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能力者達  作者: 蒼田 天
第一章
8/60

能力解放と能力覚醒

 予定を押しに押しまくった第四話になります。

 能力者達という題名ですが、読みはスキルマスターです。

     1


 眠りから目覚めた俺は、まず始めに食事を取った。食事といっても誰もいなかったから、ユイがカップラーメンを作ってくれたのだが。

 ここ一日のことと投薬を打ってお風呂へ入れて看病(かんびょう)してくれたこと、カップラーメンを作ってくれたこと含めて、沢山誤り、とても感謝した。

「ごめん。それと、ありがとう」

「ご、ごめんなんていわなくて結構です。生きていてくれて本当に良かったですよ」

「そんなに死に損ないだったの?」

「まあ、貧血で倒れたのだと思いますけど、少し出血量が多すぎましたかね」

 出血量が多かった、か……。今度は止血をちゃんとしよう。

「ユイって意外と頼りになるんだな」

「意外ってなんですか? 失礼ですよ」

「いや、いつも部屋に(こも)ってゲームばかりやっているのに、いざというとき俺のこと助けてくれたし、メールによると一晩中俺の看病してくれたんだろ」

「なんでそれを! 誰からのメールですか!」

「別にいいじゃん」

 耳まで赤くしているユイをよそに、三分たったカップラーメンを開ける。

「いただきます」

 俺は割り箸を割り、(めん)をすすろうとした。けど、凄い視線が気になる。

「メイも食べる?」

「いや、別に、ソーヘーに用意したものですから、ソーヘーが食べれば……」

「食べたいんだろ」

「いいん……ですか?」

「ほい」

 俺はカップを差し出すとユイは笑顔になり、口一杯に麺をすすった。

「熱くないのか?」

「うーん。大丈夫なんですよ、こういうの。昔から」

「へー」

「能力の代償(だいしょう)ではないですよ」

「なら別にいいんだけど」

 (めずら)しく感の鋭いユイは、俺の考えたことを読み取ったらしい。

「深く聞かないのがルールだからな」

「分かっているのならいいんです」

 するとまた一口ズズーと麺をすすった。

「どんだけ食うんだ」

「すみません、あと一口」

 ズズー。

「やっぱもう一口」

 ズズー。

「ありがとうございます」

「結構食ったな」

 元々あった量の半分以下になっていた。

「すみません」

「別にいいよ。空腹ほど人間辛いものはない」

「ありがとうございます! 分かってくれました?」

「腹にグーパン入れて、食ったもん全部出さすぞ」

(まこと)に申し訳ございません」

「冗談だ」

 残ったラーメンを平らげ、取り()えず、昨日破けてしまったスーツの件について聞いてみた。

「なあ、ユイ」

「はい?」

「スーツって昨日ので破けちまったろ。そういうのって、これからどうすればいいの?」

「それだったら、変えが私の部屋に置いてありますよ」

「ならいいや」

「スペアの注文を後でしておきます」

「あー、そのことなんだけど」

 俺は前々から考えていたことを伝える。

「武器とかってさ、今俺、刀と銃と昨日ナイフ使ったじゃん」

「はい」

案外(あんがい)ナイフが使いやすいから、今度からナイフを大量に装備(そうび)したいんだけどさ、メイってマガジン沢山入れれる様に上のスーツに沢山ポーチ着いてるじゃん。あれって」

