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能力者達  作者: 蒼田 天
第二章
11/60

真似物との戦い

     1


 あれから一日が経った。昨日の夜は皆でファミレスへ行き、大量の金額をノブが一人で支払った。

 それからほぼ十二時間が経過した。俺は島にいた。

 刀の《能力解放》。それを確かめる為に。俺はあらかじめ買って置いた百円ライターを取り出し刀に火を当てる。刀に火が移り、刀は火を纏った。

 次、俺はその火を自分の手に当てた。少し熱い。いや、暖かい。そんな感覚だった。

 次、その刀に着いた火を大きく出来ないか考える。

「うーん? ふん! ん?」

 刀を強く握ったり振ったりしてみたが何も起こらず。

「なんだよ、この能力。あ、能力……」

 着火による炎の操作くらいしか出来ないのかと思った矢先、これ自体は能力によるものという事を思い出した。

「イメージ。……炎。……熱」

 超筋力や瞬間移動の様にイメージ力が能力には結構重要になってくる。俺は目を閉じイメージする。

「炎を大きくするイメージ」

 頭の中でそんな感じのものを思い浮かべる。昔、人気マンガ雑誌に炎を使うマンガがあった。あんな感じで炎がぼわっとなるやつ。

 俺は刀に力を込める。そして目を開けた。そこには百円ライターの弱い炎が焚き火程度だが、強くなっていた。

「初級魔法から中級魔法位の成長かな」

 九月も中旬に差し掛かる今日は大寒波がやって来て、寒いのが苦手な俺には相当キツい。

「あぁ、あったけー」

 俺は刀の炎を焚き火代わりに暖をとった。

 少し暖まると木刀を取り出し、刀は鞘に収めた。火は消そうと思えばすぐに消えた。

 パーカーを脱ぎ半袖になり肌寒くなったが、これから動くので暖かくなるだろう。

 俺は木刀を握ると刀を振るい始めた。


 何時間経っただろうか。日は沈み、空は茜色に染まっていた。

 ──帰るか。

 俺は瞬間移動を使い、短いようで長い二秒を待った。

 目を開ければいつもの自分の部屋にいる。

 ここは空調設備は一定温度に保たれ、地下に一階、地上に二階。少し大きめの住宅だ。地下にはトレーニングルーム、治療室、会議室、機材室がある。機材室にはユイの持ち込んだパソコンからシステムまで多種多様なものがあり、瞬間移動装置やドローンを全て遠隔操作出来る。会議室は未だ使ったことはない。

「炎の刀か」

 俺は刀の銘を考えていた。

「炎、火……」

 俺は柄を握り刀を引き抜く。スゥーと澄んだ音をたてながら引き抜くと刀身はすらりと曲線を描きながら伸びていた。炎、火?

 火かぁ。

 俺は頭の辞書からそれらしい熟語を引いていく。紅蓮。火焔。火柱……。火柱、いいね。

「よし、銘は《火柱》で決定」

 俺は今日より火柱となった刀を鞘に収める。

「さて、ゲームでもしますか」

 俺は椅子を引き腰掛けるとパソコンの電源を入れた。


     2


 一日後の18:38分、物達がやって来たのを境に、一日に一回のペースで奴らは来るようになった。新しい能力のお陰で焼き切る事が出来るようになり、楽な事この上ない。

 ある時サンショウウオみたいなナマズみたいな奴がいて、そいつは後回しにしていたらデンキウナギとの事で、遠くから狙撃していたが当たらず突進してきたのに刀で迎撃してしまった。放電して焼かれてハンバーグにされると思ったら、刀は電気を纏ってそのまま切ってしまった。

 火と電気を纏う事が分かったら、他に纏えるものはないかと探してみたが、今の所は見つかっていない。


 そうやって一ヶ月が経過したある日。

 特大遊物と大きな物が二体。

 特大遊物は三つの角に大きな額のトリケラトプスという恐竜だろう。

 残りの二体。

「あのでかいのなに?」

「あれは浮遊物つってな、一番厄介じゃ」

「そりゃ大変だ。もう一体は?」

「分からん」

「そうか……え、分からないだと?」

「見たことがない! 仕方ないだろ」

 キッパリと言いきられしまっては反論しずらいが知らないならばしょうがないか。

「俺が特大遊物の相手をする」

「浮遊物はオレが」

「私は雑魚を相手にする」

「俺は、未確認生物?」

 みんながどんどん担当を決めてしまうので、どうしても消去法で俺が未確認でかい生物の相手となった。

「ソーヘー、三体を取り敢えず島に移動出来るか?」

「や、やってみる」

 正直、自信は半分程度しかなかった。なんせ未確認生物を中心に特大遊物と浮遊物が固まっているのだ。

 特大遊物を先に転送すると浮遊物がかかってくる。首チョンパ?

 浮遊物を先に転送すると特大遊物がかかってくる。串刺し?

 究極の選択。あ、あれがある。

 俺は思い出した。《能力覚醒》していたことを。《纏い》の能力のインパクトが凄すぎて忘れていたが、実は非接触状態での刀の瞬間移動、ほぼゼロ秒で刀と自分の座標をトレード。その二つが可能になった。つまり、刀は俺の体で、俺の体は刀みたいなもの。

 刀を特大遊物に刺して、浮遊物に俺が触れる。これで転送で行けるあとはあの謎物。何をしてくるか分からないし。取り敢えず特大遊物と浮遊物の二体を転送させよう。

 俺は行ってくると仲間たちに言うと都会の高層ビルから飛び降りた。

 少しずつ加速していきそこそこの距離になると瞬間移動で勢いを横向きになるように移動。

刀を大きく振り被り特大遊物に突き刺す。勢いが少し殺されながらも浮遊物へとターゲットを変える。流石の物は行動が早く体を鎌に擬態化させた。俺は瞬間移動でジャケットの下のナイフを二本取り出すと構える。振りかざされる鎌を受け止めると恐らくナイフが砕けるだろう。なので受け流す。鎌を受け止めつつその勢いを殺さぬ様に流す。そして懐に入るとナイフを突き刺す。ナイフごと瞬間移動。一緒に刀も瞬間移動。

