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能力者達  作者: 蒼田 天
第二章
21/60

-番外編- 新メンバーと誕生日(8)

     8


 あの後、夜中の二時過ぎまでゲームを付き合わされ、手に入れた装備を喜んでいたユイを見ると自然と恨めなかった。

 だが流石に、今朝のこの時間帯は限界がある。

「ごめんなさい、シフト変わってもらって」

「いえ……この位でしたら……」

 口で言うのは楽だが、流石に昨日の疲れや夜中のゲームの疲れは隠すことは出来なかった。

「なんか、本当にすみません」

「いえ、大丈夫です……」

 重たい瞼を持ち上げながら、小説のページを捲っていく。

 平日の午前中は比較的、客が少ない。こうしてのんびり出来るのはいいことだ。

 ──さて、あいつの能力について……。

 昨日闘って分かったことは、白の駒と黒の駒があったことだ。あいつの力の容量からして、倍の駒があっても操作可能だろう。

 だけど、何故昨日、急に能力覚醒が起きるのかだ。

 俺やノブは死に直面した状況での覚醒、解放だった。リョーやメイは意志力がそうしたのではないかという意見が多い。だが、コマは部屋に行ったら倒れてて、起き上がった時には、既に能力覚醒していた筈だ。

 ──能力覚醒のトリガーはなんだ?

「……すみません」

 その声に顔を上げると、カウンターの前に立っている女性がいた。

「あ、申し訳ございません」

 俺はカウンターに駆け寄りスキャナーでバーコードを読み取る。

「ブックカバーはお付けしますか?」

「お願いします」

 この本、俺が読んでるのと一緒だな。

「あの、あなたもこの本を?」

「えっと、俺は作者が好きで、なんていうか、世界観が独特で人間の心の悪い部分を書いているところとか」

「分かります!」

 商品を受け取りながら嬉々としてそういった。

「だけど、話が分かりにくいっていう人が多くて話の合う人が少ないんです」

「しょうがないんだよ。若い人はマンガとかテレビの方が好きだって人が多いから」

 八の字に眉を曲げながらいう女性のことも分からないでもないが。

「ですが……」

「だったらお姉さんが書いたらどうです? 俺がお姉さんのファン第一号でもいいですよ」

「いえ、私には無理です。文才ありませんし、私は読む方がいいんです」

「そうですか。お買い上げありがとうございます」

 俺はそう言い椅子に腰掛けた。

 その女性は商品を手に少し店内を物色して帰っていった。


 昼になりバイトが終わった帰り道だった。

 ズボンのポケットに入れておいた携帯端末が震えた。

『明日のことで話し合いをします。早めの帰宅をお願いします』

 とメールがきていた。

 歩道の脇にあるガードパイプに寄り掛かる。

『リョーはいいとしてコマは居ないだろ?』

 数秒待つと直ぐに返信が帰ってきた。

『初めてで分からないことが多い筈ですから、こちらで決めるという方針になったのです』

 なるほど。確かに昨日のコマはこういったパーティー等には疎いように思えた。

『そういう訳ですので、待っています』

『待っています』という文面に少しドキリとしながらも『了解』と送信しポケットに携帯端末を突っ込んだ。


 ***


 ──一方、その時のユイは……


「お、おい……ユイ、大丈夫か?」

「うん、大丈夫……じゃないかも……恥ずか死ぬ……」

 自分が何気なく送った文面が、まさかこんな恥ずかしいものになっていて、しかもそれに気付かずに送信してしまった。

「本当に大丈夫か? ん……なんだ?『そういう訳ですので、待っています』……ユイも積極的だな」

「止めて、声に出して読まないで! もうやだー」

 メイには悪気が無いのだろうけど、恥ずかしいので本当にやめて欲しい。

 ──本当に何やってんだぁ……。

 穴があったら入りたい。その穴は誰も入れないように埋めて欲しい。

 ソファーに寝転がりながら数分前の自分を恨んでいると、不意に肩をツンツンとつつかれた。

「なんですか?」

「そんなユイちゃんも可愛いぜ!」

 親指を立てて白い歯を見せながら笑うノブの腹に、渾身のグーが入るまで時間は要らなかった。

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