対人戦闘訓練、開始(5)
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『それでは、ノブVSソーヘーの対人戦模擬戦闘訓練を始めます。能力、武器の使用は無制限です。三、二、一……スタート』
ソーヘーの足元からフワッ、と何かが持ち上がる。それを掴むとノブに向けて構える。引き金を引くと同時に銃口から火を噴く。有名な《レミントンM870》である。
「《スプリング》」
ノブは三メートル以上飛ぶと鎌を構える。
途端レミントンとは違う銃声。そして、連射速度。小刻みな射撃音。各国で使用されてる《M4カービン》。影が立体的になりながらノブに向けて発砲する。
ノブは旋回しながら距離を置くと更に巨大な銃声。身体を捻ってギリギリで避ける。銃弾は肩に直撃しそうになっていたのを間一髪で避けたことになるだろう。
「──っ」
弾丸の飛んできた方へと飛んでいく。ビルの中からの射撃。銃器は《Anzio 20mmライフル》。あまり有名ではないが強力な対戦車ライフル。あの時ノブが避けれずに掠りでもしていれば肩口から腕が吹き飛んでいただろう。
ノブは鎌を構える。そのときソーヘーはというとビルの反対側の窓から飛び降りていた。ノブは鎌を振りかぶる。
「《円盤斬り》」
ビルは二つに分かれる。鉄筋コンクリート造りのビルをたった一振で分断したのだ。ビルの影から出てきたソーヘーを当然ノブは見逃さなかった。
分断されたビルがピタリと落下を止める。空中浮遊の応用《物体操作》で切断されたビルの上部を浮かせたのだ。それを目視することも困難な程の速度でビルが地面へ飛んでいく。凄まじい音と共にビルは地面に突き刺さる。
瞬間移動でビルの突き刺さっている部分から五、六メートル程離れた所にソーヘーが刀を構える。
「スパー……」
ソーヘーの重心が左にブレる。
「オレがなんの策も弄さないとでも思ったか」
「面白い」
ビルの中に鎌を仕込んで地面に突き刺さしたのだ。ソーヘーの左足はもう数センチで分離する程切れ込みが深かったが、ソーヘーは既のところで避けたようだ。
どうにか《治癒》で切断された足は繋いだか、筋肉や骨は繋がっていない。そんな状態で酷使することは非常に危険で凄まじい痛みを伴う。
だがこの時既にソーヘーは人として少しながら欠落している部分がある。恐怖と痛覚。自分がどれだけの窮地に立たされようとも恐怖という感情はなく、反撃と打開策を考え、それに伴う痛みなど微々たるもの。常人では耐えることすら困難な痛みを易々と堪える。これは能力者達として前線に出始めた時からずっとである。痛みがあってもそれを殆ど感じない。ソーヘーは壊れてしまっているのだ。
両足で跳躍する。左足からの流血が酷い。表情は全く変わらないが、出血は凄まじい量だ。これでは出血多量で勝負どころではないだろう。これも決着は早いだろう。
ソーヘーを追うように下方から鎌が飛び上がる。ソーヘーは《足場》を使って避けると、飛んできた鎌を左腕で掴んだ。
「──らァッ!」
ブォン! と、風を切る音と共に鎌を投げつける。ノブは能力で鎌を逸らしながらも大鎌を構えて弾いた。その一瞬で、ソーヘーは更に距離を詰める。勿論ノブはそれに反応することが出来なかった。
「《火燕》」
足場を砕く程の力で跳躍しノブの左足が切り落とされた。
「──くっ」
「…………」
だが、ノブは縦回転の旋回をしソーヘーの左腕を切り飛ばしたのだ。
この一瞬で両者は身体の一部を損失した。特にノブは強化義足のある左足が切り落とされたのだ。戦闘の起点ともなる義足を喪うのはソーヘーが喪った左腕と比較にならない。
両者一度距離を取り着地する。途端、ソーヘーは跳躍するとノブとの距離を詰めようとする。残り五メートルを切ろうとした時だった。
視界が歪む。ゴッ、という音と共に巨大な瓦礫がソーヘーに直撃した。そのまま飛ばされて行くと反対側からも瓦礫が飛んでくる。
「《蒼炎》」
刀を纏う炎の色が蒼く変わる。飛んできた瓦礫ごと焼き切ると着地する。
《超筋力》に《筋力強化》を上乗せ一気に距離を詰めようと腰を落とす。上空からの風を切る音で上を見る。数メートル程の距離に瓦礫が降ってくる。
これはノブが着地をする前に上空に飛ばしていたのだ。その落下地点に先程の瓦礫で飛ばしてダメ押しに押しつぶすつもりだったのだ。一つ目の瓦礫は直撃して落下地点のコースに入ってから能力解除。その後慣性の法則に従って飛んでいく瓦礫に二つ目の瓦礫が飛んでいく。二つの瓦礫がぶつかる場所が瓦礫の落下地点となる。自由落下を続ける瓦礫がそこに落ちてくることになるのだ。
ソーヘーはその瓦礫を斬るため刀を振りかぶった。ドッ、とソーヘーの脇腹に強い衝撃が加わる。身体の内側から肋の折れる音が聞こえてくる。数十メートル飛びビルの壁に激突する。
ノブは足を切り落とされた後、瓦礫の操作を行った。だが、全ての瓦礫は途中から慣性と重力に従って飛んでいるのだ。これはノブが能力を解除した為だ。何故そんなことをしたのか、それはソーヘーの最後の攻撃は強化義足による《アクセル》だった。攻撃の瞬間にみせる大きな隙を、ノブは切り落とされた足をソーヘーの脇腹に直撃させたのだ。
ソーヘーは立ち上がると目の前を浮くノブの血に染った左足を見た。
「切り落としても使えるんじゃ、態々狙う必要無かったな。かえって厄介だ」
『そこまで。勝者ノブ。治療をしますので瞬間移動装置の起動をお願いします』




