-番外編- 新メンバーと誕生日(9)
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「ただいま」
玄関の扉を開けて廊下を抜けて、自室へ向かう。
「おかえりです。下の会議室でしますので」
そういいながら部屋から出てきたユイは廊下を抜けて、リビングの方へ向かった。
部屋に入るとカバンを下ろしジャンバーを脱ぎ捨てる。
──取り敢えずプレゼントはあの小説でいいよな。
そう思いリョーの部屋に瞬間移動。
少し小さいが様々なジャンルの作品の置いてある本棚には、この本の作者の『咲良夢希』の本が何冊も置いてある。だが、最近は忙しいリョーは今回の最新巻はまだ持ってないようだ。
「なら、これでいいか」
最近はライトノベルも書き始めている『咲良夢希』の作品はどれも個性豊かで面白かった。
ミステリーやラブコメの作品はないが、超常現象や日常系の話、そしてライトノベルはシリーズ化して現在は三巻まで出ている。この作品は戦闘系のものでなかなか面白い。何れアニメ化するのではないかという程だ。
一つ不思議なのはこの『咲良夢希』は小説以外の仕事を全くしていないのだ。
どれだけ探しても『咲良夢希』の特集記事などの載っている雑誌はなく、二ヶ月に一冊という脅威の速度を誇る作者に迫る情報はゼロなのだ。
──本当になんなんだろうな。
会えるならばサインの一つ位欲しいものだが、サイン会などをやるという情報は疎か、サイン会は一度もしていないのだ。
溜息を零しながら瞬間移動で会議室に着くと、椅子に腰掛けた。
「えー、では明日はリョーの誕生日となります。そこでリョーを驚かせる為にはどうすればいいかを話し合います」
──ドッキリなんだ、やっぱ。
「全員が病で倒れるとか」
「朝起きたら誰もいない」
「部屋の扉が開かない」
「どれも怖いな」
正直自分の立場だと考えるとちょっとやだ。まあ、俺は全員から銃口を向けられたが。
「トイレに入ったら紙がない」
俺はテキトーに答えた。
「……ソーヘー」
「それ、なかなか面白い」
──そんなのでいいのか?
そういう感じで話を進めていき結局決まらず、コマに聞いてみた。
『私が警察を派遣しようか? 突然逮捕されれば驚くだろう』
という意見は良かったが、この家に警察が来ると色々とまずい事が多い。拳銃とか刃のある日本刀とか……。
そして、ふと閃いた。
「だったらさ、俺らが警察の真似をすればいいんじゃないか?」
「警察の真似?」
「えーと、例えば警察の制服を着て拳銃持って家に突入。顔は映画とかの特殊マスクみたいなので変えれば、どうだ?」
「確かに、無理では無いと思うけど、その特殊マスクを作る方法をどうするかだよ」
考えてなかった。特殊マスクを作る方法か……。
「は、ハカセに頼むのは?」
「それは不可能では無いと思いますが……物のことに関係の無い所でお世話になるのもどうか……と……」
「どうした?」
「毎回お世話になってますので、それもありかと……」
『……それで私に』
俺はコマに制服を貸してもらう為に頭を下げている。勿論電話だからコマにはそれは見えない。
『今の時代、コスプレとやらの物でも中々の再現度だぞ。それでいいだろ?』
「いいや、コスプレだったら別のことに熱中するからダメだ」
俺は即答した。だってユイは勿論のことメイだって可愛いよ。いやメイは可愛いというより美人という感じだろうか。そんなのがコスプレしたらこっちだって火は着く。
「という訳で……」
『どういう訳だ。まあいい。こっちも色々やってみる』
そういい通話は切られた。
「ど、どうだった?」
「決して望みが消えた訳ではない。というより望みはあると思う」
俺はノブの質問にそう答える。
「じゃあ、あとはコマ次第ってことか……」
「そうだな……」
現在の時間は十五時。リョーが帰って来るまで四時間はある。
「よし、ではそれぞれの口実の製作をしたいと思う。オレはチェイスゲームをすると言って家を出る」
「なら、私は買い物ということにしよう。そうすれば夕飯の材料も……」
「いや、それだと警察として乗り込めないだろ」
「大丈夫だ、駐車場の裏口から入って材料をそこに置いておく。この時期のあそこは特に冷えているから問題はない」
地下一階の駐車場は、冷暖房を効かせていないためこの時期になってからは外よりも寒い。
「それなら酒も問題ないな……」
「お前、酒は値が張るだろ」
「大丈夫だ。今月分の集金は倍収めた」
──ノブが金を倍……。
昨日は銃弾食らってたのに……何処から出てきたんだろ。
俺も何か口実が欲しいが、見つからない。
「私は行きたいところがあるので……」
「行きたいところ? 何か新発売のゲームか?」
「ちょっと違いますが、間違っては無いです」
「じゃあ、俺も行くか……」
口実が見つからないなら俺もゲームを買いに行くと言えばいい。
「ダメです」
「え?」
「ダメです」
ダメ……だと……。そんな……。
「……り、理由は」
「お、女の子に……そういうことは聞かないで下さい」
上目遣いで、更に赤面されると、流石にこれ以上は聞くことは出来ない。
──クソ、可愛い奴め。
「じゃあ、俺はユイの尾行でもす……」
「殺しますよ……」
「……すみません、冗談です」
ユイはコマを捕縛した時も『口止めさせるには拷問が一番いいでしょう』とか『指先を切り落とした後にコンクリ埋めにして、じっくり壊死させていきましょう』とかいってたから正直、殺りかねない。
「俺は図書館か本屋にでも行ってくるか」
することがないのでテキトーに俺はそういった。
何故かユイの肩が震えたのは気のせいだろう。




