First Mission
能力者達という題名ですが、読みはスキルマスターです。
投稿が遅れに遅れて申し訳ございません。
1
『ソーへー、そっちの状況は?』
「忙しい」
『おわー、暴れてるね。バーサーカー君』
「変な呼び方、するな!」
俺は物達を誘き寄せてノブ達の仕事の邪魔をさせないこと。ノブ達はその間に《瞬間移動装置》を設置している。
遊物の攻撃パターンは《眼》からの光の様な攻撃。俺達は《砲弾》とよんでいる。そしてその眼の奥に《核》がある。それを破壊すれば倒せる。また、極小遊物以外の遊物は動物に擬態化しているため、例えば、犬ならば噛付くことが出来るなど、動物の出来ることなら基本は出来る。
俺は、四方八方から飛んでくる砲弾を刀で斬って、斬って、斬りまくる。
この砲弾、もし普通の人間の腕に当たればその腕は飛ぶ、とメイはいっていた。そして俺らでも油断して当たるのはアウトだ、と。
すると跳躍して上から降ってきた物が、擬態化した鎌で襲い掛かる。それを刀で受け止め刀を斜めにし横に流す。そして横へ蹴る。
それから砲弾の集中攻撃。四方八方から飛んでくる赤い光を斬る。だが間に合わない時もある。地面やビルに当たれば、そこは砕ける。その部分だけ砕けていたら違和感を覚える筈だ。
だからそこでホルスターから《グロック17》を引き抜く。俺はトリガーを引くと発砲音と共に銃弾が光へ吸い込まれる様に飛んでいく。すると光は輝きを増し、小さく爆散。
あと、二、三十秒もすれば準備が整う筈だ。俺は柄を握る手に力を込める。
それをさせまいとするかの如く、遊物達の眼の奥が紅く煌めく。
時速五十メートル程ほどの光が次々と降り注いでくる。俺はその全てを斬り落とすため刀を構える。
今まで、野球ボールを鉄で作った模擬刀で打ち落とすことを、毎日、毎日、何度も、何時間も続けた。その時の速度は優に時速八十メートルを超えた。初めは竹刀だったのに、模擬刀になった時は重たくて振るのが大変だった。更に模擬刀になった途端当たりにくくなってしまい苦労したものだ。
今となっては時速五十メートルなんか止まっているも同然。……は少し言い過ぎだな。
俺は左上から来た砲弾をまず斬り、それから次々に右上、左横、後ろ、三連続で右横と何十発もの砲弾を次々と斬り落とす。
『おっし、オレの方は準備完了』
『こっちもOK、メイは』
『OKだよ、ユイ?』
『準備整っています。いつでも大丈夫です』
『そういう訳で、ソーへー。初仕事頑張ってな』
「指くわえて見てな」
俺はそう言うと、左後ろから突撃を仕掛けて来た物の攻撃を刀で弾きながらそう答えた。
するとビルの合間や上から、ノブ達が出てきた。
仄かに青く光っている立方体の側面を眺めながら、通信機から聞こえて来る声に耳を傾けた。
『瞬間移動開始まで五秒』
ユイの声。
『全員、死ぬなよ!』
ノブの声。
『縁起でもない』
メイの声。
『ノブ、花屋のおばさんがバイトにちゃんと来て欲しいって言ってたよ』
リョーの声。
「それを今いう?」
俺の返答に皆が、笑みを浮かべ武器を構える。
『ミッションスタートだ』
2
目に汗が入り、視界が歪む。こんな格好にも関わらずあまり暑さを感じないのは、《ハカセ》の発明力なんだろう。
長袖、長ズボンの黒の革製だろうか? 熱を通さず、冷気も通さない。火や電気に耐性があり、それも通さない。尚且つ動きやすい。それに物達の眼の砲弾にも対処している。俺達は《スーツ》と親しみを込めてそう呼んでいる。
この技術力ならノーベル賞やらは取ろうと思えば取れるはず。にもかかわらずどの資料にも、サイトにも、学会の機密の文書の中にもそれらしき人は見つからなかった。《ハカセ》とは誰なのか。
そんな疑問を浮かべていると、中遊物が目の前に来た。
「うわっ」
犬型の中遊物は決して極小遊物などと変わらず、目の攻撃をしてくるのだか、犬型は加えて噛み付くということをするらしい。まあ、なんせ犬ですし。そう、同じように猫型ならば爪と噛み付くという攻撃があるそうですので、他の動物型の遊物は、その動物の特徴を掴んだ攻撃方法があるということになる。
「ギャァヤヤヤ」
奇声を発し襲い掛かってくる。犬らしくない。核は上顎の上に淡く光る核があるから、顎を思いっ切り殴る。すると、核まで衝撃が伝わるため致命傷程度までには俺の拳で出来る。そこから横蹴りをぶちかます。すると弱った核に強い衝撃がいき、核は破壊される。
破壊といってもそこまで硬い訳ではなく、言ってしまえばある程度傷つけると蒸気の様になり消える様な感じ。そして核が消えればもう存在することは出来ず消滅、《浄化》されてしまう。
「ははっ」
『どうしたソーヘー? 怖いぜ』
「案外脆いなって思って」
『あぁ、そゆこと。まあそのうちもっとキツくなるから安心しなよ』
「安心出来るかよ」
そんな他愛もない会話をしているとどんどん物達が寄ってくる。
『お前ら、無駄話が過ぎるぞ』
「ご、ごめんなさい」
メイさんに怒られた。
いつぞや組手の時に、中々いい勝負が出来ていた。たが、意図的でも、わざとでも、計画的でもなく、仕方無かった。不可抗力だ、全く俺は悪くなかった。でも、それはそこまで。俺はメイの胸を触ってしまった。そこで思考は停止、いや、俺の思考は変な方向へいってしまい俺は「あ、あまり、おっきくないんですね」なんて素っ頓狂なことを、言ってしまった。
正直、前々から思ってはいたけど、言葉にしてしまった。その直後だ。
「調子に乗るなよ……何がないって?」
俺は胸ぐらを掴まれ軽々と持ち上げられた。
「そこまで言ってない! 悪かった! てか不可抗力だろっ!」
「そうだな……それで最後か? 残す言葉は?」
「えっ!?」
そういいメイは能力、《分身》を発動し、体育館の様な所に何体か、何十体数か数える間もなく大量に作り俺は生き地獄を味わった。
メイは怒らせてはいけない事をこれでもかという程に味わった。
「さてと」
俺は刀をまた強く握り直す。
どこを狙う? 一番数の多い極小遊物か? それとも先程からこちらを鋭い眼差しで見る虎型の大遊物か? あいだをとって中遊物か?
