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能力者達  作者: 蒼田 天
第二章
17/60

-番外編- 新メンバーと誕生日(4)

     4


 あの後、携帯端末へコマからのメールが届いた。

『貴様! 働くならちゃんと働け!』

 その文面の後、『リョーへのプレゼントを見に行きたい。私には分からないから着いてきてくれ』とメールが来たので、思わず吹き出してしまった。

 そして時間は十九時を回った。

「彩華、俺これで上がるから」

「あ、お疲れ様」

 小説と千円を彩華に渡し、更衣室へ着替えに行った。

 エプロンを外し、パーカーを着てジャンバーを羽織る。

 更衣室から出ると、彩華が小説の入った袋を手渡してくる。

「お疲れ様、はい、商品とお釣」

「釣りは面倒だからあげる。じゃ、お疲れ」

 俺は店を後にした。


 店を出て直ぐにコマは立っていた。

「巡査部長お疲れ様です。お仕事はもうよろしいのでしょうか?」

「貴様、巡査部長と呼ぶなと何度言えば分かる!」

「まあまあ、そうカッカすんなよ」

 俺は両手を前に出しコマを抑える。

「そうだ、この金」

 そういうと少し金を渡された。

「ああ、あいつの」

「ひとまず、場所を変えよう」

 コマは後ろで控えていたタクシーへ乗り込んだ。

「コマ……タクシーなんて、金使いが荒いな」

「うるさい、いいから早く乗れ」

 タクシーへ乗り込むと運転手にコマが話しかける。

「大通りのデパートまでお願いします」

「分かりました」

 運転手はそういうとタクシーのエンジンを入れる。

「ソーヘー、貴様はリョーへのプレゼントは、何にしたらいいと思うのだ?」

「プレゼント……何かリョーの喜ぶ物かな?」

 俺は少し考えてそう答えた。

「リョーが喜ぶ物? それが分からないから聞いているのだろ」

 コマはジト目で俺のことを一瞥すると、溜息を着いた。

「貴様に聞くのが間違えだったな」

「部下とかに聞けばよかったじゃん。後輩警官なんか一杯いるだろ。巡査部長」

「だから巡査部長と呼ぶなと言っているだろ」

 俺のことを見るなり再度の溜息。

「じゃあ、コマがリョーにプレゼントすれば喜ぶと思う物」

「貴様、何故そんなに曖昧な答えなんだ」

「だから、プレゼントだぞ。そんなの何でもいいんだよ」

「何でも?」

 問い返してくるコマにもう一度言う。

「何でもだよ。日常品でも食べ物でも、リョーが使いそうな物とか、使ってるところを想像するのはどうだ?」

「使っているところを想像か……なるほど、いい参考になった」

 コマはふむふむと頷いていた。

「だが、私はリョーと付き合いが短いじゃないか……」

「そんなに追求しなくていいんだよ。俺も少し考えてやるから。後はデパートで考えようぜ」

「そうしてもらえると助かる」

 そうして暫く運転すると目的のデパートへ着いた。

「ソーヘーは先に降りてろ。私が支払いしておく」

「いい心掛けだ後輩君よ」

「貴様、後で本気で殺す……」

 コマがそういうと洒落にならない気がする。

 タクシーから降りると、少し伸びをし、固まった体をほぐす。

「じゃあ、まずプレゼントの参考例を教えてやろう」

「ソーヘー? 急にどうした?」

 そんなことをいわれると調子が狂うが、仕切り直す。

「まあ、今までの他の奴らのプレゼントを教えてやるから。少しは参考になるだろ?」


「なるほど、ノブはロクな物を用意しないんだな」

「いやいや、別にそういうことじゃないさ。ちゃんと好きなものをくれるよ。下手したらユイは、ノブからのプレゼントに一番喜んでいたんじゃないかって位」

「そうか、そういうものから、ソーヘーが貰ったキーボードのように値の張る物まで……」

 そういうと顎の下に手を当て考え出す。

 俺もデパートのショーケースの中を覗く。

「あっ、あれ見たいなのだったらどうかな?」

