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41・異邦の少年と異質な魔力

「えぇえぇ、なるほどなるほど。攻撃によるダメージを痛みも含め、消費した魔力すらも瞬時に完全回復させ続ける魔術を広範囲に展開し続け、実質的な攻撃無効化エリアを作る事で戦闘出来ない状態にする。そうする事で対話する以外の方法をなくす、ね。うんうん理解した。うん、人の領域越えてる、ぜーったい無理って訳ですよ」


アロガンシアちゃんが教えてくれたボクの癒しの魔術の効果を聞いて、ボクなりに考えた誰も傷付かずに、誰も傷付けずに戦争を止める方法だったのだけれど、ライトニングさんは絶対無理だと言う。


「でも、絶界聖域ではかなりの広範囲に癒しの魔術の効果が現れてましたよ。もっと頑張れば戦争が起きる範囲全部に効果を広げられると思うんですけど」


「あぁ、絶界聖域とこっち側との魔力濃度の差による魔術発現に関わる問題は知ってるかな坊や?」


「絶界聖域と大地の国とでは魔力濃度の高さに違いがあって、絶界聖域ではそのおかげで魔術が発動しやすいけど、暴発する可能性も高いって、だから魔力操作をきちんとしないとダメだってティグレさんから教わりました」


「基本の基ぐらいは知ってますか。でも、それを確かめられるのは王族に近い人間だけって事も理解してますかって訳ですよ坊や。こちら側が空気中の魔力濃度があちらより低い、魔術の暴発の可能性はそこまで高くはないって事ですよ。つまり魔術を使う際は魔力操作の緻密さはそこまで問題にはならない訳でね、必要となってくるのは魔術陣に込める魔力量が重要って訳ですよ」


「魔力量? 魔術陣に書き込む魔術式を魔力で綺麗に書かないとちゃんと魔術は発動しないんじゃないですか?」


ライトニングさんは首を振って、違うと断言した。

あくまで魔術式は自分が使いたい魔術のイメージの補強でしかなく、自分自身が明確な魔術のイメージを持つ事が出来ていれば必ずしも魔術陣の中に書き込む魔術式は必要ではないらしい。

魔術式に魔力を割き過ぎると、肝心な魔術自体が発動しない事もあるとか。

きちんと魔術を使いたい初心者は魔術式をきっちり書き過ぎて、魔力不足になる事がよくあるという。


「まぁ、保有魔力がオレみたいに桁違いなら、超大型の魔術陣でありながら、さながら機械の様な緻密さの魔術式を組み込めたりする訳ですよ。だが、坊やからは異質な魔力こそ感じるが、その絶対量が少ないし、さっきの魔術行使でだいぶ魔力がなくな――ってないなこれ、え? どういう事?」


急にライトニングさんがボクの両肩に手をやって、ジッと顔を覗き込んできた。

どうしたのだろう?

ティグレさんがギリギリと歯ぎしりしながら、物凄く怖い顔でライトニングさんを見ている気がする。


「おいこら、ソラタ様から手を離せビチグソがぁ……。てめぇの○○引きちぎって魚の餌にすッぞコラ……」


「魔術でオレにしか聞こえないようにして何を言うかと思えば、その罵詈雑言はあまりに品がないと思う訳ですよ。お姉さん侍従長でしょ? その物言いはどうかなーと」


「黙れ○○野郎、それ以上ソラタ様に触れて見ろ、ちっせぇ尻穴から腕突っ込んで奥歯ガタガタいわしてやるけんのぉ……」


「柄が悪すぎる!? 女性がそんな事言っちゃダメでしょって思う訳ですよ」


何やらティグレさんとライトニングさんが魔術で内緒話をしているようだ。

何を話しているのだろう?

少し気になる。

そんな事を思っていたら、ライトニングさんがボクの肩から手を離し、ゴホンと咳払いをした。


「さっきは魔力量の関係で坊やの言った魔術は実現不可能だと思っての発言だった訳ですが、オレとお姉さんを完全に拘束できるような普通に考えて絶位以上の魔術を使ったはずの坊やの魔力量に変化が見られない訳ですよ。坊やはアレですか? 何か神話級魔導具とか神剣とか聖剣とか魔剣とか、それらに匹敵するアーティファクトとかレガリアとか持ってたりする訳です?」


