神隠し84
「ご、ご立派な、寝室ですこと。
オーッ、ホッホホホォフォホォーッ」
ヒューデリア嬢が、思わず高笑い。
壊れた?
「い、いやさぁ~
ここって、既に家屋だよね?
あくまでも、寝室って言い張るの?」
俺が告げるとな。
「はて?
寝る目的の部屋を寝室と申しますゆえ、寝室でよろしいかと」
そう、ルマド爺様が、のたまう。
だがね、それが罷り通るならさ、世の中は寝室だらけだぞ。
どんな家屋へもさ、皆は寝に帰る訳なんだから…
そのように言ったらさ。
「それは下々での話でございまするな。
ヴァルハラ館では、意味をなさぬでしょうぞ。
何故なら、寛ぎ処を始めとした専用部屋が各種存在いたしますれば、それらとの対比として呼ばれることになりまする。
他の部屋の目的と活用を鑑みまするに、やはり、ここは寝室でございましょうな」っと。
いや…ね、確かにさぁ、そう言う意味では、寝室になるってか?
でも、規模から考えると、う~ん…
考え込んでいても仕方ないので、第7寝室の確認を。
玄関前の庭は手入れされ、芝生の上に置き石が戸口まで足場としてな。
花壇には季節の花が咲いている。
っても、花が咲く季節なんざぁ、知らんがな。
俺は玄関を避けて庭の方へと。
踏んでも大丈夫なタイプの芝生のようで、直接芝生の上を歩いて進む。
うや、後ろでな、コニーのユルちゃんが芝生を食むのを拒むメイドさんと、ユルちゃんとの、壮絶な攻防が繰り広げられているようだぞ。
ファイッ!
そんな賑やかな後方を置き去りにしつつ庭へな。
「太陽の光では、ない?
でも自然な感じの光だよね?
初夏近いのに、照り付ける感じではなく、麗らかな陽射しとでも?」
「さようですな。
ここは宮殿内でも深うございましてな、外からの陽は入って参りませぬ。
それは、今迄に通って来た廊下も同様でございます」
「ああ、廊下の明かりは人工的な明かりだったから、真操具が作り出す明かりだと分かったよ。
余所の洞内通路を照らす明かりが、真操具の明かりだと聞いてたんでね。
でも、庭の明かりは違うよね。
真操具の明かりとは違い自然な感じだ」
疑問を告げるとな。
「いえ、真操具の明かりにございます。
ただし、聖女様の巨大木壁による効果で現れた、かつての深森へ埋もれておりました遺跡より、出土したアーティファクトから発っせられておる、光なのでございます。
他の真操具は、真素使いが真素を、供給用の真操具へと注ぎ、その真素にて稼働しておるのです。
ですが、ここのアーティファクト真操具は、独自にて辺りの真素を取り込み、稼働いたします。
それが、どのようになされ、どういった絡繰りにて光のか…全く不明でして。
ただ、常に光っておるなれば、仕舞い込んでおるよりは、屋内庭へ活用した方が良いとなりましてな、ここのように使用されておりまする」
いや、それって…
発掘された訳分からん発光物質を、発光する理由が解らない侭で使ってるってことだろ?
大丈夫なのか、それ…
ま、庭を見る限りは害は無さそうだし、良っか。




