神隠し77
ヴァルハラ館第1宮へと辿り着いた訳だがな。
馬車から降りて玄関前で見上げる屋敷と言う名の宮殿に、気圧される。
そら、太古であろうと、元は王城だ。
チャチな館レベルであろう筈もない。
って…本当に、ここへ住むのか?
「現在の主である聖女様は、ご不在ではございますが、ヴァルハラ館は天位階級の方が住まうと決められております。
気兼ねなく、お入りくださいませ」
エルドリア・メイド長から、そう勧められる訳だが…アウェー感が半端ない。
そら、家主不在の家に家主へ断りなく上がり込み、獲ったぞぉ~じや、なくて…居座るなんぞ…
うん、犯罪感、半端ないわっ!
聖女様より正義の鉄拳て名の跳び蹴り食らいそうだ。
っか、跳び蹴りは、拳じゃねぇ~しぃ。
俺が入るのを躊躇ってると、館から執事が現れる。
いや…矍鑠たる御老人だが、物語などで語られるような、ザ・執事って感じの方だ。
そんな方が俺達の前へと来てな。
「お待ちしておりました。
どうぞ、こちらへ」ってな。
「いえ、ですが…聖女様がご不在なのに、上がり込んでもよろしいので?」
思わず尋ねてしまう。
俺が告げると老執事さんが、エドワード執事長をチラッと見てから告げてきたよ。
「ここは、葵天のお住まいでもございます。
葵天が来られることは、聖女様も楽しみにしておいででしてな。
「これは饗さないと」と申されましてな、食材を得に深森へと赴かれておられますな。
どうも、「ご馳走は、走り回って集めるから、ご馳走なんじゃけぇね、美味しい物、集めるよぉ~」と、張り切っておられましたぞ。
して、エドワード?」
「ハッ、申し訳なく…
ここは、葵天の住まう正統なる場とは申し上げたのですが、ご納得をいただけませなんだ」
「う~む…
現在に至るまで、同じ時代に同じ国へ招かれ人が現れなされたことはないでな。
その対応に苦慮することもあろう。
じゃがエドワードよ。
そなたは、我ら執事一同より選ばれ、葵天の側仕えとなった身、分かっておろうな?」
そう告げられると同時に、エドワード執事長とエルドリア・メイド長が姿勢を更に正して1礼を。
いや、あそこまでビシッと姿勢を更に正せるものなんだな。
って、そこじゃねぇっ!
貴賓の間にて執事長とメイド長を勤めていた2人が敬う、この御老人は、いったい…
「エドワード執事長、この方は?」
思わず尋ねてしまったよ。
「これは、これは…
下々たる卑ごときにまで、お気を掛けていただけるとは…
卑はルマドと申します。
お耳汚しではございますが、お見知り置きいただければ幸でございます」
イヤに謙るなぁ。
「ルマド様?
たしか…王城統括執事長ではなくて?
内向きの家宰も兼務されておられるという、伝説的なお方だと、聞き及んだことがございますわ」
ヒューデリア嬢が呟くようにな。
「ほほほほっ、これは、これは。
ハウマン家のヒューデリア様で、あらされましたかな?
そのような、お耳汚しを耳にされましたか…
恭悦の限りに存じまする」
ほっへぇ~
そんなに偉い爺さんなんだね。
ビックリだよっ!




