表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/84

5・異邦の少年とメイド

アロガンシア王女が玉座の間を後にして、しばらく経ってから王様がゴホンと大きな咳をした。

その咳払い一つで固まっていた時間が溶けたかの様に、兵士の人たちや頭ツルピカのおじいさんが慌てて動き出して王様に向かって膝をついて頭を下げた。


「……皆の者、アロガンシアの件は一旦保留とする。マッシモー、大守護結界が破壊されたと申しておったな、損害状況と復旧の目途はどうなっておる。このような時期である、城壁外の魔物の動向にも注視するよう衛兵らに通達を」


「はッ、万事抜かりありませんぞ。ムスケル宮殿の上空に敷設しておりました大守護結界はその六割が消失、アロガンシア王女殿下との激突の衝撃にて魔導発動機全十機の内七機に異常が見られ、魔力出力が低下し通常強度での大守護結界の全面展開はほぼ不可能の状態ですぞ。魔具技師への復旧要請の手配はしておりますが、おそらく復旧まで約十日はかかるかと。そして、各城門の衛兵には通信水晶にて、警備の強化を指示しておりますぞ」


「うむ、玉座の間の修繕も手配を。このままではソラタに、我がプラテリアテスタの勇者に面目がたたぬゆえな」


「おお、やはりその幼きお方が我らがプラテリアテスタの勇者なのでございますか」


「如何にも。この者、名をソラタ。九つの幼き身と侮るでないぞ、先ほどのアロガンシアの魔力の圧を物ともせなんだ。いずれ万里を走る武勇を轟かすであろう」


王様の言葉に頭ツルピカのおじいさんが目をキラキラさせて熱のこもった視線をボクに向けた。

周りにいる兵士の人たちもボクをジッと見ているのに気づいて、なんだか恥ずかしくなってきた。


「ソラタよ、このような場ですまぬが紹介しよう。我がプラテリアテスタの宰相、マッシモー・デュ・アンツフェルである。我の右腕とも言うべき者だ。何か困った事があれば相談するとよかろう」


「えっと、あの、よろしくお願いします……マッシモーさん」


頭ツルピカのおじいさん、マッシモーさんに頭をぺこりと下げる。

しわだらけの顔をよりしわだらけにしてマッシモーさんはニッコリと笑った。


「なんと、その年齢で他者への礼節を心得ておるのですな。王女殿下たちにも見習ってほしいものですぞ」


「言うなマッシモー、耳が痛い」


「これは失言でしたな。ご容赦のほどを」


そういうと、王様とマッシモーさんは二人して笑い合った。

この二人は王様とその家来? という関係だと思うけれど、とても仲が良いのだなと思った。

そのあと、玉座の間がボロボロでちゃんとした話もできないとかで王様の部屋に案内された。

座って待つよう言われたので、座り心地のいい椅子に腰かけて辺りを見回してみる。

宝石みたいな物が沢山ついた綺麗な剣とか鎧、変な形の壺に綺麗な女の人が描かれた絵、他にも色々と飾ってあって少し圧倒されてしまう。

もの凄く高そうな物ばかりに見えて、もし壊したりしてしまったら弁償なんてできないだろうな、なんて事をぼーっと考えていたらコンコンと扉がノックされ、失礼いたします、とウルスブランさんがカートの上にケーキ風のお菓子や飲み物を乗せて部屋にやってきた。


「ソ、ソラタ様、国王陛下がおいでになるまで、あの、今しばらくお時間がございますので、お口に合うか、その、分かりませんがどうぞお召し上がりください……ませ」


「あ、ありがとうございます。それで、その、ウルスブランさんさっきは、守ってくれてありがとうございました」


「い、いえいえいえいえッそんなお礼など滅相もございません!! ティグレ様に言われなければ咄嗟に動けたかどうか!! なので、私などにソラタ様がお礼を言う必要などありませんッ!!」


慌てた様子でウルスブランさんがブンブンと頭を左右に振る。

でも、その顔はどこか嬉しそうに見えた。


「でも、あの、守ってもらっていたのはホントですし……。飛んできた瓦礫とかを手で弾いてボクやトレイクハイトさんに当たらないようにしてくれてたでしょ?」


「え、はい、そ、そうですが……」


あの時、アロガンシア王女が天井を突き破って降りてきた時、割れた天井の破片も一緒に沢山降り注いできた。

そんな瓦礫の中で、ボクやトレイクハイトさんに当たってしまいそうになるものをウルスブランさんは全部弾き飛ばしてくれていたのだ。

うっすらと、助けてくれた人にはきちんとお礼を言いなさいってお母さんが言っている場面が思い出された。


「まぁ、ウルスブランはただのデカ乳侍女ではないでございますからね、モグモグ。そこらの近衛兵とは比べ物にならないくらいには戦闘に長けてますし、モグモグ。一人で大型魔獣の十匹やそこらは苦も無く無力化できるでございますからなー。伊達にティグレ侍従長の補佐を任せられてないって事でございます、モグモグ」


