-三章プロローグ- 昔話Ⅱ(2)
前回の投稿で22日ですとか言ってすみません。二週間遅れての投稿です。
気が付いてふわふわとした浮遊感と共に起き上がる。頭痛は引いたし体の火照りも無くなった。全身の痛みも引いた。
着ていた服を洗濯機に入れて風呂に入る。
冷たいシャワーを頭から浴びる。全身の感覚が手足の指先から戻ってくる。
風呂から出て濡れた体のままクローゼットの所へ行く。能力で全身の水気を蒸発させる。紬を着て羽織を纏う。外へ出て一区画の書類を整理しに行く。
能力で到着すると傍付きの者が近づいてくる。
「お目覚めになりましたか」
「吾輩は何日眠っていた?」
「十日間一切お部屋からは出ておりません」
「仕事はどのくらいある?」
「優先するべきものは線路の視察、三区画の糸牙家と小桜家との会談が御座います」
「分かった。紅、休んでないだろ? 少し休息を取れ」
「お言葉に甘えさせて頂きます」
書類を手に取り線路の始発となるべき場所、一区画の駅ビルへ向かう。
電車が出発する直前に瞬間転移で中に乗り込み座席に座る。
数分間電車に揺られ二区画へ入る。貨物を積んでいる電車は数分停る。
「車掌、少しいいか?」
「これは猫様。十日ぶりでしょうか。お久しぶりです」
「今線路はどこまで伸びている?」
「ここから四つ程先の駅ですね」
「となると、六キロくらいか……分かった」
終点の予定位置に近い。ここ数日の間に二つも駅が伸びている。
「分かった。私はここで降りて終点へ向かう。向こうであったらまた声を掛けてくれ」
「はい。お疲れ様でした」
ホームに降り、町の中を歩く。
建物の外には室外機が取り付けられているものもあり住民も少しずつ増えているようだ。
一駅分歩き建物に入る。
「町長、居るか?」
「すみません、仕事が立て込んでまして──五分……いえ十分、二十分程お待ち頂けますか?」
住民登録だろうか? 随分慌ただしいらしく二階から声はするものの顔を出さない。
「いや、少し様子を見に来ただけだ。問題が起きた際には一区画の方に連絡を入れてくれ。また来る」
「はい、次はお茶をお出し出来る程度には落ち着かせておきます」
庁舎を出て近くにある鉄塔を見つけて一番上まで登る。
──町の全域までは見えないか。
能力《駒》──《千里眼》。
荒野の方は電気は言っているが道の舗装をまだまだだ。発電所の方は店まであり進んでいる。村の方は少し住居が少ない。このことも話合わなければ。
懐中時計を取り出し、指す時間はそろそろ予定の時間だ。
能力《瞬間転移》。
一瞬で村の舘の前に着く。
「少し時間があるからな、甘味でも食べるか」
すぐ近くにある甘味処に入るなりすぐ、よく知る力を感じ取る。
「貴様もここに来ているとはな」
「ネコ、ここは茶を飲むとこだ。そうピリピリすんなよ」
「小桜は一緒じゃないのか?」
「なんでオレがサクと顔突合せて茶を飲まなきゃいけないんだ」
本当にこの二人は仲が悪い。
「ご注問は?」
「糸牙と同じものを」
「畏まりました」
和服を着た娘にそういい向かいに座る。
「この間の小競り合いもこの店の団子だろ?」
「んあ? ああ、テメェが顔見せに来た時のやつか。ここのみたらしは絶品だからな」
そう言いながら串にかぶりついて団子を食べる。香ばしい香りと甘い香りが混ざって欲求が強くなる。
「にしても、ここ数日テメェの気を感じなかったな……なんかあったのか?」
「──少し疲れていてな……仕事を休んでいた」
「根性足りてないんじゃねぇか? オレが叩き入れてやろうか?」
口角を上げ大太刀を持ち上げる。冗談を真に受けて力を発動すれば斬り合いになる。あんなことは二度と御免だ。
「お待たせしました」
お茶と一緒に出された団子を一口食べる。甘くねっとりとし口の中に焼いた団子の味が広がる。甘過ぎず、醤油の塩味も感じて幾らでもいけそうだ。
「どうだ? 旨いだろ」
「ああ、だが小競り合いをする理由にしては不充分だな」
「引きずるな。まあいい、機会があってそっちに行くことがあったら手土産として持って行ってやる」
「ほう、それは有難い」
一本目の団子を平らげて二本目に手をつける。お茶を一口啜る。
「唐突だが聞いてもいいか?」
「どうした、改まって。らしくない」
「能力ってなぁ、どうやって作ってるんだ?」
