終わりの日
零話ということで投稿させていただきます。
能力者達という題名ですが、読みはスキルマスターです。
1
目を覚ますと、目の前には自室の天井が広がっている。
駅までの美しいアーケードの道のりを歩いていくと、初夏の心地いい風が、僕の心を癒してくれる。
お気に入りの炭酸飲料を自動販売機で購入する。
結月にも買うか?
何かいわれると嫌だな……。そう思い何も買わずに、駅のホームへと向かった。
蓋を開けるとシュッと気持ちのいい音が鳴り、僕は炭酸飲料を飲む。喉を通るその液体が弾けて喉の奥が刺激される。
旨い。これを作った人は嘸かし天才なのだろう。これが僕のほぼ生活飲料水となってしまっているからとても体に毒なんだろう。
そんな事を渋々考えていると、端末タイプの携帯電話から通知が入った。
多方予想はつく。端末には『猫本結月』という名前で登録された彼女から連絡が来ている。
『ごめん! 今家出たところ! 遅くなっちゃう!』
やっぱり。いつも集合時間を設定するのは彼女だけど、遅れるのは彼女の方だ。
『気を付けてな』とだけ送りその場に立ち尽くす。
電車が来るまで十五分。彼女の家からここまで来るには、歩いて十分かかるかかからないか、か。暇だなー。
ここまで早く来るには理由がある。一つはのんびり出来るから。そして、万が一だが彼女が早く来た場合に待たせないため。その当の本人は毎日遅れるのだけど。
僕はベンチに座り込み、携帯電話のアプリでゲームをする。
僕の名前は雨宮繰平。高校二年のそこら辺によくいるようなただの高校生だ。普段は何不自由無く、のうのうと暮らして、学校ではのんびり授業を受け、部活(ボードゲーム部)に一応出て、とりあえず彼女とチェスやオセロをする。だだそれだけの生活。つまらなくもないが面白くもない。
初夏の青空が澄み渡り、線路を照らす。
途端、「痛ったぁ~」という声が聞こえた。結月だな。
慌てて駆けつけて転んだんだろう。この駅には入ってすぐに分かりにくい段差があるからそれに躓いたのだろう
「ごっめ~ん、また遅れた」
結月は顔の前で手を合わせ頭を下げる。
「別にいいって。てか大丈夫?」
これが僕の彼女、猫本結月。
「うん大丈夫大丈夫」
全く、ドジだな。
結月はニコニコしながら「どこ行く?」とか間抜けたことをいうので、考えて無かったのかよと思いつつも「まぁ、駅ビルにでも行けば良いでしょ」と適当に返した。
こういう日は久しぶりであった。
僕も結月も土日部(土曜日、日曜日と部活のない部。僕と結月の通う高校の用語)なので部活がないが、結月は土日は忙しいというのであまりこういう機会が無い。
余談だが僕は土日はゲームやらパソコンやらにどっぷり時間を費やし、部屋に篭る日々だ。いわいる引き篭りという奴か。だが、そうなると僕はダメ人間みたいではないか。
2
電車が来るまで五分をきった。
そんな時に前を通る迷惑な男が一人。どれだけ飲めばこんなに臭いがするのかと思う程に酒臭く、ベロンベロンに酔っている。その上、周りの人達にぶつかっては「邪魔だ! 退け!」と怒鳴り散らすわ、ふらつき危うくホームから転落しそうになったりするわで。
迷惑な人がいるものだ……。そんな事を考えていると丁度通り過ぎていった奴の腕を掴むお馬鹿者が一人……大方予想は着いていたが、まさか本当にするとは。
いつも結月は面倒事に首を突っ込む。まったくこの子はなんて事を思っている僕を他所に「貴方、人に迷惑を掛けていることが分からないの?」と、おもいっきり自分の考えを直球に言いつけている。触らぬ神に祟りなしという言葉を知らないのか。
「あ"!? このガキが! お前に俺の何が分かる!? こっちとて気分が悪いんだ! 痛い目にあいたくなけりゃとっとと帰りな!!」
うん気分が悪いのか何なのかは知らないが、おっさんの言っていることは正しい。面倒なことになる前に引こう。
「そう、私もとても気分が悪い。理由はね、貴方! 人に迷惑を掛けていることを考えることだ。それが出来ないなら家にでも篭ってなさい!!」
結月……それは正論だが……火に油を注いでいるってことを分かって欲しいですけど。
「このガキ! 調子に乗りやがって!!」
すると嘲笑していた結月の胸ぐらを掴むや否や……やべぇめっちゃ怒ってる。お願いだから、そろそろ酔いが覚めて欲しいな。
「すいません、僕の連れが……さぁ、結月謝るんだな。すいませんでした、僕達が悪かったと言うことで」
「うるせぇ! てめぇは黙ってろ!!」
せっかく仲裁に入ったというのに、この言われようとは。僕、悲しい。
そんなこんなをやっているうちに揉み合いになり始めた。周りもざわつき始め僕が困っているとき、悲劇は起きた。
結月はホームから足を踏み外し、今にも線路の上へ落ちようとしていた。気づくと電車も見えるまで近づいている。
──やばい、このままだと。
咄嗟に僕は結月の手を取りホームへ引き戻した。だがもう遅かった。普段から引き篭もりがちだった華奢な身体は、引き戻す事は出来ても自分の身体を支えることが出来なかった。
そうしてホームから落ちていく僕を見て、顔面蒼白で走り去るおっさん。
すぐそこまで来ている電車に轢かれるのだろうと考える。
この後に及んで結月に好きだと伝えれなかったことに後悔をした。
3
気づくとそこは真っ暗な場所だった。
天国と一番最初に思ったが、その割には何も無い。ならば地獄? それでも無い様な気がする。だけど僕の考える天国はまさにこんな感じだった。何も無くて、暗くて、暑くも寒くもない。
色々と今自分がどこにいるのか考えていると、目の前に急に光が発生した。
まさに神という感じの、中性的な顔立ちの奴が現れた。
すると奴は何ということか「願いはなんだ」と言った。
願いを叶える七つの玉を集める男の子の話を思い出したが、その事は関係ないので思考から切り離す。
でも、そんな事を急に現れて急に言われても……。
「その前に僕の質問に答えて欲しい。ここはどこだ?そしてお前はなんだ?」
それに対して奴は「ここはいわいる異空間。そして私は《願いを叶える神》。ここは、望みを持ちながらそれでも不幸に死んでしまった者が来る死後の世界だ」と《願いを叶える神》は言った。
異空間。《願いを叶える神》。どれも現実とはかけ離れた世界だった。試しに頬をつねってみるが、痛みはあるし夢では無いようだ。
僕は数秒考え、考えた後に言った。
「ならば生き返らせて欲しい。││そして、強い……大切な人を守る力が欲しい!!」
「その願い、可能性な限り叶えましょう」
そういい、巨大な光を放ち、光源の彼方へと消えていった。