-番外編2- 能力者達の戦い(1)
今回の番外編は戦闘無しの超日常系でいきたいです。
年末年始。
『ユイ、ソーヘーは能力を使って先に商品売り場へ行け。ユイは迷子にならない様に無理に人混みには突っ込むな。商品は安くて質のいい物を選べ。ソーヘーの目利きは私には及ばないが、それでも十分誇っていい腕を持っている。商品が急に消えて行くと不自然だ。あくまでも自然にさり気なく。防犯カメラは……』
「こちらユイ。先に処理して死角の確認は出来ています」
『……了解』
俺とユイは年末の大セールへ来ている。開店三十分前だが店内を歩いていられるのは、俺とユイの能力を駆使しているからなのだが。
透明化は機械だろうが赤外線だろうが捕らえることは不可能だ。
更に開店していない店内への侵入など瞬間移動で0.1秒で済む。
「スパイ映画とかのスパイよりも優秀ですよね……」
「俺らの方が何倍も優秀だな」
若干の罪悪感と悪い事をしている時のドキドキ感が一気に押し寄せて来て、つい口角が上がってしまう。
『購入する品は前もって渡して置いたメモを見てくれ』
「メモ多すぎ……」
一辺八センチ程の紙にびっしりと書かれた文字のメモは三枚もある。
「これ、冷蔵庫に入る?」
『安心しろ、今ノブとリョーが冷蔵庫を買いに行っている』
絶句するしかない。今使っている冷蔵庫はそこまで大きさがないが、少し位は買い置き出来る程のサイズはある。
「何リットルの冷蔵庫を買う気だよ……」
俺は溜め息混じりに呟くと、目的の商品のところまで来た。
──クリスマスはみんなですき焼きか……。
コマはクリスマスは無理だっていってたなー。『最近の若者はこういうイベントになると直ぐはしゃぐ。こっちの身にもなってみろ』……とかいってたっけ? 巡査部長は忙しいんだな。これは正月も大変だろうな。
『おい、コマ! 仕事はもう切り上げてこっちにこい! お前の夕飯が掛かってるんだぞ』
メイもそれは無茶があると思うけどな。
『済まないが、こっちはこっちで忙しくてな……なに、駒を二、三体出すからそれで許してくれ』
駒を二、三体って人間二、三人ってことじゃん。十分じゃん。
『許す。ノブ、リョーは終了次第どっか行ってろ。帰って来たら邪魔になる』
──理不尽だな。
確かにノブの不器用さは仇となるな。それに一人で行動させるとなにかやらかす。判断は正しいかもしれない。
「ソーヘー、これはどうです?」
「いや、ここを見るのだ。葉っぱの部分が少し萎れているだろ? こういうのは良くない。例えばこういうのだな」
手に取ると触れた春菊が透明化の対象になってしまうので指を差しながら教える。
「ちゃんと覚えておけよ。いいお嫁さんに慣れないぞ」
冗談でそういい新鮮で美味しそうな春菊がないか見ようとした時、服の裾を引かれた。
「どうした?」
「私は……ソーヘーのお嫁さんになれば家事はしなくて済みますか?」
ん? 何を言ってるんだ? なんかとんでもないことを……。
『おーい、そういうのは後にしろー、二人きりで誰にも目視出来ないからって二人の世界に行くんじゃなーい』
「あっ、そ、そういう意味じゃなくて……違いますから」
明らかに動揺しているユイを他所に、俺はいい春菊を見つけた。
「ユイ、この春菊なんだけど」
「ふぇ、ああ、ここの防犯カメラはフェイクだから大丈夫です」
俺は透明化で春菊を見えなくして手に取る。
「カゴに入れた商品の透明化はユイよろしく」
「り、了解」
──このじゃがいもがいいな。
限られている時間の中で、いかにどれだげの商品を手に入れることが重要だ。しかも今日は開店したと同時に客が大量に流れ込んできて、商品が消えていく。なのでこうやってフライングゲットしている訳だ。
「ソーヘー、白滝は?」
「おっと、そこにあったか。ありがとう」
俺は通り過ぎ際ににユイの頭に手を置いた。
「──ひゃ」
「ん? なんかいったか?」
「なんにも、言ってませんです!」
「あぁ……そう……体調が悪いんだったらいえよ」
ユイのおかしな日本語に違和感を覚えつつ、周囲を見た後、白滝を取りカートへと入れた。
出費が嵩むがそれでも豪勢なパーティーをしたいという全員の意見により、そこそこいい品が買える金はある。ノブが奮発してくれた。
「ユイ、そこの防犯カメラは?」
「作動してますね……」
──ネギは後だな。
