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48・魔王と獣

『世界の重心の偏りを検知。力場崩壊の可能性が5%まで上昇しました。世界運営機構より防衛機構乙種の派遣要請あり。承認、防衛機構乙種一体の製造開始、製造工程の1から74までを省略。既存データ参照、モデル・カッツェを使用。製造完了まで3549秒。製造完了後、上層地域への射出を開始します』


底の国、死したモノの魂が沈む場所、七人の魔王が支配する暗黒の領域。

底の更に奥深く、世界からすら外れた名も無き領域にそれは存在していた。

魔王母胎樹アセツータ、魔王種を産む暗黒の怪樹。

樹に形が似ている、という理由で樹という単語が名前についているが実際は正体不明の謎の存在である。

魔王に匹敵する力を持つ魔王種と呼ばれる獣を生み出す以上、生き物である事は確かだろうとは言われている。


大地の国でヴルカノコルポ王が人外の力に目覚めた事で、世界のバランスが一部分に偏った事を察知した魔王母胎樹は原因存在の排除の為に一体の魔王種の製造に取り掛かった。

底の国に張り巡らした植物の根に似た機能を持つ管から、エネルギーを吸収し製造プラントを稼働させる。

魔王母胎樹の駆動音が底の国全体に響く渡る。

鳴動する魔王母胎樹を観測し、底の国の住民たる魔王の眷属たちが騒ぎ出す。


「アセツータの咆哮を確認、すぐに魔王さまにご報告!! 新たなネロ・ベスティアが産まれる可能性大、非戦闘員は退避開始せよ、駆除部隊の出動準備も急げ!!」


「タイヘンだー、早く逃げなきゃー。監視対象の監視記録は保管庫にしまっておいてねー」


「駆除部隊の準備、第一から第三まで完了だよ!! 残る部隊は引き続き準備を急いで、準備が完了した部隊は順次出動して配置につくんだよ!!」


「いそぐのらー、測定魔力が計測不能なのらー、魔王様級の魔力反応なのらー」


どこか可愛らしい子供の様な高い声で慌てながら駆け回るのは魔王母胎樹の監視員である魔王の眷属たち。

背格好も人間の子供とさほど変わらない眷属たちは頭から足先までを覆い隠す青や赤などの様々な色の布をかぶっており、全員顔の部分に仮面をつけている。

笑い顔や泣き顔の仮面をつけた眷属たちがどたばたと、慌ただしく動いていると一人の魔王がフワリと舞い降りた。

その存在に気づいた多くの者が動きを止めて、片膝をついて頭を下げた。


「魔王フマニタス様、ご足労頂き恐悦至極でございましゅ!! アセツータの咆哮と鳴動を確認いたしました!! 早ければ三十分、遅くとも二日以内にはネロ・ベスティアが生れ落ちるかと思われましゅ!!」


頭を下げる眷属たちを眺めながら、真紅のスーツを着込み、中世的な顔立ちで夜を思わせる黒く長い髪と頭部からヤギを思わせる角を四本生やした魔王、慈悲のフマニタスが地面に降り立った。


「報告ご苦労、小生に構わず行動を。ネロ・ベスティア一体であっても、もたらす被害は甚大でありますれば」


男とも女ともとれる中性的なフマニタスの声に眷属たちは膝をついたまま顔を上げた。


「ハーッ!! ただちに非戦闘員の退避と駆除部隊の出動準備を整え、監視体制を強化致しましゅッ!!」


そう言って、眷属たちは自分の持ち場へと駆け出していった。

慌ただしく動き回る眷属の中、フマニタスは遥か遠くにある魔王母胎樹に目を向ける。

可視化される程に濃厚な魔力が蒸気の如く立ち昇っているせいか、底の国より更に深い暗黒の淵でありながら、不気味にうごめく魔王母胎樹の輪郭をはっきりと目で見る事が出来た。


「ふむ、地上が騒がしくなってきたでありますし、それに呼応したと考えるのが妥当でありましょうか。なにより、地上から感じる神に近しい波動、人の身で神に近づいた者が現れたようでありますな」