「よし」
俺は虎型を仕留めることにした。姿勢を落とし、両足に力を込める。一本踏み出した直後、瞬間移動を発動……。
しようとした。けど右横から黒い物体が飛んできた。咄嗟に刀を構えて正解だった。刀にはずっしりとした衝撃が伝わった。
大きく分けて二つに分類されて《物》と呼ばれる方。知能が高く、体の擬態化、分裂、命令、高速移動を可能とする《物》は俺達にとっては馴染み深く、そして浄化させるのが大変だ。
「マジかよ」
『ソーヘー? どうかしましたか?』
「物が出た。多分……これは中物だと思う」
『幸運を祈ります』
「それだけ……」
俺はそう言い姿勢を落とし刀を構える。両足に力を込める。物は奇声を発し跳躍し、俺との距離を詰める。左足を前へ出し体重を左足にかける。前傾姿勢となり左足で思いっ切り地面を蹴る。それと同時進行で刀を右下に構える。そして距離をゼロにする。
俺は物の後ろ、背中? に向かって瞬間移動した。そのまま瞬間移動しては、物の後ろに回っても向いてる方は全くの逆、なんてことにならないように、瞬間移動した。そしてそのまま刀を振り上げる。
物の体は斜めにキレイに割れた。
──手応えがない。
決して刀の切れ味が良くて手応えがないっていうカッコイイやつでは無い。
これは分裂を利用した回避ということだろう。この物は、恐らく──。
俺がそんなことを考えていると物の分裂した上の体が回転し、俺との向き合った。右下に小さく残った口の様な部分からは不気味な笑い声が聞こえる。
体は変形し鎌のような形になり容赦なく俺を薙ぎ払おうとする。俺は思いっ切り仰け反り地を蹴り、倒れながら地面を擦り、物の下を潜る。背中で体を押し上体を起こす。その勢いのまま振り向き後ろへ下がる。
物はくっつき、不気味に嗤う。
「どうすれば……」
『長年のキャリアってのを教えてやろう』
「ノブ……頼む、何でもいい」
『相手、物の読めない攻撃をすること』
「……いや、わかんねーし。それ無理だろ」
なんだよ、読めない動きって。俺があいつの目の前から姿を消し、後ろから斬った。0.1秒+0.3秒といったところだろうか? だとしたら反応速度は0.4秒でも避けれる以上か同じくらいだ。どうする。瞬間移動、透明化、超筋力、時戻し。この四つの能力で。
瞬間移動は様々な応用が効く。だが、透明化は俺の手から離れれば使えなくなる。超筋力は置いといて、時戻しは役に立たない。なら、こうすれば。
俺は刀を槍投げの様な持ち方をした。そしてそのまま思いっ切り投げる。超筋力を発動もさせている。さらに手から、指先から離れる直前、瞬間移動を発動。一瞬で物の前へ刀は移動し、そして突き刺さる。核に直撃したか? そう思った矢先。
「ギャァヤヤヤ」
──奇声。生きている。俺は跳躍し、0.5秒とかからず懐へ飛び込んだ。下からのアッパー。それに対して分裂する。そこを俺は狙った。今の攻撃は核の中心めがけてのものだ。だから、分裂すれば、自然と核は表面へでる。二つに分かれた体を掴み、地面に叩きつけた。コンクリートに亀裂を作り、クレーターの様なものを作った。俺の手にはもう物はいない。
「ふぅ」
『ソーヘー! 左!』
ユイの声に反応しキックバック。すると猫型が引っ掻き攻撃。さすがはただの動物ではない生物である遊物。猫型の爪は三十センチほどの長さまで伸びていた。
「参ったな」
刀はさっきぶん投げてビルの壁に突き刺さっている。俺はとりあえず距離を取るため後ろに後退。
──カラン。
「ん?」
足元からした乾いた音源を見ると大きな石だった。瓦礫の一部だろう。
「折角見つけたんだし。よいしょ」
瓦礫はそこそこの重さを誇り中々重たかった。大きく振りかぶって、全力投石。ではなく、指先で瞬間移動。猫型の顔面に直撃。めり込み、破裂。浄化した。
「今のうちに」
俺は駆け出した。そこにさっきの虎型が来た。
「邪魔だ!」
左足で踏み込み、跳んでから瞬間移動で目の前へ行き横蹴り。
ドーンと飛んでいきそのままビルに突っ込んだ。
「死んではないよな」
俺は刀の元まで行き、抜こうとした。その時ビルの窓から極小遊物が出てきた。こっちに気づき不気味に眼を光らせる。俺は一本踏み込み、ビルの壁を切りながら、刀を振る。中々容易く斬れてそしてそのまま極小遊物を撃破。
振り返った直後虎型が噛み付こうとしていた。ギリギリだった。俺は刀で受け止めたが止まらない。
「馬鹿力が」
ついつい本音を言いつつも、俺は押し込まれていた。廃ビルの壁に押し付けられながらも、俺は右足で蹴り上げた。
さすがに超筋力の力も負けじ劣らずで虎型を飛ばせた。けどそれでは済まなかった。
俺は囲まれた。正面には虎型。周りには極小遊物、小遊物、中遊物と勢揃いだった。
「しょうがねぇ。本気出すか」
俺は両手から右手一本に刀を持ち構えた。
左手を腰へ回す。《グロック17》を抜く。
標準を虎型に合わせる。
トリガーを引く。銃口を抜ける直前といっても銃弾なんて速い物は移動させようとして出来るものじゃない。だから俺はトリガーを引いた直後、瞬間移動を発動させる。対象は銃弾。銃口から出るまでの一瞬、それを捉える。目標、虎型の眉間の部分。弾は銃口からは出なかった。けど、虎型はよろけて倒れる。そして消えていった。
──上手くいった。
同時に、四方からの怪しく光る眼。そして一斉に飛んできた砲弾を斬る。後ろに振り下ろし、右上へ斬り上げそのまま右下へ斬り下ろし、そこから地面と水平に刀を動かし地を蹴り体を回転させる。そして左、上、後ろ。
着地と同時に左足の太股に付けたポーチから手榴弾を取り出し一番密集している所へ投げる。
同時にガソリン(高かった)を試験管に入れたものを瞬間移動させる。中には俺の血が含まれているため、それに物は寄せられる。そこに手榴弾が飛んできて。
──ドカーン!
