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38・異邦の少年と大賢者

間近で雷が鳴ったかのようなもの凄い音が耳を突き抜ける。

とてつもない衝撃に思わず目をつぶり、次に眼を開けた時にはボクとティグレさんは遥か上空を飛んでいた。

先程までいたプレテリアテスタの宮殿はもう豆粒の様に小さくなっている。

ボクを抱きしめているティグレさんが少しだけ震えているのに気づいた。

思えば、ティグレさんに無理な事を頼んでしまった。

王女様を裏切るような事をさせてしまったのだから。


「ティグレさん、ごめんなさい。巻き込んじゃって、飛んでいくのはボクだけで良かったのに……」


「私はマチョリヌス国王陛下よりソラタ様の世話係を任されておりますので……、いえ違いますね、私がこうしたかったのです。私がソラタ様のお力になりたかったのです。ご迷惑でしたでしょうか」


「ううん、そんな事ないよ。ティグレさんが一緒に来てくれて、ボクとっても嬉しいから」


そう言ったボクにティグレさんは笑顔を見せてくれた、鼻血を流しながら。


「ティグレさん!? 鼻血出てるよ、どこかケガでもしたの!?」


「はッ!? つい、こうふ……ゲフン。先程のアロガンシア王女殿下の一撃が私の防御術を殴打した際の衝撃のせいかもしれません。このような醜態を晒してしまい、申し訳ありません」


「そんな事ないよ、アロガンシアちゃんの力いっぱいのパンチを防いだんだもの、とっても凄い事だよ」


懐からハンカチを取り出して、鼻血をふき取るティグレさんにボクは癒しの魔術を使った。

淡い光がティグレさんを包むと、ティグレさんの鼻から流れ出る血が止まり、消費した魔力も回復したようだ。

不思議そうな顔をして、ティグレさんは自分の手を眺めている。


「……絶界聖域でもソラタ様の癒しの魔術を受けましたが、その効果が大地の国側に戻っても変わらないように感じます。何より、魔力すら回復するなんて……これも博愛の勇者であるソラタ様の権能の賜物なのでしょうか」


「でも、ボクの権能って変質してるってカエルムさんが言ってたから、普通の権能とはちょっと変わってるのかも」


そういえば、絶界聖域は大地の国よりも魔力濃度がずっと高い、そのおかげで魔術が発現しやすいが代わりに暴発しやすいってティグレさんが言っていたのを思い出した。

今ボクは絶界聖域で魔術を使った時と同じ感じで魔術が使えたけれど、これも変質した権能のおかげなのだろうか。

そんな事を考えていると大勢の人が並んで進んでいるのが眼下に小さく見え、そして通り過ぎた。

ティグレさんが教えてくれたけれど、あの並んでいた人たちはプラテリアテスタの兵隊さんたちだという。

とても多くの兵隊さんたちの数に少し驚いた。

だが、ヴルカノコルポの兵隊さんたちはもっと多いらしい。

その二つが戦争なんてしたら、沢山の人がケガだけじゃすまないだろう。

絶対に止めなくちゃいけない、気合を入れる為に自分の頬をパチンと叩く。


「うん、頑張らなくちゃ」


「ソラタ様、その博愛の在り方はこのティグレ、尊敬すらしております。しかし、それを成し遂げる為にソラタ様が傷つくようなことがあれば、私はもちろんの事、国王陛下や女王陛下、トレイクハイト様にアロガンシア様、プラテリアテスタに暮らす民も皆が悲しむ事をお忘れなきを……」


「ティグレさん、変な事言うかもしれないけれど、ボクはね、嬉しいんだ。たとえ勇者としてのボクしか見てもらえてなかったとしても、誰かに心配してもらえる、悲しんでもらえる、思ってもらえるって事がね、とても嬉しんだ。だから、ボクはみんなの為に何かお返ししてあげたい、思いに報いたいんだ。大丈夫、無理なんかしないから」


