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能力者達  作者: 蒼田 天
第三章 十二支決戦篇:上
39/60

一騎当千(4)

     4


「起きてください」

 そう呼びかけても眉間にシワが寄った状態から動かない。息はあるみたいだけど。

『透明化の娘』

 聞き慣れたソーへーの声より少しクセのある声がする。

「影さん」

『主は力が枯渇しきっている。貧血みたいなものだ』

「じゃ、じゃあどうすれば……」

『そうだな……目覚めのキスとか?』

「き、キス……?」

 そんなこと無理に決まってる。

 ──でも、それしか手段がないなら……

 覚悟を決めなきゃ……

『冗談だ。マジになるな』

「ふざけないでください! こっちは真剣なんですよ!」

 ソーへーの影を右足で何度も踏みつける。

『ひとまず《投薬》を使わずに左足と左腕の傷を止血して、あとは寝ていればすぐに元に戻ります。そのままほっといて大丈夫です』

「そ、そうですか」

 ガーゼで傷を押さえつけて止血を始める。数年間で簡単な処置はもう慣れた。傷を見てももう怯えないし、もう泣くこともない。

 それでも、どうしても胸の奥が、喉の奥が詰まったような苦しい感覚になる。申し訳ない。自分も一人の能力者で戦う力だってある。現に戦闘向きでは無いメイだって戦っている。そういうことだろう。

 私だって戦いたい。だけど、物達を目の前にすると脚が震えて、指先や足先の感覚が遠くなっていって、頭が真っ白になる。何も考えられなくなってしまう。こうやって機材室で画面越しに見る物だって怖い。

 傷だらけになっても戦う姿を見ていると、自分の無力さに、情けなさに、弱さに腹立たしくなる。

 視界が歪む。

 目から涙が止まらなくなる。出血が止まった傷口に包帯を巻く手が小刻みに震えて、上手く巻くことが出来ない。

「ユ……イ?」

「ソーへー……起きたんですね。調子はどうですか?」

「大丈夫か?」

 ソーへーは止まらない涙を親指で優しく拭ってくれる。

「ごめん……心配かけたよな」

「違うんです……ソーへーは悪くないんです。悪いのはむしろ私の方で……」

 包帯を巻き終えてそのまま部屋を出ていこうとした。

「待って」

 大きくて力強く、それでいて優しい手が私の腕を掴む。

「ごめん……ユイの泣いてる理由分からないし、俺にどうすることも出来ないと思う。でも、それが悩みなら俺に相談してくれて構わない。言うのが嫌なら言わなくていい。だから泣き止んでくれないか?」

 眉間にシワが寄った状態で目を細めて口角を上げる。

 胸から何かが込み上げてくる。

 ──苦しい。吐き出したい。

「わ、たし……みんなが傷付いてるのに……ここで、独りで逃げて……危険のない所で、こうやって震えていることしか出来なくて……自分が……情けなくて……凄く弱いって……強くなりたいって…………」

 きっと顔はクシャクシャに歪んで、涙に濡れて酷い有様だろう。そんな顔ソーヘーに見られたくない。両手で目を覆う。俯いて嗚咽を堪えようとする。

「ユイは弱くなんかないよ」

「そんなことない!」

「いいや、ユイは強いよ」

 ソーヘーの手が、優しく頭の上に乗る。

 それだけで救われた気になってしまう。そんな自分が心底嫌になる。

「今日、特大遊物倒した後……あの数の物達に囲まれて、もうダメだと思った」

 モニター越しに見たソーヘーはあの巨大な物に怖気付くこと無く戦っていた。その勇姿を見ているだけで私は何も出来なかった。何もしなかった。

「その時、機銃で道作ってくれて、誘導してくれたユイは本当に頼もしかった。お陰で助かった」

「ダメなの……優しい言葉をかけないで……」

「そんなことない」

「あるもん!」

「ユイは、人一倍優しい。優しすぎる。自分をもっと認めていいと思う。じゃないと、報われない」

 そういい、優しく包み込んでくれる。

 暖かい。指先に感覚が戻ってくる。鼓動が早くなる。

「本当に? 私はこのままでいいのですか?」

「良いも悪いも、実際俺はそれで助かっているし、ノブもメイもリョーもコマも、ユイのバックアップには助かっている。必ずだ」

 ──私はこのままでいいのだろうか。

「これからコマの言っている《十二支》と闘う未来はそう遠くない内に来ると思う。その時、一番重要になるのはユイだと俺は思う。あれほど大規模の透明化を長時間使えるのは相当な力を必要とするから、ユイの力の総量は多分えげつないと思う」

「えげつない……」

「その力の量が戦況を大きく変える可能性が充分にある。だから、もっと自信を持っていい」

 ──自信を……持つ。

 今までそんなこと考えたこともなかった。

 いつも皆にばかり戦わせて、自分は何もしていないと思っていた。

「ありがとう」

「いいんだよ」

 ソーヘーの大きい体に身を預けているととても落ち着く。

「ソーヘー」

「ん?」

「好き。大好き」

「うぇ? おう? うん」

 体がポカポカする。ぬるま湯に浮かんでいる時のようでとても心地いい。

 私は救われたのだろう。

 今年は進学の年を迎え、現在二週、三週、もしくはそれ以上の時間を掛けて制作している『能力者達』ですが、現在投稿中の「一騎当千」が終了後一定期間休ませて貰います。現在の予定ですと、五月中旬までの「一騎当千」の投稿を予定しており、それから七月末までとさせていただきます。読者は殆ど、というか居ないと考えておりますが一応の旨は伝えておくべきと考え、この文を制作しています。

 七月末からは投稿ペースを早く出来るよう心掛け、いずれはランキング上位に食い込みたいという無謀な幻想を抱き、後書きとさせていただきます。


        蒼田天

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