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能力者達  作者: 蒼田 天
第二章
20/60

-番外編- 新メンバーと誕生日(7)

     7


「またですか? 投薬を使い捨ての道具みたいに思わないでください。これだってストックが減ってきたら注文して送って貰わなきゃいけないのですよ? それを毎度毎度……ソーヘーは怪我をすること以外に頭にないのですか?」

 いつものように投薬を打つ前の愚痴をブツブツと言う。

「まず、ソーヘーはスーツもダメにしすぎです。いつもいつも何かある度に破れて持って帰って来るじゃないですか」

「悪いって」

 渋々答えるが実際、これでは説教は終わらないから嫌なのだ。

「それ以上に投薬は使えば治る便利道具じゃなくてちゃんと力を媒体にしているんですよ? それをいつも『力が勿体ない』とかいってるソーヘーが、それだけの量を打っていたらそれこそ力が枯渇しますよ」

 そういうや否や、背中にチクリとした痛みが走る。

「ユイ、いつもより乱暴じゃないか?」

「そうですか?」

 といっている目にはいつもの抜けた感じがなかった。死んだ魚の様な、もしくはメイがノブのことを見る目をしていた。

「分かった、今度から気を付けるから」

 だが、一向に機嫌が悪いのか、俺のことを蔑む様な目をやめない。

「分かったから、その目をやめろ。後でゲームのイベ手伝ってやるから」

 そう言うや否やユイの顔がぱあっと明るくなる。

「いいましたね? 聞きましたからね。もう逃れることは出来ませんよ。ちゃんと録音もしました」

 録音とか洒落にならない様な気がする。

「えっと……ゆ、ユイ……」

「はい、なんでしょう?」

 コマは未だに慣れないのか、俺達の名前を呼ぶ時はぎごちない。

「私は、リョーへのプレゼントをスノードームにしたのだが……それでもいいと思うか?」

 こいつ、まだ気にしていたか。

 ユイは悩む様に腕を組み、数秒俯いた。頭を上げ徐ろに口を開く。

「プレゼントは、渡す人が喜んでくれるなら、それでいいと思います。コマがそれで良かったと思うのならば、それでいいんですよ」

 そういい微笑んだ。

 こうやって見るとユイは可愛らしくていい子だなー。

「そうか、結局答えはソーヘーと一緒か……」

「そういえばお前……」

 俺はあることに思い至った。

「誕生日っていつなんだ?」

 俺が聞くとコマはキョトンとし口を開いた。

「二月の二十九日だ。まだ言ってなかったな」

 二月の二十九日は四年に一度の閏年にしかないというあれだ。まさか本当にいるとは……。

「正確なのかは定かではないが、母様がそういっていたので正しいのだろう」

「そうはいっても、四年に一度だと、誕生日って……」

「四年に一度だな。まあ、生まれた日に祝い事など、私には縁のないことだったからな」

 そういうコマの顔は少し寂しそうで、懐かしそうだった。

「じゃあ、コマの誕生日は二十八日に代わりにやりましょう」

 そういったのはユイだった。

「今年、じゃなくて来年はちゃんとコマの誕生日を祝いましょう」

「そうだな」

 ユイのこういう優しいところはいいところだと思った。

「じゃあ、傷も塞がりましたし、お風呂にでも入って来てください。早くゲームしますよ」

 そういいユイは部屋から出ていった。

「ソーヘー……」

「どうした?」

 突然の呼び掛けに返答する。

「風呂、先いいか?」

「……それはダメだ……」

「私は貴様に勝ったであろう。勝者に譲れ」

 指を突き出しそういってきた。

「やだよ、ユイにゲーム誘われてるもん、俺が先に入る」

「私が先だ」

「正々堂々ジャンケンで決めようではないか……」

「そうだな……ならば、ジャンケン──」


 生まれてこの方、一対一のジャンケンで負けたことのない俺は、お風呂を堪能していた。

「あー、極楽極楽……」

「そうか、ならばそのまま極楽浄土へ旅立ってしまえ」

「まあそういうなって。血圧上がるぞ」

「貴様、次やる時は本気で殺す」

 警察がそんなことをいってもいいのかと疑問に思うし、まず殺したら警察と言えど犯罪でしょ。まあそんなこと言えば風呂場ごと消されかねないからやめておこう。

「じゃあもう出るから、後どうぞ」

「ああ」

 そういえばユイがゲームを誘ったけど正気だろうか。

 時間はそろそろ零時を回る。

 ニートや引き篭もりやゲーマーなどの昼夜逆転生活を送る者達の中には、この時間が一番活発する者もいるらしい。

 俺はこの時間は小説を読むか、眠くて寝るか。徹夜や一夜漬けしてまでゲームをしたいと考えることは特にない。気になるイベントや欲しい装備品とかを手に入れる為だったら、する可能性は無くもない。

「流石にな……」

 俺は部屋に戻り布団へ潜ろうとした。だが、ベットには小柄な体の女の子が腰掛けていた。

「遅いですよ」

「人の部屋に勝手に入るなよ……」

 別に入られて困ることと言っても、先日買ってきたカスタードプリンが冷蔵庫に入っていることくらいだが。

「ソーヘー、一ついいですか?」

「どうした? 急に改まって」

「そのですね……」

 ユイは俯いて少し目を泳がせた。こういう仕草をすると可愛いな。

「か、カスタードプリンを……私も食べたいです……」

 カスタードプリン。これは西鎌倉のとある店へわざわざ──瞬間移動だが──行って買ったのだ。

「ダメ……ですか?」

 申し訳なさそうに上目遣いで俺のことを見つめる。

「……一個だけだからな」

 俺はやはりこれに弱い。

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