 取り敢えず仕事の第一段階終了。

 今ので一本ナイフの刃は零れてしまった。

『ソーヘー! 戻ってこい!』

 急に通信機から聞こえてきたので慌てて瞬間移動。元居たビルの屋上へ行く。

「ただいま」

「よかったよー。お前死ぬとこだったぞ」

 俺はどういう状況か分からずビル群の間の道路を見る。先程の巨大な物は何故か消えていた。

「どこいった?」

「あそこ」

 ノブは指を指すのでその方向を見るとそこには真っ黒な人間が走り回っていた。探偵マンガの犯人を連想させられた。

「気持ち悪っ」

 つい漏れてしまった本音のことは気にせず、真っ黒な人間を凝視する。

「どうなってるの?」

「お前に擬態したんだと思う」

「擬態化か。……有り得るの? それ」

「現に有り得ちゃったんだね、それが。そしてソーヘー君は奴に刀でチョンパされそうになった」

「……わぉ」

 俺は苦笑をしつつそれを見続けていた。物の事だ。ギャアギャア奇声を発しながら走り回っているのだろう。

「どうす……」

「よし、装置の設置をしよう」

「ユイ、透明化を最大級に」

『了解』

「ソーヘーも手伝え」

「バレるなよ」

 話が進んでしまった。俺は擬態物と戦わないと行けないのか。

「さあ、ミッション開始」

 俺は瞬間移動を使いたかったが、使うと微妙な力を感知して物達が群がるので適任ではない。転送されてきた木箱から鉤縄を取り出し屋上に引っ掛けラペリングする。ラペリングとは軍隊などが使うロープによる懸垂降下のこと。メイ曰く、軍隊にも速度じゃ負けない、とのこと。

 上にはメイとリョーが残り俺とノブが降りていく。スイスイと降下して行き地面に到着するとポーチから瞬間移動装置を取り出す。ノブと合図を取りながら装置を設置。立方体型の装置の電源を入れるとホロウパネルが浮かび上がり【他装置との同調】のボタンを押す。俺は二つ目の装置を取り出すと道路を走って横断。ビル群の端と端を三秒で走り抜けると、装置を設置。設定をして連絡をとる。

「こっちは完了した」

「じゃあ上で集合。次はソーヘーのいる所のビルの屋上ね」

「了解」

 俺はビルの間へ入って行き、壁を蹴って上へ目指す。

 ひとまず到着するとひと安心。かと思いきや向こうのビルからメイが飛んできた。

「ソーヘー! キャッチ!」

 俺はキャッチというよりぶつかって下敷きになった感があるが、一応キャッチということにしておこう。

「ナイスキャッチ……俺」

 多分リョーが投げたんだろう。リョーは向かいのビルから跳躍してここまで来て装置を設置。メイも設置を完了したのか薄く青色の巨大な六角形が出来た。

「ユイこいつらの転送をよろしく」

『了解』

「一度アジトへ戻って会議室で作戦会議」

 足元の装置ごと消えると俺は瞬間移動で火柱を回収した。

「ソーヘー、アジトまでよろしく」

 瞬間移動を使用するのに俺が触れる必要があるので全員に触れる。

「ソーヘーをセクハラで……」

「なんでだよ!」

 俺は即座にメイにツッコミを入れ瞬間移動を発動する。本当に訴えられては困る。


     3


「それでは、作戦会議を始めます」

 スクリーンの前に立つノブをメイが銃口を向け座らせると、司会? のノブはユイに状況を説明する様に促す。

「現在、島には五百体程の遊物、物を確認。これらの雑魚はメイに相手してもらいます」

 雑魚って。

「それに当たってメイ、これをどうぞ」

 そういい差し出したのはまたもや木箱だった。その数、十個。

「特殊弾、完成です!」

「やったー! どんななの」

「その説明からさせていただきます。この弾は遊物、物の使う砲弾を分析、解析を行い長い月日をかけ、対象に当たってから爆破するということになっています。ただいま急いで生産して限定千発となっています」

「了解した」

 メイは隣の部屋から持ち込んだ木箱から大量のマガジンを取り出すと装填してあった弾を全て取り出し特殊弾に再装填。

「さらに効率的な移動をしたいメイにとハカセが実験を続け実現した特殊弾も限定十発」

 今度は大変少なかった。

「空気を圧縮して一発の弾に込めているので、引き金を引くと空気が銃口から出ます。少々危険とのことなので慎重に扱うようにのことです」

「了解」

 黙々とメイは弾を装填していった。

「それでは説明始めさせていただきます。メイは地点G。特大遊物は移動速度は少し遅めなので地点Dの辺りにいます。これの相手はリョーですよね」

 地点G、Dとは島の中心を地点Aとした時に都市部を13分割、周辺の町や森林を13分割したものである。地点Gは外側の北東。地点Dは真南。ユイはモニターに映る地図の地点Kの場所を指さし、その後に地点Fを指す。

「うん」

「トリケラトプス型なので皮膚の硬さはティラノサウルス型の非ではありませんよ」

「大丈夫」

「分かりました。ノブが浮遊物の相手ですね。地点Fの辺りにいます」

 地点Fは外側の北西か。

「問題の新型の物をどうしますか?」

「あれは物って事で取り敢えずは決定。名称を決めないと」

 物の名称は決めるのは今後、通信機越しでやり取りする上で重要になる。

「擬態化物だと、少し嫌だな」

「ソーヘーの擬態したからソーヘー物」

「それは俺が嫌だ」

「ソーヘーの真似をしたから真似物とかは?」

「いいね真似物! ユイグッジョブだよ!」

 どうやらあの物の名称は《真似物》となったらしい。よかった、ソーヘー物にならなくて。

「では本題に戻ります。真似物の相手をソーヘーがするにあたって、不明な点が多すぎるので慎重に戦うようにしてください。ただいま地点Aで大暴れしています。反応した物を切り殺すレベルで。また、一人で特大遊物、浮遊物を相手するのも大変危険ですので気おつけてください」

「了解」

「じゃあメイが弾を装填するまでここに待機」


 ここで待機している間に俺はポーチを外し、ファスナーを開け予備のナイフを鞘に収める。俺は鞘から火柱を引き抜くと、鞘を置いて行くことにした。ファスナーを閉め柄を握る手が軋む。

