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50・異邦の少年と神の奇跡

奇跡を起こす。

口だけなんかじゃ絶対に終わらせない。

ボクはボクが願ったモノを現実にしてみせる。

五つの魔術陣を試行錯誤して一つの魔術陣として機能するようにしたモノに、ボクから溢れ出る魔力を一気に注ぎこむ。

注ぎ込まる莫大な魔力の量に魔術陣が耐えられず、ピシリと魔術陣自体にヒビが入る。

これだけの魔力が注がれた魔術陣が壊れたら、溢れる魔力で周囲を吹き飛ばすかもしれない、そう思ったボクはとっさに魔術陣に対して癒しの魔術を発動させた。

癒しの魔術の効果で魔術陣は再生するが、ボクは構わずに注ぐ魔力量の多さに再びヒビわれる。

それを繰り返しながら、魔術陣はどんどん巨大化していく。


空一面に広がるほどに巨大化した魔術陣は書き足した覚えはないのに複雑な魔術式が付与されていた。

魔力操作で大賢者のライトニングさんとも繋がっていたから、ライトニングさんの魔術の知識がボクに流れ込んで、無意識に書き加えたのかもしれない。

もしくはもっと別の誰かのおかげなのかも……。

けれど、今はそんな事を考えている暇はなかった。

さすがにこれだけの大きさの魔術陣になると、ライトニングさんの認識阻害の魔術でもさすがに隠し切れないようで、空を指さして慌てている人たちがたくさんいた。

そして、空に広がる大きな魔術陣を作っているボクも他の人たちから認識できるようになっているようだった。


「この怒涛の如く広がる魔力の波動、この世界すら包みかねない圧、この空一面に広がる魔術陣の大威容、ヴルカノと合一したワシだからこそ分かる!! この力こそ神、いや世界の力!! たまらず飛び乗った我が騎獣たるギリメカラの頭上から見上げるのこの空こそ神のおわす聖浄なる天上世界の具現ではないかッ!! 感じるぞ、周囲をあまねく包み尽くすこの魔力の波動は夢の中で感じたあのぬくもり、我が内にあったヴルカノを癒したぬくもり!! ワシは覚えているぞ、夢で見たあの姿を!!」


巨大な魔獣ギリメカラの頭上から、一人の大柄の太った男の人が空を見て叫んでいた。

初めて見た人なのに一目で分かった。

あの人がヴルカノコルポの王様だと。

ヴルカノコルポの王様の体から炎が噴き出している。

よく見ると、体の一部が炎になっているようにも見えた。

ジッと見ていたのが分かったのか、ヴルカノコルポの王様がボクの居る方向に顔を向けた。

その瞬間、パキンッとライトニングさんがボクとティグレさんにかけてくれていた認識阻害の魔術が完全に破壊された。

ヴルカノコルポの王様の炎のようにきらきらと輝くオレンジ色の瞳がボクを見つめる。


「そうだ、お前だ、お前こそが、我が内にあったヴルカノを救った者!! 彼の者を捕らえよッ!! 否、我が国に国賓として遇する、決して手荒な事はするな!! 丁重に、傷一つ付ける事なく我が前に連れてまいれッ!! いや、それすら不敬!! ワシが、今、そこへ行くぞ、博愛の勇者ッッ!!」


今まさにギリメカラの頭の上から飛ぼうとしている王様を止めようと、とても大きな男の人が王様に手を伸ばしたが、その手は軽く払いのけられ、更に封じ込めるかのように自分の体を包み込んだ半透明の膜のような物を爆破して吹き飛ばし、ヴルカノコルポの王様は勢いよくギリメカラの頭の上から飛び出した。

空中で自分の足元に爆発を起こして、角度を調整して加速しながらヴルカノコルポの王様はボクの元へと突き進んで来た。


「ソラタ様ッ!!」


とっさにティグレさんがボクの前に出て、ヴルカノコルポの王様からボクを守ろうとした。

しかし、地面から現れた光の紐のようなものがティグレさんの手や足に巻き付いて身動きを封じてしまった。


「ッ!? これは対神獣結界ッ!?」


「オレの居た世界の神話じゃ『グレイプニル』って呼ばれてるモノな訳ですよ。神すら恐れる獣を一時は完全に封じ込めた代物ですからねぇ、獣化したお姉さんでも、簡単にどうにかは出来ない訳ですよ」


「大賢者ッ!? 貴様ッ!!」


いつの間にか背後に立っていたライトニングさんがすまなそうな顔でペロリと舌を出した。

桟橋の先にはもう一人ライトニングさんが立っている。

ここにいるライトニングさんも幻影なのだろうか。


(あぁ、ちょっと状況が状況なんで、オレも何かしてないと、契約上ヤバい訳ですよ、だからまぁ、ゆるしてほしい訳ですよ)


頭の中にライトニングさんの声が響く。

ティグレさんにもこの声は聞こえていたようだ。

絶対許さないと小声でつぶやき、ギリギリと歯噛みして物凄く怖い顔でライトニングさんを睨んでいた。


(うわぁ、超怖い。美人が台無しな訳ですよお姉さん?)


