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23・異邦の少年と願い

トレイクハイトちゃんが言うにはボクの体、というより魂が底の国と繋がってしまっているらしい。

アロガンシア王女とトレイクハイトちゃんがボクの魂をとても強力な魔術で底の国から強引に引っ張り上げた事が原因かもしれないとか。

底の国の魔力は闇の魔力と似ているが、底の国でしか存在できないはずの属性で詳しい事はほとんど分かっていないそうだ。

確かティグレさんが主だった六属性以外にも希少な属性があるって言っていた。

底の国の魔力というのは六属性に含まれない希少なものなのだろう。


「じゃあ、ボクは珍しい魔力を使えるって事なのかな?」


「持っている事と使える事は全くもって別の話であるわ。魔剣だ聖剣だと言われる神話級の魔導具を持っていたとしても正しく扱えねば、子供のままごとにも使えん玩具以下の代物となろう」


「じゃあ、宝の持ち腐れってやつかぁ。でも、この底の国の魔力って何が出来るの?」


「闇と似て非なる物ではあろうが、闇系の魔術は大抵破壊に特化していると相場が決まっている。恐らく、破壊系の魔術や己の力の底上げなどであろうよ。大地の国では存在できんはずの魔力、使い方を知る者などおらぬわ。知っておる者がいるとすれば、それこそ底の国の者しかおるまい」


底の国の者しかいない、そう言われてフマニタスさんの事を思い出す。

また会おうって約束したし、いつか会った時に聞いてみようかな。

そんな事を考えながら、ベッドから立ち上がる。


「もう、大丈夫でございますかソラタ殿? もう少し休んでいた方がよいでございますよ」


「ううん、怪我とかは無いし、気分もそんなに悪くないから平気だよ。全然魔力の無かったボクに底の国の魔力っていうのが宿ったんなら魔術の練習しなきゃ。まだ全然弱いボクだけど、何もしないでいるってのは嫌だから。それに、急がないともうすぐ始まっちゃいそうだから」


「始まる……、何がでございますか?」


「戦争」


なんとなく凄く遠くの方で沢山の人の気配を感じていた。

よく分からないけれど、怒りだったり恐れだったりそんな感情の塊が一つになってうねっている様な感覚。

昨日のよる魔力感知の訓練をした時くらいから、だんだん感知できる範囲が広がっている様な気がする。

これも勇者の権能ってやつのおかげなのだろうか。


(アロガンシアちゃん、実際の所どうなのでございますか?)


(うむ、ヴルカノコルポ軍は既に布陣のほとんどを終えている。いつ国境を越えて侵攻してきてもおかしくはない状況であろうよ。妾が出れば、一撫でにことごとくを討ち滅ぼせるのだがな、高潔なる我が父は妾を戦場には出さぬとのたまいおったわ)


(よくそこで素直に引き下がったでございますね傲慢なる我が妹。いつものアロガンシアちゃんなら父上がそんな事言ったら首を刎ねて、王位を簒奪してそのまま逆にヴルカノコルポに攻め込みそうな物でございましょうに)


(……なんというか、アレだアレ。父の覚悟と決意に感銘を受け、顔を立てたというやつよな。なんと寛容な事よな妾、うん)


(……何か怪しいでございますね。まぁ、それは良いでございましょう。問題は何故それをソラタ殿が分かったか、でございます)