 自分に擬態した。もし、能力を使えるなら戦うのは苛烈を極める。俺対俺。勝てるだろうか。そう考えてしまう自分がいた。

「ソーヘー、大丈夫だよ」

「ユイ」

「ここ一ヶ月、戦績はどんどん上がっているじゃないですか! 問題ないですよ」

「そうだな。うん」

 ユイに言われて元気を取り戻すなんて、俺もまだまだだな。俺は刀を肩に担ぐとメイの方に目をやった。

 服に無数にあるマガジンポーチにボンボンとマガジンを入れていき残ったマガジンを木箱に戻す。

「ユイ、雑魚はどこら辺?」

「真似物からは距離を取り、今は地点Kの方に群がっています」

「了解、準備完了」

「みなのもの」

 ノブはモニターの前に立つと鎌を抱えて言った。

「健闘を祈る」

 それ以上言葉を交わさなかった。俺は瞬間移動で島に先に行き。みんなの事は信じようと思った。

 残りの奴はみんな瞬間移動装置でそれぞれの地点へ移動しただろう。

 俺は高層ビルの柱に隠れながら真似物を監視していた。


 戦闘開始と行こうか。

 俺は柱から出ると同時に透明化の能力を解除。

 真似物は俺を目視すると不気味な笑みを浮かべ高らかに奇声を発した。


     4



【メイサイド】


《ベレッタ92》のコッキングレバーを下げる。銃口を遊物達に向けると嘲笑うかのように奇声を上げる。

「試し打ちいきますか」

 私はトリガーを引くとそのまま二体、三体と撃ち抜いて行く。

 弾が当たった遊物は内側から核を破壊され光になり浄化していく。

 あっという間に十発を打ち終えるとコッキングレバーが下がったまま元に戻らない。私はマガジンを捨てながらもう一丁のベレッタを抜く。

 左手でトリガーを引き、右手でマガジンを取り出しそれを宙に投げる。そしてトリガーを引きつつタイミングを合わせてマガジンを銃に差し込む。それと同時にレバーが下がる。

 いい。この弾。

 私はマガジンを捨て、銃をホルスターへしまい脇下から新しい銃を取り出す。片方はただの銃弾。もう片方は試作品の空気圧縮弾。

 私は右手に持った銃を後ろに、銃口を向け引き金を引く。

 すると後ろから前へ進む圧力で顔が歪むがなんとか耐えた。昔乗ったジェットコースターもこんなだったけかな?

 そんなことを考えてしまったが、思考を今の戦闘に強制的に戻す。

 試しに一度使ったが戦闘に適応させるには時間かかりそうだな。

 私はそう思い左手で握る拳銃のトリガーを引く。

 早撃ちとかいう言葉があるが、早撃ちというより狙いが定まっている所でトリガーを引いているので、少し違う気もする。だが、FPS好きのユイは、軍隊の動画とかを見たり、入手して見ているらしいが、米軍の射撃にも引けを取らないと言ってくれるのだが。