俺はメモ帳の材料の文字に丸を付ける。そして良さげなネギをピックアップさせる。
「ユイ、このネギを開店して人が通ってカメラから消えた瞬間に透明化を頼む」
「ええ、そんな無茶な……」
そうはいってもこれは戦いなんだ。そこまでしないとメイに殺られかねない。
「透明化するのはいいですがその後はどうするのですか?」
「え、バンって撃って瞬間移動かな」
そういいながら俺はネギに向かって《指銃》を撃ち込んだ。
指銃とかで物体に力を流し込んで瞬間移動をする最近編み出した技。
開店時間になった。俺とユイは砂糖を透明化させカゴに入れる。
現在、カゴには春菊やもやしや焼き豆腐、白滝、あとはきのこと砂糖がある。
現在、瞬間移動で持ってくるべき食べ物は卵とすき焼き肉、そしてネギだ。
それから正月用の栗やゴボウ、黒豆など色々。そして瞬間移動で持ってくる鶏肉。
「客が何十人も入って来ました」
端末を確認しながらユイが困ったようにいう。
「分かった、ネギと肉のところのを見てるんだ」
「り、了解」
恐らく今日は肉が安い。だから一番最初に……。
「入り口から入ってきた人はお肉コーナーへ一直線です」
──やっぱそうなるよな。
「よし、野菜コーナーを通り過ぎようとしている人がいるかとかは取り敢えず後でも構わない。今は肉だ」
「り、了解」
恐らくお肉コーナーの前にある卵コーナーが人で溢れて、カメラに写らなくなる筈だ。
「ユイ、卵コーナー……」
「卵に……人がいっぱいいます……」
──それはそれで怖いな。
「タイミングを見計らって透明化を頼む。終わったらいってくれ」
「終わりました」
仕事が早くて助かる。
俺は卵を瞬間移動させ、カゴへ入れる。
「お肉コーナーは?」
「今、鶏肉を透明化させました」
「了解」
瞬間移動で更にカゴの中の商品が一つ増える。
「今牛肉を……あ、ネギも……」
「両方透明化だ」
「いや、誰かが手に取ってしまって……」
──なんてこった……。
「ユイ、ここで待ってろ」
「え……」
俺は走った。
透明化を使いあらゆる障害物(陳列棚)を飛び越えていきお肉コーナーへ突入すると同時に透明化を解除。
人混みを多少強引に掻き分け牛肉が目に入る。
そして俺は驚きのあまり膝から崩れ落ちそうになった。
すき焼き肉は全然減っていないのだ。
そうか……この人混みはローストビーフ用の肉か……。
そう思いすき焼き肉に手を伸ばす。
──これで一件落着……。
『えっと……止めてください』
通信機から聞こえてくるユイの声。
『止めてください……えっと、連れがいるので……本当に止めてください』
──誰だか知らんが殺す。
俺は強引に人混みを割って進み、人目につかない所で透明化を発動。それと同時に瞬間移動。
「いいじゃないか嬢ちゃん。嬢ちゃんを一人にする男だぜ? お兄さん達と遊ばないか」
ユイに手を伸ばす男の手を掴む。
「ええっ!」
「よう、じゃあ、一緒に遊ぼうぜ……」
そのまま腕を捻り男の背中へ持ってくる。そして少し力を加えるとゴキリ という鈍い音と共に肩関節が外れる。
「ぐぁあ゛あ゛」
立て続けに足を掛け顎から転ばせる。
「おい」
無様に寝転がる男に跨ると、黄色く染まった髪の毛を引っ張り上げる。
「嫌がってるだろうが。お前の爪を剥がして針を突き刺すぞ」
そのまま鼻頭から地面に叩きこんだ。
「ユイ、大丈……」
「そぉへぇー」
最後まで言い終われずに泣きついて来たユイが、俺の胸に飛び込んできた。
「こわいよー、外こわいよー」
「あぁ、ごめん、俺が一人にさせたのが悪かった……」
俺は泣きじゃくるユイの頭を撫でた。
──まあ、無事だったし大丈夫か……。
『ソーヘー、お前達は帰ってきてから掃除があるんだ。いつまでもイチャついているんじゃない。会計を済ませろ』
──別にイチャついてないし。
『あれ、照れてる?』
「照れてねー」
──さて、会計に行くか。
開店からまだ十分程しか経っていないから、今会計に行くと怪しまれるな。少し待つか。
「ユイ、見たいものある?」
「帰りたいです」
──そうですよね……。
さっきあんなことがあったんだ、無理もないか。
「じゃあ、お菓子コーナーに行くか」
「お菓子……」
俺達はカートを押して行った。
……の筈だったのですが、ユイがね、あれですと、そうせざるを得ないと言いますか……。でも、能力VS能力って訳ではないので、セーフってことで。