「ハカセが考えました」

「それは俺が考えたのを向こうに言うことは出来ないのか?」

「出来なくはないと思います、よ? 実際、今はメイの特殊弾のことで研究してるみたいだけですけど」

「設計図書くから、送って貰っても?」

「やるだけやってみますよ」

「よろしく」

 後で部屋に戻って設計図書かないとだな。なんてことを考えてカップラーメンのゴミを捨てに行き、そそくさと部屋へ戻ろうとした。それをユイが阻止(そし)した。

「丸一日(つぶ)れちゃいましたからねー。FPSやりたいです」

「うん、頑張って」

「マルチプレイしたいなー」

「フレンドとやってな」

「待ってください、ソーヘー」

「いいじゃん。少し寝させて」

「もう十分寝たじゃないですか」

「分かったから」

「すぐにですよ」


 ということで俺は部屋に戻って来た。正直めんどくさいのでやらずにこのまま……。

 ──コンコン。

 ノックの音。

「今はいませーん」

 ──ドンドン。

 さらに強くなった。

「扉を叩くと爆発します」

 ──ブゥー。

 スマホのバイブレーション。電話がかかってきた。当然電話をしたのはユイ。当然そんなことをされてもお構い無しに電話を切る。

「おかけになった電話番号は、ただいま……」

『ソーヘー! 開けてください!』

 ついにスピーカーを使いやがった。俺は扉の方へ行き、開けると不満そうな顔をし頬を(ふく)らましたユイが立っていた。

「早くして下さい」

「なんだよ、ノートパソコンなんか持ってくるな」

「いいじゃないですか!」

「どうやってやるんだよ」

「小説をテーブルにしてベットに座って……」

「分かったから、そんな顔するな。可愛い顔が台無しだぞ」

「か、可愛いとかいわないでください!」

 俺はタンスの一番下の引き出しからミニテーブルを取り出し、部屋の真ん中に置いた。

「さ、電気消してください」

「目が悪くなるぞ」

「なってないから大丈夫です」

「電気消すとやりにくいから嫌だ」

「しょうがないですね」

 ぶつぶついいながら、俺のベットに座りパソコンを立ち上げ始めた。

「この間のRPGみたくやってください」

「サブマシンガンとスナイパーライフルをくれ」

「んー、しょうがないですねー」

 ユイがらカタカタとパソコンを操作し、数秒後に俺のパソコンに通知が届く。

「じゃあ始めるぞ」

「FPSは私の方が上手いんですから、足引っ張らないで下さいよ」

「はいはい」

 俺達はこうしてゲームを始めた。


 一回目は久々だったこともあり操作がぎこちなく、結果は五位だった。それからコツを掴み一位を連取。

 かれこれ二時間やり続けた。

「これでおしまい」

「あと一回!」

「あと一回はこれで三度目」

「お願いですよ!」

「次こそ無理」

「じゃあ、次はRPGを……」

「それこそやらねーよ」

 ユイは『えー』だとかいって(うな)っていたが、すぐに黙ると、

「はぁー、まあ、ありがとございます。楽しかったです」

「またな」

「え? またやってくれるのですか?」

「もう少し経ったらな」

「ありがとう、じゃあまたお願いします」

 そういいユイは出ていった。

「終わったー」

「ただーいまー」

 ノブが帰ってきた。ここ一日のことで色々迷惑をかけたと思うので挨拶をしに行こうとした。その時だった。

「ソーヘー! おっはよー」

 バタンとドアが大きく開かれた。

「お、おう、おはよう。心配かけたな」

「別に心配じゃなかったしー。それよりもユイがさー、いつもオレら怪我して帰ってもあそこまで熱心に看病しないんだぜ。なんかあったのか?」

 ガタン、と(となり)の部屋から音が聞こえたが、まあ気にしない事にした。

「別になんもねーよ」

「ならいいんだけどー」

 ニヤニヤと笑いながらいってくるのがうざくて殴りたくなったが、心配をかけたはずなので我慢しておいた。

「ノブ、物達の反応は?」

「いや、不思議なくらい全くない」

「そうか。俺が寝てる間にも?」

「一度もなかった」

「ならいいんだけど」

 俺が倒れた後、みんなで俺の分をやっていたという訳ではないので少し安心した。

「本当にこの頃反応が変なんだよな」

「それって……」

「多分、また日にちを開けて大量に来ると思う」

「そっか」

「次はあんな無茶するなよ」

「大丈夫だよ」

 俺はそう言い愛想笑いした。ノブは「ならいいけど」といい残し部屋を出ていった。


 ***


 オレはリーダーを殺させた。今でもたまに思う時がある。

 あの時もっと早く動けてれば、もっと考えて行動していればって。

 あの時、特大遊物(とくだいゆうぶつ)に、俺は圧倒(あっとう)され体が動かなかった。その時、俺はもう遊物に食われる寸前だった。それをリーダーが守って、いや身代わりとなり、オレに代わり、食われた。

