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36・レジスタンスと反逆推進委員会

ヴルカノコルポ王が精鋭を引き連れて王都シュチより出陣して二日後。

ヴルカノコルポの各地で反乱の報告が多数上がり始めた。

今までも小規模の反乱は度々起きていた為、今回もそれと同等の規模だろうと、王都防衛を任されたヴルカノコルポの第一王子ピユール・アイン・ヴルカノコルポは反乱の制圧を各領地を治める貴族たちに一任した。

各地の貴族たちの大半はその戦力の多くをプラテリアテスタ侵攻の為に半ば強引に駆り出されており、残っている戦力は跡目争いに敗れた貴族の次男や三男などの息子たちが率いるわずかな私兵のみであった。

小規模の民の反乱であるのなら、それでも十分に制圧は可能だったが今回は何かがおかしかった。

重税を課され、飢えに苦しむ地域もあったはずなのに、民一人一人の強さが長年鍛錬を積んだ兵士と同等以上になっており、容易く制圧できると高をくくっていた貴族の制圧軍の多くが反乱軍に敗走していた。


「うぉおおおおおおおっ!! おれたちは自由になるんだぁああああッ!! 革命を起こし、みんなが平等の国を作るんだぁあああああッ!!」


「おぉおおおおおおおおおおっ!! 進めぇえええええッ!! 貴族どもに民の苦しみの報いをッ!!」


「自由で公平な夢の国を俺たちが作るんだぁああああああッ!!」


「殺せぇえええええ!! 貴族どもを、民の命をないがしろにする為政者どもを、皆殺しにしろぉおおおおおッ!!」


民たちの戦意は高く、死すらも恐れぬ死兵とかして制圧軍に襲い掛かる。

ヴルカノコルポに反旗をひるがえした民たちを相手に制圧軍の兵士たちは今までとの違いに大いに混乱した。

今までは民が反乱を起こしたとしても、騎兵百騎もいれば数倍の人数差であろうと蹴散らし、蹂躙する事が出来ていた。

だが、今回の反乱は今までのものとあまりにも違い過ぎた。

民たちの戦意と練度の高さ、本来なら貴族や軍隊にしか流通していないはずの魔導具を反乱軍が多数装備していた事、そして反乱を指揮する者の存在。

それらの要因が烏合の衆に過ぎなかった民たちを一国の軍隊に匹敵する存在に至らしめていた。

民たちはレジスタンスを名乗り、各地の貴族領主の館を襲撃しては一族郎党、女子供に至るまで皆殺しにし、自由と平和の名の元に略奪と破壊行為を繰り返した。

反乱の火はヴルカノコルポ全域に拡大していき、その一報はプラテリアテスタとの国境に近づくヴルカノコルポ王の耳にも届く事となった。


「なんだと、民どもがまた反乱だと? ピユールは何をしているのだ!! ワシに背く者どもなど民にあらず、畜生にも劣るわ!! 反乱軍など、とっとと殲滅して一族郎党皆殺しにせよ!!」


「し、しかしトリンカー国王陛下、反乱軍の様子がいつもと違い、やつらは魔導具を多数所持し、なおかつその戦い様は軍隊のそれと同じと報告が――」


「ワシに意見するとはあまりに愚か、誰ぞこの者の首を断て」


「お、お待ちをトリンカー国王陛――ッ!?」


瞬間、ゴロリと反乱の一報を伝えた兵士の首が転がり落ちる。

首の落ちた自分の体を見て、頭部だけの兵士は眼をぱちくりとさせた。


「な、んで、おれの体が……」


「あらあら、王様の命令ですから仕方ないですよね。だから、ごめんなさいね」


首だけになった兵士の耳に優し気な女性の声が響く。

兵士は自分が何をされたのか分からないまま、絶命した。

兵士の死体を片付けさせ、ヴルカノコルポ王は苛立たし気に叫んだ。


「ええい、せっかくプラテリアテスタを攻め滅ぼし、勇者を手に入れられるというのに下らん事でワシをわずらわせるな愚か者めが!! 民どももだ、ワシに仕える喜びを捨てるなど愚の極みであるわ!!」


「ええ、ええ。そうですね王様。なら、私が行ってまいりましょう。王様に反逆する悲しい民の人たちをお仕置きしてきます。プラテリアテスタ侵攻が終わるまでに吉報をその耳に届けてみせますよ。私のお友達なら簡単ですから」


優し気な声と共に、ヴルカノコルポ王の豪華な幕舎に一人の女性が姿を現した。

足元まである長い桃色の髪を揺らし、柔和な笑顔でヴルカノコルポ王の前にひざまずく。

豊満な肉体を隠そうとしない露出の多い服装が桃色の髪の女性の蠱惑的な肢体をさらけ出している。


「ふむ、エクスタシスお前か。……他の二人が居ればワシの防備は十分ではある、武神と大賢者もすでに前線。ふん、我が軍が崩れる要素は一切なし、よかろう。エクスタシスよ、ヴルカノコルポの誇る三人のチート能力者、グレイトリニティの一人としてヴルカノコルポに、ワシに歯向かう愚か者どもをその力を遺憾なく使い、殲滅せよ。これは王命である」


