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能力者達  作者: 蒼田 天
第三章 十二支決戦篇:上
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対人戦闘訓練Ⅱ(1)

   1


 目を覚ます。

 医務室。ドローンの行った消毒の匂いと呼吸器の音がやけに強く感じる。

「目、覚ましたか。ったく、訓練に全力出しすぎ。総合的に見て、お前の負けだよ。メイの勝ち」

「ソーヘー。私はどれくらい眠ってた?」

「十分位だよ。あと二時間位は次まで掛かる。俺はもう仕事終わったし少し休むかな。どちらにせよお前は当分安静な。傷塞がったらお風呂な」

「分かった。なあ、」

「ん?」

 さっきの夢、のような……ソーヘーが何かを知っている。でも、今はその時じゃないだろう。

「次の戦い、リョーとメイか?」

「いや、メイはちょっと疲労がデカいからね、力の消費も激しかったみたいだし、ぐっすりっていうか倒れ込んでる感じる」

「そうなると」

「うん、俺かな。試したいこともあるし」

 二人とも強化系の能力を持っている。リョーの能力は長期戦より短期戦の方が都合がいい。時間が経てば経つほど対処は安易になる。能力としても案外単純。ペースさえ掴めば、戦いやすさはある。対するソーヘーはオールラウンドに色々を器用にこなす。しかし、さっきのノブとの対戦は短期的だった。となると、リョーのペースにあえて合わせる可能性もある。ソーヘーは逆境を変に好む。

「ユイには通信入れておけよ。俺は部屋戻ってるから」

「ああ、分かった」

 通信機をオンにする。

「ユイ……」

 数秒置いてノイズが入る。

『目を覚ましましたか。少し待ってください。今ドローンの設定が、そろそろ……』

「あの、ユイさん」

『……なんですか』

 声のトーンが若干低い。いつもはもう少し明るいというか、歳の割には落ち着いてるというか、でも年相応と言うよりは幼さの残る声というか……。しかし、今の声はなんというか……。

「怒ってます──」

『黙っててください。今忙しいんですよ?』

 ……んー。結構怒ってるかな。

『はぁ、冗談です』

 ユイも冗談を言うんだな。案外来てから間も無い事もあるのか、ソーヘーとは訓練で闘うこと多かったから、他のメンバーとは話をする機会が少なかった。

『なんかノブに似てきましたね。ここの男性陣はリョー以外が若干ノブに似てきています』

「そうか?」

『ええ、まあ。ソーヘーは元からあんな感じでもありますが、コマに至っては、随分肩の荷が降りた……という感じはしますね。冗談の悪質さはノブに似てきてます』

「それは、あんまり嬉しくないな」

 ノブに似てきたというのはあまり嬉しくない。あまりと言うより、結構。

『でも、いい事ではありますよ。コマは最初の頃は表情が強ばっていましたから……そうですね、もう少し砕けてもいいんじゃないですかね』

 ガァー、と入り口の自動扉が開く。

 鉄の机の上で寝転がっている自分の周りには、血色に染まった布が散乱している。

「んー……傷は塞がってますね。ソーヘーには感謝して上げてください。コマは力の使いすぎで投薬使えませんでしたから。ソーヘーと影さんで傷を塞いだんですよ」

 足の傷は多少残っているが出血はない。テーブルに置かれたメスやらハサミ、鉄の皿のような物にはガーゼと変形した弾丸が置いてある。

「では、私から先程の訓練に着いて、少しお話をします」

 ユイはテキパキと作業をしながら話を始める。

「結論から言いますと、結果は勝利ですが、過程としますと大敗です。そこにある膿盆に入っている弾丸の数は幾つですか?」

「膿盆?」

「鉄のお皿です」

 若干遠い場所にある空豆のような形の皿には、数えると八個の弾丸がある。

「八個ある」

「八発の弾丸が体に残り、貫通した弾丸の数は十一。計十九発あなたはメイに撃たれました。一発は腹部に。これは奇跡的に急所を外れてますが、数センチズレていればダメなやつです。それから、右肩を負傷した後、最後に酷使したせいで肩関節がボロボロだったと思います。最後の床下からのフルオート射撃で四肢を全て負傷しました。この時点であなたの負けでした。その後の酷使で傷口は更に大きくなったでしょう。直ぐに止められなかった私にも責任がありますが、続行したあなたもあなたです。次は無しです。あの負傷なら降参をしてください」

 ──本当に申し訳ない。

 戦闘をこれまで幾つも見てきて分析と研究をしているのだろう。的確で反論の余地もない。

「ん……少し、言い過ぎました。ごめんなさい。……ですが、これが私に出来る事なんです。私はバックアップと戦況の確認、補給くらいしか出来ません。戦闘向きの能力とは到底言えませんし、活用出来ても私に戦うだけのスキルが備わっていません。ダメなことだと分かってはいましたが、私は怖くて、皆のように戦えません」

 お風呂に薬剤を入れ、給湯を止める。

「ですけど、これでいいって言ってくれる人も、それで救われたって人もいるんです。私は、私に出来る最高を……私に出来ることを全力でするんです。それが、私の《戦い》なんです」

 ユイの決意。私よりも幼い、少女の抱える覚悟の大きさは、その小さな身体には不釣り合いのものだ。

 引き出しから注射を取り出し、棚から薬剤を取る。

「お風呂、出来たので移動お願いします」

「ああ」

 立ち上がろうと身体を起こす。全身に鋭い痛みが走る。

「全身の骨が、何ヶ所も折れていたそうです。くっついてはいると思いますが、気をつけて下さい」

 数メートル先のお風呂へ歩くだけで、額から嫌な汗が吹き出す。節々がギィギィ音を立てる。

「これは、強化の反動だろうな」

「腕出して下さい」

 こうやって、注射を打つ少女は、人の止血の仕方を熟知しているのは、人の肉体に針を通すことは、同じ歳の少女はまずしないだろう。

「君はね、凄いことをしてるよ。私は同じ歳の頃は、復讐することだけを考えて生きていた。他人を気にする余裕など当然存在しなかった。今思えば自分本位だった。私は他人よりずっと強い人間だと思っていたけど、間違いだったみたいだ。ずっと弱くて、孤独だったと思い知る。頑張っているよ。とても感謝している。ありがとう」

「いえ、これが私の《戦い》ですから」

 そう言って、微笑む彼女は、誰よりも強く美しかった。

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