逃走犯(わかればスッキリする話)
良樹は銀行強盗を犯して逃走をしていた。初犯であったが、警察があまりに早く来たことに驚きを隠せなかった。くそ、日本の警察は来るのが早すぎる。とりあえず、どこかに身を隠して、夜になるのを待とう。昼間になんとか小さな緑地に隠れたが、このままでは時間の問題であろう。
そんなときであった。良樹は小さな洞穴があることを林の先にあることを見つけた。しめた、と思った。ここで夜までしのげばなんとかなるかもしれない。しかし、近づくにつれて、そこへいくには少し問題があることがわかった。洞穴の近くには中学生くらいの女の子が制服をきて、たっていた。なにやら歌の練習をしているようである。あの女の子に見つかれば、洞穴に隠れても何の意味もない。少し頭を回して、考えたとき良樹はふと名案を思いついた。
「おい、お前。」
姿を見せて女の子に話しかけると彼女は声は出さないものの明らかに驚いていた。それは、この鍛え上げた体、そして手元のモデルガンを見たら当たり前かもしれない。
「俺は今から洞穴に隠れる。警察が来たらもっとあっちに逃げたと証言しろ。いいな。ちゃんと言えなかったら、洞穴から打つからな。」
「はは、はい。」
女の子は怯えていて、それでばれそうな気もしたので、
「大丈夫だ、ちゃんと証言してくれたらお前をどうしようというわけではない。しっかりやれよ。」
そういって彼女の脇を通りすぎ、少し離れた洞穴の中へ身を隠した。洞穴は少し奥行きがあり、思ったより広かった。ここからだと少し顔をのぞかせれば女の子はぼやっと見える。後ろ姿で少しうつむいているように見えた。俺に脅されて落ち込んでいるのか、少し気の毒に見えた。
定位置を決め、少し落ち着いた時であった。顔をのぞかせると警察の一人がこちらへ近づいてきた。女の子に話しかけるためであった。俺は体を洞穴の奥へ引っ込めた。警察の声はよく聞こえなかったが、女の子は俺にもわかるような大きな声で、
「犯人はあっちの東公園の方に急いで逃げていきましたよ。」
よし、ナイスだ。東公園は少し離れてるし、明らかに撹乱できる。
しばらく、洞穴でほっとしていると、足音が近づいていることがわかった。しかも、かなり音である。草が擦れあう嫌な音だ。そして、少し顔出した、次の瞬間であった。
「川田良樹、確保!!」
多数の警察に取り押さえられ捕まってしまった。
くそ、なんで女の子の証言を信じてくれないだ。緑地には、捕まったときに擦れあった枯れ葉の音だけが虚しく響き渡った。