-第二章プロローグ- 昔話I
これから二章へ入ります!
ここまで大規模な《創造》は行ったことはなかった。一ヶ月にも及ぶ《創造》の後、広大な土地、二千メートルの高さを誇る山、湖、森林、荒野、そして四方を囲む大海原。そう、吾輩は巨大な島を一つ創ったのだ。
「我ながら、よくやったものだ……」
島を一つ創り上げ、力が枯渇しているのだろう。目眩が酷い。
海のど真ん中といっても、日本海でもなければ太平洋、大西洋、インド洋のどこでもない。いわいる巨大な異空間を創り、そこに海を創り、環境を創り、島を創ったのだ。流石に一ヶ月不眠不休となると身体にも堪えたか。吾輩は眠りにつくことにした。
──どれだけの間眠っていただろう。
「──こさん、猫さん……」
「む、貴様、どうやってここまで来た」
「機械を創りました。移動装置を」
この男は世界が、平和であって欲しいと言い、吾輩の願望を叶える為の協力をすると言う。
「まさか、こんな物を創れるなんて……凄いですね!」
「まあ、貴様の気味の悪い研究の方が時に異常な時はあるがな」
「その事に関しては何も反論出来ませんね」
男ははにかみながらそう言うと島を見渡した。
「これで夢、叶いますかね」
男はそう言う。夢、か……まだまだやらなければいけないことは多い。課題も山積みだ。
「まだこれからだ。吾輩にはやらねばならないことは多い。貴様も今以上に働いて貰うぞ」
「御手柔らかにお願いします」
これから都市部を創り、人間という個体を創り、生き物を生息させなければいけない。
「そうだ、貴様」
「何でしょう?」
「貴様程の能力があっても、それを使える場所がなければ不便だろう。吾輩が造ってやろう」
男は暫くパチクリと瞬きをしてから、その話題に食らいついてきた。
「い、いいんですか!」
「何、貴様の為の研究所など、造ること造作もない」
「じゃ、じゃあ、お願いします」
笑顔でそう言ってくるので、しょうがないから少しやる気を出すことにした。
「どういう感じがいいんだ?」
「《電子機器》を大量に使いたいので、その位です」
「分かった」
電子機器を使うか……そうなると送電先が近い方がいいだろうか。いっそのこと送電先を研究所にしてやろう。そうすれば送電先を造る必要もないだろう。
「そう言えば、貴様、名はなんというんだ?」
「僕の名前ですか? えーと、じゃあ、《ハカセ》でどうでしょう?」
「そうか。ハカセ、発電所の地下に貴様の研究所を造るのはどうだ? 吾輩の手間も省けて効率がいいのだ」
「猫さんがいいのでしたら僕は全然構いません」
「ならば北の海岸の方まで行くぞ。発電は原子力、風力、波力の三つで行う」
こうやって少しずつ計画を進めていった。
***
時は過ぎるように三ヶ月程が経過した。
「三百年後はどうでした?」
「なんとも異常な光景だった。人間は皆、板のようなものを耳に当て、更にはそれと睨み合っている。三百年後の人間は皆おかしくなっていたのかと思った。だが、奴らは《スマートフォン》という電子機器を使っていたようだな。まさか《パソコン》意外にもそんなものがあろうとは、思いもしなかった。そう、道に馬が居ないのだ。燃料や電気を消費して走る《車》とかいうものがあった。あと《テレビ》とかいうパソコンの《モニター》と言ったか? の大型のものがあったぞ。他にも──」
その日は三百年後から帰ってきた私は、ハカセに得てきた情報を話すだけ話し、取り入れるべきものとそうではないものに分けた。
「その《電話》というものは便利ですね。あとは《テレビ》を取り入れれば、素早い情報供給が出来るでしょう」
「そうか」
「あとはその《高速道路》を整備して《車》を普及させれば楽な移動が可能になるでしょう」
「それならば《電車》はどうする?」
「そうですね、そうだ、都市を造ったのです。町は造るのですよね?」
「そうだな、都市があれば町も出来るし、村も出来るだろう」
「なら、その《電車》にも《貨物列車》というものがあったのですよね。村や町に繋げれば、運搬が容易になるでしょう」
「なるほど、流石に貴様の発想には適わないな」
「これだけが取り柄みたいなものですから」
こうして計画は、具体的なものとして少しずつ進む。
***
「おい、貴様」
吾輩は路地裏で蹲る男に声を掛ける。
「どうしてこんなカビ臭い所にいるのだ?」
「金がない」
「金? ということは、仕事がないということか」
「そういうことになるな……」
「ならば吾輩に着いてこい。いい仕事をやろう」
こうやって吾輩とハカセは、地道に島に住む住人を集めていった。