「それを聞いて、どうする」
能力は人が簡単に扱っていいものではない。ましてや私が使う能力《駒》は《戦争》。他の能力とは根本的な物が異なっている。
「単なる興味だ。オレにもガキが産まれる。家宝として、能力を遺すってのも一興かと思ってな」
「能力を興味本意で?」
「不味いのか?《駒》の能力。実体として留めて置けるんだろ? 能力は気を流すことで使用が可能になるってなら家宝として残すってのにはちょうどいい」
「能力は使い方を誤れば容易く一国を滅ぼせる」
ここ数十年新しい能力は創っていない。能力は災いの元だ。戦いの火種ともなる。簡単に創っていいものではないし、簡単に創れるものでもない。
「分かってるさ。ただ、参考までにだ。オレも戦う為に創る訳でもないし、今すぐ創ろうって訳でもねぇ。オレがババァになってもう死んじまうって時に形としてガキ共に継がせたいって考えただけだ」
「勧めることは出来ないが、原理だけは教えてやってもいいだろう。ただし《駒》の能力はダメだ」
「仕方ねぇ、そう頑なに拒まれちまったら強要も出来ねぇしな」
そう言い立ち上がると刀を持って出て行ってしまった。
「そうだ、オレの願いを断ったんだ。少しぐらいは奢れよ?」
「な、待っ……」
そのまま影が見えなくなり仕方なく吾輩は二人分の会計をすることになる。
団子を食べ終え、会計を済ませて懐中時計を見る。
──時間だな。
外へ出ると鈍色の空で、いい天気とは言えない。洗濯を取り込む姿も見れる。
舘の中に入るが小桜の力を感じない。会議室に入るもそこにいるのは糸牙だけ。
「おう、さっきはごっそさん」
「時間に五月蝿い小桜が居ないとは……何かあったのか……」
「ナニか? アイツが『ナニか』に巻き込まれたとしてもどうにか出来るくらいの技量はあるだろう」
「そうは言っても、もう五分を切ろうとしているんだぞ?」
髪の毛を少し抜き《使い魔》として飛ばす。
小桜の屋敷周辺を組まなく探す。使い魔から力を放射状に飛ばして探知させる。
周辺の住居。舘までの道のり。小桜の行きそうな所全てに使い魔を飛ばす。
──いた。
舘までの道のりから少し外れた建物。ここは、診療所? なぜ?
瞬間転移でそこまで行くと小桜は振り返る。いつもの淡々とした喋り方に少し疲れが見える。
「あら、猫さんわざわざ御迎えにあがって下さったんですか?」
「あまりにも遅かったからな」
額の汗を拭いながら立ち上がり、風呂敷を持ち上げる。
「私はこれで失礼します。後は頼みました」
「いえ、お忙しい所をありがとう御座います」
「急ぐぞ」
小桜の体に触れ瞬間転移で舘まで行く。
「なぜ遅くなった?」
「少し、あそこで緊急の治療をしなければいけなくなりまして」
「《瀉血》か……」
小桜家の《心血流》基礎中の基礎。技の基本となる《瀉血》。体内から血液を抜くという血液を操作する技。血液中の毒素を血液と一緒に排出することも可能。
それで病院で毒素の排出を行ったという訳か。
「糸牙が相当頭に血を登らせている。呉々も荒事にならないように」
「分かっていますわ」
──だといいんだがな。
舘に入るなり力の濃度が高まる。能力《銀将》。ショートソードのシルバーの刀身に飛んできた大太刀が直撃する。
「──くっ」
今の駒の強化は相当な物だった筈。それが武器操作の刀に砕かれた。
「オイ! サク! 来るのがオセェんじゃねぇか?」
手元に帰って来た大太刀を掴むと同時に跳躍する。
「待て、話を聞け」
《銀将》身体強化。《金将》ロングソード。
大太刀をロングソードで受け止める。重量で床に足が沈む。
「退け!」
更に剣が重くなる。
右方から力を感じて刀を押し返して飛び退る。
「《鉄血》」
「面白い」
「待てッ!」
《王将》ロングソード。《金将》身体強化。
二人の間に入り攻撃を受け止める。《金将》の剣に亀裂が入る。
「話を聞いてからだ! 貴様ら激しい動きは子供に支障を来すぞ!」
攻撃が軽くなる。
「何があったって言うんだ?」
「私は診療所で《瀉血》治療をしていただけですわ」
「それでも遅くなったことに変わりはないだろ?」
「まあそうですね」
力を感じる。真上に跳び《重力操作》で天井に着地する。舘一面に赤い糸が張り巡らされる。
「《炎糸櫻華》」
──まずい!
