表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
能力者達  作者: 蒼田 天
第三章 十二支決戦篇:上
38/60

一騎当千(3)

     3


 ビルの屋上から見下ろすと気味の悪いくらいの数の物達がいる。

「うわ……」

『何かありました?』

「ちょっと不味いなー」

 他の物と比較するまでもなく圧倒的に巨大な物が二体。

「特大遊物と真似物がいる。えっと、特大遊物は……なんか羽? 翼? がある」

『え、疑問形で誤魔化しながら言わないでください。それは《プテラノドン型》じゃないですか?』

「ぷてらのどん? ああ、いやいやなんて言うかもっとゴテゴテしてる」

『分かりにくいです』

 分かりにくいと言われても、あのティラノサウルス型の進化系みたいな特大遊物を表す方法が思い浮かばない。

「えーと、じゃあ《ワイバーン》? あ、RPGの《ドラゴン》でどうだ?」

 自分で言ってしっくりした。うん、あれはドラゴンだ。RPGとほぼ同じ。

《ドラゴン型》。現実的に考えて複数人、俺とノブとリョー、みんなで力を合わせて戦えばなんとか勝てそうだ。ノブとリョーはいない。更には真似物が付いているアンハッピーセットだ。勝算? あるなら教えてくれ。

 危機的状況。一人でこの数、そして特大遊物と真似物。無理だ。

『ドラゴンですか……サイズは?』

「サイズって……ティラノサウルス型の二、三倍くらい」

『ああ、はい。ええ、はい。援護します』

 援護か、ありがたい。

 まあ、考えていても仕方がない。俺は《火柱》と《霜柱》を鞘から抜く。鞘を自室に瞬間移動させる。

 ビルから瞬間移動を使って降りる。

 何度かやってはいるけど、《アレ》は今のところだとまだ不完全だ。危険があるだろう。

 真似物がこっちを見る。

「食い付いた」

 刀を構える。左手の霜柱は前に、火柱は肩に担ぐようにして腰を落とす。

 すぐに他の物も目を向ける。眼が紅く光る。

 四方から砲弾が雨のように飛んでくる。

「《ライトニング》」

 右手の火柱に力を流す。力を電気に変換。放出させる。電気の電圧をそのまま、電流を高くする。

 電気を力として感じながら身体の方へ流す。電気に耐性があるからほとんど何も感じないが、一瞬だけピリッとする。電気をそのまま霜柱まで流す。

 脳の電気信号より早く筋肉を動かす。発生させた電気で命令を行う。──感覚。

 逃げ場はない。ゾクゾクする。今までで一番興奮する。

 砲弾を斬る。三六〇度全方位から飛んでくる砲弾をほぼ感覚だけで斬る。斬り損ねて身体に当たりそうになっても稲妻が爆破させる。

 特大遊物も動く。この大きさだと《空間転移》は出来ないか。

 ──影。

『《影の部屋(ブラックボックス)》でもあれは入らないですね。触れて《瞬間転移》するしかないでしょう』

 影を操作。先端を《強化》で硬化させる。影を突き刺す。貫通くらいは想像していたけど皮膚が硬い。刺さりはしたがそれ以上は進まない。

 ──まあいい、転移させよう。

 能力を発動。島へ特大遊物を移動させる。

 真似物も準備が整ったらしく人型になっている。

 ──影、《影の部屋》で島に送ってくれ。

『承知致しました』

 砲弾の雨に臆することもなく、真似物は一気に距離を詰めてくる。

「ギャァアアアア」

 ──《防壁》。

 擬態化した刀が防壁に当たり、うっすらとヒビが入る。

『──《影の部屋》』

 砲弾に撃たれながら暗闇の中に取り込まれる。すぐに暗闇は俺の足元に戻る。

「ユイ、まだか?」

 中物を蹴り飛ばし群がった遊物にぶつける。

『あと二十、いえ十五秒で』

 そろそろ精神的に限界だ。なるべく早く頼みたい。こうなったら、

「《指銃(しじゅう)》」

 指先に力を集めて撃ち出す、放出系統の操作技の中でも簡単な技。殺傷能力が決して高い訳では無い。それでも被弾すればダメージにはなるし、砲弾に当てれば爆破する。地面に当たっても傷は付かない。その特性を活かす。