 あの後凄く後悔して、凄く特訓もして、どんな敵にも臨機応変(りんきおうへん)に対応出来るように、みんなを守れるようにって能力も鎌の扱いも、今までやってきた。

 なのに……。あの時急所は外れていたとしても、出血多量。下手したらソーヘーは死んでいたかもしれない。

「クソッ」


 ***


「んー? どうしよっかなー」

 俺はスーツの設計に手こずっていた。

 ナイフを服の内側に入れると考えると前で開けれる方がいいんだよな。それだと耐熱性とかにちょっと支障が出ると思うんだよな。

「んー、ここら辺はハカセに丸投げでいっか」

 紙をパソコンで同じように打ち込む。設計の細かい部分を文字で打ち込み、あとはユイに任せればいいや。

 ユイにメールでデータを送り、俺は刀を持って下のトレーニングルームへ向かうことにした。


     2


 タタタタタタとリズムのいい音と一緒に玉ねぎを切っていく。月末に近ずいてきて少し(ふところ)が心配になってきたので、少しバイトを入れることにした。

 今日もいつも通り接客業ではなく野菜などを切る裏方へ回る。

二織(ふたおり)さん、悪いんだけどこれもお願い出来る?」

「またですか?」

 いつもいつも私に仕事を押し付けてくる化粧の濃い人。何故か接客業ではせず、毎度毎度、私に仕事を押し付けてくる。

「別にいいじゃない。二織さん早いんだし」

「まあ、いいですけど」

「ありがとう、じゃあよろしく」

 彼女は持っていた野菜を全部私に押し付けそそくさと帰ってしまった。

「ちっ、《OSV》が来たあかつきにはあいつを一番最初の生贄(いけにえ)にしたいよ」

 つい愚痴(ぐち)(こぼ)れてしまったがそんなことは当然しない、筈。してはならないのだが。

「にしても、昨日から今日まで一度も物達が来ないとは、どうなっているのやら」

 ブツブツと周りには聞こえないであろう小言で独り言を言う。受け取ったじゃがいもと人参を切るため包丁を変える。

「全く、刃こぼれしてる」

 刃こぼれしていると切りにくいことこの上ないのだがここは我慢する。後で言っておこ。

「次来るのは、一週間後とかになるのかな……来るなら来るではっきりしてほしいけど」

 ブツブツと独り言を言いながら次々に野菜を切っていく。これが終われば帰れる。

「なるべくバイトのない時にお願いしたいなー」

 そして最後の人参を切り終わった。

「終わったんでここで失礼します」

「お疲れ様です」

 私はとっとと身支度を済ませ帰ることにした。


「ただいま」

 ……誰も──ユイ以外──いないのか凄い静かだった。

「誰もいないのか、ソーヘーは起きたのかな」

 取り敢えず治療室へ向かうことにした。

「誰もいない」

 次はユイの部屋に。ノックをしてユイを呼び出す。

「ユイー? いるんだろ」

「ちょっと待ってください」

 中からユイの声が聞こえるが何をやっているのか、何やら忙しそうだった。

「やったー! よしよし!」

「え?」

「お待たせしました、何でしょう?」

 バン、と勢いよく扉が開かれ少し驚いたが、聞くことを聞いて自室へ戻ることにした。

「ノブとソーヘーは?」

「ノブは部屋じゃないですかね? ソーヘーは……部屋から出たっきりですね。ちょっと待って……まさか……うそ、トレーニングルーム」

「ソーヘー起きたのか、よかった」

「トレーニングルームにいるって、十分アウトですよね」

「そうかな? 傷も(ふさ)がってるんだし大丈夫でしょ」

「そういうならいいんですけど」

 ユイは一途だなー。

「じゃあ私ノブの所行ってくるよ」

「分かりました」

 病み上がりでトレーニングルームに篭るとは、元気でいいな。まあ、元気なことに越したことはない。

 そんなことを考えてノブの部屋へ行きノックをする。

「ノブいるか?」

 返答がない。

「ノブ?」

「ああ、メイか……悪い、一人にして貰ってもいいか?」

「ああ、別に構わないよ」

 いつもノブは責任感が強くて心配症で、少し背負いすぎている所がある。

 大方、昨日のソーヘーの怪我について少し気にしているみたいだった。こういう時は放っておこう。

 私は自分の部屋へ向かった。


 ***


 俺は刀を振り続けた。昨日の怪我の原因は油断とか安心のせいで、物にやられたんだと思う。次はあんなミスはしてはならない。丸一日寝ていたら、その間に物達が攻めてくることだってあるかもしれないしこれ以上、同じことがあってはならないと思う。そのために、仲間を守るために。俺は刀を振るい続けた。

 朝飯──といってもカップラーメン半分だが──が遅かったため、昼食は取らずに午後の三時になるまで刀を振るっていた。

「今日は終わるか」

 ぼそっと呟きトレーニングルームから出て、浴室へと俺は向かった。


     3


 それから三日が経った。

 物達は攻めてこなかった。


『ソーヘー、スーツが届きましたよ』

「分かった、部屋に置いておいて」

 俺は中々襲撃(しゅうげき)してこない物達に腹を立て、少しトレーニングがやけになっていると自分でも感じているが、どうしてももっと自分が早く動けるんじゃないかと、限界を越えられないのかと思ってしまう。

 ズンと刀を振り下ろす。一瞬風が巻き起こり俺の髪を揺らす。

「終わるか」

 俺は後片付けをしトレーニングルームを出た。


 部屋に着くとパソコンを立ち上げユイから送られて来たデータを見る。

「ユイ?」

 一瞬ノイズが聞こえすぐに『何ですか?』と、通信機の向こうから聞こえてくる。

「スーツはどこにある」

 部屋に置いておいてと確かに言った。部屋にそれらしき物はない。

『持って行ったとでも思いました?』

「そりゃ、まあ」

『部屋から出なきゃ行けないじゃないですか! めんどくさい』

「そんな理由で」

『欲しかったら取りに来て下さい』

「分かったよ」

 俺は渋々(しぶしぶ)部屋を出て、ユイの部屋へ向かった。

「ユイ入るぞ」

 扉を開けるといつもと同じ大惨事(だいさんじ)

「うわっ」

「『うわっ』とかいわないでもらえますか」

「でスーツは?」

「話を()らさないでください!」

 頬を膨らませ怒っているユイのことは放って置いて、本題に入った。

「それです」

 そういい部屋の端っこに置いてある黒い木箱を指さした。

「ハカセからの話によると耐火性、耐電性、耐熱性等を考慮してTシャツを中に着て、その上にジャケットじゃないとダメだって。ちゃんと耐性付きのTシャツも用意してくれたそうですよ。メイの特殊弾とかで今忙しいんですから、感謝しておいた方がいいと思いますよ」

「感謝しねー馬鹿いねーよ」

 そう言い俺はユイにデコピンした。

「痛ったー」

「ありがとう」

 そういい俺はユイの部屋を後にした。


     4


 まだ夜に近い早朝のことだった。警報音が響き渡り俺は目を覚ました。

『ゲリラ発生! 現在物達、大半は遊物と見られますが、前回と同じ位だと思われます』

「ちっ」

 俺はベットから飛び起きスーツを着る。

 昨日ジャケットにはナイフを仕込み、着れるようにはしておいた。

 Tシャツを着て、ズボンを履き、ジャケット羽織った。ファスナーがついているので一応閉めておく。そして太股のポケットにマガジンを二つ。ホルスターに一度コッキングレバー引き、グロックを差し込む。刀を持ち、一応もう一本の刀を転送出来るよう、ユイの機材室へポーチと一緒に運ぶ。

