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43・ヴルカノコルポ王と大賢者

ヴルカノコルポ王が乗る六つ足の象に似た巨獣ギリメカラ、大地の国においては魔獣の中でも特に危険度の高い災害級に区分され、討伐においては国単位での軍事力が必要となる存在である。

ヴルカノコルポは保有する三人のチート能力者の一人であるエクスタスシ・メディシーナの能力により、多数の災害級魔獣を騎獣として飼育しており、戦闘面においては並みの兵士では到底話にならないほどの戦力となっていた。


魔獣たちの飼い主たるエクスタシスが軍を離れ反乱軍の殲滅に向かっている為、これらの魔獣たちは細かな命令は聞かないが、エクスタシスの手ほどきを受けた飼育係の尽力があり一応の制御下に置かれている。

一国の軍事力を投入して討伐に当たらねばならない災害級の魔獣を始め、それに準ずる危険度の魔獣が百騎以上、これらの魔獣を擁する部隊はヴルカノコルポが誇る最強の精鋭部隊として恐れられ、この魔獣騎兵隊はグヴルカノコルポにとってグレイトリニティに次ぐ切り札とも言えた。


そんな魔獣騎兵隊の魔獣たちを前に、特に威圧された様子もなく足取り軽く近づく青年が一人。

ヴルカノコルポが雇った傭兵であり、大賢者の二つ名を持つチート能力者ライトニング・ダークネスは魔獣たちの咆哮に腰を抜かす港町に先発隊として送られていた兵士たちの隙間を縫うように歩を進め、巨獣ギリメカラの前で片膝をついた。


「ご機嫌麗しゅう、国王陛下。国王陛下におかれましては、意気軒高、威風堂々たるその軍勢を統べるさまはお変わりないようで何よりな訳ですよ」


巨獣ギリメカラが器用に足を曲げてその場で伏せの様な体勢をとる。

それだけの事で大地が揺れ、轟音が辺りに響き渡った。

巨獣ギリメカラの背中に取り付けられている鞍代わりの天幕の中から、大きく下品な笑い声が響く。


「ブハハハハハハッハハハッハ!! よいぞよいぞ、苦しゅうない。ワシはすこぶる機嫌がよい。なにせこれより、プラテリアの地を蹂躙出来るのだからな!! 大賢者よ、そなたには先駆けの誉れを授けよう、大賢者の二つ名を更に轟かせるが良い!!」


「ありがたき幸せな訳ですよ。しかしながら、国王陛下。未だプラテリアテスタの本隊は対岸の港町には姿を現してはいない訳で、たかが千人にも満たない先遣隊程度では我が威を示すには到底足りません。プラテリアテスタの大楯と名高いマチョモス・ラティッシィマス・ドースィ辺境伯でも来るのなら別ですが、援軍の派遣はしているようですが、本格的な動きはまだ無い様子。ヴルカノの火を灯すにしても、港町一つ程度ではかがり火代わりにもならない訳ですよ」


「ふむ、この程度の小さき戦では物足りぬと申すか。ワシに対し意見するとはおこがましい、が一理ある。チート能力者を使って町一つ滅ぼすなど、実に小さき事よな。ならばよかろう、我が魔獣たちも腹を空かせておる事だ。兵も民も皆、こやつらの腹に収まってもらうとしよう」


「それは妙案な訳ですよ。川を渡る際はオレが道を作りましょう。ただ、人間の兵のみと思い込んでいたオレの浅慮ゆえに、魔獣騎兵隊というヴルカノコルポが誇る最精鋭を王自らが率いて渡る大きさの道を作るには多少の時間が必要な訳ですよ。王の覇業の第一歩を示すに相応しい道を作るお時間を頂きたく」


「そうかそうか、大賢者たるお前にもワシ自らが魔獣騎兵隊を率いておるとは思わなんだ訳か。ならば、マチョリヌスめも驚愕しようぞ。では、どれ程の時間が必要か」


「明後日の日の出までお時間を頂ければ」


二日という時間はプラテリアテスタの本隊が休まずに最速で行軍していれば、対岸の港町近くまで辿り着けるであろう日数である。

ライトニングの提案は下手をすれば、プラテリアテスタの本隊が港町に到達し防衛拠点にし得るギリギリの時間とも言えた。

ヴルカノコルポ王にとって大賢者たるライトニングがどの様な手を使って川を渡る道を作るのか分からない以上、あまり時間をかけるのは愚策でしかない。


「明後日の日の出……時間がかかり過ぎるな、明日の昼までになんとかせよ」


「明日の昼までですと、国王陛下の御すそのギリメカラが渡れる程の道を作るのは不可能。せいぜい中型魔獣騎兵が一列進むのがやっとの道しか出来ない訳ですよ。その程度の道ならば、港町の防衛にあたっている魚人兵たちの水魔法ですら破壊されかねません。そうなれば、国王陛下の覇業に泥がついてしまう訳ですよ。グレイトリティと同じく、三身一神たる太陽神ソルソレイユゾンネの祝福たる朝日の輝きの中、一切の瑕疵なく完璧に徹底的に覇王の力を示すべきかと」