「どれだ?」

 俺が指を指したのは、デパートの隣の小さな雑貨屋だった。

「あれは、デパートでは……」

「いやいや、デパートで買わなきゃいけないルールなんかないだろ……」

「ならばあれとは? クリスマスの飾り物のようだが」

 俺とコマは雑貨屋の方へ歩み寄ると、前屈みになりショーケースの中を除く。

「このスノードームだよ。綺麗だよ。俺は子供の頃に一つ持ってたけどな、よくひっくり返して、ドームの中に雪を降らせたものよ」

「そういう物なのか……なんせ見たことはあっても、扱い方を知らなかったのだ」

「コマって物知りそうだけど、案外必要なこと以外知らないよな」

「不要な知識など、持っていても意味などない」

 俺は体を起こすと結論を聞く。

「で、買うのか?」

「いや、一度、雪とやらを降らせては見せてくれないか?」

「じゃ、店に入るぞ」

 俺は店の扉の取っ手に手を掛ける。扉を引くとカランという心地のよい鈴の音が聞こえてくる。

「いらっしゃい」

 店主と思われる眼鏡をかけたおじいさんが言うと同時に、何かの気配を感じた。無論、店にいるのは俺と今入ってきたコマと店主のおじいさんだけだ。

「──? まさか、ユイいるか?」

「どうした? 頭でもおかしくなったか?」

 コマがいった瞬間だった。

「なんで分かったの?」

 商品を手に取ろうとしている状態で固まっているユイがいた。恐らく透明化を解いたのだろう。

「いや、ちょっと……リョーへのプレゼントを見に来ていまして」

「ユイ、屋外での能力は控えた方がいいぞ。力の流れの変化には気づく者も十二支にはいる。能力の使用を屋外ですると嗅ぎつけられて尾行されるぞ」

「す、すみません……」

 ユイが首を竦めて謝る。

「まあまあ、透明化の探知なんて中々出来るものじゃないぞ。実際、お前は見逃しただろ?」

「そ、それはそうだが……」

「ところでユイはリョーにどんなプレゼントを上げるんだ?」

 ユイは少しだけ目を泳がせてから口を開いた。

「手袋……リョーはいつもバイトで手が冷たいだろうから」

 手袋か、そういうのもありだな。

「コマ、こういう優しさがプレゼントでは一番重要なんだ」

「うるさい。いいからこのスノードームの使い方を教えろ」

「はいはい」

 俺は店の中央にある机に置いてある、スノードームを手にする。

「このドームの中に雪に見立てた白い粉があるんだよ。それを逆さにすると粉が落ちる。で、元に戻すと」

 俺はコマに説明しながら、ドームを動かす。粉が丸いドームの一番上に来たところで元に戻す。

「まるで雪が降っているようになる」

「おお、凄いな。これを一番最初に作ろうと考えた者は、凄まじい知恵の持ち主だったんだろう」

「お前、大袈裟だな」

 俺は齧り付くようにスノードームを眺めるコマを放っておいて、店内を眺める。

 時期が冬でクリスマスというイベントがあるからか、ツリーやアンティークレースの壁飾りなどが多くあった。

「ソーヘー、これを購入したい」

 何故俺にそれを申告するのか知らないが、コマがいってきた。

「別に俺に言わなくてもいいだろ。好きにしろよ」

 コマは店主のおじいさんのところへ持っていった。

「ソーヘー、私、歩きたくないから送ってもらってもよろしいでしょうか?」

「えー、面倒くさ……別にいいけど」

 面倒くさと言うや否や潤んだ瞳で見てくる。どうも俺はこれが苦手だ。

「ソーヘー、終わったから帰るぞ」

「おお、じゃ、ユイ頼む」

「了解」

 恐らく、ユイは透明化で外を歩く人達からは俺達のことを見れなくしてくれただろう。

 出入り口の扉を開けると、入ってきた時より少し風が冷たかった。

「うわ、寒すぎ」

 思わず声が白い息と一緒に出る。

「じゃ、帰るぞー」

 俺はコマの肩とユイの肩を掴むと、瞬間移動を発動した。

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