 刀を瞬間移動で島に送る。それと同時に撃ち出す。単発で撃ってもキリがない。フルオートのように撃って撃って撃ちまくる。

 被弾した物はキックバックする。砲弾は爆破する。物は近づくことも出来ない。

 ──計画通り。

『装置用意よし。いつでも可能です』

「頼む」

 空色の立体は輝きを増すと、いつもの目眩のような感覚が襲う。

 見慣れた島の光景には今更俺も驚かない。この数を相手するんだ。冷静に、判断を間違えれば死ぬ。

 そうだ刀。火柱を瞬間移動で手元に持ってくるが、霜柱は瞬間移動するには触れていなければいけない。つまり、俺は霜柱を探す必要があるという訳だ。

「そりゃ不味いって」

 眼が紅く光る。

「ユイ、刀を探してくれ」

『探すって、瞬間移動使えばいいじゃないですか』

「火柱が例外なだけだ。それ以外は触れないと出来ない」

『うぇー……見つけました、地点Bの三十階建てのマンションらしきビルの十二階です』

「了解」

 なんだかんだ言っても、見つけるのに時間は掛からなかった。モニターが六つほど並んだ機材室では、カメラ映像を確認するのも容易になるか。

 後ろから真似物飛んで襲い掛かってくる。

 地点Bの三十階建てのマンション、となるとなかなかの高さだろう。いくつか候補はあるから、取り敢えず瞬間移動で候補地に行く。

「ユイ、位置情報と刀の位置は近いか?」

『いえ、そこから太陽の方へ向かって七時の方角です』

 窓から飛び出し、《足場》を使う。超筋力で脚力強化して屋上まで飛ぶ。太陽を見てそれに向かって七時の方角にはこの建物よりも少し小さめな建物がある。

「あれか」

『真似物が近づいてきてますので注意をしてください』

「了解」

 瞬間移動でマンションの屋上へ移動して飛び降りる。窓の近くで《足場》を作って着地し、部屋の中に入る。

「あれ?」

『あと、二階くらい下です。真似物急接近中。距離三百』

 三百メートルか。近いな。

「《紅蓮(ぐれん)》」

 炎を纏わせ床を焼き切って一階降りる。

「あった」

『距離百五十』

 そこまで近づいてきているならお出迎えしてやる。

 窓から飛び出す。真似物に手こずっているとあの特大遊物をはじめとする千体近くの物を倒すことは厳しくなる。

 ──一瞬で決める。

 核のある位置が分からない、が丸焼きにすれば問題ないだろう。

「《ライトニング》」

 右手の刀に力を流す。力をエネルギーに電気を発生させる。身体に電気を通して左手の霜柱にも電気を流す。

 真似物が跳躍する。握った刀からは紅い炎が揺らめいている。

 空中で距離が近づいていく。五メートルくらいまで距離が近づくと《防壁》を使う。真似物も頭が良くても咄嗟のことには反応出来ない。

《足場》を使って半回転しながら飛ぶ。更に《足場》を使い逆さまに降下する。

「《雷鳥(らいちょう)》」

 首を切り両腕両足を切る。上半身の肩甲骨辺りに刀を突き刺す。電気の熱量をそのまま、電力を炎へ変える。

「《蒼炎(そうえん) 火達磨(ひだるま)》」

 四肢もまとめて炎に飲まれる。核ごと燃やす。

「影、これ死んだよな?」

『大丈夫でしょう。問題はあの特大遊物ですよ』

 着地して空を見ると、真っ黒な巨体が空を円を描くように飛んでいる。

「作戦だけど……」

 遊物の群れが押し寄せてきて思わず苦笑する。

「電気を流して殺すことは出来ないかな?」

 超筋力に《筋肉強化》を上乗せして遊物の群れに切り込む。

 砲弾はなるべく避ける。避けきれないなら切る。攻撃は流す。それが無理なら防壁。

 想像以上に数が多い。受けきれない、避けきれない。やられる。