「ひゃわーーーーっ、ト、トレイクハイト様!? い、いつからそこに!? 」


両手にケーキ風のお菓子をじかに持ったまま、変な形の壺を頭にかぶったトレイクハイトさんが豪華な剣や絵が飾られている棚に腰かけていた。

トレイクハイトさんが被っているあの変な形の壺、さっきは普通に棚に飾ってあったと思うのだけれど……。

それなりの大きさの壺だし、もしかしたら中に入っていたんじゃ……。


「お気に入りの壺がアロガンシアちゃんのせいでひび割れたのでございますよ、ですので適当な壺を見繕っていたのでございますよウルスブラン。あとついでにちょっと先回りしてソラタ殿の行動を覗き見、もとい観察していただけなのでございますモグモグ」


「ト、トレイクハイト様、そのケーキはソラタ様の為にご用意したもの、お一人でそんなに食べてしまわれては――」


「全部は取っていないので安心するでございますウルスブラン。むむ、もしやウルスブラン、貴女もティグレと同じ性癖があるのでございますか?」


「――ッ、ございませんッ!!」


語気を強めてそう言い放つウルスブランさんに少しビックリしてしまった。

それに気づいたウルスブランさんがハッとした顔になり、顔を真っ赤にしてうつむいたまま、手早くケーキ風のお菓子や飲み物をテーブルの上に並べだした。


「は、はしたない姿をお見せしてしまい、ま、誠に申し訳ございませんソラタ様。部屋の外に控えておりますので、何か御用などありましたら、も、申しつけ下さいませ。では、し、失礼いたします」


「あ、あの、ウルスブランさん」


「は、はい、なんでしょうかソラタ様?」


「その、できればでいいのですが、一緒にこのケーキ食べませんか? トレイクハイトさんも一緒に」


なんとなくボクと似た雰囲気を感じるウルスブランさんに親近感がわいている、と言うのもあってもっとお話しがしたいなと思っていた。

それにウルスブランさんが部屋を出ていくと、トレイクハイトさんとボクの二人きりになってしまう。

さっきの玉座の間での事もあって、それはちょっと避けたかった。

トレイクハイトさんと二人きりになるのが怖い訳ではない、決してない。


「ほうほう、両手に華をお望みでございますか? 合法幼女とデカ乳侍従の欲張りセットを希望でございますか? 性癖拗らせ過ぎでございますか?」


「トレイクハイト様、さ、先ほどもティグレ様が仰っておりましたが、そのような物言いは品位に欠けるものかと」


「おっと、世界を漂う指向性エーテルの波動が脳髄をかき回してわたくしの口から垂れ流されたのでございますよ。下品な事を言うのはルクスリアちゃんだけで十分、ルクスリアちゃん一人で発禁レベルなのでございます」


トレイクハイトさんはアロガンシア王女よりもなんだかよく分からない事を言うから、何が言いたいのかボクには理解できない。

王様が優秀さは本物って言ってたけど、優秀になるとトレイクハイトさんの言う事が理解できるようになるのかな……?


「さてさて、せっかくソラタ殿がデレ期に入ったのでございますし、ありがたくケーキを食べるのでございますよ。あと、ソラタ殿、わたくしの事はトレイクハイトさんではなくトレイクハイトちゃんと呼ぶがよいでございますよ。もれなくわたくしが喜ぶでございますよ?」


「あの、えっと、……ボクより年上の女の人にちゃん付けで名前を呼ぶのは失礼かなって、思うんですけど……」


「お姫様であるわたくしが良いと言っているのでございますよ? 行き過ぎた謙遜は逆に相手に無礼になる事もあるのでございます、さぁ、トレイクハイトちゃんと呼ぶがいいのでございます」


「ト、トレイクハイトちゃん……」


「うんうん、よきにはからえでございますよー。ではウルスブランも座るでございます、これは第二王女としての命令でございます。ケーキを三人で父上が来るまでパクつくでございます」


「はぁ……、かしこまりました。王女殿下の命とあれば是非もありません」


そして、ボクは王様が来るまで、ウルスブランさんとトレイクハイトちゃんの三人でケーキや紅茶を楽しんだ。



一方、宮殿の大浴場にて――


「ハッ!? なんだかウルスブランがソラタ様といい感じにいい感じしてる気配がビビッと来ましたッ!!」


「ティグレ、黙って妾にこびりついた血を落とさぬか。相手が幼い男児なら誰でもいいとは見境の無い……、これだから少年愛好家は困る」


「アロガンシア王女殿下、私にそのような性癖はございませぬが?」


「ふん、真顔でいうのだから恐ろしい。分別くらいはつけろ、大人であろうが」


アロガンシアの言葉にティグレは釈然としない表情のまま、血に塗れたアロガンシアの体を洗い続けるのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