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33・異邦の少年と博愛

ボクの掌でふわふわと浮遊する重なった白と黒の輪。

軽く触れてみると、ほのかに温かく柔らかい。

魔力で出来ているはずなのに手で触れるというのはなんとも不思議な感覚だった。


「なんだろうこれ、神域と冥域の魔力を使って出来てると思うんだけど、魔術を使う為の円とは違って触れるし……」


小首を傾げていると、ウルスブランさんに掴まれているトレイクハイトちゃんが更に暴れ出した。


「ちょ、ちょちょっとッ!? それ、光輪でございますか!? 神の眷属である天使の頭上に光り輝いているという光輪!? 見せて、触らせて、嘗めさせてほしいでございますッ!!」


「ずるい、私もソラタ様ペロペロしたいッ!!」


トレイクハイトちゃんだけでなく、ティグレさんも良く分からない事を言い出してしまった。

どうしよう。

それはそれとして天使という単語で絶界神域でカエルムさんがモデル天使とか言っていたのを思い出す。

ボクが魂の浄化を行って光の粒になり、ボクを通して冥域、底の国へと行った人たちは天使の模造種と呼ばれていた。

天使を真似した存在って事だと思うけれど、あの人たちは頭に光の輪なんてしていなかった気がする。

死んでしまったら天使の輪も消えてしまうのだろうか。

ともかく、天使の光輪だとトレイクハイトちゃんが言うのだから、たぶんこれはそうなのだろう。

どうにかしてアロガンシアちゃんとリー・ロンファンさんの戦いを止めて、戦争を止める方法を考えなければいけない。

とりあえず、頭の上に天使の光輪を乗せてみた。

天使の光輪はちょうどいい具合の所でふわふわと浮いている。


「特に変化はないけど、使い方が違うのかな……?」


「伝承と違うでございますね、伝承では天使でない者であっても、光輪を頭上にいただけば天使の加護を得る事が出来るとあったのでございますが」


「天使の加護ってなんなのトレイクハイトちゃん?」


「伝承には凶悪な魔獣を素手で屠れる程の膂力、あらゆる属性加護がその身を守り、己の魔力から武具を生み出す、それらが一まとめになったモノが天使の加護である、だそうでございます」


「凄いんだね、天使の加護って。それがあればボクでもアロガンシア王女とリー・ロンファンさんを止められるかな」


「恐らくではございますが、ソラタ殿は神域と冥域、絶界聖域に相当する領域の底の国での呼び名でございます、その二つと繋がった事で一部の身体能力が飛躍的に向上していると思われるでございます。あの二人の戦いを目で追えるのもそれが原因でございましょう。ただ、今の状態に天使の加護が加わったとしても、あの二人を止めるのは難しいでございましょうね」


それほどあの二人は強い、という事なのだろう。

この天使の光輪があれば、もしかしたら戦争を止められるかもと思ったけれど、どうやら無理なようだ。

ただ、ボクが頭の上に付けてみても何も起きなかったのだから、これは天使の光輪ではないのではないか、という気がしてくる。

なら、これは一体何なのだろうか?


「あ、そうだ。これって突き詰めて言えば神域と冥域の魔力で出来た輪っかだよね。なら、これを魔術陣にして魔術を使ったらどうなるんだろ」


「確かに、そうでございますね。ソラタ殿に繋がった神域と冥域、二つの領域の魔力が二重になって出来た輪と見なすならば、魔力で描いた円と言っても間違いではないでございますね」


「なら、試してみるね。あの二人、喧嘩のし過ぎでケガしてるから治してあげないと話もできないよね」


ボクは頭の上に浮いている白と黒の二重の輪を手で掴んで、防御せずに交互に殴り合っているアロガンシア王女とリー・ロンファンさんの方に向けて、手を離す。

輪は空中でふわふわと浮いている。

普通の魔力を操作するのと同じで、魔力で出来たこの輪もボクの思った通りに動かせるようだ。

今なら、早く動いていない二人に向けて癒しの魔術が使える。

距離的に届くか不安だけれど、何もせずにいるのはとても嫌だ。

ただのヒールだと一人だけにしか効果が無いような気がする。

広範囲を癒す呪文って何があっただろうか。


「えっと……、なんて言えばいいんだろう……」


「どうしたでございますかソラタ殿、追加効果でもお考えでございますか? それほどの魔力が込められた魔術陣であるならば、余計な追加術式は描き加えずに、どんな魔術を使うかを強く思い描きながら呪文の方を工夫すれば恐らく問題なく魔術は発動するでございますよ」