 ものすごい速度で通り過ぎながらトリガーを引き、空薬莢を転がしていく。ちっ、二発外した。

 私は心の中で愚痴りながら、空のマガジンを捨てると、胸ポケットからマガジンを取り出し装填。

 脇下のホルスターへ入れると、左の太腿から銃を引き抜くとマガジンを装填し、銃を構える。

「あまり外せないな」

 特殊弾の装弾数は九八〇発。物達の体数は九〇〇体前後。

「ギアチェンジだ」

 私は口角を上げると能力《分身》を発動させる。

 二体までだったら安定して操作をすることが出来るので、作るのは今回は二体にしておいた。

 私、もとい私達は銃を構えるとトリガーを容赦なく引いていく。

 銃弾が遊物に当たって数秒後に爆散。浄化。を何度も何度も繰り返していく。

 マガジンが空になればすぐさま交換。ロングマガジンなども用意してあるので、多少、長い間沢山引き金を引ける。

 一秒に三回ほど空薬莢が排出され、地面にカランカランと音を立てながら落ちていく。


 何分経っただろう。ひたすら引き金を引き続け、能力を酷使しすぎて少しふらつくが、なんとか両足で踏ん張り能力を解除する。

 周りには空薬莢が何百個も転がっていた。

 そして遊物の姿は周りには見えなかった。

「ふぅ……ユイ?」

『は、はい? なんでしょうか。今立て込んでおりまして……手短に頼みます』

「ノブとリョーはどうなってる?」

『それが……』

 通信機の向こう側のユイの声が、なんだか重苦しいのであまりいい予感がしなかった。

『今はあまりいい状況じゃなくて、打開策がほしいと……そこでメイになんですが……』

「私?」

 突然私の名前が呼ばれるので、状況について行けなかった。

『《OSV-96》が届きました』

 OSV-96とは、前々から頼んでおいた対物ライフルなのだが、立て込んでいるってまさか……。

『これ、非常に重たくて……わ、私一人では……』

「分かった、瞬間移動装置の起動をよろしく」

『あ、はい、了解しました』

 仄かに光る青い立方体の中に入って数秒後に、青い光が強くなった。

 家に戻るとどデカい木箱に苦戦するユイがいた。

「ユイ、ちょっとどいて」

 木箱をひょいと持ち上げるも、相当な重量があった。

「弾は?」

「さっきメイが使った特殊弾をこれ用に十発。普通の弾が百発届いてます」

 私は弾が入っているであろう箱を取り出すと、それも中々の重量があった。

「これを使えば恐らく、特大遊物の硬い皮膚も破れます!」

「そうだな。早速行こう」

「と、その前に」

 ユイは何やらパソコンの前へ行き、キーボードを打ち始めた。

「メイは装置の準備をお願いします」

「了解」

 私は片手大の大きさの立方体を操作していると、ユイとノブ達との通信が入った。

「ノブ、リョー、どうですか?」

『はぁ……大丈夫……』

 ノブの声。だいじょばないやつだ。

『はぁ……はぁ……大丈夫』

 リョーの声。だいじょばないやつだ。

「取り敢えず、報告を……」

『リョーの方に援護を』

『ノブの方に援護を』

「ユイ、取り敢えず、こっちで決めよう」

「そうですね」

 二人が二人、自分では無い方の援護に向かうように言った。となれば決定するのは私とユイがいい筈だ。

 私とユイは床に向かい合うように座ると顔を寄せ合い話し始める。

「特大遊物と浮遊物のどっちを優先するか……ユイはどっちがいいと思う?」

「浮遊物ですかね……何より手強いですし、倒した後のノブの移動速度の事を考えれば、効率はそっちの方が良いかと思います」

「そ、そうだね」

 あまりにも正論に近い答えを出されて、自分の考えの低さに笑いそうになった。

「ノブ、先にそっちの援護に行くから。狙撃のタイミングはこっちで決めるから」

『た、助かる』

 これは、本当にやばいみたいだ。

「ユイ装置の転送。ビルの高い階で」

「場所はこっちの指定でいいですか?」

『あ、よろしく』

 私は青い立方体の中に入ると少しの浮遊感を味わい目を閉じた。



【ノブサイド】


 前回はリーダーが居ない中、俺とリョー、途中からメイが入って三時間。

 前々回はリーダーがいて、全員で戦って五時間は掛かった。

 その浮遊物に対してオレは一人で剣を、いや鎌を交えている。

 奴の攻撃一つ一つが重たく、空中浮遊の操作を少しでも誤れば飛ばされてしまう。

 奴の巨大な鎌をそれと比べるとサイズのない、オレの鎌の柄で受ける。

「──くっ」

 押し込まれないように腕の筋肉で支えるが、じりじりと押し込まれていく。

「らぁ!」

 短い気合いと共に、鎌を身体を捻り振り下ろす。奴の体を切り裂く。

 だが、物特有の分裂で回避される。

「クソが」

 奴は体を捻ると鎌を振り下ろしてくる。オレはギリギリの所で鎌を構え守りの体制を取るが、攻撃の圧力に耐えきれず、近くの廃ビルまで飛ばされた。

「……はぁ……はぁ……」

 肩で息をしながらオレは必死に奴を倒す方法を考える。何か突破口を。

『ノブ、リョー、どうですか?』

 突然聞こえたユイの声に驚いたが、俺は取り敢えず現状報告を……。

「はぁ……大丈夫……」

 現状報告として成り立たないが、取り敢えずは生きている事は伝わった筈だ。

『はぁ……はぁ……大丈夫』

 リョーやばいな……。オレは直感でそう思った。

『取り敢えず、報告を……』

 メイの声だ。メイは遊物達を全部倒したのか。それじゃあ……。

「リョーの方に援護を」

『ノブの方に援護を』

 オレとリョーの声が重なった。

『ユイ、取り敢えず、こっちで決めよう』

『そうですね』

 そして何故か向こうで二人が作戦会議を始めてしまった。

「まじか」

 オレが呟いた瞬間だった。

「グルアァァァ」

 浮遊物が壁を破壊し入ってきた。

「クソっ!」

 オレは鎌を構えると取り敢えず距離を取るため、反対側の窓枠から外へ出ると、そのまま急降下。

 浮遊物が追いかけていて壁を壊しながら追ってきた。が、そこにオレは居ないのだ。

 オレは急降下した直後、奴の視界から外れてたら横へずれ、窓枠より上に移動したのだ。

 オレは落下しながら縦に回転。

「《大車輪切り》っ!」

 オレは回転の勢いで浮遊物を切り裂こうとした。しっかり刃も入っていた。が、核に届く前に奴に受け止められた。

「──くっそ!」

 オレは全力で押し込むがそれ以上進まず、奴は嘲笑するかのように奇声を発した。

「ギャアァァァ」

 奇声と同時にオレの鎌を弾くと鎌を振りかざして来る。オレは身体を捻るが頬に鎌が掠った。

「──っつ……」

 オレは鎌を構えつつ、距離を取った。

『ノブ、先にそっちの援護に行くから。狙撃のタイミングはこっちで決めるから』

 そう言われ実際、かなり助かる。

「た、助かる」

 オレはそう言うと斜めに切り上げる。奴はふわりとそれを避け、嘲笑する。オレは接近しながら切り掛るがすべてふわりと攻撃を回避される。

 オレは急接近し懐へ入ると、柄の後ろ部分で奴を殴り上げる。上手くヒットし体制を崩すことが出来た。

 柄を握る手が自然と強くなり、思い切り振り下ろす。

 これには堪えたみたいだか、間一髪の所で鎌を受け止められた。

「──くっ」

 そのまま時計回りに回るとその勢いで鎌を振り下ろす。

 これはオレの鎌と奴の鎌が激突し、後ろにキックバックする。

「くそっ!」

『ノブ、今狙撃地点に着いた。狙撃するから隙を作って』

 そんな事を言われても狙撃する場所分からないし。

『もうちょい手前に来て欲しい。ノブの進行方向側に寄せて』

「了解」

 具体的に言ってくれて助かった。オレは鎌を構えると一気に接近。奴の目の前に行くと、少し上昇し奴の後ろへ回る。と同時に鎌を振りかざす。完全に裏を付いたが触手の様な物に直撃してキックバックする。