「フシャーーーッ!!」

 

(怖っ!!)


光の紐で体の自由を奪われたままティグレさんはライトニングさんを威嚇する。

なんだかネコみたいだなと、つい思ってしまった。

そこへ、ズドンッという爆発音がした。

爆発音のした方を見るとすぐ近くにヴルカノコルポの王様が着地しており、その後ろにはさっきギリメカラの上で王様を止めようとしていたサングラスをかけた大きな男の人と宙にふわふわと浮く球に座るボクより年上に見える三つ目の男の子がいつの間にかいた。


「我が王よ、御身に何かあれば国の大事。ご自重いただきたく」


「そうですよぉ、いくら神に近づいた身であるとは言え無茶はダメですって~」


この二人がきっと前にライトニングさんが言っていたグレイトリニティって人たちだと分かった。

魔力の大きさがティグレさんより大きくて、ライトニングさんやロンファンさんと同じくらいだったから。


「無用の慮りである、ヴルカノと合一した我が身を傷付ける事など、もはや序列持ちかチート能力者、もしくは神にしかできぬ」


「失礼をば致しました我が王」


サングラスの大きな男の人が片膝をついて頭を下げた。


「それでぇ、この子が王様の求めた勇者、博愛の権能を持つ勇者って事でいいんですかぁ~?」


フワフワと浮く球に乗ったままの三つ目の男の子がその三つの目でボクをジッと見る。


「その通りだ。この者こそ、我が内にあったヴルカノの心を慰撫した者。その在り方はまさに博愛の権能に相応しい。手荒な真似は決してせぬ、博愛の勇者よ我が元へ参られい。我が力で叶えられる事は全て叶えてみせよう、共に救世を成し遂げん」


ヴルカノコルポの王様がボクに手を差し出す。

たぶん、この手を取ってボクがヴルカノコルポの王様の所に行けばきっと戦争は止めてくれるだろう。

でも、それは出来ない。

ボクはボクの居場所を自分で決めたんだから。

ボクはボクの意思でプラテリアテスタの、あの王様や女王様、トレイクハイトちゃんやアロガンシアちゃん、ティグレさんにウルスブランさん、他にもたくさんの人たち生きているあの場所に居たいって思ったんだから。

ヴルカノコルポの王様にもボクの思いが伝わったようだった。


「その目、我が思いは届かなかったと見える。なれど、ワシは容易く諦める訳にはいかぬ。勇者あってこその救世。勇者の協力者として共に戦い救世を成す、それこそが世界にヴルカノの威を示すという事なのだ、ヴルカノの思いを知った今、その思いに報いる為にワシは決して諦めぬ」


ヴルカノコルポの王様の手がボクに伸びる。


「クッ、ソラタ様ッ!! 口では何とでも言えましょう、口車に乗せられてはなりません!! ソラタ様の勇者としての力を己の我欲の為に利用するのが目的に違いありません、早くお逃げください!!」


「その顔、見覚えがある。マチョリヌスめの侍従の長であったな。我が意に偽り無し、この心はヴルカノの火と共にある、獣風情が我が意を騙る不遜、許し難し。なれど、その身を以て博愛の勇者を守ろうとしたその忠心に免じ、命は奪わぬ。この地に近づきつつあるマチョリヌスめに博愛の勇者は我が元に下ったと知らせるがよい」


ヴルカノコルポの王様がティグレさんに掌を向ける。

とてつもない熱量を持った炎の魔力が一か所に集中していくのが分かった。

ボクはティグレさんを守らなきゃと思った。

その瞬間、周囲の景色が真っ白に染まり尽くす。

ボク以外の人の姿はどこにも見えない。

頭の中に声が響く。

人の声じゃないのはすぐに理解できた。


(認証コード『博愛』、認証エラー。上位権限者による強制認証実行が完了しました。世界運営機構との正常な接続に成功しました)


カエルムさんと似ているけれど、別の神様の声なのだとなんとなく分かった。

ボクの感覚が際限なく広がっていく感じがした。

掌に魔力を集中させると、今までの比ではない程の魔力が瞬時に凝縮されていき集めた魔力が一つの小さな塊になっていった。

それはまるで植物の種のような形をしていた。

ボクはそれを両手で包むようにして掌を組み、額に当てる。

まるで神様に祈るように。


「誰も傷つかない、誰も苦しまない、そんな世界を。戦争ではなく、話し合いで分かりあえる、そんな夢の様な世界を」


掌の中の種から光が溢れ出す。

強い光が広がっていく。

プラテリアテスタとヴルカノコルポの全てを覆う程に。

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