 ──影を槍にして全方向に伸ばせ。

 足元の影が広がってそこから伸びる影に次々と遊物は刺さっていく。

「《死体の山(ワールシュタット)》」

 影に火柱を突き刺す。流れる力を熱へ変える。熱を冷やし影ごと物を氷漬けにする。

「ユイ、あと何体残ってる?」

『三百はいます。特大遊物の周りに多いみたいで……』

 なるほど。

「《影人形(ドッペルゲンガー)》で雑魚狩りしてきてくれ」

『主、影使いが荒いですよ』

 足元の影が人型になると同時に瞬間移動で家に戻る。

「うぇ、ソーヘー何やってるんですかっ!?」

「対物ライフルで撃つ」

 メイの対物ライフルなら二キロ近く弾は飛ぶし、あの皮膚を撃ち抜くことも出来る……だろう。

SR(スナイパーライフル)なんて使えるんですか?」

「遠くから撃ち抜くのは得意だ」

「ゲームの話ですよね?」

 対物ライフルの入ったバックパックを持ち上げる、というか重くて担ぎ上げると瞬間移動する。

 地点Cの建物は基本的に全て小さなものばかりで、いくつか並ぶ鉄塔の一つに瞬間移動する。

 対物ライフルを組み立てて伏せる。スコープを覗き少しずつ倍率を上げて照準を合わせる。

「距離は?」

『千二百』

「湿度は?」

『二十』

「気圧は?」

『一〇〇三・七』

「風は?」

『北東。風力二』

 向かい風。決して強い風ではなく、気圧も湿度も高くない。

「弾丸はあの爆発するやつだよね?」

『はい』

「了解」

 引き金に指を掛ける。

 ──一瞬でいい。動きを止めろ。

『承知。三、二、一』

 閃光と共に特大遊物に高電圧の電気が流れる。それと同時に引き金を引く。

 特大遊物は少しの間動かないでいると、突然旋回をする。

「弾は!?」

『被弾しましたが、それでも核には届いていません』

 対物ライフルで抜けないってどんな硬さだ。この銃だって戦車の装甲を破っているんだ。それ以上の硬さとなると。どうするべきか。

「被弾はしているってことは傷は?」

『致命傷には程遠いですね』

 それだけあれば充分。

「合流するぞ」

 対物ライフルを瞬間移動で家に戻すと影に飛び込む。《影移動》を使って特大遊物の下まで行く。

「戻ってこい」

 霜柱を地面に突き刺して火柱を構える。

「傷はどこにある」

『向かって左側の頭部に』

「核は?」

『頭部の中心にあります』

 瞬間移動で特大遊物の高さまで移動する。

「見つけた」

 傷を目視すると《足場》を使い出せる力最大限に引き出して飛ぶ。

 ──《黒炎(こくえん)》。

 刀を逆手に握り炎を膨張させる。《紅蓮》と比べて力の消費量は莫大で、その分よく燃える。

「《桜花(おうか)》ッッ!」

 肘の辺りに炎を集めて爆発を起こして推進力を上げる。肘の骨が砕けた。皮膚が焼けて筋肉が露出している。特大遊物には技が直撃した筈だ。手応えはしっかりあった。

「《投薬》を送ってくれ」

『固定しないとダメです。一度戻ってきて体勢を立て直すべきです』

「そうだな」

 俺は瞬間移動で家に戻る。

「痛っ」

 傷が痛む。

「骨が露出してますね」

「投薬打ったらどうなる?」

「骨が露出した状態で修復して、元に戻すのが困難でしょう」

『主、無茶をし過ぎです』

 爆発の威力で攻撃力をその名の通り爆発的に引き上げるのは無理があったか。

「骨の位置を元に戻せばいいんだよな?」

「はい」

『不可能ではありませんが、流石に時間が掛かりますし、神経を直接いじるんです。主に負担が大きいです』

「問題ない、やれ」

『了解です』

 足から影が体に登ってくる。それが手まで来ると肘に強烈な痛みが走る。

 ──ッッッ!