アロガンシア王女とトレイクハイトちゃんがこそこそ話をしているけれど、何かボクに聞かれたくない話題なのだろうか。

言ってくれれば部屋の外にでるのに。


「じゃあ、ボク外で魔力感知の訓練してくるね」


そう言ってボクは部屋を出て、宿舎の外に出た。

召喚された時と同じで気持ちの良い風が吹いている。

近くにあった木陰に座って、底の国の魔力が体から出てきた時の感覚を思い出しながら眼を閉じて自分の魔力を感知する訓練を始める。

魔術を扱う為の基礎だという魔力操作、その魔力操作の精度を高める為にも魔力感知、自他の魔力を感じ取る感覚をもっと鍛えないと。

昨日は自分の魔力は感知出来ずよく分からなかったけれど、自然や周囲の魔力感知の方は上手くいっていた気がする。

ティグレさんに教えられたように余計な考えを捨てて、心を空っぽにしていく。

急がなければ、戦争が始まって沢山の人が死んでしまう。

そんな焦りや不安も息と共に吐きだす。

心を空にして、しばらくすると自分を何かが包んでいる様な感覚と少し離れた所に二つの暖かな光の様な何かがあるのに気づいた。

たぶんアロガンシア王女とトレイクハイトちゃんだろう。

二人ともとても強い感じがして凄く分かりやすかった。


「やった、魔力感知出来てる!!」


意識して上手く魔力感知出来た事が嬉しくて閉じていた眼を開けてつい声を出してしまったせいか、さっきまで感知出来ていた自分を何かが包む感覚と暖かな光の感覚が消えた。

何かがボクを包んでいた感覚、あれはきっとボクの魔力、というより底の国の魔力がボクを包んでいたんだと思う。

ボク自身の魔力は全然分からないけれど、その代わりに底の国の魔力を使って魔術を使えないだろうか。

そこまで考えて、気づいた。


「魔術ってどうやって使うんだろう……」


ゲームとか漫画では呪文を唱えればポンと出てたけど、この世界ではどうなのだろう。

難しい呪文とかだと覚えられる自信がないなぁ。

そんな事を考えながら、魔力を掌に集める事をイメージしながら底の国での感覚を思い出していく。

体から出てくる黒いモヤが右の掌に少しずつ集まり始めた。

これがたぶん魔力操作ってやつなんだろうなと思いながら、試しにと適当な呪文を唱えてみる。


「ヒール」


ゲームとかでよくある回復の呪文、唱えても何も起きなかったが別に誰かがケガをしている訳でもないのだから、何も起きないのは当たり前と言えば当たり前だった。

でも、攻撃呪文を言ってみて何かが壊れてしまうのは嫌だし、何か他に危なくない呪文はないだろうか。

そういえば、トレイクハイトちゃんが転送門を使わない長距離移動は人には無理だけど、短距離ならできる人達もいるって言っていたっけ。

それなら、試してみてもし発動しても危なくなさそうだと思った。

使う魔力は底の国の物だし、もし移動できたとしたら底の国に飛ぶのだろうか。

トレイクハイトちゃんがくれたよく分からない飲み物を飲んだ時は魂だけ底の国へ落ちていった感じだったけど、体ごと行った場合は安全かも知れない。

でも本当に底の国に移動しちゃったら、戻る時はどうしよう。

フマニタスさんに手伝ってもらえばなんとかなるかな。

また会おうとは言ったけれど、こんなにすぐに会いに行くのは迷惑だろうか、などと考えつつ転移の呪文を口に出そうとした所で、アロガンシア王女とトレイクハイトちゃんがやって来た。


「ソラタ殿、一人で外に出るのは危ないでございますよー。ティグレ殿とウルスブランが居るからと平気かな、とか思っていたでございますが、あの二人は宮殿の方にソラタ殿が倒れた事とか報告に行っているのをすっかり失念していたでございますよ」


「ふむ、ここらは結界が機能しておるゆえ、大した問題はなかろう。とはいえ、勇者殿の身に万が一があってはティグレやウルスブランが気に病む。勇者殿、己の弱さを自覚し気を付ける事だ、特に絶界と名のつく場所であればより一層にだ」


「少し前に暇つぶしと称して絶界聖域に散歩しに出かけて、何故か空から降ってきたアロガンシアちゃんの言葉でございますからねぇ、重みが違うでございます」


「ぬ、アレは神の導きあっての事である。絶界神域にて数十年、数百年の後の禍根を絶ってきたのだ。後の世になれば七つの脅威の一つがひとりでに消えたかの如く騒がれるであろうよ」


「未来に存在する七つの脅威の一つの根を絶ってきたでございますか? 初耳でございますけれど?」


「うむ、初めて言ったからな。誰にも聞かれなんだ、答える必要も無かろう。絶った七つの脅威の名は『大地を焼く神の火』。その管理者であった天使を名乗る有翼人共は既に葬った。神の火を扱える者が居なくなった以上、神の火が大地の国を焼く事は永劫なかろうよ」


アロガンシア王女が嘘を言うとは思えないから、言っている事はきっと本当の事だと思う。

だから、葬った、というのも本当なのだろう。

天使を名乗る有翼人、たぶん背中に羽根の生えた人たちをアロガンシア王女はその手で殺した。

未来の事なんて誰にも分からないから、アロガンシア王女のした事はきっと誰にも理解されない気がする。

たぶん、今までもそうだったんじゃないだろうか、世界の為に誰にも理解されず一人っきりでずっと……。

そして、これからも。

そう思うとボクはとても悲しくなった。


「あの、アロガンシア王女」


「どうした勇者殿、妾に何か? 天使を名乗る有翼人共を葬った事が気に食わないとでも言いたげだが」


「えっと、それはきっとアロガンシア王女にしか分からない理由があったんだと思います。アロガンシア王女は意味も無くそんな事しませんから」


「はん、妾を随分と高く買うではないか。では一体何を妾に?」


「その、なんていうか、凄く変な事を言っちゃうかもしれないんですけど……」


「構わぬ、マッシモーめが幾たびも喚き散らす様な下らぬ諫言でないのならな」


「辛かったり、苦しかったりしたら教えてくださいね、何もできないし、とっても弱いボクだけど、貴女の隣にいる事くらいは、一緒に居る事くらいはきっと出来るから」


「……フン、世界序列一位たる妾に対し、その物言い。なんとまぁ傲岸不遜な事よな。その絵空事、現実にしたくば、更に強くなるがよいぞ勇者殿。妾の隣に在るという事はそれだけで苛烈であると知れ」


「うん、分かった。ボク頑張る、アロガンシア王女を支えられるくらい強くなってみせるよ」


「クハハハッ、笑える冗談であるわ。妾を支えるだと? 吐いた言葉はもう戻せぬぞ勇者殿。クク、有り得ぬ未来を夢見るのも一興か、楽しみに待つとしよう」


楽しそうに笑うアロガンシア王女を見て、ボクは強く思った。

アロガンシア王女がこんな風に普通に笑える日々がずっと続けばいいのにと。

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