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55・火と闇

巨大な拳を象った炎の塊が黒煙に向かって振るわれる。

轟々と燃え上がる巨大な拳は黒煙を飲み込み、爆炎をまき散らしていまだ暗い空を一瞬明るく照らす。


「やったか!?」


「あ、それフラグな訳ですよ……」


トリンカーの言葉を魔術で周囲の情報を収集しているライトニングが聞き取り、そう呟く。

爆炎と黒煙が晴れると、そこには何事もなかったかのようにネコの形をした闇、魔王種がそこにいた。


「ニャア」


魔王種はあざ笑うかのように一鳴き。

次はこちらの番とばかりに魔王種が右の前足を上げて、軽く振り下ろす。

ただそれだけで、追撃をしようとしていたトリンカーの右腕が消し飛んだ。

神と融合を果たし、肉体強度は戦闘系のチート能力者に劣らぬ程となっているはずのトリンカーの体がいとも容易く消し飛ばされた事実に、それを見ていた者全てが驚愕する。


「お、王ぉおおおおおおおおおッ!!」


トリンカーの右腕が消し飛んだ事に狼狽したミスター・ブレットは足裏に爆薬をセットし、爆発を推進力にし高速移動しながら落下しつつあるトリンカーを助けに向かった。


「馬鹿者ッ!! 敵から眼を離すでないわッ!!」


トリンカーの言葉にハッとなり、魔王種に目を向けたミスター・ブレットの頭上に、尻尾を振る魔王種が居た。


「ッ!!」


咄嗟に両腕に弾薬を装填し、魔王種に向けて放とうとした瞬間、魔王種の尻尾がミスター・ブレットを、彼を守ろうとした絶対障壁ごと切り刻む。


「ぐ、ぐああああああああッ!?」


五体を刻まれ、体がばらけていく痛みにミスター・ブレットは顔を歪め叫び声をあげる。

魔王種はその様子を見て顔無き顔をグニャリと歪ませてその様をあざ笑う。

その魔王種を取り囲む様に幾十もの魔術陣が一瞬で展開された。


「王様、ミスター・ブレット、すぐに体は再生、復元される訳ですよ、さっさと離れて下さいねッ!!」


ライトニングが大声を張り上げて、落下しつつあるトリンカーとミスター・ブレットを風の魔術で魔王種から引き離す。


「ミスター・ブレットの兵器も王様の火も効いてる様子がないっていうなら、とりあえず土、水、火、風、光、闇、聖、魔、邪、神、冥、爆、氷、岩、嵐、天、地、底、斬、打、その他諸々盛り合わせで様子って訳ですよーっ!!」


魔王種を取り囲む、幾十の魔術陣全てからそれぞれ異なる属性魔術が同時に発動し射出される。

逃げ場無し、四方八方から迫りくる属性のるつぼが如き魔術の嵐に魔王種は焦る様子もない。

全ての魔術が直撃し、あらゆる属性の輝きが混沌にも似た魔力の波動と衝撃を辺りにまき散らす。


「有効打が何かあればいいんですけどねー」


探知魔術で魔王種の様子を探ろうとしたライトニングの目の前が真っ暗に染まる。


「ッ!?」


口にあたる部分を大きく広げた魔王種に気づくも、間に合わない。

さすがに頭部を潰されたら、さすがに死ぬかも、などと思いつつ、ライトニングは自分に向けて衝撃の魔術を放つ。

自身の魔術で全身の骨がミシミシと軋むのを覚えながら、ライトニングは自分を噛み殺そうとした魔王種の牙から何とか逃れる事が出来た。

魔王種から多少距離をとったライトニングは瞬時に体が癒えるとはいえ、自分を痛めつけるのはゴメンだな、と小さくため息をつく。


「これが、魔王種って訳ですか。オレが扱える全属性喰らわせたのに、無傷ってのはオレが言うのもなんですが、チート過ぎって訳ですよ……」


ライトニングは冷や汗を垂らしながら、ヘラヘラと余裕なく笑ってみせた。

魔王種はのんきに後ろ足で頭を掻いている。

余裕の現れなのかどうかは分からないが、自分の攻撃はその程度でしかないと言われているようで無性に腹が立ったライトニングは苛立ち紛れに、数十メートルもあろうかという魔術陣を作り出した。


