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61・黒ネコと巨人

空中に穿たれた黒い穴があらゆるものを吸い込んでいく。

空気も雲も岩も草木も、なにもかも。

そして、間近に開いたその黒い穴に吸い込まれまいと、空中に爪をたててその場に留まる存在がいた。

それは、チート能力者たちと神気を宿す二人の王の猛攻により、その身の半分を失う損害を受けた魔王種と呼ばれる魔王に匹敵する力を有する獣。

ネコに似た姿をもった魔王種は空中に爪をたてたまま、思考する。


何故、チート能力者へのアンチテーゼとして存在しているはずの自分がチート能力によって、この身に損害を受けているのか?

強力な神耐性を有していないのは防衛機構乙種自身が母体である世界防衛機構アセツータへの反抗を封じる為であり、その処置は妥当である。

神属性を有する王族二体の能力行使による損害は軽微、しかし、その後のチート能力者の攻撃がこちらの完全耐性を凌駕し、なおかつ防衛機構乙種を半壊させたという事実はチート能力者への対応を再考。

ザザッ—――、思考にノイズが混ざる。

警告、メンタルコアへの侵入を確認、リアクティブプロテクト起動。

サーチ開始、侵入者特定、権能・博愛との合致率97%、侵入経路特定、権能を通して世界運営機構経由と判明。

思考分割、侵入者への対処を並列処理。

現状、疑似ブラック・ホール、超重力場への落下は防衛機構乙種を分子レベルにまで圧縮する事が可能と推定。

損害率47%を超過、これ以上の損害は防衛機構乙種の活動限界を速める可能性あり。

空気中への高濃度魔力散布、物質化による足場の構築、アンカーによる固定状態良好。

疑似ブラック・ホールの消失予想時間まで、あと27秒。


魔王種は口の端を吊り上げて、不気味に笑ってみせた。

大賢者であるライトニングにはその表情の意味が理解出来た。


「ちぃッ、このクソネコ、楽勝で耐えれますって顔してやがる!! めっちゃ腹立つッ!!」


空中に留まり、大魔術ブラック・ホールを維持するのに手一杯で次の一手を打てないライトニングは歯噛みする。

他の誰かが魔王種をブラック・ホールに押し込めないか見回してみるが、ミスター・ブレットやマチョリヌス、トリンカーらは最大級の能力行使からまだ回復しきっておらずブラック・ホールに吸い込まれない様に耐えるので精一杯であり、ヌゥーリは絶対障壁を港町ニックリーン全体に張り巡らせる事で住民やヴルカノコルポ兵たちがブラック・ホールに吸い込まれない様にするので必死だった。

