-三章プロローグ- 昔話Ⅱ(3)
舘に戻り、隣の甘味処であんみつを頼み持ってきて貰うと話を始める。
「今日、小桜は診療所で《瀉血》を行っていた為遅くなった。それに対し一方的に攻撃を行った。それにより舘が血だらけになったのは認めるな?」
「ああ」
「よろしい。この清掃は糸牙家で行うように」
これで先程の件に着いてはお終い。
「今回、この機会を与えて貰ったのは村の治安の問題だ。最近、田畑が荒らされているようだな」
「農村の方はサクの仕事だ。オレには関係ねェ」
「まあ最後まで聞け」
「そうですね。最初は猪や鹿が森林の方から入ってきているのかと思ったのですが、今の時期は木の実や茸などには困ることのない時期なのです。実際、獣用に柵を設置してみましたが結果は変わらず、むしろ柵が壊された状態で荒らされていました。あれは確実に人為的であると考えられるでしょう」
「あとは町との関所で、スリや違法通行している者がいるようだが」
「それはオレのところで原因を探ってる。一人関所のヤツがグルだったようだが、ゲロってるから時間の問題だ」
「仕事が早くて助かる。小桜の方はどうする?」
小桜は顎に手を当て少し考え込む。
「柵の制作にも人員と労力、材料と資金が必要ですので、これ以上長引かせる訳には行きません。つきましては、猫さんの方で《防犯カメラ》という物が造られていると聞きましたが、それを設置してみないでしょうか?」
「良い意見だ。だが、バッテリーの問題上八時間程度稼働させることが現状だ。こちらから話は通しておく。使用して改良点などをまとめて提出してくれ」
「承知致しました」
「でだ、これらの案件に関して双方共人為的であるということが問題である。これは両家共の治安維持能力の低下ではないだろうな? これまでもいざこざや小競り合いはあったが、万引きやスリなど小さな犯罪が増えてきている。注意喚起すると共に警戒を強くするように」
「了解だ」
この件で一番責任が重たいのは糸牙だ。村は基本的には糸牙の領地で、小桜は田畑のある村の端の方だ。今回事件の多いのは町と村の境のところだ。糸牙が最近殺気立っているのもその事があってだ。
「話は終わりか? オレは帰るぞ」
「もう一つだけある」
「さっさとしろ」
「最近、吾輩が衰えてきた」
「…………と、申しますと?」
「吾輩は複数日生活する間に幾度も能力や力を行使する。先程も多量の力を消費した」
先日の激しい疲れは恐らくただの疲労などではないと、吾輩は思っている。自分の身体は自分が一番良くわかるとはよく言ったものだ。
「恐らくだが、吾輩はもうあまり長くない。二百年程度で本来の力を全て失うと思う」
「ネコは今のところ二、三百年生きてきたんだろ?」
「まあ、な。その中で培ってきた知識と能力は健在だ。だが、先日、丁度村まで来た時力を行使する度に疲れと頭痛に襲われた。少し眠るだけで回復する力は、長い時間眠らなければいけなくなり始めている。一日に活動出来る時間も徐々に減りつつある。このことを話したのは、もし何かがあった場合吾輩が対処出来ない可能性がある。それを了承していて欲しかったからだ」
「運悪くそんな事起こるか?」
確かになんとも言えない。そんなタイミング悪く起こることは無いだろう
「可能性は潰していきたい。もし、このような自体が起きたならば総司令は紅に任せてくれ。現場での指揮は二人で協力して貰いたい」
「オレとサクで? 無理だろ?」
「そんな事無いかもしれませんよ? 喧嘩するほどなんとやらとも言いますしね」
「虫唾が走る。やめろ」
そんな事もないと思う。
もう何年も前だ。
あの二人を無理矢理島に連れてきた日。
彼女らは私に出会う前からの腐れ縁だったようで、その日も一緒にいた。時間が経つ事に強くなっていくことに、吾輩は久々に焦りを感じていたのを覚えている。
次の投稿は年明けてからですね。一年はあっという間……。師走もおしまい。投稿日は多分10日です。
また来年もお願いします。