「先行ってくる」

「位置情報はスマホ」

 俺はスマホを取り出し位置情報を表示させ、そこに瞬間移動。


 そこには異常だった前回より少し少ないが、それでも十分沢山いた。

 その中でも物はちらほらとしか、見当たらなかったのが幸いだ。

「物の姿はほとんどない。前回より少し少ないけど沢山いる」

『了解』

『ソーヘーはいつも通り早いな』

「いいから早くしろよ」

 俺はそういい、瞬間移動装置を一つ設置し建物の物陰から飛び出した。

「一つは装置を設置しといた」

『今向かうからよろしく』

 俺は遊物の群へ突撃する。俺が攻撃を一人で受け持つことで他の奴らが早く作業が出来るように、少しでもこいつらを引きつける。

 まだ薄暗く東の空が明るくなり始めている。

「こい」

 俺は刀を構える。腰を落とし足が地面と(こす)れ、ズズッと音が鳴る。

 すると四方八方に散らばる遊物の眼が(きら)めく。同時に何発も飛んでくる砲撃を刀で迎撃していく。切り下ろし、切り上げ、水平切り、真上に飛び回転しながら切り落とす。

 いつもより数が多いこともあり、迎撃が容易ではなかった。それでも、ここ数日、刀を振り続けた甲斐もあり、いつもより早く切先が動き、次々に砲撃を迎撃出来る。刀が軽く感じる。

 俺は頬をニッと釣り上げる。

「こっちは余裕だから、ごゆっくりどうぞ」

 少しするとノイズが一瞬聞こえた。

『余裕ぶってなくていいです! 集中して! 怪我しますよ』

 少し怒っているユイの声が聞こえる。恐らくこの間の怪我が原因だろう。

「分かってるって。今日はあまり物いないし、それに大遊物(だいゆうぶつ)も少ししかいない。今日は無傷で帰りますよ」

『ならいいけど』

 俺は自信を持ちそう告げた。今の俺は、数日前より早く動ける。遊物位、へでもなかった。

『メイ、リョー、ゆっくりと慎重(しんちょう)に、バレるなよ』

『了解』

『こういうのいつもバレるのノブじゃなかったっけ?』

「確かに、ノブが一番慎重じゃないよな」

『うそっ、そうか?』

『いいから早くしろ!』

 いつも真面目なメイの一言で気が引き締まる。他の奴らもそうなんだろう。通信機からも気が張り詰めているような空気を感じる。

『一箇所設置完了』

『こちらも完了』

『もう一箇所完了』

『こちら設置完了』

『あと一箇所ずつ、それ以外はオレがやる』

『了解』

 俺のいない所で作業はドンドン進行しているようで、通信機から様々な声が聞こえてくる。

「こちら完了」

「メイ来たか」

「あとはノブとリョーがやってくれる。私達は目の前の敵に集中」

 そういいメイは拳銃を引き抜く。

「そうだな」

 俺も一層気合が入った。

「ユイ、能力の解除よろしく」

「俺の分も」

 透明化の能力を解除して貰うべく、メイと丁度合流したリョーがいう。

『はいはい、解除しました、めんどくさいのでノブのも一緒に』

『ざまぁねえな! 丁度今終わりましたよ!』

 通信機からは馬鹿で意地っ張りで意地悪なノブの声が聞こえてくる。本当は心配症で仲間思いの癖に。

 多分余計な心配をユイにかけないようにだと思うけど。

「よっしゃー、はじめるぞ」

「この数だから分ける?」

「そうだな……オレとメイ、リョーとソーヘーで別れて」

「了解」

「了解」

『あれ?』

 全員が了承していく中、何故か通信機の先のユイの声が聞こえた。

「どうした?」

『いや、いまレーダーに変な反応があったと、思うんだけど』

「今はもうないんだろ?」

『多分勘違いです、気にしないで下さい』

「ああ、ちゃんと頼むぜ」

『り、了解』

 少し気にくわないのか、声が暗めだが、勘違いだというのだから大丈夫なんだと思う。

「ユイ転送の準備……」

『出来てます』

「ユイ頼む」

『了解』

 ノブの声にユイの声が重なる。

 一瞬の目眩に似た感覚を味わい目を閉じる。

 目を開けると広がっていたのは、半壊したビルや高層マンションといった所か。

「二手に別れるぞ」

「ソーヘー行くぞ」

「了解」

 リョーとこうやって組むのは初めてで少し緊張する。

『あれ?』

 急に何かを確認するようにカチャカチャと音が聞こえる。

「ユイ? どうした?」

『今なんかいた』

「お前の部屋、Gが出るのか?」

『でませんよ! そうではなくて、こっちの方に大きな物の反応があったと思うんだけど、今は無いんだよな?』

「さっき見たっていっていたやつ?」

『多分。ノブ、どうすればいい?』

 こういう時のためのリーダーさん。

『次に出たらソーヘー、瞬間移動で見てきて。危険性を考慮(こうりょ)してリョーもついて行って』

「了解」

『出たっ!』

 ノブがいったそばから出たみたいだ。

『凄い大っきい』

「行くぞー」

 俺は瞬間移動のためリョーの腕を掴む。意識を集中させ元いた場所へ戻る。

 島からあっちまで行くのに二秒かかるという欠点があるが。俺は瞬間移動を使用。

 少しの間の浮遊感。

 目を開けるととそこには転送前は沢山いた遊物で頭がおかしくなりそうだったが、今は都会の風景が……広がってなかった。

 一体だけ、とてつもなくでかい遊物がいた。

「デカっ」

「特大遊物……」

 特大遊物。話には聞いていたけど、大き過ぎ。それと、恐竜という、何とも凶暴さを形にした動物のような姿をしている。

「あれが昔、リーダーを食った」

「え?」

 あまりに急で理解するのに時間がかかった。決して聞こうとしたことはなかったがそれでも何度か話は聞いている。

 人が良く強かった。何も能力を持っていなかった癖に、俺と同じ位の戦闘力もあったとか。あいつらも嫌な記憶だと俺も思ったから聞かなかったが、まさか、特大遊物に食われてるとは思わなかった。

