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59・勇者と勇者

銀色に輝くフルプレートアーマーを着込み、その上から星の輝きを象った模様が刺繍されたマントを羽織る数百人の集団がヴルカノコルポの国境線を越えて進軍していた。

その集団の先頭には羽根の生えた馬、ペガサスに乗る信仰の勇者ガリガル・ヒョウロイン。

その後ろに同じくペガサスに乗る小太りの男、星神教枢機卿カネーガ・メッサ・スキャネンとその護衛である司祭が五人。

カネーガを守護する五人の司祭は星神教において神敵を滅する役目を持つ戦闘司祭五人衆、通称ペンタグラムと呼ばれる星神教最強の存在である。

物々しい雰囲気の中、星神教の集団は行軍を続け、目指すべき場所へと進んでいく。


「空に広がるこの魔術陣、この魔術の範囲内であれば傷も癒え、痛みも消え、魔力すら充実する。これ程の事はチート能力者ですら命を賭けねば行えぬ大偉業。回復特化のチート能力者の所在は把握済み、彼の者の所業ではない事も確認が取れている以上、これはそう、神の御業に違いない!!」


「カネーガ枢機卿、先程も申しましたが、この空に広がる魔術陣の魔力は博愛の権能のそれです。恐らく同じ勇者であるからこそ、私には感じ取れるのでしょうが。ただ、巫女から得た情報で彼は神に出会っている可能性が高い、なにかしらの神性と接触した事で博愛の権能が変異したのかもしれません」


カネーガの言葉をやんわりと否定するガリガルだったが、カネーガはニコリと笑い、首を振る。


「いえいえ、同じ事ではありませぬか、信仰の勇者ガリガル。神の御業とは神のみが起こすのではありません。神が人の子に成すべきを成すが為にお与えになったモノは全て恩寵。神より賜った力で引き起こされる事象は全て神の思し召しも同じ。なればこそ博愛の権能もまた神の力、ゆえにこの癒しの奇跡は神の御業なのです」


「……なるほど、そういうお考えでしたか。そう捉えるならば、これも一つの神の御業でしょう」


良い事は全て神のおかげ、悪い事は魔王のせい、星神教の根底にあるその考え方をガリガルは安易に否定はしない。

そう考えねば立ち行かぬ者も居る事をガリガルは知っている。

自分に非がなくとも、悪い事はどうあがいても起きてしまう。

だから、誰かのせいにしたいのだ。

自分は悪くない、悪いのは魔王のせい、そう思う事で安心したいのだ、自分は悪ではなく善の存在だと。


「誰かのせいにした所で、問題が解決する訳ではないのだがな」


その呟きは誰の耳にも届かない。

癒しの奇跡を起こした者を神の子として星神教に迎え入れる事、それが今回のカネーガの目的である。

博愛の勇者が神の子である以上、その居場所は星神教以外であってはならない。

元々、プラテリアテスタとヴルカノコルポの二か国が戦争という事態になったのは博愛の勇者の召喚が原因、恐らく簡単に博愛の勇者を渡しはしないだろうとカネーガは考えた。

博愛の勇者が奇跡を成したその場にプラテリアテスタ王、ヴルカノコルポ王、さらにチート能力者が居る事は把握済みであった為、カネーガは星神教の最大戦力、ペンタグラムまでも招集し星神教神聖軍を編成したのだ。

喜色満面の笑みを浮かべ、カネーガはガリガルに追従する。

カネーガの目的はともかく、ガリガルは博愛の勇者であるソラタに興味がわいていた。

節制の勇者、獣面の女ココノツが戯言にも似た言葉が現実となったからだ。

博愛の勇者が戦争を止める、そんな事は有り得ないと思っていた。

しかし、事実として戦争自体は続行が困難になり、ほぼ止まったと言っても良い状態だ。

だが、ガリガルには何とも言えない焦燥感があった。


「戦争は止まったとはいえ、あの地ではいまだに巨大な魔力のぶつかり合いを感じる。巫女の感知能力ですら完全に感知しきれない事があの地で起きている事は確か。急いだ方がいいでしょう」


