。

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