「ノブ、特大遊物だ。ティラノサウルス型だわこれ。俺が殺す」

『無茶すんじゃねえぞ』

「ソーヘー構えろ、尻尾と口、あと砲弾も他のより強い。あと火を()く」

「火?」

 これは驚いた。火を噴くなんてことは、ティラノサウルスというより、RPGなんかのドラゴンに近いと思う。

「分かった」

「取り敢えず、ここだとビルをぶち壊す事になるから、ソーヘーの瞬間移動で行こう」

「まじかよ」

「高さを二百メートル位に瞬間移動頼む」

 俺らはビルの陰に隠れ、作戦会議、そしてタイミングを見計らう。

「今だ!」

 リョーがいうと同時に飛び出し、数歩走ってから跳躍(ちょうやく)した。跳躍に合わせて瞬間移動で遊物の所まで一気に接近。首筋──あるのかないのかは別として──の辺りに掴まる。

 それに合わせてリョーがハンマーで奴を殴る。恐らく眼の部分に直撃した。それに合わせてまた瞬間移動を使う。次は島へ戻る。

 第一段階クリア。

 次は第二段階。果たして上空二百メートルに瞬間移動出来ているのかだ。

 視界が開けると少しの落下感、そして地上は遠く、そして荒れている。

「成功したみたいだな」

 気が付くと特大遊物は目の前から消えていた。

「ありゃ?」

「ソーヘー、俺を投げろ」

「えっと、あの物に?」

 特大遊物は急降下を続けている。恐らくリョーが叩き落としたのだろう。

 俺はリョーの足の裏を両手で抱え、それを能力の最大限の力で投げた。

 グンッと腕に重さが伝わって来ると同時に、奴より早い速度で落下するリョーを見た。ハンマーを右腕の横、サイドスローの形へ持っていく。

『《隕石衝突(メテオインパクト)》』

 通信機からは確かに聞こえた。必殺技、リョーとノブの模擬戦で見たけど、どちらの物も凄かった。特にリョーのが。破壊力が桁違いだった。

 それに落下の速度が全部消えるほどの力で投げたハンマーだ。確実に浄化されるだろう。

 もう黒い点と化した特大遊物の周りで砂埃が立ち、物凄い轟音(ごうおん)が聞こえた。俺も瞬間移動で地上へ戻ると砂埃(すなぼこり)で辺りは真っ暗だった。

「これじゃ何も見えねー」

 そう呟きながら歩いていると坂があった。

「こんな所に坂あったっけ?」

 少しずつ砂埃が晴れていくうちに分かった。坂じゃなくてリョーの攻撃で作ったクレーターということを。

「凄い有様だな」

 取り敢えず特大遊物はここに落ちた筈だからそこら辺にいる、もしくは浄化していると考え周囲を警戒しながら探索する。

『ユイ、ソーヘーの位置情報を』

『了解』

 恐らく俺との通信を切っていないユイは、リョーの声もきちんと聞こえてくるのでついでに聞くことにした。

「リョー、特大遊物は生きていると思うか?」

『そうだな……こんなんじゃ死なないと思う。あまりうろうろしてると見つかって襲われるぞ』

「うへぇ、生きてんのかよ」

 正直あの一撃で生きているのは生き物じゃない。ユイの部屋をカサカサする、生命力の高いあのGですらこの有様じゃ粉々に消し飛ぶ筈。

『リョー、送信しておいたよ』

『ありがとう……近いな』

『ソーヘー! すぐ後ろに!』

 突然の叫び声に反応が出来なかった。だが、考えるより体が先に動き、刀を体の前に構え後ろを向いていた。だけど、飛び出して来た特大遊物にどう対処すればいいか分からなかった。

 ──ここで、死ぬ。

 そう直感してしまった。

 一瞬地面が揺れ、何事かと思ったが、それを気に思考が切り替えられる。

 ──戦わなきゃ。殺らなきゃ殺られる。

 俺は再度、刀を構えた。これだけの巨体だ。攻撃を避けさえすれば懐に入るのは容易(たやす)い筈。問題はその後だ。あれ程の攻撃を食らったにも関わらず、生きているこいつの肉体は相当硬いはず。この刀で切れるのか?