『あー、そこそこ。そのまま奴をおびき寄せて少し右、じゃない左に移動すれば完璧』

「分かった、弾をちゃんと当ててくれよ」

『当たり前だ』

 オレは鎌を構えると突進してくる浮遊物を受け止める。今までの比べ物にならないくらいの重量が鎌に掛かる。

 オレは掛かる重量を全て右に弾くと左に旋回する。

『そこでストップ』

 オレは鎌を構え、浮遊物が来るのを待つ。浮遊物はオレに突っ込んで来てそれを鎌で受ける。強い衝撃でキックバックする。

「メイ、今だ!」

『ボスンッ』

 通信機から銃声と思われる、重低音が聞こえてくる。通信機から聞こえるカランカランと空薬莢の落ちる音と同時に、浮遊物の動きが止まる。

 黒い霧の様になり浮遊物は浄化していった。

「はぁ……はぁ……」

『ノブここまで来て』

「了解」

 オレは周囲を見渡すが何処にいるか分からず空中でホバリングする。

『ちっ、分からないの』

「ごめんなさい、怒らないで」

 すると顔に赤い光が当たる。レーザーポインターの光が何処かから伸び、オレに当たっていた。

「おっ、そこか」

 オレはそのまま光源へ飛んでいく。



【メイサイド】


 壁が無くなり、中が露出したビルの十五階。うつ伏せになり、トリガーに指をかけその重みと冷たさを感じる。

「ノブ、今狙撃地点に着いた。狙撃するから隙を作って」

 私は通信機越しに伝えるとスコープを除く。倍率を調整し、ピントを合わせる。ビルの窓枠から見えるノブの体。

「あそこにいるんだよなー……。ビルが邪魔だな」

 ビルの隙間から覗くノブを見て、一か八か、私はビルの壁ごと撃ち抜こうと思ったが、流石に威力が軽減されるから、直接当てる方がいい。

 なるべく具体的に……。

「もうちょい手前に来て欲しい。ノブの進行方向側に寄せて」

『了解』

 よし、上手く伝わった。

 トリガーにかける指に自然と力がこもる。一発で仕留める。

 すると突き飛ばされたのか、ノブがビルの影から大通りに姿を出し、こっちからも見えるようになった。

 もう少し右に移動して欲しい

「あー、そこそこ。そのまま奴をおびき寄せて少し右……」

 まで言ってノブからすれば左に移動か。

「じゃない左に移動すれば完璧」

『分かった、弾をちゃんと当ててくれよ』

「当たり前だ」

 生意気にそんな事を言ってくるので、つい当たり前だとか言ってしまった。

「これはますます外せないな」

 通信機でもひろえない位の小さい声で呟くと、呼吸を整える。

 突進してくる浮遊物に対し、鎌で攻撃を受け、左に衝撃を流すと右に距離を取る。

「そこでストップ」

 私が言うとノブは鎌を構えて、浮遊物の追撃を待つ。すると巨大な黒い物体はノブへ突進し、それをノブが受ける。ノブは大きくキックバックする。

『メイ、今だ!』

 そう通信機から声が聞こえるが、その時にはもう引き金を引く所だった。

「ボスンッ」

 低い銃声に重くのしかかる衝撃を耐えると、スコープを覗く目は消えていく浮遊物を捉えた。

 小さくガッツポーズを取るとすぐさまリョーの所に向かうべく、通信を開始する。

「ノブここまで来て」

『了解』

 予備で置いておいた銃弾を拾い重量のある銃を持ち上げる。

 中々来ないな。

 そう思い銃を構えスコープを覗くとキョロキョロと周りを見渡すノブが。

「ちっ、分からないの」

 自然と舌打ちをしてしまい、通信機からは『ごめんなさい、怒らないで』と言ってくる。

 私は渋々ポーチからレーザーポインターを出すと、スイッチをオン。光の線をノブに当てる。

『おっ、そこか』

 そう言う声が通信機から聞こえ、こちらに飛んでくる。

 レーザーポインターのスイッチをもう一度押し、ポーチに仕舞うとノブが飛んで来た。

「よし、じゃあリョーの所に行こう」

「能力貸して」

 能力貸してとは、ノブの能力覚醒で、他人に能力を僅かだが使えるようにすることが出来る事で何度もこの能力にはお世話になっている。

「来週の集金をチャラにしてくれるなら」

 ふざけた事を言うノブに太腿から拳銃を取り出し銃口を向けると、苦笑しながらノブは手を上げた。

「分かったのならよろしい」

 私はホルスターに拳銃を戻すと、ショルダーホルスターを取り、ビルに置いていくことにした。

「準備完了?」

「うん、待たせた」

「よっしゃ行くぞー」

 私は浮くことをイメージすると、体がふわりと浮かんだ。

「ユイ?」

『既に送信してあります』

「ありがとう」

 そう言いノブはポケットからスマートフォンを取り出し、リョーの位置情報を確認する。

 いつの間にそんな事をしていたのか。そんな事を考えているとノブは時速四十キロ程度の速度を出し飛んでいく。

「あっ、待って」

 私はその後を追っていく。



【リョーサイド】


 トリケラトプス型は初めて見たが大きさで言えばティラノサウルス型の方が遥かに巨大で獰猛(どうもう)だろう。

 だが、この鼻の部分の角と二本の長い角。そしてその後ろのフリルという広がった部分は、昔恐竜に興味を持ち、図鑑をよく読んだ俺としては、よく観察して写真の一枚や二枚は撮りたい所だ。

 だが、そういう訳には行けない。

 空中戦となると厄介なので、地形操作であまり上に逃げられない様にした筈だが、奴は突進して即席の天井を数分前、瓦礫に変えてくれた。

 まずは二本の角からやろう。

 俺はハンマーを右手で握ると地面を叩く。地形操作を発動し円錐形の岩を作る。

 それをハンマーで壊し、持ち上げる。

「おらっ!」

 それを乱暴にも投げる。

 まっすぐと飛んで行った岩は、そのまま吸い込まれる様に奴の額に……突き刺さると思った。

 奴の体に当たり砕けたのは核ではなく、岩の方だった。

「うっそーん」

 首をブルブルと振るい姿勢を落とすと突進してくる。

 重さは図鑑には記憶によると九トン位あったはず。大きさは遥かにでかく七メートル位。

 俺は腰を落とし構えると突っ込んで来た奴を受け止めるために踏ん張る。

 ……あれ、角の位置、丁度当たったら死ぬんじゃ……。

 俺はそう思いながらも突っ込んで来た奴を受ける。

「──ぐっ」

 胸に強烈な痛みが走る。俺はそれでも力を入れる。数メートル後ろへ押し込まれてから止まると、俺は奴を持ち上げ、地面に叩きつけようとした。

『リョー! 馬鹿っ! それだと……』

 そこまで言ったノブの声が聞こえた。

「えっ」

 持ち上げた奴、特大遊物はそのまま、持ち上げている俺ごと地面に突っ込んだ。

 さっき胸に痛みがあったが、今はその非ではない。奴を横へ蹴り一旦距離を置く。俺は胸を見ると少し裂け赤い鮮血が流れ出ている。

「──っつ」

 久しぶりにこんな大怪我した。俺はもう時期来るであろう仲間を待つため、ハンマー構える。背中から小さいのを引き抜くと高く跳躍。

「《隕石衝撃(メテオ・インパクト)》ッ!!!」

 全力でハンマーを投げ、地面に奴の頭に直撃する。

 すると、案の定生きている奴はこちらに突進してくる。空中では飛べるあちらが有利。

 俺は突っ込んで来た奴の頭に乗っかり二本の長い角を握る。すると空中で暴れ出し急降下する。その片方へ掴まり。

「うおぉぉぉ! らぁっ!」

 俺は全力で角をへし折ると地面が凄く近いので、一旦退避。

 俺はその角を少しいじる。

 硬くてしっかりしてる。その癖、重さはそこまででもない。

 そこまで考えた所で奴は、砂埃の中から飛び出してくる。

 俺はその突進を避けると残った一本にハンマーを引っ掛ける。そのまま背中に乗りそこから頭へ移動。

『今、狙撃地点に着いた。なるべく隙を作って貰えると助かる』

 角にしがみつくとそんなメイの声が聞こえてくる。

「出来るだけ頑張る」

 とだけ伝え角へ込める力を強くする。

「らぁっ!」

 角が折れるとそのまま奴の上から降り距離を取る。

 武器として使えるかな?

 先端は鋭く尖り、硬さは奴の体を上回るだろう。これなら奴の体を貫ける。

 俺はハンマーと角を一本捨てると、角を抱え込むように掴む。

 俺は腰を落とし地を蹴る。凄まじい加速で風圧を切り裂く様に走り抜き、五メートル程の距離になると跳躍し角を突き刺す。

「うぉお!」

 半分程刺さりそれを気合いでもう少し押し込む。だが、そこで首を振り回し、一度頭から降りる。

 角の刺さった周りは黒いドロドロとした液体が、溢れ血のようだ。

『リョー、そこで押さえて貰うと助かる』

「了解」

 と言ってもさっきみたいに受け止めると(えぐ)れた胸が痛い。しかも衝撃を緩和してくれるスーツは破けている。

 でも俺はもう一つの角とハンマーを拾うと奴の方へ突っ込む。

 角を抱え込むように握ると、腰を落とし一気に接近する。

 奴は頭に刺さっている角を抜こうとしているのか、頭をブンブン振り回している。

 俺はそのまま背中の方へ跳躍すると《隕石衝撃》の要領で角を投げつける。

 一応は突き刺さり奴は奇声というより、呻き声の様なものを上げた。

「グァァァ」

 そのまま落下していく体を体幹で支え、ハンマーを握る。

 ハンマーで背中に突き刺さる角を、釘の様に打ち付ける。

 腹を貫通し地面に突き刺さり、ドロドロと黒い液体を流す。奴は体をブンブンと振り回し角を抜こうとする。

『リョー、それじゃ撃てない』

「分かってるよ」

 俺は奴の頭を押さえつける。

 先程の突進の時より強い力を、力ずくで押さえつけるたび胸の傷が痛む。

「──くっ」

 歯を食いしばり腰を落として踏ん張る。やがて動きが鈍くなっていき、通信機からボスンッという重低音が響く。

 後頭部の方が鈍く光り、爆散する。

「うわっ」

 今まで暴れていた特大遊物はすぐに動かなくなり、霧のようになり消えていった。

「っつてー」

 俺は呟くと胸の傷を見る。

「以外と深いな」

『投薬送りましょうか?』

 ユイの言葉に少し悩み、変えのスーツと一緒に送って貰うことにする。

「変えのスーツと一緒に頼む」

『了解しました』

『リョー、ソーヘーの所に行くぞ』

「ん? うん。……位置情報を来れ」

『あ、メイ頼む』

『えー』

『オレ、ケータイ苦手なんだよ』

『ちっ、めんどい』

 あの、聞こえてるけど。ノブって電子機器無理なの? そういえば部屋にはパソコン機器とか置いてなかったし、エアコンの付け方とか分からないって言ってたな。夏に帰ったら温度設定を変えられていたような。

