-番外編- 新メンバーと誕生日(12)
12
片付けをし入浴して部屋に戻ろうとした。
だが、俺は自分の部屋の一つ前の部屋の扉の前で止まった。
今日、ユイは一人で出掛けた。何かおかしい。
俺は扉を三回ノックする。
「ユイ、今いいか?」
「は、はい、どうぞ」
返答が返ってくるとドアノブを下げ扉を開く。
「どうしたのですか?」
「いや、今日一人で外に出かけたから、珍しいなと思ってな」
「そういうことですか……良かった」
なぜかユイが安堵する。
「良かったって何がだ?」
「え、いや……別に、なんでもないです」
あからさまに動揺している。
「お前本当に何か変なことしてないよな。大丈夫だ、俺はメイに言いはしないしノブにからかわれる様なことにはならないようにはするさ」
「いえ、そういうことではないのです。本当に大丈夫なので」
大丈夫なのか、それじゃあ、
「そうか……じゃあ、聞きたいことがあるんだがいいか?」
「聞きたいことですか?」
「ユイって集金はどうしてるの?」
俺はユイに聞いた。ずっと家に居るユイはどうやって金を手に入れているのかも分からない。
「当然毎度払っていますよ」
「その金はどこかで手に入れたんだ」
「勿論働い……て」
「どこで?」
俺は更に一歩踏み出して聞く。
「それ以上は、秘密です!」
「ユイ、お前って意外にも小説とか読むんだな」
部屋の隅の三段の本棚には、ぎっしりと小説が並んでいる。本棚には収まりきらないのか、床にまで置いてある。その中には青春小説や恋愛小説、ミステリーやホラーと幾つもの作品が並んでいる。その中に見慣れた『咲良夢希』の作品が置いてあった。
「あまり見ないでください」
「『咲良夢希』の作品、ユイも読むのか?」
「え、あ、まあ」
そこにはさっき俺がリョーにプレゼントした最新作も置いてあった。
「そっか、最新作もあるじゃん」
「まあ、全部読んでますので」
「サイン会とかしてくれないかな……」
不意にそんなことを呟いた。
「ごめんな、変なこと聞いて。働いてるっていうなら働いてるんだよな……」
「サイン会」
俺が部屋から出ようとした時、そんな言葉が聞こえてきた。
──サイン会?『咲良夢希』のか?
「ソーヘーが、して欲しいっていうんじゃあ、やってみようかな」
ぼやく様にいうユイの言葉は、まるで自分が『咲良夢希』の様じゃないか。
「ユイ?」
「ひっ、あ、えぇ」
「まさか『咲良夢希』なのか?」
「…………」
──嘘だろぉ。
「『咲良夢希』先生?」
「……その名前で呼ばないで……」
本当だった。
ユイが毎回の集金で多額の金額を収めることも、高価なキーボードをプレゼントとして上げるのも、値が張るゲームの初回限定盤とかを並んで買う金も、全ては小説を書いているからだったのか。
馬鹿みたいに早い執筆速度は引き篭っているから、もとい、ほぼ四六時中部屋にいるからというのも頷ける。
「そっか、ユイがねー……」
「そ、その……」
やっとユイは口を開いた。だが俯いた顔はそのままだが、耳まで赤くしているのは分かる。
「み、皆には、秘密にしておいて貰えますか?」
上目遣いで俺の事を見てきたユイは今まで見た中で一番可愛かった。
心臓が高鳴り、鼓動が無駄に早くなる。
「り、了解」
「絶対ですからね」
心臓の脈打つ音がユイにも聞こえるんじゃないかというくらい、大きな音をたてている。顔が妙に暑い。
「分かってるって。じゃ、取り敢えず俺は眠いから……」
「何をいっているんですか? ゲームしましょうよ」
やっぱりユイはブレていなかった。
次回からは『番外編2』に入るので少し投稿まで日が開きます。めっちゃ日常なので飛ばして頂いても構いません。……構わないんだけど……なるべくなら…………。それと、感想やレビュー頂けると有難いです。