***
「貴様らの行う仕事はこの巨大な建物、なんと言った?」
「《ビル》です」
「そう、ビルを建てて貰う」
「儂らがあんな巨大な物を?」
「何十年掛かるんだ?」
「出来上がる頃には儂は極楽浄土じゃな」
「いやいや、お前さんみたいなのは、いつまでもしぶとく生きてるもんなんだよ」
「それもそうじゃな」
「黙れ、貴様ら」
吾輩が一瞥すると一瞬で静まりかえる。
「貴様らの言った通り、これほどの物を貴様らだけで造るとなると、莫大な時間と労力を必要とするだろう。だが、吾輩もそこまで鬼畜ではない」
吾輩はハカセを見ると、ハカセは《リモコン》とか言うものを操作した。
「これを見ろ」
するとガタガタという音ともに《クレーン》が現れる。
「このように貴様らにはこの様な《機械》という道具を使ってもらう」
「なんじゃあれは?」
「これは《エンジン》というものを動力に動いているものだ。貴様らにはこれを操作する仕事をさせる」
この機械には吾輩程の力もなければ小回りも効かない、少し故障すると動かなくなる融通の効かないものだ。だが、《力》を使えない人間の筋力と比べれば、何倍もマシで力仕事には向いている。
「操作って、儂らはそんな利口なことは出来んぞ?」
「馬鹿を言うな。最初から出来れば人間など苦労はせん」
吾輩はそう言うとハカセを呼んだ。
「これの操作は《プログラム》と言ったか? が行ってくれる。貴様らはこれに乗り、微調整と移動を行う。なに、そんなに難しいことではない」
「それで、儂らはこの《ビル》を幾つ建てればいいんじゃ?」
「幾つ? 幾つだろうな? 取り敢えず、ここら一帯をこの建物で埋め尽くして欲しいな」
「そんなの無理に決まってるだろ」
「やっぱり儂ら先に死ぬな」
次々に辺りから野次が飛んでくる。
「黙れと言ってるだろう?」
吾輩の一言で、しんと静まりかえる。
「貴様らには休息もやる。飯もやろう。ある程度の自由だってくれてやる。その代わり、それに似合った働きをするだけだ? 見返りはすぐ目の前だぞ? それとも貴様らは、またあのカビ臭い所に蹲っていたいのか?」
吾輩は使えない人間は切り捨てる。記憶を消す、もしくは生命活動を停止させて亡きものにする。吾輩にとっては容易いことだ。
それでも吾輩の《夢》の実現に向けては、少しでも多くの労働力が必要だ。吾輩の力だけでは限界がくる。
「嫌であろう。自由は目の前。貴様ら自身の力で届くところにあるのだ。ならば掴み取って見せろ。戦え! 足掻け! その為に苦しい労働を耐え抜いてみせろ!」
吾輩は声を張り上げて言う。
「無理なら今すぐ前へ出ろ。今すぐ此処から消してやる。吾輩は冗談を言っている訳ではないぞ」
「儂らは、いつ自由になれるんじゃ」
「知るか! そんなもの貴様らの働き次第だろうな。そのか弱き力を寄せ集めれば、巨大な力にも匹敵するだろう。貴様らが働く間も吾輩も行うことはある。それでも、協力出来ることがあるなら協力はする。貴様らにも限界はあるだろう。ならば、貴様らは出せる力を精一杯出して、協力し合って、その自由とやら掴み取ってみせろ!」
──静寂。
駄目だったか。吾輩の《夢》はここで絶たれるのか。
「そこまで言われたなら、やるしかないな」
「こんな人生で終わるなら、儂は死んでも死にきれんぞ!」
「それじゃあ、早速作業の手順を教えてくれ」
「久々の仕事じゃ、働くぞ!」
至るところから覇気のある声が響き渡る。
「──どう言う……」
「猫さんの、熱意が伝わったんですよ。この方々は猫さんが本気で言ってることが分かったから、こうやって嬉々としているのでしょう」
──吾輩の熱意……。
「猫の姉貴がここまで言うんだ。儂らも働けるだけ働くぞ!」
「早速仕事をくれ!」
「何から取り掛かればいい?」
男達は威勢よく吾輩に尋ねる。
「貴様ら……吾輩は貴様らに多少、いや相当無理を言うと思う。それでも着いてくるのか?」
「姉貴が着いてこいと言ったんじゃろう? 儂らには、今頼れるのはあんたしか居ないんだ」
それもそうだろう。この者達はつい先日まで路地裏で生ゴミを漁っていたような奴らだ。頼れる人間などこの世には居ないのだ。吾輩意外。
「ならば……貴様らには、まず初めにこれから建てる物の土台作りからだ。足りない物、必要な物があったら吾輩に言え。大抵は《創造》で創れるだろう」
こうやって、吾輩は……吾輩達は、夢の実現へ向けて始動したのだった。
ローマ数字を使ってみたかった。プロローグやエピローグを通して短い話を《昔話》として書きます。




