対人戦闘訓練、開始(4)
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地点Cまで移動して手持ち無沙汰な俺は、バタフライナイフを開いたり閉じたりして遊んでいた。
「ソーヘー」
ノブが止まる。ナイフを閉じると顔を上げる。
「どうしてオレと闘おうと思ったんだ?」
「どうして、ってノブの闘い方は俺の求めているものに近いと思う……て言うか、どうして?」
「お前さ、最初から闘い方とか武器の扱いとか、不自然に慣れているんだよ」
言っていることが分からない。
「ソーヘー、前線に出たのはいつだ? ユイのサポートを外れたのはいつだ?」
「えっと……八月だったけな」
「本格的に始めたのはな。正確にはその半月前、七下旬。八月の中旬には前線で活動してもらっていた。ソーヘーが来たのは六月中旬。七月下旬からの活動は援護射撃が基本。オレは射撃は下手だったから出来なかったし、ユイのサポも機械弱いから無理だったし、前線に出れたのは一年以上した」
「いや、でもそれは何年も前の話だろ? 俺よりも歳いってなかったろ?」
どうにか表情を崩すもノブはいつものように嗤わない。
「一応はな……俺が十五になる少し前の頃だったかな。初めて前線に出た時生死を彷徨う程の怪我をした」
ノブは服を捲り脇腹が顕になる。引き締まり筋肉のよく付いたいい身体だ。だが右の脇腹に傷の痕があるのは一目で分かる。
「内臓まで抉れて、数週間は人工臓器の状態だった……らしいけど、ホント言うと意識なかったから覚えてないんだけど。オレはソーヘーよりも鍛練の時間も長ければサポートやらで経験も多かった。それでも直ぐには順応出来なかった。その後も大怪我は良くしたし物を倒した数も少なかった」
腰の鎌を取ると手の上でクルクルと回す。
「昔は律儀な戦い方で、一体を倒すだけでも相当な時間を要したし、武器も持つことが怖かった。自分には向いてないって思ったよ。それでもなオレは戦う方法を模索して、今の、殺すことを目的とした戦い方を身につけた。見てただろ? リョーの腕を切り落とすまでの能力の使い方」
「リョーの技、ワザと当たっただろ」
「人の注意を引くのは大事な技術。どんな状況でも平常心なのも大事な技術だ。オレは数年でやっと形だけなら習得出来た。ソーヘー、お前ならどうだ」
手元の鎌が消えるように移動する。能力を使ったノーモーションの攻撃。バタフライナイフを開いて鎌を受ける。この後の行動は予想が出来る。攻撃に対して自然と武器に目が行く。その間に距離を詰めて攻撃。大体の想像は着いた。
──だからこそだろう。
身体が勝手に動く。瞬間移動でノブの後方上空。同時に火柱も瞬間移動で抜き身の状態で移動。重力による自由落下で距離が詰まる。ノブの能力で腰の鎌、もしくはさっきの鎌が飛んでくる。それから左足の回し蹴り。
結果としては、全て予想通り。腰の鎌は俺の顔スレスレで弾き、それ以外は影で縛り付けた。
「ほら、身体が勝手に動いただろ?」
渦に呑み込まれるような、平衡感覚を失って行くような、視界が安定しない。
「ソーヘー、お前は一番対人戦が上手い。虚を付くことも、虚を付かれる事も平然とやってのける。武器の扱いも能力の使い方もオレより遥かに上だろう。もし、影に捕まえれなかった場合どうしていた?」
「バタフライナイフを武器操作でノブの左足に刺していた。あと、透明化を使ってナイフを転がして置いた」
あの一瞬で自分、刀、ナイフを瞬間移動してナイフは透明化、元々持っていたバタフライナイフは武器操作で操った。
「コマが能力解放してからどうだ? 勝てたことあるか?」
「今のところは一度も。後もう一押し」
「じゃあ、十分だろ。戦う才能だろそれは。物とオレはどっちの方が戦いやすい?」
足元が覚束無い。巨大な底のない穴の上に立っているような感覚。
「の、ノブの方が……戦いやすい。身体の動きでなんとなく次のアクション分かりやすいし、攻撃は今までの闘い方を見ていたから、それで」
「それだけ聞ければいい。そろそろ準備が終わる。先にオレは戻ってる」
ノブが俺の横を横切って行く。
──俺はどうするべきだ?
今までの経験、喧嘩慣れした人生、無駄のない動きへの執着。不良達と、ノブやメイ達と、影と、コマと、何度も闘って、何度も経験して、幾度となく挫折した。それでも俺は闘い方を模索した。初期動作で動きを予測、相手の動きを逆に利用する、闘いそのものの経験を増やす。
戦いの才能なんてきっと関係ない。大事なのは意志の有無。
──手加減無しで行くぞ。