「メイで頼む」

『ちょっと待って……よし、はい』

 送られてきた位置情報を見ると地点Cにいた。

「距離あるなー」

「ほれ、リョーさんや。行きますぞ」

「おっ、いつの間に……」

 ノブがいつの間にか背後にいて驚いたが、能力を貸してもらうように言うか。

「ノブ……」

「ごめんメイに貸してる」

「思考読まれた」

 ノブに思考を読まれた俺は、胸の痛みを耐えながら地点Cまでの最短ルートを走る。

「ソーヘー、ここに来る途中ちらっとみえたんだよ」

「どんな感じだった?」

「ありゃ、やべえな」

「マジ?」

「マジ」

「どのようにやばい?」

「互角か、それ以上」

 ノブの言葉に疑いを持ちたいが、案外嘘を言っている訳でもなさそうだ。俺の最速で最短ルートなので、今頃地点AとDの間位であろう。

『ノブ、リョー……』

「どうした?」

 突如入ったメイから通信に俺は戸惑う。

『ソーヘーが大変だ』

「具体的にどう大変?」

『さっき、ビルに突っ込んだんだけど……全然出てこない』

「まさか……気絶?」

『可能性としては有り得る。どうするリーダー』

「真似物は今どうなっている?」

 以外にも冷静なリーダーは、そう告げると飛行の速度を早めた。

『奇声を上げて発狂中。ソーヘーを倒した事に満足してるのかな? 今はうるさいだけで大人しい』

「了解。じゃ、そこで待機。状況が変わり次第報告を頼む」

『了解』

 ノブはリーダーらしく無い事が多いが、こういう時は頭が働いて助かる。

「うちの新入りはどうしたことか」


     5


 瞬間移動で島、地点Aの所にある道路を見下ろせるビル。そこには黒い人型の物が鬱憤晴らしとでもいうかの如く、周りのビルを破壊しては奇声を発し地面を殴る、とよく分からない行動を繰り返している。

「あいつ、どう倒そう?」

 奴は俺の能力が使えるのか、武器は刀でいいとして《纏い》をすることは出来るのか。どれほどの強さを誇るのか。

 一度思考を巡らせると、幾つもの疑問が浮かんで来るので途中で辞退。

『能力ナンカ使エルデアロウ。奴ハ物ダカラナ、浮遊ハ出来ナイ。使エテ主ノ力ノ六割程度ジャナイダロウカ。主ガ使ッテイル力ガマダ四割トイッタトコロカ。ソレデハ倒スノハ少々困難ニナルカモシレナイナ』

 突如どこからか聞こえてきた声。通信機では無い筈。誰だ。まさか……真似物?

『主ハ酷イナー。我ハ主ノ力デ、主ノ力ハ我ノ力。マア、ソノウチ分カルサ』

 主? 力? 我とは? この声は誰の……。

『我ハ主ノ《影》デスヨ』

《影》は普通は愉快に喋らないよな。

『主ガ選バレタノデスヨ。マア、時期ニ出番ガ来ルノデ、ゴ安心ヲ』

 取り敢えず奴を倒さないことには始まらないから。そう思い刀を握る。

『主、奴ハ今ノ主デハ少々強スギルカモ知レマセン。ゴ注意ヲ』

 瞬間移動で背後に移動。奇襲をかける。

『オット、コレハイケナイ』

「キエェァアァァァ!」

 瞬間移動で切り掛るのを待っていたかの如く、振り下ろす俺の刀を弾くと、俺の溝に容赦なく拳を入れる。

「──ぐっ」

『コレハ中々ノ威力』

 俺は吹っ飛ばされ背中を地面にぶつけた後に体制を立て直し、真似物と向かい合う。

「強い……どう倒す」

『我ニ体ヲ貸シサエスレバ負ケル事ハマズ無イデショウ』

 俺が倒す。

 俺は刀を構え、腰を落とす。

 一気に距離を詰め刀をを振り下ろす。わざと攻撃を当てずに下からの切り上げ。

 俺は接近し刀を振り下ろす。真似物は刀で受けようとするが無論、それに俺の刃は当たらない。

 これで仕留める。

 俺は全力で刀を斬り上げる。

 が、既に真似物は俺の背後に移動し刀を振り上げる。

 くそっ、間に合わない。

 俺は瞬間移動を使い回避すると距離をとる。

『主ノ事ヲ、相手ハ熟知シテイルノデスヨ。ソレデハ奴ノ思ウ壺。我ノ次ニ主ヲ理解シテイルノハ恐ラク奴デアロウ』

「五月蝿い」

 俺は刀を構えると瞬間移動で目の前に移動。同時に透明化を使い奴の視界から消える。奴は俺が瞬間移動を使うと同時に後ろへ振り向き、刀を振り下ろす。

 そこに俺はいない。

 そう呟きながら刀を斬り上げると、奴は瞬間移動を使って回避。

 俺のことを見えている?

 そう思い周囲を見渡すの道路の真ん中に奴が突っ立っている。

 チャンス。

 俺は刀を構え、接近する。奴は口角を上げると甲高い奇声を発する。

 なんだ?

 俺は速度を落とさず近づく。ここで終わらせる。

 すると奴は刀を逆手に持ち振り上げる。

 まさか自殺?