「たーまやー」
残り十六体。三体まとまっているところに目を止めた。
狙いを定め……。瞬間移動、蹴り落とし。体はぺちゃんこになり潰れた。そしてそのまま消えていった。そして左にいる遊物にはグロック17の狙いを定め、右にいる遊物に対しては刀を大きく振りかぶる。そして同時に撃ち、斬った。
残り十三体。そんなことを考えていると物が飛んできた。二体か。俺はポーチから手榴弾を取り出す。瞬間移動をし目の前へ行く。
「ギャァヤヤヤ」
物達は奇声を発し大きく口を開けた。本当はその中に入れたかったが、メイが爆弾は乱用するからなるべく取っておいて欲しいらしい。
──だから一個で倒す方法。
物達の所に瞬間移動し、片方を鷲掴みもう片方に投げ付ける。そして手榴弾を二体の中心辺りへ投げつける。そして俺は瞬間移動で爆発から逃れる。俺が地上に着地すると同時に爆発した。煙が晴れると丁度物二体は浄化して行った。
残り十一体。そう思い飛んできた遊物を真っ二つに切る。後十体。
「まだまだ」
俺は刀を構え直した。
『ソーヘー、遅いぞ』
「メイ?」
俺が疑問を投げかけると同時に銃声。カランカランと空薬莢の落ちる音がした。
「こんな所で何してるんだ?」
「持ち場の仕事が終われば手伝うのは当然だろ。ソーヘー、遅いぞ。遊んでたのか? 本当に」
「違う、中物が一体出て……」
「そうか、こっちは三体出た。大変だったな初仕事で」
いい方がいやらしかった。ともあれ俺はプカプカ浮かんでいる遊物へと視線を向ける。後七体。俺は跳躍しようとした。が、必要はなかった。空中で遊物の体は二つに割れていった。その速さ、十秒足らずで遊物は一掃されていた。
「ソーヘー、初仕事おつかれ」
「ノブ、お前の能力、チートだろ」
正直速すぎて見えないくらいだった。俺が中物相手に苦戦している間ノブは遊物を果たして何体倒していたのだろうか。
「いやいや、ソーヘーが物を引き付けてくれてたおかげだよ」
「嫌味だ、なんて最低なリーダーだ」
これが俺の初仕事。特に何も無く終わった。総時間、一時間十七分。退治数、六十四体。退治数のランキング、四位。給料などは勿論出ない。
3
「ふぅー」
俺は今日の疲れた体を癒すために風呂に入り、風呂上がりの牛乳まで飲んだ。なんでこう、風呂上がりの牛乳は美味いんだろう。
「ノブ、風呂掃除」
「えっ?」
「風呂掃除をしろ」
「なになに? 俺が払った集金のお礼に風呂掃除をしてくれるって?」
「分かったよ」
ノブには、先月と二ヶ月前と三ヶ月前の集金の建て替えをしてやった。計一万四千円。その借りはこうやって返して貰っている。
俺は髪の毛を拭きながらリビングへ行くとスマホの画面が点灯。
『お風呂出たのですね。パーティー組みましょう』
ユイからのメールだった。
『めんどくさい』
返信しスマホを机の上へ置こうとした。微かな振動。
『お願いします』
『分かったよ』
さぞかし喜んでいるだろう。ふっふっふっ……地獄を見せてやる。
『一時間待って』
ざまあみやがれ。俺は嘲笑した。
『あーあー、ソーヘー』
「ん?」
室内放送。この家というより砦には、全体にスピーカーが着いていて、ユイの通信機から放送をすることが出来る。
『やらないのなら殺しますよ?』
『調子乗るな』
送信。──しようとしたが止められた。
「ノブ、何すんだ」
「馬鹿! よせって! あいつキレたら容赦ないから」
「どういうこと?」
「昔々、あるところでノブ君はゲームに誘われました。ノブ君はゲームはあまり得意ではありませんでした。ノブ君は断ると、ユイさんは今のように「やらないならば殺しますよ?」といいました。ノブ君は気にせず次の日、実はあの島、マシンガンとかが沢山設置されているんだ。それに殺されかけた」
「確かにFPSはあいつ上手いな」
「そんな呑気な話じゃない。空まで逃げたぞ。ダメ押しに追撃砲まで撃たれたぞ」
「そうか、それでも生きてるノブってなんなんだ」
「逃げ切ったわ」
そんな他愛もない話をしていた。が、魔の手は差し掛かっていた。
『早くしてください』
『分かったよ、めんどくさい』
俺は部屋へ急いだ。
俺はパソコンの前へ行き、それを立ちあげる。あまりいい機械では無いので少し時間がかかる。その間に冷蔵庫からカフェオレとバナナオレを出した。パスワード五十九桁を打ち込み、他のゲームをログインしボーナスを貰う。
『早くしてください』
メールが来たが無視。
二作品のゲームをログインし終わり、ユイと今から始めるゲームを開く。
「さて、やってやるか」
ゲームが立ちあがる。
『遅いです! 何やってたのですか!』
『別にー、他のゲームをログインしただけだよ』
そう打ち込み送信。そしてすぐまた新しいメールを打ち込む。
『で、何するの』
数秒後。
『お話よろしいでしょうか?』
画面の左下にボイスチャットの表示が出る。『OK』ボタンを押しイアホンをパソコンに差し込む。
「で、なんですか?」
『えっと、魔王討伐クエストを……』
「馬鹿か? こっちはこの間始めたばっかなんだけど」
ユイのことだから俺のことを考えていないだろう。
「俺のランクわかるだろ」
『でも……攻撃当たらなければ』
「多少出来てもさ、今のランクで最高難易度の魔王討伐クエなんか無理だろ! 一撃でも喰らえば死ぬから」
『お願いします! ダメ元でもいいので』
「はぁ、分かった、但し、失ったEXPはお前手伝えよ」