そう言って、ガリガルは移動速度を速めた。



紫煙がプカプカとくゆる和風な部屋の中、ケラケラと笑う獣が一匹。

獣は心の底から楽し気で愉快でたまらないといった笑い声をあげて、空に広がる魔術陣を眺める。


「いやぁ、傑作じゃあないかい。ガキの戯言がそのまんま現実を塗りつぶしちまったよ。ククク、自分で言いやしたがね、実際こんな形で戦争が止まっちまう事になるとはねぇ。長生きしてみるものさね、こんな愉快な茶番劇なんざそうそう見られやしないからねぇ」


「ココノツ様、いかがしましょう。今ならばヴルカノコルポの要所を抑える事も可能かと」


節制の勇者である獣面の女ココノツは自分が座る椅子の言葉に少しだけ耳を傾ける。


「そうさねぇ、あんたが自分の民を根絶やしにされてもいいってんならやってもいいんじゃあないかね。この、なんでもかんでも無節操に癒しちまう魔術がいつまで続くかなんて、あたしにも分かりゃしないけれど、人としての域は遥かに超えてるのはよぉく分かるさ。そんなに長引きゃしないよ。それに、今のヴルカノコルポの王様はちょいとばかし神様が混じっちまってる。変にちょっかいかけない方が身の為ってやつさ。ただまぁ、恩くらいは売ってもバチは当たりゃしないさ」


「ココノツ様がそう仰られるなら。しかし、恩というのは?」


ココノツは遠眼鏡で一匹の異形の姿を覗く。

プラテリアテスタ王とヴルカノコルポ王、それにチート能力者が三人。

それだけの戦力が有りながら、この癒しの魔術がなければ、すでに全滅していた可能性が高い怪物。

ココノツの知る限りそんな怪物は一つしかなかった。


「いやなぁに、魔王種ってのがどんなもんかは知らないけれどね。あれだけの男らが雁首揃えてあのていたらくってのは情けなくて涙が出てくるってもんさ。だから、あたしがちょいと行って手助けってのをしてやるのさ。バケモン退治は人間の領分だけれど、今のあたしは勇者って御大層なモンになっちまってるからねぇ、バケモンがバケモン退治したってお天道様も文句は言わないだろうさ」


「魔王種ッ!! あの災厄の凶獣が出現していると!?」


「今は王様二人にチート能力者が三人、男五人がそろってわいわいやってる所さ。まぁ、そう悪い事にはなりゃしないよ。安心おし」


「何か、策でもおありなのですか?」


「まぁさか。馬鹿いっちゃあいけないよ王様、ああいう埒外のバケモンを相手に策だとか計略だとかはね、無意味も無意味、クソの役にも立ちゃしない。そんなモノが通用しないからバケモンなのさ。バケモン殺す時はいつだって数と力って相場決まってるのさ」


ケラケラと楽し気に笑いながら、ココノツは立ち上がり部屋を出る。

椅子である王様もその後を追った。

ココノツが向かったのは魔導飛空艇の操舵室。


「さぁさ、船長ちゃん、行く先は……なんだっけ? そうそう豆の大河とか言われてるプラテリアテスタとヴルカノコルポの国境代わりの河がある港町さね。善は急げっていうだろう? まぁ、あたしが善だなんてちゃんちゃらおかしいけれど、言葉のあやってやつで一つ勘弁しておくれ」


「了解いたしました、ココノツ様。本艦ココノツ様万歳号はこれより、プラテリアテスタとヴルカノコルポの国境、ポワ・ディ・フルーヴの港町、ニックリーン!! 全速前進ッ!!」


ココノツの言葉を受け、ココノツ様万歳号の船長は操舵輪に魔力を込めて、全速力で港町ニックリーンへと向かう。


「さてさて、博愛の勇者ちゃんの顔を拝むついでにバケモン退治としゃれ込もうかねぇ」


偶然か必然か、魔王種の元へ勇者が集まり始めていた。

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