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13・異邦の少年と絶界聖域

「ソラタ様、まずはご自分の魔力の流れを感知する事から始めます。魔力を感じ、自在に操作する事が魔術の第一歩となりますので、頑張りましょう」


気持ちの良い風の吹く草原でティグレさんが笑顔でボクにそう言った。

夕食会を終えた翌日の朝、魔術についてティグレさんに教わってもいいか王様に尋ねたら問題ないと快諾してくれたので、先生としてティグレさん、ボクの世話係兼護衛としてウルスブランさん、そして面白がってついてきたトレイクハイトちゃんを加えた四人で魔術の勉強を始めたのだ。

この草原は、宮殿の中にある転送門を通ってやって来た場所で、ボクが召喚された場所とは違うけれど同じ空間だとティグレさんが教えてくれた。


「この空間は絶界聖域と呼ばれる大地の国と表裏の関係にある場所であり、ソラタ様を召喚した場所とは異なりますが同じ空間となります。基本的には王族のみしか入る事を許されていない神聖な空間ですが、この一帯は修練場としても使用されており、簡易ながら宿舎なども併設されております。こちら側は大地の国に比べ空気中の魔力濃度が非常に高く、魔力の低い者が長期間滞在するのは体に多大な負荷がかかり下手をすれば命の危険すらあります。しかし、今回は私やウルスブラン、それにトレイクハイト様もご一緒ですのでその点は問題ありません。ご安心ください」


とても綺麗で気持ちの良い場所なのに、絶界聖域と呼ばれるこの場所は凄く危ない場所だという。

今回はティグレさんたちがバリア? の様なものを周囲にしているのでほとんど魔力の無いボクでも問題ないようにしてくれているそうだ。

時間の流れも少し遅いらしく、しばらくはここでのんびりしててもいいと王様は言ってくれた。

頑張って魔術を覚たら、王様や女王様は褒めてくれるだろうか、喜んでくれるだろうか。

そんな事を思いながら、自分の魔力を感じる訓練に没頭する。


「この絶界聖域では空気中の魔力濃度が高いので魔術を発現させやすいという特徴があります。ただ、その魔力の高さゆえに暴発しやすいという欠点も存在します。ですので、この場での修練では緻密な魔力操作が必要とされます。無駄のない魔力の流れがより効率の良い魔術を生むのです。よろしいですかソラタ様」


「はい、ティグレ先生」


「先生……。フヒ、これはなかなか……くるものが……」


「ティグレ先生?」


魔術の鍛錬中は先生と呼ぶように、との事だったのでティグレさんを先生と呼んでいるのだが、時々ティグレさんが変な感じになるのは何故だろう?

魔力濃度が高い事に原因があるのだろうか、心配になる。


「ソラタ殿、それはティグレ殿の悪癖、なんというか不治の病みたいなものでございますよ、まぁ心配には及ばないのでございますので、お気になさらずでございます」


そう言いながらトレイクハイトちゃんがティグレさんに何やら耳打ちした。


(それ以上発作を起こすようならば、魔術の先生はわたくしか他の魔術士にさせるので、そのつもりでいるでございますよ)


ビクッと体を震わせて、ティグレさんが「それには及びませんッ!!」と叫び、深呼吸しながら荒くなった呼吸を整えだした。

数秒後にはいつも通りのティグレさんになっていた。

気になって、あとからトレイクハイトちゃんにティグレさんに何と言ったのか聞いてみたけれど、はぐらかされて結局教えては貰えなかった。

そんなこんなで朝から頑張って自分の魔力を感じる鍛錬をしているのだが、中々上手くいかない。

ティグレさんが言うには元々魔力がほとんどない世界から召喚されたので魔力感知が上手くいかないのかもしれない、けれどコツさえ掴めばあっという間に魔力感知が出来るようになるはず、らしい。


「生物は生れた瞬間から魔力を身に宿しているもの、質や多寡の差はあれどそれは絶対なのでございます。世界が異なるとはいえ、ソラタ殿も例外ではないのでございます。根気よく集中してみるでございますよー」


