-番外編- 新メンバーと誕生日(3)
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その後、何人かの客の会計と本の位置を教えたり、在庫があるか確認したり、彩華からは三回程の通知と一本の電話があり、なんだかんだで五時には彩華がレジに着くことが出来た。
「本当にごめんね」
「別にいいって。どうせあと三十分で休憩入るし、それからは彩華が頑張って」
バイト中、ずっと休憩みたいなバイトだけど。
「そうだ、猫本さんとは連絡着いた?」
「そういえば、この間結月から連絡があってよ」
俺はあの時の状況について連絡した。
「──てな感じで連絡は途絶えたんだけど」
「それから連絡は?」
「連絡しても、現在その番号は使われてないって」
家があった筈の場所は既に家はなく、売りに出された土地になっていた。
「学校の方は?」
「先生も詳細はよく知らないみたいで。急に引越しって驚いちゃうよね」
──本当にそうなのだろうか。
俺の中で疑惑が大きくなる。
──『繰平君、元気?』
──『正解……なんだけどちょっと違うんだよね』
──『まあ、そのうち分かるさ。じゃ、またね』
一番疑問なのは最後の『またね』という言葉。
またねっていうくらいだから、また会える何かきっかけがあるって事なのか? だが、それからは連絡が取れないどころか、携帯端末を持っているかすらも分からない。
──だったら今、何処で何をしているのだろう。
何より、電話先の結月の声は、声こそ結月その物だったが、漂わせる雰囲気や声色は結月の物では無かった気がした。
いつもは子供っぽくておっちょこちょいだった感じだった。自由奔放で明るい感じ。だけど、あの声は全てを見通しているようで、何もかもを知っているようで……何故か怖い。
「──くん? 繰平君?」
問いかけの声に我に返る。
「ふへっ」
「ちょっと、しっかりしてよ。だから、猫本さんのこと、何か心当たりあるの?」
「すまん、ちょっと考えごとを……」
何か嫌な予感がする。
結月からの連絡は非通知だったし、探すにも手掛かりが少なかった。紙には指紋とかも残っていなかったし。
「いや、ただこの間、結月から連絡があったんだよ。正確には結月の声だっただけで、結月とは断定は出来なんいけど……」
俺はそこで少し間を置いて考えた。
「百パー、結月だったと思う」
絶対なんて、この世にはないと思ってる。だけど、あの全てを見通しているかの様な声色は、何故か嫌な予感がしてならない。
「あの、店員さん。そろそろお会計お願いしてもいいかしら」
その声で、今の自分の仕事を思い出す。
「あ、申し訳ございません」
慌てて対応に入る。だが、女性の並んでいる会計は彩華の方だった。
「も、申し訳ございません!」
「いいのよ。私だったからよかったけど、中にはうるさいお客さんもいるからね。気をつけるのよ」
「はい! あれ、これどうやったっけ?」
彩華はバーコードを読み取るスキャナを見つめる。
「そこに書いてあるだろ……」
「あ、本当だ。ありがとう」
彩華は注意書きを読みながら会計を済ませた。
「ありがとうね。それじゃあ」
女性は小説を入れた袋を持つと、店を出て行った。
「ありがとうございましたー」
店長は「大事なのは挨拶だ!」といっていたのできちんと挨拶する。
「それじゃあ、私は点検してくるから」
「ん、よろしく」
俺は椅子に腰掛けると本を読み始める。
「店員さん、お会計お願いしてもいいですか?」
「はいはい、すみません」
俺はその声に顔を上げると本を閉じ、会計のデスクへと向かった。
「おやおや、これは雨宮繰平ではないか。学校退学してこんなところでバイトか?」
そういいながら車の雑誌でデスクを叩きながら男がいってくる。
「すみません、誰ですか?」
「覚えてねーか、お前が顔面に膝を食らわされたんだよ。痛かったぜ、鼻の骨が折れてたんだからな」
全く記憶に無いが、取り敢えず何か言葉を返しておこう。
「ご愁傷さまです」
「お前、調子乗ってんのか?」
「すみません、お腹が痛くて調子が悪いです」
「てめぇ!」
男は俺の胸倉に手を伸ばす。
「まあ、いい。早く会計済ませろ」
そういうと手を離し、雑誌をデスクに投げ付ける。
「本が傷んじゃいま……」
「うるせぇ! いいから早くしろ!」
「他のお客様の迷惑になる行為はお辞め下さい」
「てめぇ、本当に死なないと分かんねーのか?」
もう一度、男が胸倉を掴むと、今度は顔を引き寄せる。
「お口が臭いですね。これ、いかがです?」
俺は会計の場所の近くに置いてある、ミントタブレットを薦めた。勿論挑発をしている。
「はあ、まあ、いい。これも買ってやろう」
そういうとミントタブレットを一つを摘みデスクの上に置く。掴んでいた胸倉を離すと、胸の前で腕を組む。
──やけに潔いいな。裏ありそ。
「合計、1188円になります」
「それはホントか? しまった金が足りねー……そうだ、雨宮繰平、払ってくれよ」
そういうと男は財布を逆さまにする。財布からは十円玉が七枚と五十円玉が二枚、一円玉が十枚程出て来て、最後に百円玉が三枚出てきた。
「合計で、483円ですか。不足分はこれで払いますねー」
俺はレジスタを操作し、払った金額を入れると男の財布をもぎ取る。
「ほら、こちらのカードを当店では使えるので……」
そう伝えると更にレジスタを操作し、カードを勝手にスキャナにタッチさせた。
「お買い上げ、ありがとうございます」
「てめぇ!」
男は俺の胸倉を再度、掴もうとした。だが、男の腕は誰かの手に止められた。
「貴様、少し現度が過ぎるぞ」
「け、警察……」
「こ、コマ……」
何故かそこにはコマがいた。
「おい、店員。貴様も、客のカードを勝手に使うとは、どういう神経をしている!」
「え、すみません」
「金がないなら店に入るな、今回は見過ごす。店員、こいつとは知り合いか?」
コマは俺を一瞥すると問い質す。
「あ、はい」
「なら、金を貸してやれ。後でこいつと一緒に戻ってくる。その時に貸した金額を返すようにしよう」
「あ……分かりました。お疲れ様です」
その言葉を聞くとコマは男を連れ、店から出て行った。
「繰平君? どうしたの?」
声の方向を見ると彩華が立っていた。恐らく、男との会話が聞こえて駆けつけたのだろう。
「いや、ただ迷惑客が来てな。そしたら警察が来て連れてった」
「ああ、そうなんだ」
少々忙しいので、次回の投稿は三週間程後になります。