「小桜! 掴まれ!」
能力《瞬間転移》。
舘の外に転移して着地する。
出入口や窓から赤い糸が伸びてくる。
「小桜、荒野の方へ行ってくれ。遠いがあそこがこの島で一番何もない場所だ」
「少し癪に触りますがいいでしょう」
そう言い凄まじい速度で走っていく。一言余計だ。
舘の中のにはまだ糸牙はいる。能力《駒・香車》。転移を発動させ、糸牙とのゼロ距離になる。目の前の女の体を掴もうとするが身体が動かなくなる。
「──っ!」
「糸乃崎ィ! やろうとしてる事が目に見えてんだよ」
腕に赤い糸が絡まっている。飛び退ろうとするが胴にも足にも糸が絡まる。
「《梅腕》!」
蹴りが顔に直撃する。同時に瞬間転移で荒野に移動する。
左頬に強烈な痛みと共に荒野に転がる。
「──ちっ。攻撃を食らってまでオレを移動させるたァ、血が無駄になったじゃねェか」
「いい事じゃないか。動けなくなった方が話もしやすいかもな」
「ナメてんのか? あァ?」
カッ と力が膨張するのを感じて右手のロングソードで糸牙の刀を受け返す。一撃で亀裂の入った剣は砕け散る。
「《瑚燠珊燎》!」
能力《駒・角行》。
糸牙の身体の周りに血液が凝固する。一瞬で触れると消えたかのような速度で飛んでいく。
──これで時間を稼げるか……。
途端、勢いよく引っ張られる。見ると腰に赤い糸が巻かれている。今の一瞬で吾輩の腰に糸を巻き付けたのか。
──不味い。
転移で離れようとした瞬間、引かれる力が弱くなる。
重力に従って着地すると赤い大剣が目に写る。
「これで一つ貸しですね」
「今度洋菓子でもご馳走しよう」
「まあ、それは嬉しい御座いますね。美味しいお菓子と美味しいお茶は幸せの源です」
──糸牙をどうする。
奴程の力を持っていると下手に力を抑えれば殺られる。だからといって力を酷使しすぎると胎児に影響が出る。
──胎児に影響か……。
少し使えるかもしれない。
「小桜、血液の匂いを変えることは可能か?」
「血液の匂い? ええ、まあ、出来ないことはないと思いますが」
「それなら煙草とか香水みたいな匂いの強いものに似せられるか?」
「やってみましょうか」
垂れる血液から果物が腐ったような異臭を放つ。
「うっ……」
「つわりか?」
「ええ、申し訳ありません」
「いや、これを糸牙に使えば同じ現象を起こせるかと思ってな」
防壁の中に血液を入れる。さっきまで離れて行っていた力が近付いてくるのが感じられる。
「小桜は下がっていろ。後は吾輩が何とかする」
その言葉と同時に糸牙がもの凄い勢いで着地をする。
「糸乃崎! 邪魔だァ!」
下段の大太刀をロングソードで受ける。
「《緋岸陽華》」
直ぐ様仰け反ると短刀が顔の前を横切る。一歩引こうと飛び退るが距離を詰められる。
「《溶蒐火》!」
短刀が形状を変え細く伸びる。左肩に突き刺さり強烈な痛みを感じる。
──この技は不味い。
痛みが強くなる。今までは肩を貫かれた痛み。今のこれは皮膚を、筋肉を、骨を焼いて溶かす痛みだ。このままでは再生出来無くなる。
能力《駒・香車》。
糸牙のゼロ距離に移動する。
「《丹爀散華》ッ!」
「──なっ!」
爀い牡丹の華の散る技。名の通りのこの技は、血液が気化、そして爆破を起こす。
──間に合わ…………。
視界が白く発光する。
能力を使用した直後の駒の使用が出来ない。能力《盾》。
吹き飛ばされ転がり落ちる。
盾で右足が間に合わなかった。膝下から先がない。
「──っつ」
「糸乃崎ィイィッ!」
──しまった。
全身から血を流す糸牙が近づく。ドッと言う音と共に地面から赤い棘が飛び出す。
「──ッ! サクッ! テメェエ!」
血闘術・心血流《地血》。小桜の技。隙を作ってくれた。一世一代のこの瞬間。
《瞬間転移》応用《空間転移》。
先程の血を転移。防壁を解除。途端、強烈な悪臭が漂う。
「ンダッコレ! うっ」
硬化していた血液が溶けていく。
「クソが……ハメやがったな! その血、サクのだろ」
「あぁ、一度動きを止めれば会話も楽だからな。頭は冷めたか?」
「最悪な気分だ」
それでも出血は止まっている。一応落ち着いてはいるようだな。
「一度舘に戻って話を聞け。村民の為に遅くなったんだ。話を聞いてから落ち着いて判断しろ」
「分かった」
今回は戦闘でそこそこ長かった。
次回の投稿は年越し前には。27日くらいで。