「覇業か、ふむ……よかろう。明後日の日の出と同時に我が軍が進軍できる道を用意せよ。遅れる事はまかりならん。遅れたならば、その方の身を以てあがなってもらうぞ、よいな」


「は、御心のままに」


ライトニングにとって対岸への道や橋など、その気になれば瞬く間に作る事が可能であったが、彼にはもはや戦争などに参加する気はなくなっていた。

ソラタの持つ力は戦争を無意味にさせ得るという事実、チート能力者でもないのに自分をも上回る異常な魔力量を持つ異常さ、これらはライトニングの好奇心を疼かせるには十分過ぎた。

ソラタの観察をする為にソラタの側につく事を決めたライトニングは、戦争を止める魔術の完成まで時間が稼げればよかったのである。

傭兵契約時にかけられた誓約魔術は戦争が終了するまで有効ではあるが、戦争が出来ない状態になれば契約不履行による罰則は発生しないはずであるし、契約の不備を逆手にとって誓約魔術の解呪自体は容易い事。

無茶をすれば魂に傷を負う事になりかねない以上、今はまだヴルカノコルポ側に加担していなければならないが、久しぶりに見つけた暇つぶしの種であるソラタを戦争ごときに巻き込ませて死なせるなんて惜しい事は絶対したくはない。

気分の高揚を感じながら、ライトニングはへらへらと笑い桟橋の先端に立つ。

瞬時に幾十もの魔術陣を空中に描き、魔術陣同士を組み合わせて更に巨大な魔術陣を作り出し、いかにも対岸への道を作る魔術陣を構築してますよ、という雰囲気を作り始めるのだった。


アロガンシアの手によって、国境の港町までソラタとティグレが殴り飛ばされたという情報はプラテリアテスタ軍本隊総指揮官であるラージュ・ブランディーヌ・トレ・プラテリアテスタにトレイクハイトから連絡用の水晶を通してすぐさま伝えられた。


「あーーもう、あの子はなんだってそんな事をしでかしますかネェッ!! 勇者ちゃんもティグレ侍従長も勝手な事をッ!! 通信兵、マッスールの町に二人の情報を集める様に通信入れて、ティグレ侍従長は最悪一人で離脱可能でしょうからネェ、勇者ちゃんの保護を最優先、保護次第こちらに向かわせるようにッ!! こちらからも足の速い騎獣を二十騎程向かわせるんですヨォ!!」


ラージュは苛立たし気に頭をかきむしる。

勇者であるソラタの保護を最優先に軍の再編を行い、全軍の行軍速度を速める。

間諜の報告によれば、既に港町にヴルカノコルポの軍が到着しているおり、認識阻害の魔術が張られているようで全体像は見えてこないが強力な魔力反応からヴルカノコルポ軍の精鋭が港町ニックリーンに集結しているらしいという情報はプラテリアテスタ軍に入っていた。

どうやら、軍船は港に多数あるが乗組員はあまり乗っていないようで出港準備などを考えれば、まだこちらに攻めてはこないだろうと考えられた。


「ラージュ総指揮官、マッスールの通信兵より、ティグレ侍従長よりの通信魔術あり、港町ニックリーンに大賢者あり、との事ッ!!」


「チッ、大賢者が居るのは織り込み済みでしたがネェ、国境線に配備してますか。通信内容の短さはそれだけ切迫してる状態って事ですかネェ、まったく……。ヴルカノコルポ国内での反乱の火は広がっているようですが、相手方を揺さぶるにはまだ弱いですネェ……」


軽く爪を噛むラージュの隣に動揺する大胸筋を抑えつつマチョリヌス王が立つ。


「ソラタが国境に……もっとソラタと話をすべきであったな。アロガンシアがわざわざソラタを危険に晒すとか思えぬ。恐らくはソラタ自身の思いを受けての行動であろう。ならば、国境に向かったのはソラタ自身の意志か。そして、ニックリーンに大賢者が居るのであれば、致し方なし。我が行かざるをえまい」


「いや、何言ってんるんですかネェ、我が父上は。総指揮はあたしですが、父上は国の象徴なんですヨォ。大賢者が国境線にいるからって、おいそれと前線に出せる訳ネェでしょうが。万一、父上が戦死なんかされたら、こっちの士気はだだ下がりなんですヨォ。ちったぁ、自分の立場考えてくださいネェ」


ラージュに釘を刺され、グヌヌと顔をしかめるマチョリヌス王。

そこに更なる情報がもたらされる。


「緊急通信、勇者ソラタ様がアロガンシア王女殿下の手で国境付近へ飛ばされた直後、ムスクルス女王陛下がムスケル宮殿の壁を破壊して宮殿外に躍り出て、そのままの勢いで城壁も貫通突破し、王都よりこちらに向かっているとの報が入りましたッ!!」


ラージュが頭を抱えて天を仰いだ。

そして心からの一言を吐露する。


「もういや、この似た者夫婦」

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