神隠し65
宰相様のエスコートにて玉座の間をね。
っかさぁ、間、ってるけど、明らかに部屋ではなく館クラスだよね。
日本の一般的な家が小屋に見える規模を、館ではなく、部屋呼ばわりしないでいただきたいものである。
ゆさゆさと揺れる肉塊を、視界から成るべく遠ざけるようにしつつ移動を。
なんとも凄まじい精神への攻撃を耐え凌ぎ、ようやく謁見室へと。
本来は、控えの間にて待機し、呼ばれたら謁見となるのが普通らしいぞ。
だが俺達は直接、謁見室へと足を踏み入れることにな。
っか、謁見の間は本来は謁見する部屋である謁見室のことだろ?
なのに、この館が城内の部屋扱いだから謁見の間で、謁見する部屋を謁見室と呼んでいるらしい。
なんか、ややっこしいなっ!
俺は謁見の作法など知らない。
だから当然、こちらへ着いてから教わるものだと思っていたんだ。
だが実際には全く教わっておらず、内心ではヒヤヒヤしていたりする。
アリンさんとヒューデリア嬢は貴族の嗜みとして習得はしているとのこと。
だが、謁見など生涯に有り得ないことと思っていたみたいだな。
貴族の位だが、領家の家長が藤位であり、一族は、その門下扱いなのだとか。
ヒューデリア嬢は第2令嬢なので藤下2女となるらしい。
親戚筋だと藤下縁1位から15位までが貴族位として扱われるんだとさ。
遠縁になるほど縁位が上がるのだとか。
アリンさんは郷主様の孫になる。
郷家家長が儒位であり、分家のアリンさんは儒下縁1位3男となるそうな。
貴族位は色々と複雑そうなので、詳しくは聞いてない。
雑談ていどで軽く聞いただけで頭が痛くなりそうだったな。
しかし、爵位じゃねぇ~んだな、ここ…
揺れる肉団子に導かれ赤い絨毯の上を歩む。
視線はアリンさんに合わせて下向きを。
2人が止まるタイミングで、俺も止まったよ。
揺れる肉団子は、そのまま進んでるがなっ!
思わず付いて行きそうになっちまったぜっ!
2人は宰相様の動きが止まったタイミングで膝間付く。
揺れる肉団子の衣擦れる音が止まるタイミングだとは…嫌なタイミングだなっ、をいっ!
膝間付いた際に、右腕は胸の前へ手の平を開き、開いた方を前方へ。
左腕は後ろ腰へと回す。
そして、俯いたままで、ひたすら下知を待つ訳だな。
一般庶民には辛い仕様さね。
2人が俺より少し前へ出ててな、身振りをチラ見で真似てた訳だが…もう、冷や汗ダラダラってなっ!
そんな俺達へ玉座よりお声がね。
「いやいや、招かれ人たる葵様に畏まられては、片身が狭いというもの。
しかし、見事な貴族式作法ぞ。
肝心いたした」
そのようにな。
続けて皇王様がな。
「苦しゅうない、面を上げよ」ってね。
思わず上げそうになり、踏み留まったよ。
だって2人が顔を伏せた侭やもんよ。
焦ったぜっ!
「良い、上げよ」
そう告げられ頭を上げることにな。
面倒臭ぇっ!
顔を上げ目に入ったのは、玉座に座る皇王様の姿だな。
宰相様と武官が玉座の左右に。
小説や漫画などでは壁際へ貴族がずらりってあったが、衛兵以外は居やしねぇ。
なんか思ったのと違う…あんるぇ?