俺は溜息混じりに言うとヘッドフォンからは唸り声が聞こえた。
『そ、それで手を打ちましょう』
「てか二人で? 無理だろ」
『そうですか?』
「昔、十人くらいで行ったら一人で残ったぞ」
『パーティー弱いですね』
「お前酷いこというな」
『まぁ、なんとかなりますよ。役割分担決めましょう』
「はいはい、了解」
数分のやり取りと作戦会議でユイのバックアップと前後のスイッチで弱点にエクストラアタック(このゲーム最高難易度のコマンド)をMPが消えるまで続ける。もし、いい感じに相手のHPを六、七割減らせたらポーション使用でMP回復。
『じゃあ、行きましょう』
「ランク34で魔王討伐クエストとか」
『ランク上げ手伝いますから』
「頼んだぞ」
『しっかりタイミング合わせます』
「足引っ張んな」
『が、頑張ります』
魔王討伐クエスト。クリアランク約120。普通、ランク34でクリア出来るクエストでは無い。更にパーティーは二人。普通は十数人で挑むクエストを二人……。無理の筈なのだが、これが少し違うのだ。ユイは引きこもりのネトゲ廃人。俺ときては魔王討伐クエストを一人でほぼクリアした経験がある。もう少し高ランクではあったが。まあ、どちらにせよ無理なものは無理。
──だと思った。思っていた。
「ユイ今だ!」
マイクに呼びかける。スピーカーからはカタタタタとキーボードを叩く音が聞こえる。そして画面には俺が弾いたため、魔王は大きく仰け反りただいま無惨にも隙だらけだ。そしてその懐に飛び込み弱点の心臓部分にEA。爆発系の攻撃、氷の塊を弱点目掛けて当てる。全てクリティカルで当たり、魔王のHPは僅かだが確実に減少した。
死闘──ゲームの中だが──を繰り広げること、一時間。魔王のHPは既に八割を切っていた。八割を切ったあとからは相手の攻撃は激しさを増し、HPを1減らす程度のゴミ攻撃の当たる回数が減ってきた。
『大丈夫ですか?』
ボイスチャットからの声。
「だいじょばない」
実際、今は相手に接近するのも大変になってきた。相手は幾つもトラップを仕掛け、接近させにくくしている。俺のアバターのスキル《トラップ回避》により場所は分かるが、それにしても少しウザイ。
『次でトドメ刺します。から、エクストラを三回連続で当てます。相手を引き付けていてもらっても……』
「簡単にいうな! タダでさえいま、相手の攻撃を弾けないんだから」
『そこをなんとか……』
俺は愚痴を零しつつキーボードを叩く。普通はカタタタタと軽い音は今はガダダダダと少しやけになっている。相手の上方向からの火焔攻撃。背後に回避。からの相手の氷結横攻撃。それを早々と弾く。
「ほれ、今だ」
『死ねぇ!』
いつもはそんな物騒なことは言わないユイの声がスピーカーからのキーボードを打つ音と一緒に聞こえた。魔王は内側から爆発した。が、これではまだ、倒せない。さらにカタタタタと音が響く。そしてユイのアバターが飛び、でっかい火の玉を作り魔王に直撃させる。恐らくこれで一割残っているかいないか程度。恐らく、この火の海から魔王は飛び出しユイに攻撃するはず。俺はアバターを走らせ魔王の攻撃に備える。
『炎を氷に変換させるので、あの火の海に突っ込ませて下さい』
ガッ! と剣と杖の当たる衝撃音と共に俺は攻撃を弾く。それから攻撃スキルの『メテオブロー』で魔王を殴る。魔王に対してのダメージは1程度だが、スキルの特性上、絶対にキックバックする攻撃だ。
魔王が燃え上がる炎に戻って行った瞬間。
『これでトドメ』
カタタタタンと音がし、画面は氷で覆われる。
魔王のHPゲージはみるみるうちに減少しやがてゼロになった。
『やった。勝てた』
「じゃ、疲れたから。おやすみ」
『え? あ、はい』
俺は素早く操作をしログアウトした。
ちなみにランクは一気に50まで上がった。
4
夜も明けていないAM2:00。
警報が鳴り響いた。それは街中に物達が現れた合図。そして今、俺の目を覚ました。
「殺してやる。俺の眠りの邪魔しやがって」
俺はとても機嫌が悪かった。
『全員、三十分以内に片付けてください! ゲームのイベントが終わってしまいます!』
ユイは変な方向性でキレていた。
俺は早々と着替えを終え、必要な物を機材室へ置き、先に出発。物達を引き付ける。
いつもの流れで装置を設置。起動させ島へ移動。
任務開始。
俺は物に突っ込む。物達の攻撃は単調だ。俺は物達の攻撃に目もくれず突っ込んだ。そして瞬間移動。斬る。また移動。斬る。移動。斬る。移動。そこにいた三体を機械のように、作業の様に斬る。斬っては移動し、斬っては移動しを繰り返した。
そして、恐らく五十は斬ったであろう時、初めて俺の攻撃は受け止められた。
大物。サイズは人間より遥かに大きくその癖、素早く、頭が切れる。
「クソが」
俺は太股に装備した中学生の頃、不良グループをボコした時に拾ったナイフを引き抜いた。刀を振りかざす。
分裂。
分裂した割れ目に左腕を突っ込む。そして、手にしているナイフで引き裂く。それも分裂で回避された。
俺はポーチから手榴弾を取り出し割れ目に投げ入れ、グロックを引き抜く。狙いを定め、トリガーを引く。手榴弾に銃弾は直撃。誘爆し大物を巻き込んでいった。
爆発の爆風で俺は飛ばされた。ビルの壁にぶつかる直前に瞬間移動で体制を立て直す。
周りには、物は見当たらない。獅子型の大遊物、鮫型の大遊物、中遊物、小遊物、極小遊物といったところか。
