-番外編- 新メンバーと誕生日(8)
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あの後、夜中の二時過ぎまでゲームを付き合わされ、手に入れた装備を喜んでいたユイを見ると自然と恨めなかった。
だが流石に、今朝のこの時間帯は限界がある。
「ごめんなさい、シフト変わってもらって」
「いえ……この位でしたら……」
口で言うのは楽だが、流石に昨日の疲れや夜中のゲームの疲れは隠すことは出来なかった。
「なんか、本当にすみません」
「いえ、大丈夫です……」
重たい瞼を持ち上げながら、小説のページを捲っていく。
平日の午前中は比較的、客が少ない。こうしてのんびり出来るのはいいことだ。
──さて、あいつの能力について……。
昨日闘って分かったことは、白の駒と黒の駒があったことだ。あいつの力の容量からして、倍の駒があっても操作可能だろう。
だけど、何故昨日、急に能力覚醒が起きるのかだ。
俺やノブは死に直面した状況での覚醒、解放だった。リョーやメイは意志力がそうしたのではないかという意見が多い。だが、コマは部屋に行ったら倒れてて、起き上がった時には、既に能力覚醒していた筈だ。
──能力覚醒のトリガーはなんだ?
「……すみません」
その声に顔を上げると、カウンターの前に立っている女性がいた。
「あ、申し訳ございません」
俺はカウンターに駆け寄りスキャナーでバーコードを読み取る。
「ブックカバーはお付けしますか?」
「お願いします」
この本、俺が読んでるのと一緒だな。
「あの、あなたもこの本を?」
「えっと、俺は作者が好きで、なんていうか、世界観が独特で人間の心の悪い部分を書いているところとか」
「分かります!」
商品を受け取りながら嬉々としてそういった。
「だけど、話が分かりにくいっていう人が多くて話の合う人が少ないんです」
「しょうがないんだよ。若い人はマンガとかテレビの方が好きだって人が多いから」
八の字に眉を曲げながらいう女性のことも分からないでもないが。
「ですが……」
「だったらお姉さんが書いたらどうです? 俺がお姉さんのファン第一号でもいいですよ」
「いえ、私には無理です。文才ありませんし、私は読む方がいいんです」
「そうですか。お買い上げありがとうございます」
俺はそう言い椅子に腰掛けた。
その女性は商品を手に少し店内を物色して帰っていった。
昼になりバイトが終わった帰り道だった。
ズボンのポケットに入れておいた携帯端末が震えた。
『明日のことで話し合いをします。早めの帰宅をお願いします』
とメールがきていた。
歩道の脇にあるガードパイプに寄り掛かる。
『リョーはいいとしてコマは居ないだろ?』
数秒待つと直ぐに返信が帰ってきた。
『初めてで分からないことが多い筈ですから、こちらで決めるという方針になったのです』
なるほど。確かに昨日のコマはこういったパーティー等には疎いように思えた。
『そういう訳ですので、待っています』
『待っています』という文面に少しドキリとしながらも『了解』と送信しポケットに携帯端末を突っ込んだ。
***
──一方、その時のユイは……
「お、おい……ユイ、大丈夫か?」
「うん、大丈夫……じゃないかも……恥ずか死ぬ……」
自分が何気なく送った文面が、まさかこんな恥ずかしいものになっていて、しかもそれに気付かずに送信してしまった。
「本当に大丈夫か? ん……なんだ?『そういう訳ですので、待っています』……ユイも積極的だな」
「止めて、声に出して読まないで! もうやだー」
メイには悪気が無いのだろうけど、恥ずかしいので本当にやめて欲しい。
──本当に何やってんだぁ……。
穴があったら入りたい。その穴は誰も入れないように埋めて欲しい。
ソファーに寝転がりながら数分前の自分を恨んでいると、不意に肩をツンツンとつつかれた。
「なんですか?」
「そんなユイちゃんも可愛いぜ!」
親指を立てて白い歯を見せながら笑うノブの腹に、渾身のグーが入るまで時間は要らなかった。