 そんな事を考えたが無論そんなことはない。奴は振り上げた刀を振り下ろし地面に突き刺す。すると刀身から稲妻が走り、地面へ流れて行く。あいつ、纏いを使いやがった。

 俺は慌てて跳躍すると空中で体制を直し刀を構える。落下と同時に刀を振り下ろす為力を込める。

 すると奴はこちらに気づいた様に目を向けると不気味に微笑む。

「ちっ、くそっ」

 俺は落下していき奴に近づくと刀を振り下ろす。

 奴は刀で火柱を軽々と弾くと奇声を発する。

「ビィーインゴォアァァ!」

 奇声に近い言葉を発するとまだ着地していない俺に刀で斬りつける。

 右手水平切り。そう思い俺は刀を左手で逆手に持ち右手で強く握る。

 刀身と刀身がぶつかり合うと、強い衝撃に飛ばされそうになるが耐え、地面に刀を突き刺す。

 鍔に刀身を当て刀を下ろさせる。するとその瞬間まで掛かっていた重さが消える。

 地面に三分の一程度、刃が突き刺さると、背後からの凄まじい殺気に怒りを感じながらも、服の中のナイフを瞬間移動で目の前に移動。

 ナイフを握ると振り下ろしてくる刀を振り向きながらナイフで弾く、というより流すと、ナイフを逆手に持ち斬りつける。

 攻撃が後、数センチで当たるところで瞬間移動で回避される。

「ちっ」

『主、モット逃ゲラレナイ位、接近シナイト奴ハ斬レマセンヨ』

「五月蝿い」

 さっきから主、主と。もっとご主人様とか言う可愛い女の子だったら……。

『アル……ゴ主人様ハソウイウ趣味デスカ』

「黙ってろ。それじゃあ主の方がいい!」

 そういい俺は刀を地面から引き抜くと、左足を少し前に出し腰を落とす。刀を両手から片手に持ち変える。あの真似物も同じ様に構えている。

「──っ!」

 俺は短い気合いと共に飛び出す。同時に口元に笑みを浮かべながら奴が飛び出す。

 俺は右下からの切り上げをすると奴は右上からの切り下ろし。

 刀と刀がぶつかり合って地面が振動する。ぞくぞくと体の奥から湧き上がる高揚感に、刀を握る手が自然と強くなる。

 右足を一歩踏み込み刀を押し返す。奴は体ごと飛ばされると何故か嬉しそうに口角を上げる。

 更に接近し刀と刀の一進一退の攻防を繰り返す。

 水平切り。それに対し切り下ろしり。切り上げ。それに対して体を逸らす。一歩下がり体制を立て直し一歩踏み込み、回し切り。刀で受けられ、流される。そのまま水平切り。瞬間移動でナイフを取り出し受け止める。刃が零れ落ち、次はもう使い物にならないだろう。