俺はポーチから手榴弾を四つ取り出し獅子型と鮫型に投げる。そして瞬間移動。空中へ移動し、照準を合わせ、まずは獅子型の方の手榴弾に向けトリガーを引いた。発砲音と同時にスライドは下がり、元には戻らなかった。
「こんな時に弾切れか」
俺はポーチから素早くマガジンを取り出し弾切れのマガジンを抜き捨て、そこに差し込む。素早くコッキングし鮫型に照準を定める。トリガーを引く。
発砲すると同時に光が影に隠れた。まさかと思い後ろを見ると獅子型が鉤爪を振りかざしていた。
俺は身体を捻り、振りかざした鉤爪、いや、その腕ごと斬った。斬り口からは、血のように黒いドロドロとした液体が飛び出した。
そして、銃口を額に当てトリガーを引いた。発砲音から数秒、獅子型が浄化していったと同時に鮫型が尾鰭を無くした状態で飛んできた。
俺は刀を強く握る。俺はグロックをホルスターへしまい、刀を大きく振りかぶる。鮫型へキレイな軌道を描き剣先は鮫型へ迫っていく。が、鮫型は左の方へ避けていく。これが俺の狙い。
「燕返し」
俺は右手に持った刀を瞬間移動させ、振り始めた左手に移動させる。左手にはずっしりとした重さが伝わり全身の血がゾクゾクと湧き上がる感覚がした。
そのまま鮫型の頭の部分を横に一薙。真っ二つに割れそこには核が見えていた。そこに刀を突き刺す。鮫型は奇声を発しそしてそのまま浄化していった。
新技、必殺技成功、といってもノブやリョーと比べればゴミみたいなものだが。
そして、二十分後。任務は完了した。
総時間、四十七分。退治数、九十六体。退治数のランキング、五位。──ユイはセキュリティのマシンガンを全開で狩っていたらしい。リョーとは一体差だったらしい。
『危なかった。ここでソーヘーに負けたらバイトに遅れるとこだったよ』
「そうか、それはよかった。まあ、別に言ってくれればこのくらいいいけど」
通信機越しの会話。メイは能力的に疲れが出やすいため終わった後はお風呂に入り、さっさと寝てしまうそうだ。
「リョーはまだ時間大丈夫?」
『あー、んー、ちょっとキツいな』
「まじか。……急ぐよ」
『すまん……にしても料理が出来るとは』
「えーと、普通じゃないのか?」
『ここ、メイ以外料理が出来ないんだよ』
「はは、リョーが出来ないのは意外だな」
『そうか?』
「いつもバイトとか行ってるから、色々出来るんじゃないかと」
『俺はゲームは得意だぜ』
「へぇ、ジャンルは?」
『RPGとかも出来るけど、将棋とかチェスは得意かな』
「そうか。今度やってみっか」
『手加減はしねーよ』
「こっちは高校でボードゲーム部だぞ」
そんな話をしながら鮭を焼いているとメイが起きてきた。
「ソーヘーは料理が出来るから便利だよな」
「だから、当たり前だろ」
「だから? まあ、ありがとう」
「はいはい。もう出来るから席着いてろ」
そういい俺は鮭を皿に移した。
米をよそう。皿を運び全員を呼ぶ。
「おい、飯できたぞ」
バン! とユイの部屋の扉が開き、ダッシュでこっちに来る。そして跳躍した。
「え?」
「なんでメールを見なかったのです!」
ユイは身長的にと運動能力的にも、飛んでもさほどの高さは出なかったが、俺の腹を蹴るのは十分な高さだった。
「うっ」
「どりゃー」
不意打ち。反射的に能力を発動出来ず、無念にも床でのたうち回る事しか出来ない。
「──うっ」
「なんでメールを見ないのですか? イベント終わってしまったじゃありませんか」
「ごめんなさい」
「ユイ、ご飯だ席に付け」
既にもぐもぐし始めているメイさんは落ち着いた顔をしていた。そのメイに俺は聞く。
「お味の程はどうですか? シェフ」
「シェフって……。まあ、すごく美味しい。うん、ノブとリョーとは大違いだ」
「ありがとうございます。じゃあ寝てくるわ」
そう言い残し、俺はさっき作っておいたおにぎりを三つ持ち、部屋に入った。パソコンを立ちあげると通知の量が恐ろしいことになっていたが無視をして、さっさと布団に入って眠りにつくことにした。
「あとであそこに行かないとな」
そう呟き眠りについた。
5
「ばあちゃん、久しぶり」
「おかえり」
今日はお盆だった。といっても明け方の戦闘後、ずっと寝ていたから、今は午後の四時だ。
「おっきくなったね」
「そうかな」
「うん、逞しくなった」
そういい祖母は俺の腕をパンパンと叩いた。
「ご飯食べてくかい?」
「ありがとう、食べてく」
「はいよ」
祖母は台所へ向かって行った。
俺は父と母、そして祖父の写真の置いてある仏壇の所へ行き、線香を上げた。
──俺、やりたいこと今も必死にやってるよ。その為に必死にトレーニングとかしたよ。一生懸命やるって辛いけど、結果はちゃんと付いてきてる。だから、もっと強くなるよ。
俺は天国にいる両親に誓った。
それから、俺はばあちゃんの家でご飯を食べ、ゆっくりお茶を飲んで、久々に電車に乗って帰った。
時間は既に午後の十時を過ぎており、人は疎らにしかいなかった。
家に着いても身体が疼いてしょうが無かった。刀を持ってトレーニングルームへ向かった。
俺はトレーニングルームに入って刀を振るった。
──もっと早く。
──もっと強く。
──もっと正確に。
──もっと……もっと……もっと……。
「こんな時間に何やっているんですか?」
少し口調がキレ気味なユイが入って来た。
「なんか、身体が疼いて仕方ないんだよ」