エクスタシスは恭しく頭を下げ、満面の笑みを浮かべ立ち上がる。


「かしこまりました王様。愚かにもヴルカノコルポにたてついた愚か者どもに王の怒りを。ええ、一人残らず絶望のどん底に落としつくし、蹂躙の果てに底の国へと送って御覧にみせましょうとも」


笑顔を浮かべたまま、エクスタシスはヴルカノコルポ王の幕舎を後にする。

そして、軽く手をパンパンと叩いた。


「みんな、おでかけの時間よ。王様の命令ですもの、はりきっていきましょう。悪い子たちにお仕置きししなくちゃ。好きに暴れてもいいんですって、楽しみね、ウフフフ」


エクスタシスの前に十メートルをゆうに越える巨体を持つ四つ足のドラゴンが数体、飛来する。

ドラゴンの襲来に驚く兵士たちから、反乱軍の情報が書かれた書類を受け取ったエクスタシスは身をかがめているドラゴンの背に乗り、その体を優しく撫でた。

するとグルルルと気持ちよさそうにドラゴンが喉を鳴らす。

そこにヴルカノポルコに属する残りのチート能力者二人がやって来た。


「おでかけかい、エクスタシス? ご機嫌な君の笑顔は見ているだけで心が震えてくるねぇ」


「力を示すならば、オーガエンペラー一体で事足りよう。無益な殺生はいたずらに恐れを蔓延させるだけであろう。だが、威を示すならば、それも致し方なしか……」


長い緑の髪を三つ編みにしてまとめている三つ目の少年と短髪の黒髪で三メートルを越えるサングラスの巨漢に対してエクスタシスは柔和な笑顔を向けて、手をひらひらと振る。


「ウフフ、二人とも王様のお守、お願いしますね。ここに残す子たちのお世話は世話係の人に任せてますから仲良くしてあげてくださいね。私はちょっと悪い子をお仕置きしないといけないから、可哀想だけれど仕方ないですよね? 王様の命令なんですもの、じゃあいってきますね」


エクスタシスを乗せたドラゴンが大きく羽ばたき、辺りに強烈な風が吹き荒れた。

風が収まった頃には、ドラゴンの集団は空の彼方へと消えていた。

ヴルカノコルポの上空でエクスタシスは一枚の札を胸元から取り出して、額に当てた。


「もしもしー、エクスタシスです。計画通り、豚王の所から離脱しましたよ。演技とは言え、あの豚王に忠誠を誓ってるふりするのって気持ち悪くってしかたないんですよね。あの豚王、私の胸とか足とかジロジロねっとり見てくるし」


『ハァーイ、ご苦労様デース。エクスタシスちゃんが離脱した事と合わせて武神さんも戦線から離脱した事が確認できてマース。世界の危機でもないのに戦争で五人もチート能力者を投入って困った事しようとしたものデ―ス。チート能力者はあまりに強すぎて、一か所に何人も集まると世界が排除しようとしてきますからネー。前線に集まる前に人数を減らしておかないと、色々と厄介な事になる所でしたヨー。これでたぶん大丈夫デース』


「私にはよくわからないんですけど、魔王種でしたっけ? この世界の理を守るとかなんとか。そんなに強いんですか、戦闘系のチート能力とか私の能力ならなんとかできそうなんですけど」


『そう思うのも無理ないデース。魔王や勇者、序列持ちに匹敵もしくは凌駕する力をもつチート能力者ならみんなそう思うでショー。けれども、魔王種はチートという力に対して絶対的な優位性を持ってマース。つまり、チート能力者にとって魔王種は天敵とも言えるのデース』


「アナタがそう言うのならそうなんでしょうね。まぁ、私は死にたくはないですからね。魔王種なんていうバケモノに関わりたくはないですよ。あとは反乱した人たちをのんびり殲滅している間にあの豚王が死んでくれれば魔王種を産む魔王母胎樹の切除に向けた話し合いが出来るんですよね」


『その通りデース。チートという便利な力をデメリット無しに使える様にする、それはこの世界の民にとって大きなメリットになるのデース。レジスタンスを名乗る反乱軍の方々にはワタシたち反逆推進委員会が用意した武器や魔導具、体がとっても元気になるオクスリなんかでパワーアップ、死ぬまでハッスルしてがんばってもらってますからネー。世界の為の礎となる事を喜んでくれるはずデース』


「私は私が楽しく好き放題に力を使って生きられるなら、どんな世界でもいいんですけどね。じゃあ、後は手はず通りに怪しまれない程度に反乱軍を殲滅しますね。ではまたお会いしましょう、リベリオン委員長」


『ハーイ、ではではよりよい未来の為にお互いがんばりまショー。グッドラーック』


お札を額から外し、フゥと一息つくエクスタシス。

ググっと両手を伸ばして大きく伸びをする。


「正直、どちらも信用なんて出来ないですけど、ならマシな方につくのは普通ですよね。あの二人はどうするんですかねぇ、まぁ私には関係のない話ですけどね」


エクスタシスはドラゴンの背中に横になり、あくびを一つしてうたた寝を始めた。

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