-三章プロローグ- 昔話Ⅱ(1)
前回の投稿から一ヶ月以上開きました。すみません。
『十二支決戦篇:上』としてこの十二支篇を始めていきます。過去回想とか入るので十二支篇は長くなります。
着々と作業も進み、年月が経ち、気付けば春の暖かい季節になる。
「これで何度目の春だ?」
「九、ですね」
今では、幾つもの高層ビルやマンションが建ち並び、電車のレールも敷いてある。
住民も増えてきた。
「姉様、三区画の所で小競り合いがあったと連絡が……」
「三区画? 村か? 誰だ?」
「糸牙結と小桜咲です」
「またか……」
ここは四つの区画に別れている。現在一番生活が安定し、一つの大都市となった一区画。都市と電車で繋げ、今では人口も増加を続ける町、二区画。そして手を付けていない林や草原沼地の多くは四区画としている。そして一区画の隅を流れる大きな河川の上流のほう、一区画の端に小さな村がある。これが三区画。
私が力の器の大きい人間を集めた所、家畜を飼い、田畑を創り、林の木々を切り家を建て始めた。それからと言うもの、自分たちで生活を成り立たせてしまい、吾輩も手を出しにくい所だ。
「仕方ない、吾輩が向かおう」
多少能力を使ってでも急いで駆けつけるべきだろう。そのうち都心部にとばっちりが来るかもしれん。《瞬間転移》で着いた村では縁日のようにガヤガヤと賑わっている。
「おお、これは猫様じゃないですか。どうしたですか?」
「小競り合いがあったと聞いてな……糸牙と小桜はいるか?」
「それならあそこで……」
人衆の真ん中の方を指す男。《空中浮遊》で浮き上がり空から見下ろす。
木で造られた机。その上で白く華奢な細い腕と、少し黒くなった芯の強そうな腕が、肘を立てお互いの掌を掴み合い腕相撲をしている。
「あら、それで本気かしら?」
「バカ言うな、テメェの細っこちぃ腕で本気出したらポッキリ逝っちまうかと思って加減してるんだよ」
「私は『バカ』でも『テメェ』でも無いわ。でも、ホント貴女優しいのね。その汚らしい言葉遣い治せばいいのに」
先に机の方が壊れそうなほどミシミシと音を立てている。
「貴様ら、辞めないか」
「猫さんではありませんか。これはこれはお忙しい中どのようなご要件で?」
「テメェもやるか? だがこのアマを叩き潰してからだ」
「貴様らを止めに来たんだ」
「止めるもなにも、私は別に悪いことはしていませんが?」
「オレも何かした記憶はねぇな」
「貴様らは……」
能力を発動させようとした瞬間、匂いが濃くなる。左に避けるとそこを刃が一閃する。
「テメェ、今力使おうとしたな?」
「邪魔は困りますね。これはお仕置きが必要ですかね?」
──面倒な。
咲の腕には痣が浮き上がり、結は大太刀を握っている。
「戦う気は無い」
「あら、ならその《駒》を手放したらどうかしら」
「別にオレは構わねぇぜ」
「貴様ら、子を身篭ってることを忘れてはいないだろうな?」
一瞬にして空気が変わる。咲の腕から痣が引き、結も配下から鞘を受け取り刃を収める。
「ちっ、辞めだ。萎えた。テメェら仕事に戻れ」
「猫さん、お気遣いどうも。無事に我が子が誕生したら文を送らせていただきます」
「楽しみにしておく」
全く仕事を増やしやがって。
「おい、商人」
「はい? なんですか」
「何を理由に奴らは争ってた?」
それを聞くと商人は顔をクシャッとし、向かいの店に指を差す。
「つまらない理由ですよ。あの店の団子を二、三本結さんが食ってたところに咲さんが入ってきて、『団子を作れるだけ作ってくれ』って、そしたら『んなメーワクな話しあるかぁ!』って結さんキレちゃって。それからはさっきの状態ですね」
今月入ってもう八度目だ。腕相撲で済んでいるからまだしも、これが殴り合いになったら止めるのに一苦労だったろうな。
「引き止めて悪かった。今から都市に行くのか?」
「町を経由して行きますね」
「そうか、それなら力を貸そう」
「ホントですか? 助かります。町の交通税が最近高くて」
「流行病の影響だ、悪く言わないでなってくれ」
最近は伝染病まで発生し始めた。人間は脆い。持っている知識で何とか流行を抑えることが出来たが、漢方や薬を作るには知識が少なすぎる。
「それでは行こうか」
車に乗り込み商人がエンジンを入れるべくキーをひねろうとする。少しだけ煙草臭い車内。
「まて、商人」
「なんでしょう?」
キーから手を離し深く腰掛ける。
「目を瞑れ。そしたら深く息を吸うんだ。自分に暗示をかけろ」
「は、はいっ!」
「ここは町だ、自分の目的の場所だと……」
少しだけ商人の頭の中を覗く。目的地へ瞬間転移させる。
一瞬で外の景色が変わる。
「良いぞ」
「はぁ、なっ、これは驚いた。町に着いている。猫様、神の御業をありがとうございます」
「案ずるな。身体を労れよ」