「ううん、ボクはそういう物は持ってないよ。あ、でも魔力はボク自身の物じゃないからかも。天の国の神域と底の国の冥域の中継点になってるってカエルムさんが言ってました」


ライトニングさんが首を傾げて、は? っていう顔をしている。

何か変な事でも言ってしまったのだろうか。

ちゃんと説明しないと、変な子だと思われちゃうかもしれない。


「えっとですね。ボク、トレイクハイトちゃんから飲んでって言われた変な……変な飲み物を飲んで、一回魂が底の国に落ちたんです」


「死んでますやん!?」


「そこで、魔王さんとお話しして、アロガンシアちゃんとトレイクハイトちゃんのおかげで何とか生き返ってですね」


「いや、魔王って!? っていうかトレイクハイトってあの怠惰姫!? 人脈おかしくない坊や!?」


「それで、底の国と魂が繋がっちゃったみたいで、そのままだと大変だって心配してくれたカエルムさんが――あ、確かステルラとも呼ばれてるって言ってました」


「ステルラ!? 神様じゃん、星神教のやつらが崇めてる主神じゃん!?」


「それで、カエルムさんが絶界神域まで転送の魔術で連れて行ってくれて、そこで亡くなっていた五十八人の天使……じゃなくて有翼人の人たちを魂の浄化ってやつで底の国に送って、その過程で神核を魂に定着させたんです」


「大地の国から天の国への転送!? 魂の浄化!? 神やその眷属の体内、もしくは魂内に秘められているという永久機関オルフェイレウス、それを構成する目に見えぬ程に極小な超高密度な魔力因子と言われている神核!? しかもそれを魂に定着!?」


「あ、ライトニングさんトレイクハイトちゃんと同じ驚き方してますね。やっぱりカエルムさんのしてくれた事って凄い事なんですね。それでですね――」


「いやいやいやいやいや、坊や? ちょっと待って、マジで待って。理解が追い付かない訳ですよ? この世界に来てから自分も非常識だとよく言われましたがね、そのオレから見ても異常ですよ? って何ですその黒と白の輪っかが重なった様なのは?」


「はい、これ底の国の冥域の魔力と天の国の神域の魔力から出来た魔術陣です。最初は触れるし、天使の光輪かなって思ったんですけど、頭にのせても何も起きなかったから、ただの魔力の塊なんだなって」


「神域と冥域の魔力の複合物!? 触れるって魔力の物質化出来てるって訳ですか!? 触れられる程の超高密度の魔力を魔術陣に!?」


「絶界聖域でアロガンシアちゃんとロンファンさんの戦いを止めた時もこれを使って魔術を使ったんです。さっきのティグレさんとライトニングさんを止めた時もとっさにこれで魔術を使ったんです」


「あー、坊やこれちょっと触ってもいい?」


「はい、どうぞ」


ライトニングさんに白と黒の輪が重なった魔術陣を手渡す。

物質化しているので、ライトニングさんも普通に手に持つ事が出来ている。

さっきから驚きっぱなしだったせいか、少し疲れているように見えるライトニングさんはフムフムと物質化した魔術陣を眺めてから、はぁとため息をついた。


「いやはや、大賢者として魔術程度は極めてしまったと思ってた訳ですよ。だからこそ、大魔術や魔法なんてモノにも手を出そうとしてた訳なんですがね。こいつぁ、それ以上って訳ですよ」


ボクの手から離れたせいか、白と黒の輪が重なった魔術陣がライトニングさんの手の中から光の粒になって消えていく。

そして、またライトニングさんはボクをジッと見つめてきた。


「こんなものを作り出しても、坊やの魔力量に変化はなし……。神域と冥域の中継点、実質的にその二つの領域から好きなだけ魔力を引っ張ってこれるって訳ですか。道理で異質な魔力を感じる訳だ、まさしく次元が違う魔力なんだから。下手したら世界がどうかなっちまう訳ですよ」


「うん、カエルムさんも世界の理に干渉する力、神如き力だからいたずらに使うと世界が滅びるって、だからこそその力をきちんと使えば人同士の争いをいさめられるって」


「……恐ろしい訳ですよ、坊やが坊やのままである事を願う訳ですよオレとしてはね」


ライトニングさん大きくため息をついて、自分の頬をパチンと叩いた。


「これなら、坊やの言ってた方法も俄然現実味を増してくるって訳ですよ。じゃあ実現しちゃいましょうか、戦争を止める魔術、いや、奇跡ってやつをね」

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