ウルスブランさんの用意した紅茶をジュルジュルとストローで飲みながら、トレイクハイトちゃんがやる気なさげに応援してくれた。

トレイクハイトちゃんは元々魔術師としての才能があるらしく、いくつかの魔術を既に習得済みで試験さえすれば高位の魔術師くらいにはすぐなれるとか。

魔術師のランクは大まかに七つあって、下から下級、中級、上級、低位、中位、高位、絶位となっているそうだ。

その中でも絶位というのは高位以上の魔術師に与えらえる称号なので、絶位の中でも下から上までの差が大きいとティグレさんが教えてくれた。

普通の絶位の魔術師でも十分に凄いのだが、更に上の人たちは超絶位とか神位と呼ばれており、その力は序列持ちにも匹敵するとかなんとか。


「あの、ティグレさん。そもそもなんですけれど、序列ってなんなんですか?」


自分の魔力を感じ取る事に集中しながらも気になった事をティグレさんに聞いてみる。


「……」


何故かティグレさんは黙ったまま教えてくれない。

不思議に思っていると、コホンとティグレさんが咳を一つしてパクパクと口を動かした。

その口の動きを見て、あぁと気づいた。


「えっと……序列ってなんなんですかティグレ先生」


「はい、ソラタ様、お教えしますとも。この世界には神が定めた序列が七つあり、序列の位は一から七までとなっています。七つの序列とはすなわち神の序列、世界の序列、勇者の序列、魔王の序列、王の序列、力の序列、魔の序列の七つ。序列を持つ者はそれぞれの分野での実力者と言う事を神がお認めになっているという事です。序列を持つ者の実力は一国の軍隊以上と言われています」


先生と呼ぶと、ティグレさんが嬉しそうに笑いながら説明をしてくれた。

ふと、思った事がある。

七という数字がなにかと出てくる。

序列もそうだけれど、七と言う数字も気になった。


「あの、ちょっと気になったんですが。なんでそんな色々な七があるんですか?」


「そうですね、確かに七という数字が絡んだものが多くありますね。それはこの世界を創造なされた原初の神が七柱おられた事と関係しているとか。だからこそなのでしょう、七という数字は人にとっても神にとっても特別な数なのです」


「七は神様と関係のある凄い数字なんですね」


「はい、その通りですソラタ様。ただ七の神秘性の大元ともいえる原初の七柱の神はすでにこの世界から別の世界へ移ったと言い伝えられています。ですがその子孫はこの世界に根付いております。プラテリアテスタの守護神であるプラテリアもまた原初の七柱の神の子孫ですから」


「プラテリアテスタの守護神プラテリア……。その、えっと、会えたりとかするんですか?」


「それは……」


神様に会えるのかというボクの問いにティグレさんは口元に手をやって、考え込んでしまった。

なにか変な事でも聞いてしまったのだろうか。


「あ、あのティグレさん、言いづらい事なら無理に言わなくても大丈夫ですから」


「あぁ、いえ、そうではないのです。人が神に出会ったという話自体は存在しますが、人の側から意図的に出会うというのは大変難しい事ですので、なんとお伝えしようか悩みまして。いらぬ配慮をさせてしまい申し訳ありません」


そう言ってティグレさんがペコリと頭を下げた。

ボクは慌てて、頭を上げて欲しいと伝えた。

神様に本当に会えるだなんて思っていなかったし、ちょっとした好奇心で聞いただけなのだから、ティグレさんがわざわざ頭を下げる必要なんてないのだ。


「でも、難しいってだけで会う方法自体はあるんですね」


「えぇ、はい、そうですね。基本的には神の側からの接触のみなのですが、この絶界聖域から神の住まう地である空の国へ至る事ができると言われています。空の国の絶界神域、大地の国の絶界聖域、底の国の絶界冥域は繋がっていると言われておりまして、絶界を経由すれば理論上は各国へ自由に移動する事ができるらしいのです」


「じゃあ、この空間から神様のいる所に行けたりするって事ですか?」


「そうなります。ですが絶界は本来、人にとって滞在しているだけでも死の危険が伴う空間。今現在、周囲に張っている結界も長期間は持ちませんので、長々とこの絶界聖域を歩き回るのはほぼ不可能に近いのです。ですので、もし神の住まう地である空の国、絶界神域へと至る事が出来たのなら、それはまさに奇跡としか言いようがない事でしょう」


奇跡……、もし何かの奇跡が起きて神様に出会えたなら、ボクは神様にお礼を言おうと思う。

この世界に召喚されて、王様や女王様やティグレさんにウルスブランさん、それにトレイクハイトちゃんにアロガンシア王女、みんなと出会えたのはきっと神様のおかげだと思うから。

人と人との出会いは奇跡の様なものだって、お父さんとお母さんが言っていた気がする。

だから、そんな奇跡を沢山くれた神様に、沢山お礼を言いたいのだ。

こんなにも素敵な人たちに出会わせてくれてありがとう、と。


(シラナニカチトニモチトニカイ) 


「え?」


誰かの声がした。

声というにはとても不思議な音で、何と言っているのかは分からなかったけれど、嫌な感じはしなかった。



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