 取り敢えず懐に入るべく、刀を構え腰を落とす。俺が踏み出そうとしたその時だった。

 特大遊物のすぐ横の地面。が、急に盛り上がった。現実ではありえない光景。空中浮遊、分身、超筋力、更にでっかいクレーターまでココ最近では結構普通だ。

 それでも地形が変形、いや、地面が攻撃というのが正しいのか、こんな光景は見たことが無い。まるでマンガの、仲良し兄弟のお兄さんの使う錬金術のようだった。

 地面はそのまま伸びて行き遊物に激突。そのままの勢いでビルの中へと突っ込んでいった。

「大丈夫か、ソーヘー?」

 不意に話しかけられ、もう何がなんだか分からなくなっている俺の思考回路は、取り敢えず反応は出来た。

「なんとかな……これは……一体」

「あ、あぁ……なんか、出来た」

 曖昧(あいまい)な返答に微笑(びしょう)を浮かべリョーがいった。

「《能力覚醒(のうりょくかくせい)》」

「《能力覚醒》?」

「えっと、元々持っている能力の隠された力みたいな」

 なに、その隠れスキルみたいなカッコイイの。

「もしくは、新しい能力が使えるようになるとか」

 新スキル入手か。

「《地形変化》? そんな感じかな?」

「いや《地形操作》の方が近いかな? 多分それっぽいことが出来るはず」

 ますます、あの錬金術使いのお兄さんを思い出す。

「一応、退避して体制を立て直そう」

「そうだな」

 俺らは遊物が突っ込んでいったビルの二階へ行くことにした。


     5


「俺の能力を使って柱みたいに足場を作る」

「ふむふむ」

「それで特大遊物の機動力を殺しつつ、かつ戦いやすくする」

「ふむふむ」

「理解出来たか?」

「うむ」

 先程、咆哮(ほうこう)を上げ飛び出してきた特大遊物を眺めながら返答をする。

 ただ眺めているだけでは勿論ない。こいつの核がどこにあるかは分かるが、この巨体だと刀でだと届かない。更にあの皮膚の硬さだと、刺さっても刃の三分の一程度だろう。しかも抜けなくなりそう。

