格の違い
自分の目の前に赤い目が現れた途端、それはすぐさま消えた。
本当に消えたわけではなく、俺がいる場所から下の方に移動していっただけだった。
その時に、背中が見えた。
何も刺さっていない、黒い背中が。
そして、いろんなことを考えた。
けれど、結論はすぐに出てきた。
暁人は振り落とされたのだ、と。
「うぉおおおおおおおおおおっ!!!!」
気が付けば俺は、雄叫びを上げていた。
左手に『フォティアソード』を握りしめて、黒龍に向かった。
黒龍はその俺の行動に気が付いたのか、飛行速度を上げた。
俺は追い付こうと必死になった。
負けずと、自身の速度を上げた。
並走は出来なくてもいい。
この剣が少しでも届く範囲に行けたらいい。
そう思った。
けれど、追い付くことすら出来なかった。
剣が届かないのならば、魔法で攻撃すれば良いと考え、炎の剣を消し、左手に紫色の魔法陣を出現させ、『シャドージャベリン』で攻撃しようとした。
だが、黒龍が叫び声を上げた途端、紫色の魔法陣は粉々に割れた。
どうやら奴の叫び声には、魔法陣を消滅させる効果があるらしい。
……………格が違うように感じた。
黒龍は首を後ろに向け、俺がいるところを見ると、再び速度を上げて離れていった。俺が追いつけないような速度でだ。
まるで、『お前には私に勝てない』と言われたような気がした。
俺は立ち止まってしまった………空中で静止したと言った方がいいだろう。
さっきの戦闘で気付かされてしまった。
いや、戦闘とも言えないもので、気がついた。
自分はまだまだ未熟で、弱いのだと。
元いた世界の、過去の友の敵討ちすら出来ないほど。
指一本触れることすら出来ないほど。
何もできない。
今の俺に出来ることは、黒龍が行ってしまった方向を、ただ睨みつけるだけだった。
「………くそッ…」
ようやく自分が口にした言葉は、そんな単語だった。
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木島くんが、あの黒龍に手も足も出なかったのを、私はただ眺めていた。
おそらく、彼はこの舟に降りてくる。
でも、私が出来ることは多分、何も無いと思う。
慰めても、それが逆に良く無い方向に転がる時もある。
私は、何も声を掛けられない。
掛けれるような事は何一つしてない。
ただ自分と、あの子達を守る事だけで精一杯だった。
ほんとに………自分が情けなく思ってしまう。
彼の力になりたい。
でも、私は何をしたら良いのだろう………
何のために彼の力になりたいのかすら、わからなかった。
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あれが黒龍か……と、ペルディーダは思った。
彼は今、玉座の間に置かれている玉座に座り、右手に投影魔法『ビジョン』を浮かび上がらせ、それを眺めていた。
彼からすればドラゴンは身近な物の一つでもあった。
魔王になる前に、二、三匹ほど殺している。
だが、黒龍を見るのは初めてだった。
この世界の歴史書に、実在しないものと言われて来た黒龍。
圧倒的な力だった。
彼が闘ったとしても、辛勝になってしまうだろう。
そして彼は、少しだけ不可解に思っていた。
(気のせいなら良いが………あの黒龍、何者かに命令されているような気がした…)
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暗闇の洞窟の中で、男は黒龍とその周りの状況を見ていた。
彼にはペルディーダのように『ビジョン』がある訳ではない。
だだあの黒龍と、左目を共有しているだけだった。
「いきなり言われた時は驚いたが、案外上手く行くものなんだな…」
男は感心そうに言った。
そして石がむき出しになっている壁に手を付けると、ゆっくりと立ち上がった。
男の首元には銀色に光るネックレスが掛けられていた。