どうしたものかと、思案を巡らせるライトニングだが決定打が思いつかない。

その時、ライトニングの背後から声がした。


「あの黒ネコをあの黒穴に押し込めばいいのか?」


「あんたは――」


ライトニングの横を猛烈な勢いで過ぎ去って、一人の男が魔王種に迫る。


「傲慢姫、アロガンシア王女との一戦で体は温まっておるが、邪魔が入ったせいで消化不良でな、なに詰まる所、ただの憂さ晴らしよ」


武神の二つ名を持つ隻眼の男、リー・ロンファンが拳に大気を歪めるほどの魔力を圧縮していく。

ブラック・ホールに吸い込まれれば、チート能力者と言えど、致命傷は避けられない。

死の気配を感じながら、リー・ロンファンは宙を蹴って更に加速して、拳を構える。

その拳に危機感を持ったのか、魔王種は半欠けの背中から棘だらけの触手を何本もはやし、リー・ロンファンに向けて触手を伸ばす。

だが、自分の身が多少削れる事を気にせずにリー・ロンファンは最短距離で突き進む。

そして、リー・ロンファンの拳が魔王種を射程範囲に捉えた。


「一打絶倒、二撃無用の拳、味わってみるか?」


咄嗟に魔王種は新たな触手で自分を包み込み、防御態勢を取った。

今まで、防御などしてこなかった魔王種のこの行動は魔王種にそれなり以上のダメージがある事を示していた。


「笑止、その程度で防ぎきれると思うなッ!! 絶招・破神崩拳ッ!!」


魔王種と同じ様に、リー・ロンファンは空中に自分の魔力で足場を作り、力強く踏み込む。

全身で練り上げた気を螺旋の如く足先から腰、腰から胸、胸から腕へとよどみなく通し、その全てを魔力で強化した拳へと繋ぐ。

ドゴンッ、轟音を響かせ触手の防御壁にリー・ロンファンの拳がめり込む。

だが、拳はそこで止まった。

ライトニングにはそう見えた。


「ぬぅ、魔力と気の流れがブレた。まだ功夫が足りんな」


自分の拳に不満をこぼしつつ、リー・ロンファンは足裏から魔力を勢いよく放出して、ブラック・ホールから距離を取る。


「おいおいおい、武神さんよー、なにが一打絶倒、二撃無用だよ、防がれてる訳じゃないですかよー」


「我が師の教えでな。拳を打つ時は突くだけでなく、貫き通すつもりで打てとよく言われたものよ」


「はい?」


「わしの拳はあの防御を抜け、あの黒ネコの顔面を捉えたわ」


リー・ロンファンの言葉を受け、ライトニングが改めて、魔王種の方を見ると、触手の防御壁は途中からちぎれており、その向こうに顔面の上半分が消し飛んだ状態でブラック・ホールへと吸い込まれていく魔王種の姿があった。


「近接特化のチート能力者はおっかないですねー、間違ってもあんたとは戦いたくない訳ですよ」


「今のわしの目当ては傲慢姫のみよ、おぬしがわしの前に立たぬ限りは闘う事もなかろうよ」


なにがあろうと、リー・ロンファンと事を構えない様にしようと思うライトニングだった。

魔王種を飲み込んだブラック・ホールがだんだん収縮していき、十秒と経たずに消え去った。


「ふぃー、これでおしまいって訳ですよ。あー坊やの癒しの力があってよかったー。これなかったら、一歩も動けないくらい疲弊してるはずな訳ですよ」


本来なら数日は身動き一つ取れなくなる大魔術の行使だが、ソラタの癒しの魔術の影響で即座に魔力が回復し、ライトニングは多少の疲労感を感じる程度で済んでいた。

マチョリヌスやトリンカー、ミスター・ブレットにヌゥーリもふぅと一息つく。


『エフ ユー シー ケー』


何処からともなく響く声、むしろ音に近かったかもしれない。

だが、確かに聞こえた。

そして、ちょうどブラック・ホールがあった空間に亀裂が入る。


「なんだ、あれは……」


「トリンカーよ、まだ終わってはおらぬようだ……」


ピキ、パキ、と空間の亀裂が大きくなり、亀裂から闇が溢れ出してきた。

とめどなく溢れ出す闇が、その形をだんだんと人に近づいていく。

完全な人の形をとった闇は巨大なはずの魔獣ギリメカラさえ小さく見えてしまうほど巨体でマチョリヌスたちの前に立った。

そして、闇の巨人は世界を揺らす大声をあげる。


「オオオオォオオオオオオオォォォォォオオオッッ!!!!」


声だけで衝撃波が周囲を襲う。

ヌゥーリの絶対障壁が無ければ、声の衝撃だけで町一つが軽く消し飛んでいただろう。


「冗談でしょうが!! 今まで微塵も本気出してなかったって事な訳です!? さっきよりくっそでかい、デカ過ぎでしょうがッ!! なんたらタワー並じゃないですかこれー!?」


騒ぐライトニングを尻目に、リー・ロンファンは闇の巨人を見上げて不敵な笑みを浮かべる。


「カカッ、これだけデカいと殴り甲斐があるわ。雲を越え、天を突くかの如くある巨人、面白いッ!!」


リー・ロンファンは闇の巨人の顔をめがけて、一気に宙を蹴って駆け上がっていく。


「あー、これだから戦闘バカはーーー!! 見るからにさっきと状況違う訳ですよ!? 作戦とか考えましょうよー!!」


頭を抱えるライトニングを三つの影が通り過ぎていく。


「大賢者よ、嘆くばかりでは戦況は変わらぬ。持ちうる力全てを投げ打ち、事に当たるしかあるまい!!」


「我が前に立ち塞がる者は何であれ焼き尽くすのみ!! 魔獣であろが巨人であろうが、それは変わらぬわッ!! ヴルカノの火の輝きを今こそ世界に示してくれようッ!!」


竜巻をまとったマチョリヌスがそう言ってリー・ロンファンに続き、トリンカーもまた、全身から炎を噴き出して巨人へと突き進む。


「お前も我が王に雇われた身、我が王に続き敵を殲滅せよ、ヌゥーリは引き続き民や兵を守る。戦う術を持つ以上、お前も戦士だ。戦え大賢者よ!!」


ミスター・ブレットが自らをミサイルに変化させて噴煙を足裏から吹き出して、発射される。

いまだ戦意を失わない四人を見て、ライトニングはため息をつく。


「はぁ……おうち帰りたい……」


そう呟いて、ライトニングも四人に続いた。

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