「欲求不満ですか? なんかあったんですか? よければ聞きますよ?」
目的もなく刀を振っていた訳でも無い。もっと強くなりたいと、ただそれだけだったのかもしれない。いや、でも、今の生活を守りたい、その一心だったのかもしれない。
この疼きはなんなのか、俺には分からない。
「俺は、ユイと、ノブ達との生活が、みんなが好きだから……この生活を、みんなを守りたいって思った。だから、強くなりたいって、もっと思った」
「だからってあまり気に病まないほうがいいと思いますけど」
「ああ、もう寝るよ」
俺はそういいトレーニングルームを出ようとした。
「あの……ソーヘー」
「ん?」
「さっき、いってたのって本当ですか?」
「さっき?」
「……えっと、その、私の事が好きって……」
「本当だけど」
「そ、そうですか」
何故か怒り口調だったユイは、不思議とそっぽを向いてしまった。
「なあユイ」
「な、なんですか?」
「この刀に銘とかあるのか?」
「刀の銘……ですか? いや……名前とかは、無かったと思いますよ」
「無かった?」
「まあまあ、そんなことはどうでもいいので、さっさとお風呂入って寝たらどうです? もう一時ですよ。三時間もぶっ続けて、本当馬鹿ですか?」
「なんで三時間もやってるって知ってるんだ?」
「そ、ソーヘーには関係ありません! 早く行ってください! 片付けはドローンにさせておきますから」
ユイは俺の背中を押して──ほぼ殴っているが──くるのでそそくさとその場を後にした。
「この刀、銘が無いのか」
俺は部屋で一人、刀の銘を考えていた。
「斬鉄剣とかシンプルでかっこいいけどなー。そういう名前、シンプルでかっこいいやつ」
今俺の部屋には刀が三本。二本はいつもの使っている長さ一メートル程の日本刀。もう一本はそれはもう長くて長くて、振るのが最初は大変だった。その長さ二メートル三十六センチ。
「どうしたものか」
うーんと唸っていてもしょうがないので取り敢えず俺は……。
「寝よう」
寝ることにした。
6
時刻はPM.3:09。丁度おやつの時間なので、もぐもぐとゲームをしながらお菓子を食べていた。
──あれから一週間、物達は攻めてこなかった。
どの程度の事なのかノブに聞くと、ここまで進行の途絶えることは珍しいとの事だった。
「どうしたものかねー」
進行が途絶えると大抵、何度かに渡って、大型の遊物、物が来るらしい。時には千体を優位に超す大群でゲリラが起こることもあるらしい。
「やだわー」
『何が嫌なのか具体的にどうぞ』
通信機からユイの声が聞こえてきた。
「物達が来ても満足に戦えない自分の弱さがですかね」
『いいこといって誤魔化さないでください』
「はいはい。まあ、本当にそう思う所もあるけどさ」
『強くなって守るんですよね?』
「まあな」
『え? なんなんですか、これ』
「どうした?」
ユイの声が一瞬にして引きつったものになった。
『物達の数が異様に多い』
「出たのか」
それと同時に警報が鳴り響く。
『急いでください! 多分八百は出ると思います』
「嘘だろ」
そう言った時に通信が入る。
『ソーヘー、今回の戦いは君にかかってる』
「ノブ、それはどういう意味だ」
『リョーは今いない』
バイトのシフトを毎日の用に入れているリョーは、時々退治には行けない時がある。とはいえ、こんな時に。
「分かった。リョーの分も俺が狩る」
『ソーヘー、いいので早くしてください』
「準備完了。先に行ってるぞ」
俺は刀を手に取り、荷物を瞬間移動で機材室に送り、移動した。
それと同時にユイの声が聞こえたような気がした。でも、多分気のせいだと思った。
7
俺の瞬間移動には弱点がある。
連続使用は体がついてこないこと。三回目位から移動目的の場所からズレたり、身体が思うように動かなくなったりする。
百メートル以下は0.1秒。一キロ未満は0.2秒。五キロ未満0.3秒。十キロ未満0.5秒。百キロ未満キロ一秒。家から島まで、二秒。
移動にはタイムラグが発生する。至極当然のことで瞬間移動は何かといって弱点が多い。
日常生活にはもってこいだが……。
ノブの能力は機動力があるし、メイの能力は武器にもあっている。リョーだってこの二人と比べれば安定している。なのに、俺は。
昔からやろうと思えばなんでも出来た。勉強や運動、中学時代、一度やったバスケもそうだ。
──でも、俺は分かった。
ここへ来て、闘って、戦って、退治したから、なんでも出来る、じゃない。大抵の事は大体出来る、との違いを。
***
「なんでこんなに物達が多い」
いつもの五倍以上。正直ありえない数の物達がいた。更に物の数が多い。遊物が九割を示すいつもと違い、今日は四割は物だった。
「全員一つになって行動するぞ。危ない事は極力避けよう」
「ユイ、手榴弾送って貰ってもいい?」
『どのくらい必要ですか?』
「百くらい」
『は、はい、分かりました』
「私が援護に回る。分裂した物には手榴弾ね。誘爆させて消すから」
「了解」
「取り敢えず、ソーヘーは遊物の殲滅を優先して。完了したら物の方も頼む」
「俺の所に来た物はどうする?」
「極力俺が切り落す。からなるべく早めに遊物を消してくれ」
「了解」
作戦はこんな感じで練られていく。
「ユイ、一緒にサブマシンガン送って」
『えっと、《MP5》と《Vz61》どっち送ればいいですか?』