「あ、それでいいんだ。じゃあ、取りあえず……」


トレイクハイトちゃんに言われ、どんな魔術を使うかを強く思い描く。

戦っている二人の傷の回復、痛みも引いてくれたらいいな。

あと二人の影響でめちゃくちゃになってしまった自然も元通りになると嬉しい。

トレイクハイトちゃんやウルスブランさん、それにボクを守る為に防御魔術をずっと使ってくれているティグレさんも癒してあげたい。

思った事が全部出来るかは分からないけれど、トレイクハイトちゃんが天使の光輪っていう凄い物と間違えるくらいの魔力がこの輪っかに込められているのなら、そのくらいきっと出来るはず。

呪文を唱える為に口を開く、ボクの見える範囲を全て癒せるように心を込めて。


「すべてに――癒しを!!」


まばゆい閃光が白と黒の二重魔術陣から放たれ、世界が白一色に染まった。

ボクが呆気に取られていると、次の瞬間には世界が黒く染まって、数秒もしない内に元の景色に戻っていた。


「なにが、起こったんだろう……」


辺りを見回すと、アロガンシア王女とリー・ロンファンさんの二人の戦いの影響でめちゃくちゃになっていたはずの景色がボクがこの世界に召喚された時に見た気持ちの良い風の吹く草原に戻っていた。


「やった、上手くいったみたい」


「こ、これは……なんという……」


トレイクハイトちゃんは一変した周りの風景に唖然としている。

トレイクハイトちゃんだけでなくティグレさんやウルスブランさんも同じ様に驚いている様だった。


「ティグレさん、体の調子はどうですか? ティグレさんにも癒しの魔術の効果がでるようにって思いながら魔術を使ったんですけど」


「え? あ、はい。そういえば、あれほど魔術を継続して使用していたのに、体に魔力が満ち溢れています」


「よかった、ちゃんと効果があって」


ボクの思った通りにティグレさんにも癒しの効果あったようでホッとした。

アロガンシア王女たちはどうだろうか。

アロガンシア王女とリー・ロンファンさんの方を向くと、二人も不思議そうな表情で辺りを見ていた。


「傷も痛みも消えた……、辺りの風景すらもわしらが戦う前の状態に戻っておる。いや、更に生気に満ちておるか。これは一体どのような力が……」


「博愛、とはよく言ったものよな。勇者殿め、妾だけでなくうぬや周囲の自然にまでその恩恵を与えおったか。甘い男よの、あまりに甘く優しい。クハハ、めまいがしてとろけてしまいそうだ」


「博愛……、プラテリアテスタに召喚された七人目の勇者の力だというのか、これが……」


二人とも、戦うのをやめてくれたようだ。

これでちゃんと話しが出来ると思い、ボクは二人に駆け寄った。


「ッ!? お待ちくださいソラタ様、うかつに近寄るのは危険です!! ウルスブラン、トレイクハイト様を」


「はっ!? わ、わかりました、トレイクハイト様は私がお守り致しましゅッ!!」


ティグレさんがボクを心配して声をかけ、すぐにボクの近くまで来てくれた。


「ソラタ様、戦闘が止まっているとはいえ、相手は武神と謳われるほどの剛の者、無邪気に近づいてはなりませんッ!!」


「ごめんなさい、ティグレさん。でもだいじょうぶ、リー・ロンファンさんは話を聞いてくれる人だよきっと」


アロガンシア王女とリー・ロンファンさんはもう戦わない、そんな確信めいた不思議な感覚があった。

が、次の瞬間、リー・ロンファンさんの腕が一回り大きくなり、拳に桁違いの魔力が集中し始めた。

拳に集中していく魔力で周囲の空間がぐにゃりと歪んでいく。

そして、空間を歪めてしまう程の魔力が込められた拳を、迷う事なくアロガンシア王女の顔面に叩きこんだ。

顔面に打ち込まれた拳の衝撃がアロガンシア王女を突き抜けて、周囲に衝撃波となって襲う。

数瞬遅れてドゴンッ!! と凄まじい音が響き、少し離れているというのに衝撃で飛ばされてしまいそうだった。

ティグレさんが体をギュッと抱きかかえてくれなかったら、きっと何十メートルも吹き飛ばされていたかもしれない。

ただ、気のせいかアロガンシア王女はリー・ロンファンさんの拳を避けれたのにわざと避けなかった感じがした。

腕全体から白い蒸気を上げる拳を引いたリー・ロンファンさんはまだ熱の残る自分の拳を見つめ、フゥと息を吐いた。


「これが、博愛の権能の力か……」


「どうだ、理解したかリー・ロンファン。これが我がプラテリアテスタの勇者、ソラタの力である。今、この場において、武は何の意味も為さぬぞ」


「武に生きるわしはこの場においては死んだも同然か」


アロガンシア王女はニヤリと笑う。

リー・ロンファンさんに殴られたはずのその顔には、かすり傷一つなかった。

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