「いつ行く?」

「うーん、もうちょっと」

「何を見てる?」

「核にどうやって刃を突き刺そうかと思って、少し、見ている」

「ガン見してるけど」

 絶妙(ぜつみょう)な正論でツッコミを入れられ返す言葉がなかった。その時、口を大きく開け、咆哮を上げた。

「グルアァァァ」

「あっ」

「どうした?」

「口の中からだったら……」

 核は額の奥の方にある。それは丁度口を開けた時、喉の奥から良く見えた。実際、あの体じゃあ外から傷つけるのは難しいが、中からだったら分からない。

「口の中からだったら核に直接切り込めるかもしれない」

「火を噴くぞ」

「うっ」

 いくらこのスーツが耐熱、耐火に優れていても、露出している顔などは流石に守れまい。

「じゃ、じゃあ……」

「ぼぼ無理だろうな」

 これは困った。外からは届かず、中からは焼かれて食われるなんて……。

「あまりにも、不利」

「止まってても始まらないし、ノブ達の方へ向かったら大変な事になる。取り敢えずあいつのペースに持ってかれないように、奇襲を仕掛けよう」

「そうだな」

 そういい、戦いの算段を立てる。

「こいつでそっぽ向かせて切り込む」

 俺はポーチから試験管を取り出した。

「そうしよう」

「俺が投げる、そこにさっきの《地形操作》で足場を作る。それの間俺が相手する」

「分かった」

 俺らは顔を見合わせる。リョーとはここでしばしの別れ。一階に降りて貰い地形操作の準備をしてもらう。

「いくぞ」

『了解』

 俺は試験管を瞬間移動で奴の方へ移動させ地面に落とす。

 特大遊物の視線はそっちに向く。

 俺は刀を構える。

『いくぞ』

 その声と同時に地響きが届く。それを合図に俺は特大遊物の所に瞬間移動。

 刀を両手で持ち右から左への水平切り。をするつもりだった。

 刀は吸い込まれるように、奴の脇腹に切り込みにいった。だが、肌は鉄のように硬く、刃は数センチ切り込めた位だった。

「硬ぇなおい」

 俺は刀を引き抜き左下から右上、首へと向けて攻撃をしようとした。

 目の前に巨大な黒い塊が突っ込んできた。俺は咄嗟に刀で受けたが、衝撃が強く弾き飛ばされた。

 尻尾と少し舐めていたが、硬さが尻尾じゃない、あれ。太い鉄パイプかなんかだ。

 それでもあの時、刀で受けたら尻尾の三分の一程度まで刃が入っていった。

 先程からは後ろで地面が突起して、柱を作っていっている。俺だって戦わないと。その為には奴を柱の真ん中へおびき出さないと。

 俺は腰を落とし一気に接近。奴もこちらに突っ込んで来る。俺は左に構えた刀をしっかり握ると瞬間移動で奴の目の前に行った。

 上段に構え振り下ろす。刀は眼の部分に突き刺さる。やっぱり眼の部分は比較的柔らかいのか。

「ギャアアアア」

 奇声と悲鳴の混ざった声で吠えると、頭をブンブンと振った。

「なんつう馬鹿力だよ!」

 俺は刀を引き抜き後ろに飛ぶ。その直後、待ち()びていたかの如く、奴の尻尾で突き飛ばされた。初めてノブに蹴られた時みたいだと感じた。

 そのまま大きなビルとビルの間の大通りの空を舞っていたが体制を立て直すべく状態を起こし、地面を見る。そこにもう、奴の姿はなかった。

「え?」

 俺は一瞬にして暗くなった目の前の光景で、少し前の大遊物との戦いを思い出した。振り返ろうとしたが、俺は振り返る間もなく、地面に叩きつけられた。

 それでも一応は奴を地形操作による柱のど真ん中だ。

 ──あとはこっちのもの。

「いってて、いくぞ、リョー」

『ああ』

 俺は特大遊物の右手前にある柱に行くことに決め、幾つか柱を行き交い到着した。リョーは、一回の跳躍で俺の一つ下の所にある柱の左側へ着地した。

『ソーヘー、リョー、そっちは大丈夫か?』

 ノブの声が通信機から聞こえてきて、それに俺とリョーが返答をする。

「取り敢えず、大丈夫」

「こっちは何とかする」

『危険だと思ったら連絡をしろよ』

「分かってる」

 小学生の長距離移動を心配する母親の様なことをいってやがって。心配症なんだから。

 俺とリョーは中段で武器を構える。特大遊物は咆哮を上げるとリョーの方へ突進した。リョーは跳躍しハンマーを振りかざす。両者は激突し空中で止まる。だが、特大遊物は回転し尻尾でリョーを叩き落とした。

 ──あいつ、尻尾多いな。

 奴との戦闘で数分が経過している中で、尻尾での迎撃が多いと俺は思った。

 ──尻尾が邪魔だ、切り落とそう。

 俺はリョーを叩き落として咆哮を上げる特大遊物の背後へ瞬間移動をした。俺は刀を振り下ろし、尻尾の切断を試みる。

 だが、少し刃が入っただけで、やはりびくともしなかった。俺はそのまま、成り行きに任せるしかなくなった。俺は刀ごと奴に振り落とされた。

「くっそ! 皮膚が硬すぎる」

『ソーヘー、その土煙の中で透明化して移動』

「了解」

 俺は着地後、透明化を発動。

『ソーヘーこっちはこいつとで精一杯だ。でも隙さえあれば切れる。こいつは遊物だから再生は出来ない筈だ。だから少しずつでいい、傷を作って倒そう』

「分かった」

 俺は土煙の中から飛び出すと足場をどんどん登っていった。

『ソーヘー、瞬間移動で回避をすれば透明化は解除されない筈だ』

「なるほど、分かった」

 特大遊物には現在進行形でリョーが相手をしていた。リョーはハンマーで尻尾を受け流し、特大遊物を足場へと叩き落とす。

「おー」

『感心している場合じゃないだろ』

 足場を崩しながら体制を直す特大遊物を俺は見ていた。膝? の少し下だから……スネ? の部分に、金属の棒が突き刺さっている。さっきの足場に入っていて、それが刺さったのか。なるほど。

 俺は特大遊物に切り込みにいった。脳天を切り裂こうとするも、やはり硬くビクともしない。俺はその後来る尻尾を待っていた。切り始めて数秒後に待ち侘びた尻尾が来た。それに刀を構える。構えた刀に尻尾が刺さる。

「よし!」

「グルアァァァ」

 遊物は咆哮を上げ尻尾を振り回そうとする。と思ったので刀を引き抜こうとした。

 だが、俺はそのまま振り飛ばされた。刀は抜けずに刺さったまま。武器はナイフと拳銃と爆弾等のみ。

 だが、俺はビルに衝突する直前、体制を立て直し瞬間移動。そのままの勢いで刀を掴み切り裂いた。何とか刀の救出成功。

 そう思っていたのも束の間、またもや尻尾で突き飛ばされた。その勢いそのまま瞬間移動。で、首筋を切り裂く。どうだ。直後奴は大きく口を開けた。

 ──食われる。

 そう思った。奴の喉の奥が(ほの)かにオレンジ色に光った。

 ──ああ、火を噴くのか。焼いてから食うのか。そうか、生は苦手か。

 そんな思考が俺の脳内を駆け巡った。


 ここで、死ぬ。そう確信した。その時だった。あいつの声が聞こえた。

「ここで、死ぬのか?」

「いや、これじゃ死んじゃうでしょ」

「そうだな、だが、まだ本当の力を出していないじゃないか」

「本当の力?」

 力とは、能力のこと? それとも俺の本気? 本気なら出している。瞬間移動を使えば避けれるかもしれない。でもその先に焼かれる気がする。少しなら耐えられるかも。

「その刀の力を出していないじゃないか」

 刀の力。あるのか、この刀に?

「出してみよ。真の力を」


 意識が戻る。視界に映る全ての光景がスローモーションになって見える。

 俺は意識を集中し刀を握り直す。崩れた体制を直す頃には、奴の口は炎で赤く染め上げられていた。

 俺は咄嗟に刀で受けの体制を取ってしまった。火なのに。燃やされるのに。

 だが、自然と熱さは感じず、むしろなんか底知れぬ力が、溢れ出てくるような。

 俺は顔を上げる。そして驚愕した。

 燃えていた。俺の刀が。

「刀がぁ!」

『刀? どうした?』

 俺はここ数ヶ月大切に使ってきた刀に挨拶もせず別れる事になるかと思った。

 けど少し違った。

 燃えてない? 炎が刀の周りを、(まと)っている……そんな感じだった。

 これなら切れる。根拠はないが、そう確信した。

 俺は奴の大口の中に入り、まず両端を焼き切った。

 太い尻尾が俺を横から薙ぎ払う。それは左腕に直撃すると鈍い音がした。

 叩き飛ばされても瞬間移動を発動し、奴の喉の奥、にわかに光る赤い核に、燃え盛る刀を勢いそのまま突き刺した。

「うおぉぉ!」

「グルァアァァァァ」

 初めて聞いた特大遊物の耳を(つんざ)くような奇声に圧倒されながらも、刀を奥へ突き刺していく。

 刀の(つば)の部分まで刃が刺し込まれると急に奇声を上げなくなり、そのまま消えていった。

 お、終わった。

 が、奴の口の中を足場にしていた俺は、足場を無くしそのまま地上へ落っこようとしていた。その距離およそ五十メートル。流石に超筋力を使っても無傷では済まない。という俺の思考回路をリョーの地形操作の足場の一つが助けてくれた。