「命中精度を考えて《MP5》にしよう。あとショルダーホルスターも」
『了解』
そして木箱に入った大量の手榴弾と《MP5》が二丁、そしてショルダーホルスターが送られて来た。
レッグホルスターから《ベレッタ92》を引き抜き、ショルダーホルスターへ移動。そして《MP5》をレッグホルスターへ付けた。
「準備完了」
「じゃあ行くぞ」
俺はポーチを開けそこから試験管を二本取り出す。それを群がっている遊物に向け投げる。そして手榴弾を三つ投げる。
「メイ」
「えー」
メイは嫌そうな顔でベレッタを抜き三発連続で打った。ちゃんと狙っているのか疑いたくなるくらい早かったので少し信じていなかったが、銃弾はちゃんと手榴弾に当たったらしく爆発した。
「じゃあ行ってくる」
「それじゃオレも」
「援護は任せろ」
俺は爆煙の中に飛び込んで行った。
一時間が経った。俺達はビルの影で身を潜め息を整えていた。
始めた時より数は半分程に減っていた。遊物は全て殲滅し残りは物だけになったが、まだ数は三百は軽く超えていそうだった。
「メイ、どうだ?」
「こっちは大丈夫」
「ソーヘー、傷は?」
「凄く痛てー」
「物の攻撃を体で受けるとか馬鹿なの?」
「いや、体が勝手に」
「もうあんな無茶は絶対にするな! やったらオレがお前をビルの柱に縛り付けてでも動けなくするぞ!」
「どうってことないって」
とは言ったものの十分程前の傷は、まだ塞がるどころか、血がドロドロと溢れている。
「取り敢えずあとは物だけど……あの作戦で殺っちゃう?」
「無理だろ」
「あの作戦って?」
「ダイナマイトを繋げた導火線を渦状にして、その中に物を集める。それを一気にドカンする」
「誰だよ、そんな馬鹿な作戦考えたやつ」
「元リーダー」
「お前と同じで、リーダーも体で攻撃受けてた」
「あぁ、無茶な人だった」
「その刀、あの人のなんだぞ」
「そうなのか」
「で、するのか?」
「じゃあ俺が相手する」
「正気か!?」
「爆発とかから一番逃げやすいの俺だし」
「じゃあいつも通りオレがダイナマイトと着火でいこう」
「逃げようとした奴は私が撃つ」
「まさか……」
「アキュラシー使う」
「アキュラシー?」
聞いたことあるような、無いような名前だった。確かスナイパーライフル。大口径の。
「《アキュラシーインターナショナルL115A3》のこと。サイレンサー標準装備の大口径で暗殺用のスナイパーライフル」
「んひゃーそんなのも使えるの」
「ユイ用意して」
『コレ、重たいのー』
「じゃあ、あのビルから撃つからよろしく」
「了解」
「ソーヘー、俺はダイナマイトとかで忙しいけど多分手伝えると思うから頼んだぞ」
「任せろ」
俺は窓枠から飛び降り前へ進んだ。
「ユイ、もう一本の刀を……」
『今、無理ぃー!』
「あはは、後でいいよ」
俺は刀を構え物達がギーギーと奇声を発している所へ突っ込んで行った。
すると物が一体、俺の方へ突っ込んで来る。俺は刀を構え何が来るか予想を立てる。鎌か、砲弾か、跳躍か。
すると蜘蛛の様だった体は変形し、歪な銃のような形が左右に二つ出来上がった。
砲弾か。俺は刀を右横に構え姿勢を落とした。砲弾の銃口? の様な部分が赤黒く鈍く光った。来る。
接近しながら物はぼんぼんと砲弾を撃ってくる。それを俺は次々に切り落としていった。俺の数メートル後ろでドンドンと爆発音がし、それに他の物が反応した。一気に接近し砲弾の発射口部分を切り落とし、峰打ちを入れる。流石に物も反応出来ずに攻撃が当たった感触があった。そのまま地面に叩き付ける。
直後その後ろから物が飛び出して来た。次は体の一部を鎌の様にし襲い掛かる。それを刀で迎撃し十字に切る。そして覗いた核に直接左腕を突き刺す。そのまま消滅して行った。
既に物の群れの中に飛び込んでしまっている俺には、逃げることも隠れることも出来なかった。──瞬間移動を使えば逃げれるけど。だから俺は迎え撃つことしか出来なかった。
「どこからでも来い」
すると上空から落ちて来た物が奇声を発しながら鎌のような部分を振りかざしていた。所がすぐに落下している方向がずれ消えて行った。
『上から来たのは撃ち落とす』
「よろしく頼む」
「ダイナマイトの方は能力でやる。あとはオレも混ぜろ」
「ああ」
俺は再度強く刀を握った。
俺は駆け出すと飛び出して来た物を蹴り飛ばし、物と衝突させた。それと同時に瞬間移動をし二体同時に切った。するとちゃんと手応えがあった。
「あいつらが学習してないことをやればいいんだな」
俺は刀を構え大きく振りかぶり振り下ろす。すると分裂して二つに別れた。その片方を左手で持ち、もう片方は物の群れに蹴り飛ばした。
そして瞬間移動。衝突した三体を切る。そして背後から切りかかって来た物を片割れの物で受け止める。そして奇声を発し消えたと同時に切りかかって来た物を切り殺す。
次に太股からナイフを引き抜く。そのナイフを物に投げつける。物はそのナイフを、真剣白刃取りの様に取る。瞬間移動しそのナイフ目掛けて殴る。いとも簡単にナイフと一緒に殴られた物は、地面に叩いつけた。今の勢いでナイフの刃が核に刺さり消えていった。地面に当たった衝撃でナイフの刃は折れてしまって使い物にならないので、そのまま捨てて行った。
『大体の物は中に入った』
「てことは」
『爆破させるぞ』
「まじか」
『三、二、一……』
「うっそー」
俺はまだ逃げてなかった。カウントダウンが早い!