フマニタスは軽く腕を組んで目線を上へ、地上へと向ける。

人と神との魔力が混じった複雑な魔力の波紋がフマニタスの金色の目に映った。


「神に成り上がるならあの子だと思っていたでありますが、なるほど、人間というのは容易く化けるモノでありましたな。果たしてネロ・ベスティアは神を殺す獣なのか、それとも人が神に成り上がるのを防ぐ為の獣か、それとも全く別の理由で産まれる獣なのか、はてさて世界の理に関われぬ魔王風情ではあのアセツータの役割を知るにはまだ足りないでありますね」


少し前に剥き出しの魂のまま底の国に落ちてきた子供を思う。

剥き出しの魂の状態でありながら、自我を取り戻し、自分にありがとうなどと礼を言った子供、ソラタと名乗ったあの異質な魂を持つ勇者足りえる存在。

あの子ならば、人の身で神に成り上がったとしてもおかしくはないと何故か確信があった。

理由のない確信を持つなど自分には珍しいと思いつつ、フマニタスは小さくため息をついて背中から生える蝙蝠に似た羽根を伸ばした。

バサリと羽根を羽ばたかせ、フマニタスは地上へ向けて飛翔を始める。


「眷属らよ、小生はアセツータ伐採に向け、地上の勇者を始め、人種の王族らとの会合に出向くであります。なにより此度産まれ出でるネロ・ベスティアの目的は地上で間違いはないでありましょう。地上で新たな神の卵が目覚めた事が原因であると小生は考えるであります。じきに他の魔王らも来るでありましょう、不安に思う必要はないであります」


フマニタスは眷属たちの返事を待たずに加速して地上を目指す。

底の国は本来は魂が落ちる場所ではあるが、現実に存在しており生身の存在であっても行き来が可能である。

天の国と同じく相応の覚悟が必要になる方法ではあるが。

そして、フマニタスが地上に達する頃、魔王やその眷属がネロ・ベスティア、黒い獣と呼ぶ存在、魔王種が魔王母胎樹より産まれ落ち、にゃあと一鳴きした後、姿を消した。


黒い獣は地上で初めて光を見た。

とてもキラキラと輝いていて、あまりに眩しくて、目に相当する感覚器官が潰れてしまうかと思う程だった。

黒い獣は世界の偏りがまだギリギリ基準値内に収まっている事を確認し、思考能力を動物のそれと同等まで低下させる。

母体である魔王母胎樹から切り離された事でエネルギーは有限となっている為、節約を兼ねての行動であった。

ネコの形を模した黒い獣は、その時が来るまでただ一匹のネコとして過ごす。

強力な力がこの地に集中した時、世界の重心は更なる偏りを見せるだろう。

その時こそ、黒い獣は正体を現し、世界の均衡を保つ為に、世界を守る為に力を振るう。

黒い獣の感覚器官が巨大な魔力反応を複数捉える。

初めて見た地上の光以上の輝きを感じ、黒い獣はペロリと舌なめずりをした。


プラテリアテスタ軍は自国の王の独断専行を止める為にその行軍速度を速め、当のプラテリアテスタ王は戦争の火種になる事を承知で勇者を召喚した事の負い目から勇者であるソラタの救出に単身敵地へと乗り込む勢いで国境まで全速力で走り続けている。

その遥か後方で、森を破壊する勢いでソラタの元に駆けるプラテリアテスタ女王。

国境の港町ニックリーンに王自ら率いるヴルカノコルポ軍が駐屯し、幸か不幸か博愛の勇者たるソラタの行動の結果、ヴルカノコルポ王は火山の神ヴルカノの端末の一つとの融合を果たした事で神の領域に一歩足を踏み込みチート能力者並みの力を得た。

さらに港町ニックリーンにはチート能力者が三人、大賢者ライトニング・ダークネス、砲煙弾雨ミスター・ブレット、絶対障壁ヌゥーリ・クァーベン。

そして、古き獣に連なる血族であるプラテリアテスタ国の侍従長ティグレ、天と底の力を使い戦争を止めようと奮闘するソラタ。

強力な力の持ち主たちが一か所に集まりつつあった。

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