神隠し123
晩餐の料理は御馳走と言って良い品だったが、悪く言うと田舎料理とも言えるだろう。
郷愁を誘う味と言えば良く聞こえるが、古くさいとも言える。
俺は嫌いじゃないが、今時の若い者には合わないんじゃないかな?
尻の青い若僧には、理解できん味だろう。
そんなん思いながらいただくと、聖女様がね。
「葵天の話じゃと、今の日本は、うちが居った頃と比べれば別世界じゃねぇ。
食べ物が毎日大量に捨てられちょるって…なんて罰当たりな…
うちらは、ひもじい思いをして暮らしちょったんじゃが…」
うんっとね、あちらでは、様々な料理があることを教えたんだよ。
そしたらさ、大量生産と大量消費の話になってね、食べきれるのかと…
でぇ、食べきれなかったら破棄だわな、うん。
この点においては、聖女様と同意見だ。
自給率が低く、他国からの輸入に食料を任せている国、日本。
他国では餓死する者もいるのに、当たり前のように食べ残す客。
店も大量に仕入れ、余れば破棄。
聖女様から酷い国になったと思われてもね。
聖女様と話していると、日本の歪な現状が浮き彫りになってくるから、面白い。
日常と思ってることが、過去の方から見たら異常ってな。
まぁ、余り理解して貰えなかった家電品については、理解できないのに興味を持たれて根掘り葉掘り訊かれたよ。
説明が大変だったわい。
聖女様の時代はガスも無く炭とか薪だったのだとか。
ガスコンロもだが、蛇口を捻るとお湯が出ることに驚いていたな。
75年前の日本と今の日本、完全に別世界なんだと、改めて認識させられたよ。
そう言えば先輩がな、30年前の日本と今とでは、違う世界のようだぞ、なんて話を聞いたこともあったか…
30年前にはスマホどころか携帯電話さえ普及しておらず、パソコンも普及して無かったってさ。
パソコンは家庭に有ってもハードディスクなど無く、5インチフロッピーディスクを入れ替えて動かしてたらしい。
ビデオデッキはあったがDVDは無いし、インターネットなんか影も形もないからな。
75年前どころか、30年前でもヤベんじゃね?
10年一昔って聞くが、20代の俺も10代前半のヤツらとはカルチャーが違うんだろう…
そう考えたら、なんだか恐くなってきたよ。
こちらの方が速く時間が流れるとは言え、時間が経ってからあちらへ戻れば、時代遅れへと。
マジで帰還の方法を探さないとな。
そんな感じで晩餐を終えたんだが、何故か聖女様には気に入っていただけたようでな。
令和の日本を知りたいから、また来て欲しいってね。
交流会も兼ねた晩餐会が終わり、俺は自宅へと。
聖女様は他国の王族より治癒を求められており、明日から出掛けるそうな。
レクイア鳥での移動だが、1ヶ月は帰ってこれないってさ。
俺と、もっと語り合いたかったみたいでな、残念にされてたよ。
しかし…真素操作にて治癒かぁ…どうやるんだろね。
想像も出来ないぜっ!
そんな、俺には思いもよらない真素操作を行える聖女様は、マジでスゲェっと思いながらユラちゃんの背に揺られて帰るのだった。