 蹲る。想像以上に痛い。

「麻酔をした方が……」

「いや、いい」

 変な汗が額から溢れ出る。

 血が床に垂れる度、全身を寒気が襲う。

『あと一分ほど掛かります』

「問題ない、やれ」

 モザイク加工しないと地上波では放送出来ないような傷から飛び出す骨が身体の中へ入っていく。

『粉々なので軽く《治癒》します』

「投薬はしていいか?」

『はい』

 ユイから投薬をもらい投与する。体内の力の巡りを早めて薬の効果を早く出させる。

「なんか逆再生見てるみたいですね」

「地上波じゃあ放送出来ないだろ」

 一言で言えばグロいが、それもすぐに投薬の効果が聞き始めて傷が塞がっていく。

『どうでしょう?』

 肘を曲げ伸ばしして、少し違和感が残るものの痛みはないから大丈夫だろう。

「ドラゴン型は? 何処にいる?」

「んー……先程の攻撃の後から上空を円を描くように飛んでいます」

「高さは?」

「二百から三百メートルです」

 落下しながら斬る、だと皮膚が硬くて切れない。あの装甲みないな皮膚を破る方法か……

 ──なんかない?

『あれは力の塊みたいなものです。コマの防壁を破ったときのようにすればいいんですよ』

「ん? えー……と、あー《流動変化》で破ればいいのか」

『出来るかどうかは分かりませんけど』

 ──ものは試しだし。

 瞬間移動を使って島の上空に移動して《足場》使い着地をする。

「あそこか……」

 円を描くようにねー。ゆっくりに見えるけど、あの巨体だから実際の速度はそんなものではないだろう。

 更に瞬間移動を使って背中のところまで移動する。反応したのか速度が一気に上がる。

 超筋力に筋力強化を上乗せして足場の上を全力で疾駆する。

 ──速すぎ。

 背中に走りながら乗ると《蒼炎》を発動する。試しに翼のような部分を斬りつける。まあ想像はしてたけど浅くだけど傷は付けることは出来る。でも切り落とすことは愚か深い傷は付けられない。

 途端、急降下を始めて身体が浮く。

 ──影、引っ張れ。

 特大遊物の背中の影が伸びて脚に絡まるようになる。

 操作して遊物の背中へ戻ると、額まで向かい風の中を疾駆する。

 額には一箇所だけ傷があり結構深い。これでも核にはまだ遠いのか。

 体に触れて力を送る。複雑に入り組んだ力の流れを掴み、力を一点に集中させる。力を熱に変化させようとするが上手く変換出来ない。

「これ、無理っぽくない?」

『普通の力とは構成が違いますね』

 数秒格闘するが変換出来る兆しがない。

 視界が一気に明るくなる。顔を上げると目の前から紅い光の玉が飛んでくる。

 咄嗟に防壁で防ぎ爆発を起こす。砲弾が何処から飛んできたか判明させるべく《凝視(ぎょうし)》を使って力を透視する。すると前方から砲弾が次々と飛んでくる。

「嘘だろ」

 足元の火柱を拾って尻尾の方へ走る。

 ──何処から?

 探す。前方から飛んできているのは分かるが、遊物の巨体が邪魔で見えない。

 背中から飛び降り足場を使う。前方と遊物の背中の方から砲弾が次々と飛んでくる。

「《ホーミング》か……」

 霜柱が欲しいところだか背中の《グロック》を抜いて《ライトニング》を使う。

 ──お前ならどうする?

『迎撃には限界があるので退避しつつ迎撃。地上へ戻り体制を立て直します』

 何発か斬り後退しながら足場から飛び降りる。足場を使って少しずつ降りていく。幾つか砲弾は防壁に阻まれて爆破する。地面に足が触れると直ぐに走り出し、近くの建物跡に入る。建物内を突っ切り窓から飛び出て、更にその向かいに建つ建物へ飛び込む。その時点で砲弾は無くなっていた。

「さて……どうしたものか」

 刀は通らない。銃弾も通らない。操作技では充分に力が伝わる前にやられる。

 斬れるか?

