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天才科学者と小さなロボット  作者: 一縷さん
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二日目

 二日目。僕は独りでに歩き回る。


 がしゃん、がしゃんと機械音を響かせながら室内を歩く。相変わらず薄暗い室内は機械がいっぱいで、それに気を取られていると地面に伸びていたホースに引っかかって転んだりもした。その度に忙しそうに機械を触っていた科学者は一旦中断し、「世話がやけるなぁ」と小さく笑いながら僕を起こしてくれる。


 集中して取り組みたいであろう科学者が毎度僕に手をかけてくれるということは、科学者はとても優しい人なのだろう。


 科学者がキーボードに向かって指先を器用に動かしている。ディスプレイに向かっている科学者はどこか不安そうで、時には強張こわばった表情に変わったり、時にはこころよい表情にも変わった。基本的には無表情なのだが、科学者が不安そうにすると僕も不安になり、強張った時は僕も緊張し、快い表情になった時は僕も嬉しい。


 そんなことを繰り返していると、科学者は振り返って僕を見た。


「どうしたんだい?」


 優しく微笑ほほえむ科学者に首を横に振る。特別用はないし、何より作業に集中していた科学者を邪魔したくないと思った。


 科学者は少し不思議そうな顔をしてまた微笑むと、ディスプレイに向かった。先ほどと同じ表情。時に変わり、時に無くなり、時に見せる表情。邪魔になっていなくてよかった、と僕は安堵あんどした。


 それと同時に、僕は疑問に思った。


「…"ココロ"」


 科学者がここまで熱心に作ろうとしている、"ココロ"とは何だろう?


「"心"が、どうかしたのかい?」


 科学者は作業の手を止め、僕の目を見つめて言った。


 不意に口かられてしまった未知の三文字。それは科学者の気をくには十分だったようで、科学者は僕の前に座り込んで目をらさない。


 あぁ、僕は邪魔をしたくないのに。反省しながらも僕は疑問の言葉を組み立てる。じっと僕の返答を待ち続けてくれる科学者に対して、なんでもないの一言は時間の無駄だと思わせてしまう。


「"ココロ"トハ、ナンデスカ?」


 端的で僕の疑問の核心を突いた質問。それを聞いた科学者はあごに手を当てうなりながらも、その表情はどこか嬉しそうだ。


 きっと、科学者は"ココロ"の本質を知っているのだろう。だから、科学者の表情はこれほど晴れ晴れとしているのだ。


「"心"とはね、言葉で形容できないものなんだ。いずれ君にも分かる日がくるよ」


 全く意味が分からなかった。"ココロ"の検索で引っかかった説明があるが、科学者の言った"ココロ"とはかけ離れている。聞いてみよう、と思ったが僕をプログラミングした科学者の言うことだ、間違いはないのだろう。僕は意味が分からないまま、その言葉をインプットした。


「"ココロ"ガアレバ、アナタトチャントハナセマスカ?」


 そう質問すると科学者はきょとんとして次第に笑顔になった。


「もちろんだ、きっといい友達になれる」


 友達。なんて素晴らしい言葉だろう。友達になれれば、科学者と同じ志を持ち、笑いあい、助け合って生きていけるのだ。これ以上に嬉しいことはない。


「だから、待っててね」


 そう言って、科学者は立ち上がり機械と正対した。僕は"ココロ"を知りたがり、いつか教えてもらえるだろうその日をただ楽しみに待った。




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