「ふぅ」

「おい、ソーヘー」

 歩み寄って来たリョーが(いぶか)しい目でこちらを見る。

「最後のあれはなんだ」

「なんだろう? 俺も分かりません」

「お前、左腕!」

 そういわれ左腕に視線が移動。今まで気づかなかったが、青く染まり、曲がる筈のない方向に曲がるようになっていた。

「うわっ、痛そ」

「いや、お前の腕だぞ。すぐに手当だ」

 俺はリョーに(かつ)がれ瞬間移動装置に入れられた。

『リョー、まさか、倒した?』

「ああ、ソーヘーがな」

『まじですか……怪我は』

「ソーヘーが左腕骨折」

『早く戻ってきてください!』

「了解」

 俺は操作を済ませ、ユイに通信をしてアジトへ戻った。


     6


「ただいま」

「おかえり」

「あのー、なんでそんな顔をしているのかな?」

 帰って来た俺が見たのは、だだっ広い部屋に大量の木箱と黒い正方形の瞬間移動装置が置いてある部屋で不機嫌そうな顔をするユイだった。

「その腕、怪我してるじゃないですか」

「はい」

「無傷で帰るっていったじゃないですか」

「すみません」

 いつの間にか少し血が出てきた腕を睨みながらユイがいう。

「投薬打つから、じっとしててください」

 そういい部屋を出ていってしまった。

「迷惑かけっぱだな」

『ソーヘー、人がいなくて辛いよー』

「済まない」

『ソーヘー、早くして』

「なるべくそうする」

『ソーヘーいなくても、もう時期終わりそうだよー。ごゆっくりどうぞ』

「ノブ、わざとじゃないか?」

『お前が特大遊物を一人で倒したのか?』

 いきなり真面目な口調になるので少し驚いた。だが、質問にはちゃんと答えることにした。

「リョーと一緒さ。ただ、倒す時に《願いを叶える神》の声が聞こえた、ような気がする」

『あのクソ神に会ったのか?』

「あ、うん? 会ってはない。声が聞こえた気がした」

『そうか。能力に変化とかは?』

「色々あるから取り敢えず、全員戻ってから話するよ」

『分かった』

 そこで声は途切れた。代わりに通信機の向こうからは何かを切り裂く音や銃声が止まずに聞こえ続けた。


     7


 投薬のお陰もあり骨はすぐにくっつき、傷も消えて少し安静にしている俺は、全員の朝食を作り全員で食卓を囲んでいた。

「それでは全員の討伐結果。ソーヘー、一体。ぶふっ」

「ユイ、なぜ今笑った」

「別に、特大遊物を倒したんだから凄いと思いますよ。ふふっ」

「ソーヘー、願いを叶える神の声が聞こえたってのはどういう事だ?」

「ああ、それは……」

 全員に今ここで言おうと思っていた所で、話題を振って下さりありがとうございます。俺は本題を話すことにする。

「なんか、あいつと会話して、刀の力を出せだっけ? 真の力は出していない、みたいな」

「それ、俺も聞いた」

 そこで割って入って来たのはリョーだった。

「俺も《地形操作》が使えるようになる直前に、似たような事をいった声を聞いた」

「なるほど、ありがとう」

 そういい頷くノブは、やけに真面目で驚いていなかった。

「その声は俺も聞いた事がある。そしてメイもだ」

「《能力解放(のうりょくかいほう)》、または《能力覚醒》の前兆だ」

 そういったのはメイだった。

「推測だがな。ちなみに、ソーヘー君はどうなったの?」

「えっと……」

 俺はあの一瞬の出来事を、一生懸命絞り出しながら説明する。

「なんか、特大遊物が火を噴いて、それを刀で咄嗟に受けたんだよ。そしたらそのまま刀が炎を纏って、焼き切った感じ」

「ほう」

 俺は多分こんな感じだったはず。

 微妙な記憶だけどちゃんと伝えはした。

「《能力解放》か」

「能力解放?」

「ソーヘーの新しい能力が解放された、みたいな感じ」

「へー」

 能力解放。能力覚醒は能力自体の大幅な格上げ。それに引き換え解放する。つまり、新しい能力を手に入れたってところか。

「能力解放おめでとう! じゃ片付けとお風呂掃除よろしく。今晩は入った大量の給料でリョーの能力覚醒おめでとう、ソーヘーの能力解放おめでとう会をします。解散」

 そういいノブはソファから立ちあがり、部屋の方へ戻って行った。

 遊物の数は千を超えていたし、それをメイと二人でほぼ消したんだ。疲れたんだろう。

 俺は空いた食器を重ねてシンクへ運んだ。

 学校が始まったりで色々バタバタしているのも、だんだん収まって来ました。皆様は新生活に慣れましたか? 私は学校が広すぎて、まだたまに迷子になります。

 この度ペンネームを変えさせていただきました。理由はぶっちゃけ漢字の方がかっこよかったからです。

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