「……ソラタ様がそうまで言うのなら、私はもはや何も言いません。この身を賭してソラタ様をお守り致す事でソラタ様の思いに報いましょう」


ふと、ボクは飛んでいるスピードが遅くなったのに気づく。

高度が段々と下がっていくのを感じながら、前方に大きな川が流れているのが見える。

ティグレさんはボクたちを包んでいた球状の防御魔術を解いて、別の魔術を発動させた。

落下速度が少し遅くなったが、まだ安全に着地するには不十分な速度のように感じる。


「このまま行けば、川の中に落下してしまいますので、落下地点を微調整いたします。落下の衝撃を完全に打ち消す事は難しいので、ソラタ様は力強く私に抱き着いてください」


「うん、わかったティグレさん」


ギュッとティグレさんの腰のあたりに抱き着く。

ティグレさんがフヒッと笑った気がしたが、今は確認している余裕はなかった。

魔力感知で川の対岸にとても大きな魔力があるのに気づいたからだ。

魔力の大きさだけなら、ティグレさんやウルスブランさんよりもずっと大きい。

チート能力者だと言っていたロンファンさんくらいの強さを感じた。

この人はたぶん、ボクたちに気づいてる。

嫌な予感はしないけれど、ジッと見ている様な視線と共に、声が聞こえた。


(へぇ、この距離でオレに気づきますか、やるねぇ坊や。そっちのお姉さんはティグレ・ザラントネッロでしょう? プラテリアテスタきっての魔術師。魔術師界隈じゃ知らない方がおかしいってレベルの使い手。そんな人がイカレた魔力の子供を連れてここまで来たって事は、プラテリアテスタが切り札でも投入してきたんじゃあとでも思ったんですがね)


瞬間、ピタリと落下が止まる。

ティグレさんは何が起きたのか一瞬分からなかったようだった。


「ティグレさん、対岸の人の魔術だよ、これ!!」


「対岸から!? こんなに距離が離れているのに魔術式に介入されて魔術を乗っ取られた、しかも私に気づかれずに、こんな人間離れの芸当、もしや――!?」


空中に止まった状態から、急に対岸へと引っ張られる感覚。

どうやら、声の主に引き寄せられているようだった。


(敵意というか戦意ってのを坊やからは全く感じないんですよねぇ、だからちょっと気になってね。こっちの王様が来るまでまだちょっと時間がある訳なんですよ、だから暇つぶしにちょいとお話ししましょうか。今後の事について、ね)


「あの、ちょっといいですか?」


(はいはい、いいですよ。何かこちら側に来るのが嫌だっていうなら、自力で抜け出してくださいよ)


「ううん、ボクも貴方とお話ししてみたいからそっちに行くのは別にいいんだ。ボクの名前は山田 空太っていいます。貴方のお名前聞いて良いですか?」


(ハハハ、律儀な坊やだねー。オレはライトニング・ダークネス。ちょっとは名の知れた大賢者ですよ)


大賢者ライトニング・ダークネス、正直変わった名前だなと思った。

魔力感知でライトニングさんの魔力に触れて分かった事がある、この人は凄く退屈してる。

こんなに強いのになんで退屈だなんて感じているんだろう。

それに、あまり戦いに興味がないみたいな気がする。

もしかしたら、話し合いでこの戦争を止めるのを手伝ってくれたりしないだろうか。


「ティグレさん、ボクたちを引っ張ってるのは大賢者のライトニング・ダークネスって人みたい。ちょっと話がしたいんだって」


「大賢者!? 古代の大魔術すら操るという、あのチート能力者が対岸に!? つまり、大賢者がヴルカノコルポに属していると、なんという――」


ティグレさんは対岸へと近づいていく中、片手で空中に複雑な魔術陣を描いた。


「せめて、この情報を港町の責任者に届けねば!! 伝え飛べ、ヴォーチェ・コロンバッ!!」


ティグレさんの描いた魔術陣から真っ白なハトみたいな鳥が飛び出して、本来落ちるはずだった港町へと飛んで行った。

その後、ティグレさんはボクをギュッと強く抱きしめた。

その顔にはじんわりと汗がにじんでいる。


「ティグレさん、大丈夫。あの人はきっと敵じゃないよ。だから、大丈夫」


ボクの言葉にティグレさんはニコリと笑みを返してくれた。

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