 刀を弾くと刃には、相当ヒビが入る。一歩踏み込み刀を突き刺しに行く。それをナイフで弾かれる。

「──くっ!」

「ギャアァァァ!」

 刀を同時に振り下ろすと刀身がぶつかり合う。ナイフを捨てると両手で柄を握り、奴も同じ様にナイフを捨て両手で柄を握る。柄を握る手に力を込め体重を込める。

 鍔迫り合いになり、刀がギチギチと音を鳴らす。

 俺は左足を少し引くと、そのまま刀身をずらし刀を流す。右足を踏み込み首を切り飛ばそうとする。

 だが、奴は左手で刀身を掴むと右手の刀を捨て俺の首を掴む。

「──なっ!」

「ギャアァァァ!」

 奴は奇声を発しながら俺を地面に叩き付けた。そのまま振り上げると廃ビルに向け投げつける。

 砂埃を立てながら、ビルの壁へ突っ込み瓦礫に蹲る。

 ポタポタと頭から血が流れ落ちる。

「くっそ!」

 俺は刀を構えると奴と向き合う。

 室内戦は多少得意だが……。

『ソウ、ソレハ主ノ真似ヲスル奴モ同ジコト』

「黙ってろ」

 俺は飛び出し奴に切り掛る。その刀を弾き、また攻撃を加えるとそれも弾かれる。

「キェアァァァ!」

 そう奇声を発すると薄暗いビルに赤い光が灯される。

 纏い。俺が出来るのは纏うこと。発生させる事では……。

『主ガヤリ方ヲ知ラナイダケデスヨ』

 そういう影の言葉も他所に、振り下ろされる刀を受け止める。

「──くっ!」

 グッと押し込まれる凄まじい重圧に耐え押し返そうとする。が奴は俺の足を蹴り支えを無くさせると、地面に倒れる俺の頭を鷲掴みにするとそのまま逆の壁へと叩き付ける。

「ガバッ!」

 隣のビルへ行き、フロアには受付などがあることから病院に見えたが、些かそこは病院というよりも肝試しに使われる様な不気味な場所だった。

 俺は嗚咽を漏らすながらも投げ落とされサッカーボールの様に蹴り飛ばされるとヒビの入ったガラス窓を突き破り道路を一つ挟んだビルへ突っ込んだ。

「うっ……」

『主、ソロソロ我ト交代デスカネ』

 なんなんだよ。

『主ハマダ能力ヲキチント制御、操作出来テイナイ』

 俺は朦朧(もうろう)とする意識の中、影の言葉が頭の中で響く。

『我ニ掛カレバアノ程度ノ物、スグニ片付ケマスヨ』

 俺は意識を無くすが影の言葉だけが頭の中で響く。

『真似物、ト言イマシタネ。主ヲ倒シタラ気分良サソウニ、ゲラゲラ笑ッテオリマスヨ。我ガ主ハ弱イ者イジメガ嫌イデ、負ケズ嫌イデシタネ』

 よく分からない事ばかり言うこいつのことを知る必要が今後いるな。

『オット、主ノオ仲間様ノ大鎌持チガ援軍ニ来マシタヨ。真似物トヤラの力ダト少々手コズリマスネ。手ヲ貸シテ上ゲマショウ。デモ大変ダ、我ガ破壊力ダト巻キ込ンデシマウ』

 ──止めてくれ、仲間だけは……。

『ナラ体ヲ貸シテ下サイ。自我ハ乗ッ取ラナイヨウニ早ク終ワラセルノデゴ安心ヲ』

 そこで完全に記憶が消えた。


     6


「オレとリョーで行く。メイは援護。リョーはソーヘーの救助優先」

「了解」

「了解、アキュラシーを……」

『重たいので嫌です』

「じゃあ、転送の用意」

『了解しました』

 メイはゴソゴソと装置の設置をし、オレ達はいつでも行けるよう準備する。

 メイの方を見ると既に行ったみたいで立方体の箱があるだけだった。数秒待つとパッと現れ、スナイパーライフルを取り出す。窓枠の所に机を持って行き設置。

「お待たせ、準備完了」

「ユイ、透明化頼む」

『もう発動済みです』

「行くぞ、各自仕事を頼む」

 窓枠からオレは飛び出すと数十メートル飛び、ビルの中へ入る。

「リョー、いいか?」

『あぁ、じゃあ行くぞ。先行頼む』

 その声と共にビルから飛び出すと、急降下して真似物へ突っ込む。

 奴はオレに気づくと口角を上げ刀を構える。

 通信機からは『ソーヘー、しっかりしろ!』とどデカい声で叫んでいるが透明化のお陰でこちらからは光、音などの情報が遮断されているので通信機からの声だけが聞こえる。

 オレは鎌を振り上げると大きく横に切り裂く。

 すると奴は上体を逸らし、避けるとこちらに顔を向け嗤う。

「キィイィィィ」

 奴は刀を振りかざすとオレは鎌で迎撃。鎌を振り下ろすがそれも避けられる。

「敵に回すとめんどくさい奴だな」

 オレは一旦距離をとると。地面に着地。

 奴は口角を上げると腰の後ろが拳銃を引き抜く。

「ちっ」

 オレは無駄に幅の広い鎌を縦にすると、刃に銃弾が次々に浴びせられる。カン、カン、と十回鳴ると拳銃を捨てこちらに走って来る。

「こいっ!」

『おい! ソーヘー動くな! 無理をすると……頭から血が!』

『黙って退け』

 奴の攻撃を弾くと蹴り飛ばし後ろに戻る。

 するとこっちに向かって歩いてくるソーヘー。

「おい、無茶は……」

「ここまで瓦礫は飛ぶぞ。死になくなきゃ退いてろ。奴は……我が殺す」

 そう言い口角を上げる。

「おい、待てって。頭から血が……」

「ん? あぁ、主は貧弱だな……治しておくから心配はするな」

 そう言い刀を構える。

「じゃあまた今度な、大鎌持ち」

 すっと消える。視線を動かすとそこには鍔迫り合いをするソーヘーが。いや、あれはソーヘーなのか?

 あれは、大鎌持ちと言った。ソーヘーは今まで俺の事をノブとリーダーとイケメンさんとしか呼んだことがない。

 しかも行く直前、痣みたいなのが顔に伸びていった。そして目が鮮やかな黄色だった。

 ソーヘーは鍔迫り合いから押し込み弾き飛ばすと。

『ははっ、《黒炎(こくえん)》』

 すると刀に明るい炎が出てくる。その炎は一瞬萎むと、爆発するかのように膨張し真っ黒に染まった。

「なんだあれ」

『あはハははハッ』

『ノブ、取り敢えずそこは危険だって言われたんだ。退避しよう』

「あ、あぁ」

『あのソーヘーは普通じゃない! 顔とかに黒い痣とかあるし……あれは普通じゃない』

「ソーヘーがここらは危険だって言っていた。もう少し退避」

 そう言い離れていく。ソーヘーを見ながら空を飛んでいると、圧倒的にソーヘーが押している。

『主はこんなのにあれですか? ダメですよ。もっと切り込まないと』

 さっきから言動も変だな。

『そろそろ潮時ですね……』

 そう呟くと黒い炎は閃光となり雷を発生させる。

「なっ」

 オレは単眼鏡を取り出すと、倍率を上げ近くから見る。

『《ディスチャージ》』

 そう言いソーヘーの刀の雷は一気に大きくなると四方に広がる。真似物に伸びていき全身に浴びると動かなくなる。

『これで終わりだ』

 そう言い蹴り飛ばし真似物の上へ乗ると刀を逆手に持つ。先程の雷は炎に代わりその炎は真っ黒に染まる。

『《桜花(おうか)》ッッ!!!』

 そう言い浮遊物の顔面を殴ると爆散。砂埃がたちなにも見えなくなる。

「メイ、空気弾で砂埃を飛ばしてくれ」

『ごめん、置いてきた。あと、ソーヘーが吹っ飛ばされる位の勢いだから』

「言った俺が悪かった」

 病む負えなく砂埃が晴れるのを待つ。

 すると風が巻き起こり中からソーヘーが出てくる。

「ソーヘ……」

 そこまで言った所で倒れた。

「急いで家に連れてくぞ! ユイ、治療室の用意」

『りょ、了解』

「リョー、装置の準備頼む」

『了解』

「メイ、早めに合流頼む」

『今向かってる』

 オレがソーヘーの所へ行くと、外傷はほとんど無かった。さっきの頭の傷や顔の痣は消えていた。

「運ぶか」

 オレはソーヘーの体を持ち上げ、背中におぶると空中浮遊を発動する。

「あ、刀とか……ユイに頼もう」

『ノブ、準備出来た』

「今行く」

 オレはリョーの方へ飛んでいくと、そこには既にメイがいた。

「お待たせ、ユイいいか?」

『ごめっ……もうちょい……待って…』

「あ、あぁ」

 多分、お風呂の用意をするのに、機材室から治療室までの距離はトレーニングルームを挟むので距離がある。そこを行き来するのにバテたのだろう。

『はい、色々な物の回収はドローンにさせて起きますので……では、転送します』

 いつもお馴染みの空中浮遊とは違った浮遊感を味わうと、いつもの機材室にいた。

「お疲れ様です」

「ソーヘーを運ぶぞ」

 オレはおぶっているソーヘーを、そのまま治療室へ運んでいく。

 あれ程の攻撃をした後のソーヘーの右腕はボロボロになり、恐らく骨が砕けているだろう。

「これは、当分はじっとしてもらわないと」

「今日も怪我して帰ってきた……」

「ユイは今日もソーヘーを心配するか……」

「こっ、これは……その、違いますからね? 勘違いしないで下さいね?」

 何故かツンデレのようになりながら投薬を打つと、お風呂の中に入れる。

「晩飯何がいい」

「米」

「肉」

「美味しいもの」

「分からないからはっきり……」

「ノブのお財布から」

「同意」

「同じく」

「おい、」

 先日、ほぼ丸一日働いたオレのお財布は潤いに潤っている。

 だからといって流石に……。

「頼むよリーダー」

「お願いノブ」

「ありがとうノブ」

「そこまで言うなら……今ありがとうって言ったのは、メイだろぶっ飛ばしてやる」

「冗談だよ、ほら週末の集金はこれで……」

「何処に食べいく? ソーヘー起きなかったらどうする」

 オレはメイに今月分はチャラといって貰ったので、そのまま夕飯の話に戻る。

「チョロいな」

「メイ、なんか言ったか?」

「何も」

 そういい、食べる物を決める為移動しようとした。だが、ユイが移動しない。

「ユイ?」

「あっ、私はなんでもいいので、先に行って決めていいですよ。お財布の方にゆとりはある方がいいですよ」

 そう言って微笑む。ソーヘーを待つか……。

 オレは通信機の電源を切るとリョーやメイもそれに合わせて落とす。メイは通信機能だけだが。

「分かりやすいな」

「ユイが、恋か」

「若いっていいな」

「そうだなー」

 オレ達はそう頷きあい、ニヤニヤと笑う。オレとメイ二十、リョーが十八、もう時期十九と歳が近いが、あの二人はソーヘーが十六、もう時期十七か。そしてユイが十六歳。

「いーねー」

 オレ達は今後どう弄るかも決めることにした。

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