『主はまだ焼き斬るには足りてません』

「訳分からん。足りてないって? 熱量は充分足りてるはずだろ」

『そうではなく……』

 影が身体へ登ってくる。

『いいですか』

 刀を鞘へ収める。

『イメージしてください。刃で熱を抑えるのです。鞘のように』

 刀を抜く。抜き身になる瞬間爆発するように炎が鞘から漏れ出る。

『それではダメです。もっと抑えるのです。エネルギーを放出せずに内包するんです』

 力を緩める。

『力は維持したまま、内側では爆発、外側でそれを抑えるのです』

 炎を燃え上がらせない。尚且つ熱量を維持し続ける。

『そうです。では我はもう力を貸しません。主なら操作出来る筈です』

 腕に伸びた痣のような部分は、体を伝って足元へ戻る。気を抜けばすぐに熱が外へと爆散しかねない。

 瞬間移動を使い身体を宙に躍らせる。身体が逆さまの状態で足場を使い、更に加速する。

 刀を両手で構えると、飛び落ちる様に遊物の背中に着地する。それと同時に右翼を斬り付ける。硬い。ひたすらに硬い。それでも蒼炎ではビクともしなかった刃は、翼の中程まで進む。

「──らぁ!」

 背中を蹴ると一気に翼を斬る。左足を踏み込むと一気に蹴る。慣性など無視して直進すると、前方から雨の様に砲弾が飛んで来るが斬り進む。爆発は刀の周りを覆い火力を上げていく。

 二度往復するように額を斬り付ける。刀身は黒く燃え上がり遊物の皮膚は容易く斬り落とされる。

「──《桜花》!」

 斬った皮膚は融けて蒸発し、核は間近に見える。

 爆散する刀身と一緒に撃ち込んだ拳の衝撃は、遊物の巨体を貫き核は容易く焼け消える。

 一気に力が枯渇していく。消えていく特大遊物の巨体から足が抜ける様に落下し始める。まだ物がいる。

 纏いが使えない。身体中痛い。右腕が痙攣したように震える。呼吸が浅い。

 足場を使って一度着地して、回転して飛んできた大物を蹴り落とす。核は潰れたから浄化だな。

 何度か足場を使い地面に足が着く。まだ数が多い。

『ソーヘー、大丈夫ですか?』

「何とか……」

 でも右腕はもう言うことを聞かないだろう。力はあと一割あるかないかというところか。

『援護しますので、指定する場所まで切り抜けて来てください』

 そう言った瞬間、けたたましい銃声と銃弾が飛んでくる。一直線に道が出来るように物が浄化される。

『そのまま西へ走り抜けて下さい。地点AとEの間にあるショッピングモールの駐車場入口まで来てください』

「ナビは頼む」

 操作技は基本的に能力よりも力の消費が激しい。超筋力を発動して物達の間を駆け抜ける。機銃の発射音と着弾音が後ろから聞こえる。

 円柱型のドローンが目の前に現れる。

『これに着いて行って下さい』

 ドローンは俺の走る速度と同じ位の速度を出している。

「速いな」

『三百キロは出ます』

 ドローンは器用にビルの窓枠を通り抜け俺もそれに続く。黒い玉を二つ転がしてビルを抜けると同時に爆発する。右折して少しして直ぐに左折。人一人がギリ通ることが出来るくらいの道を走り抜ける。

 見慣れた黒いキューブが設置してあり、そのの中に飛び込む。

 目眩に似た感覚と一瞬の浮遊感を終えて目を開ける。

「お疲れ様です」

「お疲れ。あと何体くらい残ってる?」

「そうですね……百、二百いるかいないか」

「多いな」

 影がカップラーメンにお湯を入れて《影移動》を使って持ってくる。

「便利な能力ですね……」

 三分経つまでにはまだまだ掛かる。

「いつだか覚えていないけど、あの時みたくあげる訳にはいけない」

「取りませんよ」

 ゆっくり起き上がってユイのデスクへ行く。真ん中に十字があり、標準を合わせてエンターキーを押して銃が連射される。

「FPSみたいだな」

 実際は、島にある機銃とそのモニターの映像がリアルタイムに送られてきている。

 カップラーメンを待ちきれずに開けて、一気に口の中に掻き込む。

「火傷しません?」

「もーもくあふはは……」

「飲み込んでからにして下さい」

 俺は咀嚼を早々切り上げて飲み込む。

「能力あるから熱いものと冷たいものは大抵平気」

「あ、なるほど」

 少し硬いカップラーメンを飲み込むように二口で食べ終えると、刀を持って立ち上がる。

「一番物が多いところの上空に転送して」

「了解」

 装置の中に入ってもう慣れたあの感覚を味わう。

 何体も物がいる中に飛び込む。周囲にいる何体かを斬り纏いを発動する。

 ──一撃で終わらせる!

