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能力者達  作者: 蒼田 天
第三章 十二支決戦篇:上
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Memorial episode 昔話Ⅲ(3)

   参


 着替えを終えて、荷物と言っても大太刀と風呂敷一枚で事足りている。

「オイ、サク、終わったか?」

「ええ、ですけど私忘れ物をしていまして、一度御屋敷へ戻りたいのですが?」

「好きにしろ。だとしてもオレは家の人間に見つかる前にここを出たい。早くしろ」

 外に気配を感じる。オフクロとババアが帰ってきた可能性は十分。なんたって屋敷がこの有様だ。小櫻の家からでも確認できたのだろう。

「サク、外に家の人間がいる。《認識阻害(にんしきそがい)》使って出るぞ」

「ええ、構いませんよ」

 家を出て小櫻の家に向かう。殺し屋としてはオレの方が格上だ。オフクロにもババアにもオレの認識阻害は見破れない。

 小櫻の家は十年ぶりだ。無駄に広い屋敷と、庭に植わっている無駄にデカい櫻の木は葉が少し色を変え始めている。

「結さん、これを」

 渡されたそれは太刀だった。鞘から抜き出すと見事な鈍色(にびいろ)。美しい刃文。業物である事が分かる。

「なんだ、オレにくれるのか?」

「そんな訳ないでしょう。大太刀と一緒に持って下さい。その鞘袋の中に入りますよね?」

 刀一本はそれだけで十分な質量がある。そんなものを二本も持ち歩きたくない。

「入るが重たくなるだろ。オレはイヤだぞ」

「そんなこと言わずに、それは私が一応で持っていくものなので、不要になれば差し上げます」

「そういうことならいいだろう」

 刀を鞘袋の中に入れて抱える。多少重たくはなるがまあ、この位ならいいだろう。

 部屋は質素で置いてあるものが少ない。掃除も行き届いている。

「では行きましょうか」

 荷物を抱えて外に出る。

「自分の荷物は自分で持ちます」

「いいんだよ。テメェはオレに荷物持たせてた方が良いんだよ。いいから歩け」

「なんですかその言い方は?」

「あ? やんのか?」

「っ──いえ、これはまたで」

 またって、後々何かを言われるじゃねぇか。

 小櫻の家を出て西へ向かう。

 西門は普段はあまり使わないがコネがある。なるべく屋敷のある東南からは遠い西門から出たかった。

「結」

 ──ッ!

 ダッと飛び出して鞘から刀を抜く。首に刃を向ける。

 その首を()ねる直前、ピタリと止めた。

「ババア?」

「気を付けろ」

「は?」

「病気をするな。怪我をするな。道に迷うな。達者でいなさい」

 ──どうしてここにいる? 屋敷には行ってないのか? 

「血闘術、使ったのだな」

「何故知ってる」

「力の流れが緩やかになった。私たちが培ってきた技術で最も大事な物だから。結、今は息苦しくないかい?」

 息苦しさ。

 一時間程前までは苦痛で堪らなかった。

 殺しの技を、殺し以外の目的で使う時、オレは何人殺してしまうのか分からなくなった瞬間、人に向けて使えなくなった。

 だから、人には使わないと自分で制限を掛けて、刀のみでこれまで生きてきた。

 肩の力がすっと抜けた。

「もう大丈夫だ。じゃぁなババア。土産でも待ってろ」

 刀をしまった。鎖骨にある赫い刺青には、家紋が入っている。今まで早く消してしまいたいと思っていたものなのにも関わらず、今ではなんとも思わない。


 西門へと近づくにつれてサクは落ち着きを失っている。

「オイ、テメェさっきからなんだ?」

「何とはなんですか?」

「挙動がおかしいんだよ。便所か?」

 西門へと到着し、刀を取り出す。

 関所に着くとより一層の怪しい人間感を出しているお陰か、オレにまで視線が集まる。

 門を潜ろうとすると呼び止められた。

「あの、そこの御二方。交通税を……」

「オレだ。連れも通せ」

「──す、すみません」

 殺しをする関係で全ての門、そして全国各所では、桑の家紋の人間の妨げをすれば殺されるというのは有名な話だそうだ。過去の先代が門を潜るだけでこれまで何人殺したのだろうか。一部地域では名も通っていないからと交通札を持ち歩いているが、やはりこっちの方が楽でよい。

「あら、恐ろしい」

「んだよ。アイツは顔見知りだから通して貰っただけだ」

「顔見知りであそこまで怯えますか?」

 ──うるせぇ……。やっぱりぶった斬るべきだった。

 ここから西へと向かう。まずは京の都の刀匠へ刀を渡しに行こう。自分である程度なら面倒見ることは出来るが、やはり職人に任せた方が出来が違う。

「京は久しぶりですね。着いたら甘味でもどうです?」

「るせェな。百里以上歩くんだ。体力取っとけ」




 ここから、旅が始まる。

 長いようで、案外短い道のり。

 時には海を越えた。

 時には高い山々の頂へ向かった。

 時には氷の大地へ踏み入れた。

 そして、呆気なく終わりを迎える。


 案外世渡り上手な彼女と世間知らずで抜けている彼女の、紀行(きこう)


 それはまた、別のお話。

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