急いで瞬間移動を発動。一瞬だけ視界が白く光った。
***
渦を巻いたダイナマイトに火を着けながら能力で一気にダイナマイトを地上に接近させる。
「ソーヘー大丈夫か?」
ドカーンと爆発し、爆風は結構な距離を取ったオレの所まで来た。
『殺す気か?』
「おっ、良かった、生きてたみたいだな」
『ギリギリな』
通信機から聞こえてくる声は元気そうで安心した。
「ギャアァァァ」
背後からの奇声に急いで振り返った。すると触手の様な部分の先端に鎌状の刃を擬態させた物がいた。
「ここまで飛ぶってどんなだよ」
オレは急いで鎌を構えたが遅かったみたいですぐに物の鎌も振り下ろされた。
間一髪で受け止めると同時に物の動きが止まった。そしてそのまま消滅して行った。
『ノブ、油断するな。まだ物は居るぞ』
「すまんメイ」
『ソーヘー二本目の刀は?』
『あ、忘れてた。メイの位置情報と一緒にそこに送って』
『了解』
『さっさとしろ。あと五十は居るぞ』
「わかってるよ」
***
なんて、会話が聞こえるがノブはさっき、正直やばかった。
ブゥーと太股のポケットに入った携帯電話のバイブレーションが伝わった。この島の地図とメイの位置情報が送られた。
「サンキュー」
俺はユイに向けた礼を言い、瞬間移動で携帯電話に示されたビルの屋上に向かった。刀を取り鞘から刀を引き抜く。
メイは既に移動したみたいで、屋上には木箱が置いてあるだけだった。
俺の刀は三本。一本はいつも使ってる日本刀。もう一本は二メートルはある大太刀。最後の一本はいつも使ってる刀と同じ位の長さの日本刀だ。
「二刀流」
『そんなこと出来るの?』
正直どうかは分からないけど、たまに練習はしていた。昨夜色々名前を考えてやったけどなかなかいい名前が思いつかなかった三本。
「多分、大丈夫」
いつもは木刀や模擬刀でやってるけど本物持つとやっぱり違って来ると思うけどやってみる価値はあると思った。
俺は一歩踏み出したが視界が歪んでふらついた。踏ん張ろうと思ったが体がいうことをきかなかった。
そのまま倒れ込んで動かない四肢を動かそうと懸命に力を入れた。けど体に力が入らず意識が遠のいて行った。薄れゆく意識の中でユイの声が聞こえた。
***
「ソーヘー? どうしたのですか? ソーヘー?」
呼びかけても返答は帰ってこない。ソーヘーの通信から急に倒れ込むような音が聞こえたので慌てて呼びかけるも返答が無い。
しょうが無いので近くのドローンを起動させソーヘーの所へ飛ばして映像を確認した。
ソーヘーのいる場所へドローンの映像が映るとそこには大量の血を流したソーヘーがいた。
「あの傷からこんなに沢山……」
恐らく出血多量の貧血であろう。それで済んでいるならいいのだが。
急いで転送の手配をドローンにさせ、私は投薬の用意をした。
二十秒程経つとソーヘーは転送されてきた。
「ソーヘー! 大丈夫ですか!? 返事をしてください!」
反応は無い。注射で投薬を投与し傷口をタオルで押さえた。パソコンの所へ行き、待機させているドローンを起動させ担架を運ばせる。
ドローンが来ると、治療室まで連れていくためソーヘーを担架に乗せ、移動させた。
治療室に着いた時には傷から血はもう出ていなかったのでタオルをゴミ箱へ捨て、もう一本投薬を打ち込み《お風呂》の用意をする。
この場合お風呂とは傷を癒すための液体をお湯で薄め浸かる時に使う浴槽のようなものだが、みんなお風呂お風呂言うのでお風呂になってしまったものである。
実際、正式名称は特にないので、お風呂でも構わないけど。ぬるま湯に一定量の液体を入れ、規定の量になるのを待つ。
一分後にはお風呂の量は規定の量になり、自動で止まった。その時にはソーヘーの傷は少し閉じ始めていた。
お風呂にソーヘーをドローンで沈める。起きた時に驚いてしまわぬように、ミニテーブルに置き手紙を立てておいた。
急いで部屋に戻り通信を開始する。
「ノブ! メイ! そっちの状況は?」
『ギャアァァァ』
通信を始めた途端、ヘッドホンからは物の奇声が聞こえたので驚いたが、すぐに物だと分かったのでそこまで取り乱しはしなかった。
『ちょうど終わった』
『ソーヘーはどうした?』
「あ、えっと……傷が深くて血も結構出てて、多分……貧血だと、思、います」
言いながら涙が溢れてきて嗚咽が漏れた。
『今から帰るから』
「──はい……」
後で集計すると、ソーヘーは一人でほぼ全ての遊物を殲滅し、その他にも大量の物を倒していた事が分かった。ソーヘーは計四百五十八体もの物達を浄化させたことが分かった。あれから一日経ってソーヘーは目を覚ました。
その第一声は「ユイ、泣くなよ」だった。
本来の投稿予定日より一ヶ月以上も経過してしまい申し訳ございません。
次回の投稿は六月一日を予定しています。