「いいぜ、クソネコ。見せてやるよ大賢者と言われるゆえんを、大魔術をなッ!!」


大魔術、数百人から数千人規模の魔術師を集めてようやく発動できるかどうかという程の大規模な高出力魔術の総称であり、大賢者の二つ名を持つライトニングは単独でそれを行える、唯一と言っていい存在であった。

ただ、大魔術は桁違いの魔力を消費する為、大賢者たるライトニングと言えど、おいそれとは使えない代物であり、以前使用した際には数日間は満足に魔術を使用できない程に魔力を消費してしまっていた。

だが、今この場においては魔力の枯渇を心配する必要はなかった。

ソラタの発動させている正体不明の癒しの魔術、もはや大魔術すら越え、魔法の域に達しているかの様な、神の奇跡とすら言えそうな程に訳の分からないモノがある限りは体の傷も痛みも疲れも魔力すらも完全に瞬時に回復するのだから。


「プラテリアテスタの王様、オレが大魔術を使うから、時間稼ぎを頼むって訳ですよッ!!」


「任された大賢者よ、事ここに至って出し惜しみなど無用!! なればこそ我は最大限の筋肉を行使するのみッ!!」


マチョリヌスは手に持つレガリア・オブ・プラテリアを第二形態へと移行させる。

王権の象徴たるレガリアは神より下賜された物、持ち主の魔力によりその姿を変える特製を持つ。

今現在の杖の形状は初代プラテリアテスタ国王の魔力の影響によるものであり、歴代の王たちは自身の魔力を注ぎ込む事でレガリア・オブ・プラテリアを自分にあった形状に変化させ、それを成し遂げる事で王位の継承としてきたのだ。

そして、当代のプラテリアテスタ国王マチョリヌスの魔力を受け、レガリア・オブ・プラテリアはマチョリヌスにあった形へとその姿を変える。

レガリア・オブ・プラテリアが光輝き、その姿を風に変えて、マチョリヌスの体を包む。

一陣の風がニックリーンの町全体を吹き抜けた後、マチョリヌスは空に浮く魔王種へと突き進んだ。

マチョリヌスはその両腕には風の意匠が施された銀緑に輝くガントレットを装着し、膨大な風の魔力を内包した風玉を中心に風の魔力で編みこまれたブーメランパンツを身に纏い、嵐を思わせる暴風を生み出す深緑のマントをたなびかせ、一直線に魔王種を目指す。

あくまでも自身の肉体を武器として戦うマチョリヌスらしいレガリアの在り方は人神一体の境地に至っており、ヴルカノと融合を果たしたトリンカーにも引けを取るモノではない。

しかし、本来ならば命を削るほどに危険な行為、人の身を神に近づけるとはそれほどの事なのだ。

平時であれば数分も持たないであろうレガリアの第二形態への移行は、ソラタの癒しの魔術により、今この場に限りその制限から解き放たれる。

暴れ狂う嵐の権化、暴嵐とあだ名されるマチョリヌスはその拳にいくつもの竜巻をまとわせて、いまだ人を侮る魔王種へと叩き込む。


「喰らえいッ!! プラテリアの風をッ!! プラテリア・パンチッ!!」


「やっぱり、名前がダサいッ!! 王族は皆こうなの!?」


竜巻をまとったマチョリヌスの拳の直撃を受けてなお、魔王種はビクともしない。

荒れ狂う暴風の中、魔王種は尻尾をゆらりと動かしてマチョリヌスに狙いを定める。


「今だトリンカー!! 我ごとで構わぬッ!!」


「言われるまでもないわッ!!」


消し飛ばされた右腕が修復されたトリンカーがマチョリヌスの胴体を貫き、魔王種の顔面に人差し指を突き付ける。


「一点に集約されしヴルカノの火を見舞ってくれるわ!! ヴルカノ・レーザー!!」


「やっぱりなんかダサい!!」


人差し指の先の一点に凝縮されたヴルカノの火が極細の熱線となって放たれ、魔王種の頭部を貫き、遠く離れた山々に着弾し、山頂を吹き飛ばす。

吹き飛んだ山頂も胴体を貫かれたマチョリヌスも瞬く間に修復されていく。

頭部を貫き、確かな手応えを感じてはいたが、この場にいる誰もこれで終わったとは思えなかった。

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