車から降りると疲れを感じる。そろそろ吾輩も歳か。最近は身体の疲労が上手く取れない。能力も多少使うだけで強く疲労を感じるようになった。
都市や町は完成系に近付きつつあり、村も発展している。四区画の方も研究が進みつつある。車の普及は完了したが道路の整備などは全くだ。線路も都市の外れから町の入口付近までしか伸びていない。吾輩の理想からまだまだ離れている。
──まだ休む訳にはいけない。
立ち上がり線路の方へ向かって歩いていく。
「猫様、御無沙汰しております」
「頭領か。進展は?」
「町の中ほどまで石を敷き詰め終わりました。枕木は少しずつ敷き始めています。レールの方が完成に時間が掛かりそうで……」
レール? 軌条のことか。
「鉄の不足か?」
「鉄の温度が上手く上がらないみたいです」
となると故障か。
「近いうちに対応する」
町の入口まで行き、制作の完成した駅を眺める。
木と鉄を使った造り。簡素ではあるがしっかりしている。
「猫様、お疲れ様です」
「改札鋏。電車は走ってるのか?」
「電車でしたらあと十分程で……」
──あと、十分か……。
「電車が来たら教えてくれ」
崩れるように木製のベンチに腰掛ける。
視界がぼやける。
「……こ様……猫様、電車が参りました」
「ああ、済まない」
立ち上がり電車に乗り込む。
三駅先の近くに製鉄所がある。
座席に座ると一気に眠気が襲ってくる。
──少し休みを取ろう。疲労が溜まっているのだろう。
最近は能力の酷使は無かったが、少し《時空移動》を使ったくらいだが。
「それでこれでは、先が思いやられるな……」
住民は歯車で頭領や糸牙、小桜などの中心人物が巨大な歯車。更にそれを動かすハカセ。その動力源となる吾輩。動力源がこのザマでは困る。だからと言って糸牙や小桜を自由にさせすぎるのも困るが。吾輩がいなくなっても、指揮する人間が出てくるだろう。それなりに世も回るだろう。
──だが、全ては上手くいかないだろう。
電車が目的の駅に着く。
「運転が安定しているな。腕を上げた」
「いえ、マニュアル読んだだけであそこまで運転出来るハカセさんの方が、ジブンからすれば化物ですよ」
「化物……ね」
ハカセが化物なら吾輩はどうなるのだろう。
既に数百年生きているだろう。人間が争いだの幕府だの領地だの貿易だの世界中で言って、眺めて、時には銃を突きつけられた。首を吊ったこともあれば斬首されたこともある。それでも死ななかった吾輩を恐れ化物と呼んだ。
「もっと腕を磨けよ」
「勿体なきお言葉」
吾輩は製鉄所へ向かって歩く。
目の前で車が停止する。
「猫様。うちに用ですか?」
「炉の調子が悪いと聞いたんでな」
「確かに、最近は温度上がりにくいですし温度も一定せず低くギリギリ鉄の溶ける温度になる程度」
「そうか。じゃあ、向かうとしよう」
向かおうと歩き出した所で積み荷に気付く。
「これは?」
「何とか終わらせれた線路の資材です。今から駅に持っていくところで」
「なら手伝おう」
「いえ、お手を煩わせる訳には」
「遠慮は要らん」
車に乗り込む。
「すみません……これ、少しばかりですが御礼です」
紙袋を受け取り中からの香りですぐに何か分かる。
「ミートパイか」
袋を開けパイに齧り付く。
「んまい」
「良かったです」
アクセルを踏みスムーズに進む。
ほんの少し進んで踏切を渡ろうとする。
「あの車輌に乗せればいいか?」
「ええ、そしたら固定してうちらの仕事は終いです」
能力で荷台の荷物を浮かせて、貨物の車輌に乗せる。
「あ、ありがとうございます」
「固定させに行くぞ」
レールを固定させ車に乗りこみ揺られること数分。作業員は大量の汗を流し仕事をこなしている。
「猫様、この度は御苦労さまです」
「……動力部の故障か?」
「恐らく……」
炉に触れ力を流す。異常がある場所は全体的に細かな塵などが多い。そして問題の所はパイプに亀裂が入っている事が原因だろう。
「各員、作業を一時中断。炉の掃除をするんだ。塵や埃が多い。まずは環境の改善。この中に溶接の出来る者。その中でも特に自信のある者。私に着いてきてくれ」
溶接装置を持ちパイプの所へ進む。
なかなか他のところも劣化が始まりつつあるようだ。
「ここだ、あとは頼んだ」
「お手数お掛け致しました」
「いい」
答えた途端目眩が襲う。身体から力が抜けて膝から崩れ落ちそうになる。焦点が合わない。
「猫様、どうなさいました?」
「気にするな。また何かあったら来る」
能力を使って一区画へ戻る。足が縺れ倒れる。少し倒れただけにも関わらず、全身に痛みが走る。
「姉様、大丈夫ですか?」
「少し疲れが出ただけだろう。なに、少し休めば大丈夫だ。明日は寝る」
返答を聞く前に瞬間転移を使って自室へ戻りベッドに横たわる。視界が暗くなる。
今後の展開が不安でしかない。多分次の投稿は22日です。これも多分押します。申し訳ありません。