「《死体の山》ッ!」

 影が伸びる。網のように広がり、槍のように伸び上がる。影に刀を突き刺す。電気が流れて物達の体を焼く。

 悲鳴にも聞こえる奇声。

 影から逃れた物もすぐに木の枝のように伸びる影に体を貫かれる。

 力が一割を切ったところで能力を解除する。途端、どっ、と疲れが押し寄せてくる。

 ──あと五十くらいか。

 刀を抜き前方から来る物を迎撃、電撃で核を破壊する。

 背中から拳銃を抜き取る。刀を逆手に持って銃を構える。引き金を引いて何体かいる遊物を浄化させる。弾が切れたら空薬莢を《武器操作》で浮かせて高速で飛ばす。その間にマガジンを変えて、再度引き金を引く。マガジンが切れると遊物はほとんどいず残すは数体の遊物と物だけになった。

 瞬間移動を使って地点Cの鉄塔の上へ移動し、対物ライフルを担ぎ上げる。

 そのまま地点Aの中央にある巨大ビルへ移動してうつ伏せになる。

「ライフルの弾はあとどのくらいある?」

『百以上はあります』

 残りは二十体前後。スコープを覗いて標準を合わせる。この距離なら外すことはないだろう。

 トリガーを引く。

 重たい反動が肩から全身へと抜ける。拳銃とは比べ物にならない巨大な空薬莢が排出されると同時に物は消えていく。すぐに別の物へ照準を合わせて引き金を引く。

 マガジンの弾を全弾打ち切る頃には、位置がバレて銃を構えていられる場合じゃ無くなるだろう。それまでに一体でも多く倒すことを目的としている。

 引き金を引いて隣にいる物へ照準を合わせて更に撃つ。ラスト一発。見える中では一番巨大な物に照準を合わせて引き金を引く。前方へ入って来た遊物を容易く貫通して、直撃し爆散する。

 弾倉を取り出し弾を入れる。何体か既にこっちへ向かって来ている。背中の《グロック17》を構えて近くまで来ている遊物を撃つ。遊物はこれでいなくなった。

 弾倉を取り付けて薬室へ弾丸を送る。物が近い。あと十体。二、三体なら倒せるだろう。

 スコープを覗いて引き金を引く。核に当たらずとも爆散し核が破壊される。

 残り十体。

 更に一発打つと同時にビルの下まで物が一体来る。

 あと九体。

 影移動を使って一階まで移動しその物を撃ち抜く。

 あと八体。

 屋内に入ってきた物はすぐに体を変形させ曲がった刃が出来る。続々と屋内に物が入ってくる。攻撃を迎撃しながら八体全てが中に入るのを待つ。八体入ると同時に左足に攻撃が掠り足がもつれる。

 瞬間移動でビルから出る。

「《影の部屋》」

 物がいる一体を黒い影が覆う。

 影の内側を槍のように伸ばすイメージ。

「《鉄の処女(アイアンメイデン)》」

 影が物の体を貫くのが力を通して伝わる。影に刀を突き刺す。

「《フリーズ》」

 影が一気に凍りつき冷気を帯びる。

「《スパーク》」

 途端、閃光と共に電流を流す。

 ──限界かな。

 影の部屋を解除する。

 中の物はマジックのように消えていて俺の意識も朦朧とし始める。

『大丈夫ですか?』

「あぁ、ちょい限界」

 膝から下が無くなったかのように力が入らない。刀を落として手を地面に着く。

『移動します』

 もう何百何千と経験した感覚を味わう頃には意識はもうなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